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ソードアート・オンライン 少年と贖罪の剣

作者:星屑
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第四話:第71層攻略作戦

 
前書き
今話にはオリジナルスキルやオリジナル設定がでてきますので、注意を。
 

 

「ふっーー!」

翻した濃紺の剣がリザードマンを両断し、その命を削り取る。
どうやら今のが最後の一体だったようで、敵がもういないことを確認してからオレはゆっくりと壁に背中を預けて迷宮区の地面に座り込んだ。
第71層のボス偵察から少しして、攻略組の全員が集まるまでまだ時間がかかるということで、オレは失いかけている剣の感覚を少しでも早く取り戻すべく再び迷宮区へと潜っていた。

「…片手剣は大体感覚は戻ってきたな。後は、あのスキルか」

オレが黒鉄宮でただひたすらに剣を振っている時に偶然発見したシステム外スキル。それを、今ここで試す。
なんとか息を整え終えると、先程殲滅したリザードマンがリポップしてきていた。最後に一つ大きく息を吐いて、立ち上がる。
エスピアツィオーネを引き抜き、構える。

「ーー来い」

瞳を閉じて、そう一言告げる。エスピアツィオーネを握る右手とは逆の左手に硬い感触。それを掴み取る。
ポリゴン片で不定形だったソレはやがて形を成し、剣の姿をとった。
片手用直剣カテゴリーにある漆黒の剣、《クリミナルエスパーダ》を左手に、《エスピアツィオーネ》を右手に構える。
本来、このSAOというゲームにおいて片手武器の両手持ちは不可能な訳ではない。しかし、それには能力値ダウンのデバフ効果やソードスキルが発動しなくなるという致命的なデメリットが存在するため、これを行うプレイヤーは誰一人としていなかった。
しかし、オレに与えられたこの世界唯一無二のスキルーーユニークスキル《無限剣》がそのデメリットを無効化していた。
そして黒鉄宮でひたすらに素振りをして編み出した奥義が、これだ。

「オオッ!」

踏み込み、ソードスキルを放つ。僅か三連撃のソードスキルでは、レベルが高くなってきているこの層のモンスターを倒しきることはできない。スキル発動後の硬直を強いられるオレに、リザードマンがその手に持った湾刀を振り上げた。ソードスキルのライトエフェクトが輝く。

「まだだ!」

左手のクリミナルエスパーダが、ソードスキルの輝きを宿した。見えない力に後押しされ、体が動く。
片手直剣用ソードスキル《ホリゾンタル・スクエア》が、リザードマンの残りHPを削り取った。

「…なんとか繋がったか」

システム外スキル『スキルコネクト』。
当時『無限剣』を取得したものの完全に宝の持ち腐れとなっていた頃があった。なにせ剣を両手で持っても《二刀流》なんてスキルが出てくるわけでもないのだ。どちらか一方でしか攻撃できないのなら、片手一本で戦った方がやりやすい。それをなんとかしようとして偶然発見したのが、《剣技連結》である。

「しかし…まだ不安だな。アスナからの連絡もないし、もう少し狩っていくか」

両手に二本の剣を携えて、オレは迷宮区の更に奥へと足を運んだ。



† †



キリトにとってレンというプレイヤーは親友であり、ライバルであり、憧れであった。
自分の命欲しさに効率主義であるソロプレイヤーになったキリトとは対照的に、レンはまだ血盟騎士団を始めとする有力ギルドなどが出来上がっていない、それこそ第一層攻略の時から多くのプレイヤーを束ね、そして希望を与えてきた。
主義主張の違うプレイヤー達をうまく纏め上げ、かつ誰よりも強く在った《レン》というプレイヤーを見た時、キリトは彼に深い憧憬を抱いた。
昔見たヒーローのようではないけれど、まさしくレンは英雄であった。

だがそんな彼でさえ、この世界の闇には抗えなかった。かつてキリトがそうだったように、いや、それ以上に過酷な事件を経験して、彼は表舞台から姿を消した。

彼が黒鉄宮の牢獄へ自首したと知った時、キリトは心配になった。守り切れず、仲間を失う事は何よりも辛い。それに加えて、最後の一撃を与えたのは彼自身だという。
自殺。憧れた英雄がそのような結末を迎えるのは、到底受け入れることはできない。

だから、彼が戻って来た時は心の底から喜んだ。例え彼が変わっていたとしても、彼が皆を率いてこの鉄城を攻略してきた過去は変わらないのだから。
胸に秘めた思いが変わってしまっていても、彼は鉄城の攻略を続けると言った。だからキリトは、そんな彼の力に少しでもなりたいと、そして一刻も早くこの鉄の城を攻略すると誓った。この、今まで秘め続けてきたスキルを使ってでも。



† †



ある程度スキルコネクトを安定して発動できるようになった時、アスナから連絡が来た。
どうやら大体の攻略組が集まったみたいで、午後一時から攻略会議を始めるとのことだ。

「…オレが前に立ってやるのは久しぶりだな」

ギルドシステムが発見され、有力ギルドというものが確立して以降は全てそちらに任せていた。
それまではオレとその補助としてディアベルというプレイヤーが指揮を執っていたが、聖竜連合という有力ギルドのマスターであるディアベルはともかく、オレはまあ、余り覚えられていないだろう。
攻略には結束が重要だ。如何に攻略組の皆にオレの実力を納得させ、団結できるか。それが今回のネックとなるはずだ。

「…行くか」

少なくとも、今の陰鬱な表情が面に出ていては無理だろう。精神的にダメージが来るが、今だけは昔のオレを借りさせてもらおう。弱音を吐くのは、取り敢えず最後だ。



† †



「これで全員か?」

71層の中央広場に集まった攻略組の強者達を見回して、レンはアスナにそう問い掛けた。

「うん。少しいない人もいるけどね」

「そうか。なら、始めっか」

この広場に現れた時、レンは昔のように明るく溌剌とした雰囲気を纏っていた。自分とキリトだけに見せたあの達観した態度とは違う、かつて希望の象徴とまで謳われた頃の彼に。彼はこの攻略組という組織を率いる為に、今の己に過去の己の仮面を被せたのだ。
それがどれ程辛い事なのか、アスナには想像もつかない。ただ、この先もずっと過去の仮面を被り続けたなら、そう遠くない内に彼は限界を迎えて壊れてしまうだろう事は容易に想像できた。
なら自分に出来ることは何か。それはまだ分からない。だからせめて、彼が壊れてしまわないように支えて上げようと決めた。


「みんな、集まってくれてありがとう。これから攻略会議を始めるが、まず最初に自己紹介をしておこう。もしかしたら知っている人もいるかもしれないが、オレの名前はレンだ。今回の作戦において血盟騎士団副団長であるアスナと共に指揮を執ることになった。精一杯努めさせてもらうから、よろしく頼む」

レンの登場により場が少しざわつくが、自ずとその声は消えていった。
どうやら彼は自分の役不足を心配していたようだが、今この場にいるプレイヤーの中で、いや、このアインクラッドにいるプレイヤー全てが彼を知らない者はいないと言っても過言ではない。
なにしろ、《希望》と謳われた程である。彼が一度表舞台から姿を消した後でも、その輝きは失われることはない。
全プレイヤー中最強と名高いヒースクリフよりも、ある意味、下層にいる人達も含めて有名である。
そんな人が、役不足なはずがない。寧ろ、勢いに火がついた程だろう。

「今回のボスは有翼系の大型ドラゴンだ。一撃一撃のモーションが大きく見極め易いけど、その分威力はこれまでのボスの中でもトップクラスに重い。十分注意してくれ。今回の攻略では盾役のプレイヤーが鍵になってくるだろうな。細かい作戦は追い追い考えるけど、取り敢えず攻撃にはなるべく当たるな。一発で死ぬ可能性も十分にある」

有翼系のドラゴン『フェルゲニシュ・シャドウムーン』の特徴はレンの言った通りであった。モーションが大きく、一撃が重い。怒り状態になれば動きは早くなるが、格段に早くなるというわけではない。また、ブレス攻撃の範囲が広いという注意点もあるが、その程度だ。警戒すべきは油断による被ダメージ。それさえ注意すれば、今回の攻略はうまく行くだろう。

「いいか、よく聞け」

レンが一歩踏み出た。纏っている気迫がこれまでとは段違いなのを感じて、アスナは思わず喉を鳴らした。

「敵はこれまでと比べるとそこまで厄介というわけじゃねえ。だが、ここに来るまでに偵察部隊の2名が死亡している」

血盟騎士団が派遣した2名の偵察部隊が誰も帰って来なかったという報せは、瞬く間に攻略組に広まっていた。なにせ、階層攻略戦に関係する死者は本当に久しぶりだったのだ。

「それが何を意味してんのか。それは戦ってみねえと分からねぇ…途轍もない一撃を放って来るのかもしれねえし、有り得ねえモーションをするかもしんねぇ」

攻略組のプレイヤー達が、レンの気迫に呑まれて話に聞き入っていた。
彼の挙げた例を想像して、全員の顔に焦りが浮かぶ。
士気を上げねばならない時に、なぜ脅しているのかとアスナはレンを見た、その時。

「だが」

レンが口を開いた。煌々と燃える紅い瞳が自身の前に立つ数十名の戦友を睥睨する。

「臆するな、躊躇うな」

彼の言葉に重みが増し、

「出し惜しみは悪だ」

彼の手に力が篭る。

「答えろ、お前らが戦う理由はなんだ」

問い掛けられたのは、今更の疑問。答える声はすぐ様。

『生きて帰る為!』

「お前らが戦う敵はどいつだ」

『この世界!』

「ならば!」

合唱する数十名のプレイヤー以上の大声を上げ、レンは右手に握った十字架の剣を振り上げた。

「戦え!」

『オオ!』

「抗え!」

『オオッ!』

「生き抜け!」

『オオオッ!』

振り上げた剣を迷宮区へ向け、今、希望の剣士は復活の咆哮を上げる。

「行くぞォッ!」

『ウオオオオッ!!』



† †



SAOというゲーム世界でも、気力は重要である。いや、SAOというデスゲームだからこそ、気力程重要なものはない。
集中力しかり、胆力しかり、この世界では気持ちが折れてしまえば後はモンスターに嬲られるのみである。
だが逆に、かつてない程に集中し、また最も命懸けの状況だったならば。そう、レンによってその戦意を焚き付けられた攻略組プレイヤーならば、どうなるか。
答えは簡単だった。

「オオオッ!!」

レンの放った水平四連撃ソードスキル、『ホリゾンタル・スクエア』が竜型フロアボスであるフェルゲニシュ・シャドウムーンの頭部に命中し、残る一本の角を圧し折ると同時、そのHPバーも残り一本まで削り取った。

攻略戦はこれまでにない程、順調に進んでいた。死者はなし、途中でリターンクリスタルを使って脱出を図る者もいない。戦う前に防御主体の作戦にしたのが功を奏したのだろう。
しかしこの攻略組の快進撃に何よりも大きな影響を与えているのは、疑う余地もなくアスナやキリト、そしてレンの存在である。
攻略組なら知らぬ者はいない程の美貌と強さを兼ね備えた閃光の異名をとる『アスナ』。
攻略組トップアタッカーで、漆黒のビーターや黒の剣士と呼ばれる『キリト』。
そして、今作戦の指揮官にして希望の剣士と謳われる『レン』。

レンを全体のリーダーとして、キリト、アスナ、エギル、クライン、そしてディアベルを各パーティのリーダーとするチーム分けにしており、キリト、アスナ、クラインは攻撃、エギル、ディアベルは防御・援護、そしてレンは遊撃という役割が今作戦の要だ。

フェルゲニシュ・シャドウムーンは一撃一撃が非常に重いとはいえ、防御に徹すれば簡単にHPを削り取られることはない。
更に一撃の間隔が長いため、攻防の切り替えが楽にできる。だからこその役割分担である。
エギルやディアベル率いる防御・援護部隊が確実にボスの攻撃を防御し、背後に控えたキリト、アスナ、クライン率いる攻撃部隊が一斉攻撃。ボスが怯めば更にレン率いる遊撃部隊が攻撃部隊に合流して更に追撃。ボスが反撃に移るならば遊撃部隊は防御・援護部隊に合流し、攻撃部隊を下がらせる。
効率的かつ最適。そして、失いつつあった『レン』という存在を攻略組に知らしめるのに、最良の作戦であった。
『アイギスの汚名返上』。唯一生き残っているアイギスのギルドメンバーとして、レンが行うべきことだった。そのために、レンは再び英雄と呼ばれなければならなかったのだ。

「パターン変わるぞ!気をつけろ!」

レンの指示に、防御部隊が盾を構える。これまでに削り取ったボスのHPバーは二本。その内、全てで攻撃パターンが変わってきている。
最初は両腕と尾による薙ぎ払いと叩きつけ、圧縮ブレスと広範囲ブレス。
二本目に入った以降は空中からのブレスに、滑空を加えたもの。
そして三本目。怒り状態特有の全身に血管が浮かび上がるのが続いているため、どうやら常時怒り状態らしい。

(さて、何が来る?)

部隊の展開を終え、いつでも援護にいけるようにエスピアツィオーネを構える。その瞬間だった。
フェルゲニシュ・シャドウムーンの巨体が縦方向に翻る。地面を削りながら這うように、尾が防御部隊の一部を捉えた。

「なッーー!?」

その絶句は誰のものか。はたまた全員のものか。

防御に徹していたはずの部隊が、防ぎきれず後方へ弾き飛ばされた。
背後に控えていた攻撃部隊に介抱されたのは三人のプレイヤー。どうやら死亡した人はいないようだが、満タン近くあったそのHPは残り数ドットの所まで減少している。

(なんという威力…! 50層の多腕野郎以上だ!)

驚愕しているのはレンも同じ。だが、彼にそんな余裕はない。すぐ様思考を切り替えて瓦解しそうになっている防御部隊の援護をするために走り出す。

『グルルルラァァァッ!!』

雄叫びと同時に、今度は横回転の薙ぎ払いが、防御部隊を纏めて弾き飛ばす。不幸中の幸いか、死者はまだいないようだが、最悪の状況と言っても過言ではない。

「少しでもダメージを喰らった奴は下がれ! 無事な防御部隊は再度防御陣を展開しろ! 遊撃部隊はその穴埋めだ!」

鍛え抜かれた敏捷値を遺憾なく発揮し、一瞬でフェルゲニシュ・シャドウムーンの眼前に躍り出たレンは、少しでも注意を己へ向けようとエスピアツィオーネをドラゴンの鼻面へ振り抜く。

『ガァァアアァッ』

「お、オオオッ!」

雄叫びを上げて、ドラゴンと人が斬り結ぶ。
ボスの攻撃はこれまで以上に早い。生半可なソードスキルを使えば最後、スキルディレイに縛られた刹那に決着はついてしまうだろう。ソードスキルは最後の詰めの時のみ。それ以外は使えない。
ならば、己の技術のみで削るしかないだろう。

「攻撃部隊はそのまま待機!怯んだら一斉攻撃! 防御部隊と遊撃部隊はオレの援護をしろ!」

それは、正に50層のボス戦、レンが伝説となった戦いの再現であった。
瓦解した部隊を立て直すために、ヒースクリフと二人のみでボスを一時間以上足止めしたその偉業と同等のことを、再びやろうと言うのだ。

「ラァッ!」

上段から振り下ろした一撃がドラゴンの肩を切り裂く。
カウンターとして襲い来る右爪を頭上へ飛ぶことで回避して、更に空中で首筋に一撃を叩き込む。

『グゥゥ…』

翻弄されているのに怒ったのか、低い唸り声がドラゴンから漏れた。
その隙に、エスピアツィオーネの切っ先がドラゴンの顔面を穿った。

『ギャアァァァ!?』

「攻撃部隊! 攻めろォ!!」

レンの号令に、待ってましたと言わんばかりに攻撃部隊がドラゴンへ詰め寄る。
真っ先に辿り着いたのはやはりキリトとアスナであった。それに少し遅れる形でクラインが背後に陣取り、ソードスキルを発動させる。
色とりどりのライトエフェクトが至る所で瞬き、ボスのHPを確実に削り取っていく。
あと、半分。

『グォォォォォ!!』

「立ち直りが早い!?」

スキルディレイにキリト達が縛られる中、フェルゲニシュ・シャドウムーンがスタン状態から立ち直る。
このままでは、攻撃を直で受けてしまうだろう。
ドラゴンがその巨腕を振り上げる。
そこに、白い影が飛び込んだ。

「レン君!?」

アスナの叫びにレンは答えず、その手に握る十字架の剣をポリゴン片へ還し、新たな武装を形作る。

『ガァァゥッ!!』

振り下ろされたのは必殺の一撃。

「ァああッ!」

激しいライトエフェクトとサウンドエフェクトが撒き散らされ、最前線にいた全員が顔を伏せた。

「ぐッ…」

顔を上げたアスナ達が見たのは、白い盾でドラゴンの強力な一撃を防いでいるレンの姿だった。
上から加えられる力に押し込まれ、レンの顔が歪む。彼のHPバーは既にレッドゾーンへ突入していた。

「みんなーー」

レンの援護へ、と号令をかけようとしたアスナを止めたのは、単身で飛び掛かろうとしていたキリトを止めたのは、他でもない。レンの雄叫びであった。

「うおおおおおおッ!!」

裂帛の気合いを迸らせ、ドラゴンの重い一撃を弾きかえす。
ノックバックしたドラゴンへ、レンは『無限剣スキル』を使用して盾をポリゴン片に戻し、そして、両手に剣を握った。
エスピアツィオーネとクリミナルエスパーダ。二刀を構えたレンに、全員が驚きの表情を浮かべた。

「ラアァッ!」

エスピアツィオーネがジェットエンジンのような大音響を響かせ、赤い光芒を纏った単発重攻撃『ヴォーパル・ストライク』が二本足で立つドラゴンの腹へ突き刺さる。
かなりの衝撃を受けてドラゴンの体が更に後退ると、クリミナルエスパーダが青白い色を宿し、見えない力に後押しされてレンの体が動き出す。
垂直四連撃ソードスキル、『バーチカル・スクエア』が青白い正方形を描いてフェルゲニシュ・シャドウムーンを弾き飛ばた。

「まだだァ!」

再び、今度はエスピアツィオーネに黄緑色の燐光を纏わせ、レンの体が飛んだ。
突進技『ソニックリープ』で一息に距離を詰めると、クリミナルエスパーダが、眩く白い光を纏い出した。

「これで…」

丁度その時、フェルゲニシュ・シャドウムーンがスタンから立ち直り、それまで好き勝手に攻撃してきた小さい存在を睨む。

「終わりだッ!」

白い光がまるで剣の延長となったかのように伸び、黒き竜の巨体を、正面から叩き斬った。
凄まじい轟音と、視界を染め上げる程眩い光。
それらが収まった時、竜の巨体は、その姿をポリゴンの欠片に変して、そして消えた。



† †



結局、今回のボス攻略戦は死亡者0で乗り越えることができた。一先ずの重荷が片付いたオレは大きな溜息をつくと、その場に座り込んでしまった。

「ふぅ…疲れた」

今、煙草があれば吸いたいという気持ちがなんとなく理解できる。まあ、ソードアート・オンラインにログインした時も今も未成年だから吸ったことなどないのだが。
今回のボス戦は全体的にそれほど辛くはなかったが、最後のは流石にキツイものがあった。
よくもまあ、あんな極限状態でスキルコネクトを連発し、あの必殺技まがいの一撃を放つことができたものだ。

ちなみに最後の光の剣は片手直剣のスキルではなく、無限剣の方のスキルだ。無限剣には熟練度が25、50、75、100になる度に光の剣ーー『リライト・スレイブ』のような規格外のスキルを習得できる。
それがなければ前に言った通りのデメリットだらけの産廃スキルだ。オレもこの必殺スキルに惹かれたからこそ熟練度をマックスにし、かつ剣技連結(スキルコネクト)などという荒技を習得したのだから。

「と、いうことだ。分かってもらえたか、クライン」

座り込んでいるオレの目の前で渋面を作る赤い野武士にオレのスキルの説明を終えると、奴は同情の眼差しをコチラに向けてきた。

「いや、大体はわかったけどよぉ…お前さん、苦労してんだな」

「しみじみと言わないでくれ。自覚してるんだ、余計に虚しくなる」

後にも先にも、この無限剣なるスキルをうまく使いこなせるのはオレくらいではないだろうか。取り敢えずソードアート・オンライン自体が初なためこのスキルを習得したのはオレが初なのだろうが、恐らくあのキリトでも、できたとしてもっと時間がかかっていただろう。

「取り敢えず、犠牲者がいなくてよかった。すまないがエギル、オレは宿に戻って休みたいから、次の層のアクティベートは任せる」

「おう、お疲れさん。レン」

浅黒い肌を持った巨漢のプレイヤー、エギルに頼みオレはアイテムボックスから転移結晶を取り出す。なるべくなら無駄遣いは避けた方がいいのだろうが、流石に今日は疲れた。後のことはアスナやエギル、そしてキリトとクラインに任せることにしよう。

「転移、『グランザム』」

青い光に包まれながら、歓喜に沸く攻略組プレイヤーを見て安堵の溜息を漏らすのだった。




to be continued 
 

 
後書き
ちなみにこれから原作までのフロアボスは『ソードアート・オンライン エンド・ワールド』を参考にしていきます。
あとアスナさんはヒロインではありません。アスナにとってレンは憧れの人であり、愛する人は原作通りキリトさんです。
ところで、ヒロインどうしよう…? ヒロイン意見募集! 
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