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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos52合流/和解~Before a Decisive Battle~

†††Sideトーマ†††

お腹をくぅくぅ鳴らしながら朝の散歩としゃれ込んでいると、魔法による結界に閉じ込められたのに気が付いた。さらに遠くの方で虹色の魔力の柱が突き立ったのが見えた。リリィが『トーマ、あの魔力光! ヴィヴィオと同じ色!』そう言った。そう、何度かヴィヴィオの試合を観たことがある。その時にヴィヴィオの魔力光を見たんだ、あの綺麗な虹色の魔力を。

「ああ! もしかすると、過去に飛ばされたのは俺たちだけじゃないのかもしれない!」

というわけで、消失したけど魔力の柱があった場所に辿り着くと、そこではやっぱり大人モードになってるヴィヴィオとアインハルト、そしてヴィヴィオと同じ身体的特徴を持った女の子が戦っていた。しかも何気にヴィヴィオ達ピンチだし。だから俺も参戦したんだけど、もう強いのなんのって。でもなんとかディバイドの力で退けることが出来たんだ。

「――リアクト・アウト」

リリィとのリアクトを解いて改めて、「無事か? ヴィヴィオ、アインハルト」2人に声を掛ける。リリィも「大丈夫だった?」って声を掛けるんだけど、2人の様子がどうもおかしい。なんて言うかリリィの姿に戸惑ってるって風で。

「クリス」「ティオ」

ヴィヴィオとアインハルトが変身を解いて元の子供の姿に戻ったんだけど、「え?」俺とリリィはその姿を見てそんな抜けた声を漏らした。なんか違和感がある。とここで「ヴィヴィオ、アインハルト、縮んだ?」ってリリィが小首を傾げつつ2人の身長を計る仕草をした。

「そう言えば小さいような・・・」

「うん。お胸とかも色々・・・」

「あー、確かに言われてみれば――って、違う! リリィ! 変なこと言わない!」

リリィがそんなことを言うもんだからヴィヴィオもアインハルトも「っ!」顔を真っ赤にして両腕で胸を隠して俺を弱々しく睨んだ。理不尽だ。いやまぁ、リリィの天然に乗ってしまった俺にも非があるのは確かだ。だから「ごめんなさい!」90度頭を下げて謝罪。それで2人は腕を下ろしてくれた。

「・・・えっと、トーマって新暦何年からここへ?」

「何年って。決まってるじゃないか、新暦82年だよ。なぁ? リリィ」

「え、うん。でもヴィヴィオ。どうしてそんなことを訊くの?」

リリィの疑問ももっともだって頷きかけた時、なんか嫌な予感がした。そしてその予感は見事に的中。ヴィヴィオが「わたしとアインハルトさんは、新暦79年からここ66年前にタイムスリップしたんだけど・・・」そう話してくれた。

「俺たちより3年前から・・・!」

「え、じゃあひょっとして私のことも・・・」

「えっと、ごめんなさい。トーマのことなら以前スバルさんと一緒に居る時に通信で話したことが何回かあるけど・・・」

「ああ、そうなるのか。じゃあアインハルトは俺のことも知らないよな、3年前だとすると」

「あ、はい。はじめまして、になります」

アインハルトが小さくお辞儀した。すると「あぅ、ショックぅー。ヴィヴィオもアインハルトも、私のこと知らないって・・・」リリィが目に見えて落ち込んだ。仲が良かったからなぁ、俺たちの時代だと。

「まぁとにかく。一度状況を整理しよう。っと、その前にまずは場所を変えよう。結構派手に暴れたから、八神司令たちに感づかれてるかもしれない」

「うん」「はい」

ヴィヴィオ達も未来への影響については知っているようで素直に応じてくれた。そしてここから少し離れた別の休憩所で休みを取りながら状況整理することにした。下手に距離を取るより近場で隠れてた方が捜索を免れる場合もある。灯台下暗し、ってやつだ。

「さてと。それじゃ、俺とリリィ、そしてヴィヴィオとアインハルトは、別々の時代からタイムスリップして来たわけだ」

「うん。わたしとアインハルトさんは79年から」

「俺とリリィは、82年から。3年の差かあるわけだ」

「そしてここが新暦66年で、私やトーマからすると16年も前の過去なんだね」

「私とヴィヴィオさんにとっては13年前ですね」

こう改めて確認するととんでもない事態に巻き込まれてるよな、俺たちって。んで、俺やリリィにとっては顔なじみのヴィヴィオとアインハルトは、今目の前に居るヴィヴィオにとってはモニター越しに数回話した程度で、アインハルトに至っては会ったこと、話したことすらない初対面になるわけだ。

「あの、リリィさん・・・?」

「なに? ヴィヴィオ」

「リリィさんって、融合騎なんですか・・・?」

ヴィヴィオにそう訊ねられて、「あ、ううん。私はね・・・っと」そこまで言いかけたところでリリィは口を閉ざした。俺とヴィヴィオとアインハルトで「???」リリィのその様子に小首を傾げる。と、「ねえねえ、トーマ」俺の服の袖を摘まんで何度か引っ張った。

「ちょっとゴメンね。・・・えっとね、トーマ。私とトーマが出会うのも、私のことについても、全部未来で起きることだから、話しちゃったらダメだよね?」

リリィに引っ張られるままにヴィヴィオ達から距離を取って、小声で話す。リリィの話を聴いた俺は「そうだった。危ね。ヴィヴィオ達だからって油断した。ナイスだ、リリィ」って親指を立てる。とは言っても「もう若干手遅れ感があるけど」こうして出会って話してる時点でさ。

「じゃあどうしよう・・・?」

「掻い摘んで話そう。詳しく説明するんじゃなくてさ」

「う、うん」

ヴィヴィオ達の元へ「ごめん、お待たせ」謝りながら戻る。そして早速「あのね」リリィが話を切りだした。リリィはちょっと天然なところもあるけど、一応しっかりはしてるから安心して任せていたんだけど・・・。

「私とトーマはね、その、ちょっと切っても切れない繋がりがあってね、それでいつも一緒に居る間柄で、・・・大切な人なんだ♪」

「「へ・・・?」」

「ぶっ!? リリィ! その言い方だと誤解を招く可能性が・・・!」

ほら、見ろ。ヴィヴィオとアインハルトが顔を赤らめて、しかも「トーマさんの彼女さんですか・・・?」ってアインハルトがテレながらそんなことを言ってきたじゃないか。ヴィヴィオも「リリィさん。トーマを末永くお願いします」なんて言ってくる始末。2人がそんなことを言ってくるからこっちまで恥ずかしくなる。

「ちょっ、違うから! リリィとは、その、なんだ。大事な友達で、コンビのパートナーなんだ! ヴィヴィオとアインハルトが考えてるような間柄じゃないから。オーケー?」

「イエス・オーライ♪ パートナー、そう、大事な相棒なの!」

「そっかぁ。じゃあわたしとアインハルトさんにとってのクリスやティオなんだね、リリィさんって」

「大切なコンビのパートナー・・・なるほどです」

俺の話にリリィもうんうん何度も頷いて同意してくれたし、ヴィヴィオとアインハルトの誤解も解けることが出来たし、リリィの正体についても深くは追及してくる様子もないし、これで何とか一件落着だな。それじゃあ本題に戻そうか。

「で、だ。俺たちは別々の未来から何の前触れもなく急に飛ばされて来た。そしてどうにかして元の時代に帰りたい。その方法なんだけど・・・」

一応“銀十字”に探らせてはいるけど、そうそう見つかるわけもなく、どうしたものかと唸っていると「あ、それなら今、ヴィヴィオさんが手掛かりを見つけてくれました」ってアインハルトからビックリ発言が。俺とリリィが「えっ?」ってヴィヴィオに視線を向けると、「あくまで推測だけど!」って前置きしてから話してくれた。

「――つまり、誰かの時間移動に巻き込まれて、俺たちも過去に飛ばされたってことか」

「たぶん。わたし達だけを過去に飛ばす理由なんてきっとないし。となると、誰かの転移に巻き込まれたって考える方が自然だと思うんだよね」

言われてみればその通りだ。わざわざ過去に飛ばす理由が無い。だったら過去に飛ぶ理由のある奴の転移に巻き込まれたって考えられる」

「さすがヴィヴィオ。無限書庫の司書資格を持ってるだけあって知識が豊富だね♪」

「あ、ありがとう♪ そういうわけで、同じように未来から人たちを見つけることが出来ればきっと、未来への帰還方法を判るはず」

「さすがに一方通行で過去に来たわけじゃないもんな。ちゃんと帰る方法を持ってるはずだ」

やっと希望が見えてきた。あとは八神司令たちと出来るだけ関わる事無くそのトラブルメイカーを見つけて、帰る方法を教えてもらう。それで解決だ。安心したら「あ・・・」きゅ~って俺とリリィの腹が鳴った。

「お腹空いたね、トーマ」

「ああ。こっちに来てから何も食べてないもんな、こっちの世界のお金持ってないし。ヴィヴィオとアインハルトはどうしてた? やっぱ何も食べてないのか?」

「ついさっきジョギングとか犬の散歩をしてた人たちから、おにぎりとかパンとか貰ったんだけど、それまでは水道の水を飲んで空腹を紛らわせてた」

それは何とも羨ましい。そう思っていたら「食べきれなかったおにぎりがまだいくつか残ってるから、取りに行こう」ヴィヴィオから救いの光が差しのべられた。俺とリリィは「うんっ!」元気よく頷いた。そして俺たちは、ヴィヴィオ達の案内で別の休憩所へと向かうことに。

「にゃんにゃん♪」

≪猫型端末によって、ブック本体に軽度の損傷が発生。能動排除の許可を申請します≫

“銀十字”の上に器用に乗っかってるティオ(アスティオンって名前の雪豹モデルだったよな)がカバーを甘噛みしていた。そんな“銀十字”の申請に「ダメだよ、銀十字。それくらいいいでしょ」ってリリィが却下を下した。“銀十字”の再生能力からして甘噛みくらいどうって事ないし。そんな中、うさぎのぬいぐるみの外装を持ったクリス――セイクリッド・ハートが短い前脚で、ティオを窘めるようにポンポン叩く。

「ティオ、めっ、ですよ。クリスさんの言う通り銀十字さんを噛んではいけません」

「にゃあ」

マスターであるアインハルトに注意されても退くことはなかったティオだけど、甘噛みはやめた。その代わりスリスリと頬ずりを始めた。仲良しは良いことだ。

≪猫型端末の起毛がページ間に侵入。自動除去します≫

「ほら、ティオ。銀十字さんが困っています。こっちに来なさい」

「にゃあにゃあ」

「嫌がってる・・・?」

アインハルトの言うことを聴かないほどに“銀十字”を気に入ってるようなティオ。ティオはさらにペロペロ舐め始めた。

≪猫型端末の舐め回しによってページに歪みが発生。再度、能動排除の許可をお願いします≫

「噛んだり舐めたり、ティオにゃんにとったら銀十字って美味しいものなのかなぁ?」

「いや、どうだろ・・・?」

“銀十字”のことを気に入ってもらえてるのは判るけど、美味しいからかどうかはちょっと判らないな。とここでついに「ティオ、いい加減にしなさい!」アインハルトから強めのお叱りが入った。ティオが「にゃ・・・」しゅんとして一鳴き。

「あー、ティオ、おこられたー」

「にゃ~ん・・・」

「えっと、アインハルト? 別にいいぞ、これくらい。デバイス同士、仲良くするのは悪い話じゃないし」

≪ドライバーに異議を申し立てます≫

“銀十字”から不服そうな声が。アインハルトも「銀十字さんが嫌がってますから」そう言って、“銀十字”から彼女の胸へと跳び移ったティオを抱き止めてそう言った。クリスが落ち込んでいるティオを慰めるように頭を撫でて、“銀十字”はティオを避けるようにリリィの側に寄り添った。俺の側じゃないんだな。ひょっとして怒ってるのか?

「あっ、あそこの休憩所!」

「あのビニール袋の中に、余りのおにぎりがあります」

十数時間ぶりの食事にありつける。その嬉しさに早足になって、小走りになって、休憩所へ向かおうとしたその時、「にゃあにゃあ!」さっきまでと打って変わって、何かを報せるように大声で鳴き始めた。クリスをわたわた両脚を振り回して、“銀十字”からも≪転移反応を確認。脅威判定4体、接近中≫って報せが入った。

「接近中ってことは・・・!」

「私たちに対する追手、でしょうか」

「たぶんね。・・・銀十字。魔力反応から誰が来ているのか判るか?」

どうか八神司令が居ませんように、居ませんように、居ませんように。必死に願う。

≪・・・・識別完了。ルシリオン、シャルロッテ、シグナム、ヴィータ、上官の魔力反応と一致≫

未来で得たデータから特定できた。ルシルさんとシャルさん、シグナム姐さんにヴィータ師匠。八神司令は居なかったけど、それ以上にある種最悪の組み合わせだった。とりあえず「念のために林の中に隠れよう。まだ正確には見つかっていないはずだ」そう考えて、俺たちは姿を隠せる林の中に逃げ込む。変身は解除しているから魔力反応で見つかることはないはず。

「にしても、ルシルさんが居るのは正直まずい・・・」

思い出されるルシルさんの反則級魔法の数々。索敵・探査能力はもちろんのこと単独火力ですらも他の追随を許さない、八神司令と同じ魔導騎士の称号を有する、次元犯罪者の誰もが恐れる騎士。そして八神司令に二つ名――歩くロストロギアがあるように、ルシルさんにも二つ名がある。それが軍神。単独で武装隊の大隊以上の戦力だからそう名付けられたってスゥちゃんから聞いた。

「というかベルカ式組はみんなまずいよ!」

ヴィヴィオが焦りを見せる。シグナム姐さんもヴィータ師匠もとんでもなく強いし、シャルさんも管理局で一部隊を統括する部隊長で、聖王教会でも最強の剣騎士と謳われるお人だ。それに管理局に所属する騎士たちの中で陸戦・空戦・総合問わずにSSSランクを誇る、神層騎士って謳われてる1人、剣神でもある。実際に戦ってる姿は見たことないけど、八神司令たちが口を揃えて強いっていうんだから、その実力は確か。

「ヴィヴィオ達は、シャルさんの戦いを見たことあるか・・・?」

「うん、あるよ」「はい、あります」

「どうだった? 私とトーマ、シャルさんとお話ししたことは何度もあるけど、戦う姿は見たことなくて」

「強いよ。近接戦じゃたぶん負けなし」

「剣技・魔法・固有スキルを複合しての戦法を取りますから」

ヴィヴィオとアインハルトが僅かに顔色を悪くしてそう教えてくれた。顔色が変わるほどにその強さを目の当たりにしたってことか。でもそれはあくまで13年後の未来での話。俺とリリィのディバイドを使えば、たぶんルシルさん以外になら勝てる・・・はず。

≪追跡者が四方に分散しました。脅威反応1、ルシリオンが接近中≫

俺たちを補足できていないみたいで分散して捜索に入ったみたいだ。けど選りによってルシルさんとか。運が悪いにも程がある。空からはまず俺たちのことは見えないはずだけど、それでも屈んで体を小さくして身を隠す。
心臓がバックンバックン。見つからないか緊張が凄まじい。六課の主力が女性ばっかりの中、ルシルさんは同性として俺やエリオ君をよく気遣ってくれるけど、ルシルさんがそれまでに残してる戦歴から、戦闘中はあんまり近寄りたくない。

≪上空通過まで500・・・300・・・100・・・≫

ハッキリと肌に感じるルシルさんの魔力。そして≪通過。離れて行きます。100・・・300・・・≫“銀十字”の報告通り、頭上の空を蒼い光が通り過ぎて行った。俺たちみんなが「はぁぁぁ・・・」同時に安堵の息を吐く。

「なんとか見つからずに済んだな」

「そうだね~」

≪足元より攻撃魔力反応≫

リリィと一緒に微笑み合ってると、“銀十字”から警告が発せられた。ヴィヴィオとアインハルトはさすがと言うべきか即座にその場から一足飛びで離脱。変身してなくてもその俊敏さには驚いた。俺もリリィの手を引いてその場からダッシュ。

「トーマ、アレ!」

リリィの声に従って後ろを振り向くと、木々の影から黒くて薄っぺらな人の手が幾つも伸び出て来ていた。そう、アレは「カムエル・・・!」だった。ルシルさんの魔法の1つで、攻撃と言うよりは拘束魔法に近い。ということは「俺たちに気付いていたってことか!?」になるわけで。

≪ルシリオンの魔力反応が急速接近≫

やっぱり気付かれてる。林の中を走り回る中、行く先々からカムエルが影の中から伸びて来て俺たちを捕らえようとする。ソレから逃げるために違う方向へ走ると、またその先でカムエルは発生。それが何度か繰り返されたことで、「ヴィヴィオさん、トーマさん、リリィさん、誘導されてます!」アインハルトがそう言った。俺も薄々は勘付き始めていた。

「トーマ! ルシルさんから逃げるなんてホント無理だから、保護してもらお!」

前を走るヴィヴィオからそんな提案が。続けて「話すのが遅れましたが、私とヴィヴィオさんが未来人だということは知られています!」なんて、まさかの発言をするアインハルト。リリィが「喋っちゃったの?」って訊ねる。

「えっと、フォルセティと間違っちゃって!」

「それほどまでにそっくりだったんです、フォルセティさんとルシルさんが・・・!」

「「あー、確かに・・・」」

俺やリリィもフォルセティと会ったことはある。初見の時は、ルシルさんが縮んだ、って素で驚いた覚えが。ここが16年前だから、9歳か10歳。この頃のルシルさんと、13年後のフォルセティの背格好って同じなのかもしれないな。

「しかもルシルさん、フォルセティと間違ったわたし達から情報を得るために、フォルセティの演技をしたんですよ! 時間転移の影響で記憶が混乱してるとか理由を付けて!」

「まぁ事情聴取の域ですから仕方がないとは思いますけど・・・」

若干お冠なヴィヴィオ。だけどそれを聞いて「ルシルさんの知識量は半端じゃない。もしかすると、俺たちの事情を察してくれるかも」そんな希望が湧く。俺たちの危惧している事態――タイムパラドックスによる歴史改変とか。その辺りを気にかけてくれるかも。

≪他の追跡者もこちらに向かって集まって来ています≫

シャルさん達も呼び戻されたみたいだ。これはもう逃げられない。そしてついに林の外へと誘導されて、俺たちは真っ青な空の下へと戻って来た。遅れて「出来れば抵抗してほしくないな」子供の声が頭上から聞こえてきた。見上げると、そこには12枚の蒼い剣翼アンピエルを背負った小さな子供が居た。

「ルシ――」

「きゃぁぁぁぁ♪ ルシルさんもちっちゃ可愛い~い❤ 八神司令もそうだったけど、ルシルさんも可愛いみたい♪ どうしよう、すごくナデナデしたい❤」

「やめて、やめてくれ、リリィ!」

確かに女の子っぽいけど、ルシルさんは立派な男の子だから。ほら、可愛いって言われて若干ショックを受けてる。

「コホン。時空管理局、嘱託魔導師の八神ルシリオン・セインテストです。高町ヴィヴィオさん、ハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルトさん、トーマ・アヴェニールさん、リリィ・シュトロゼックさん――」

アンピエルを解除して地面に降り立ったルシルさんが俺たちの名前を呼びながら順繰りに見てきた。そして「あなた達を保護しに来ました」そう言った。

「あなた達が別々の未来から来たこと、タイムパラドックスの危惧を考えて逃げ回ったことは判っています。深くは事情を聴きませんので、ここは抵抗せずに同行してもらえませんか?」

「本当ですか? もうフォルセティの演技とか・・・?」

「あはは。しないから、しないから」

訝しんでるヴィヴィオに苦笑交じりで答えたルシルさん。とここで、「おーい、ルシルー!」女の子の声が。ルシルさんの側に降り立ったのは、真紅に光り輝く魔力の翼を展開したシャルさん、そしてヴィータ師匠にシグナム姐さんだった。

「シャルさんもちっちゃ可愛い❤」

「つか、シグナム姐さんもヴィータ師匠も全然変わってねぇ! なんで!?」

ルシルさんとシャルさんはちゃんと子供姿。だけど16年前なのに、シグナム姐さんは変わらず大人で、ヴィータ師匠は変わらず子供のまま。ヴィータ師匠が「師匠だぁ? 弟子なんかとった憶え――てか、未来の話かソレ」最初は訝しんで、俺たちが未来人ってことで納得した。そして、タイムパラドックスに気を付ける、って言っていたのにモロに話す俺に自己嫌悪。

「ま、それはあなた達の時代のシグナム達から聴けばいいよ。さて。本題に戻すけど、一緒に来てくれないかぁ? 悪いようにはしないし、これ以上事情を聴こうとも思わない。それにあなた達をこの時代に飛ばした原因を、すでに保護してるから悪い話じゃないと思うけど?」

「「「「ええええ!?」」」」

ここに来て逃げようとは思わないし、俺たちを過去に飛ばしてくれやがった犯人がすでに八神司令たちのところに居るっていうのなら断る必要も無し。というわけで、「同行します」俺たちは口を揃えてその意思を示した。

「よし、良い子たちだね♪ 未来組御一行様、アースラへご案な~い♪」

シャルさんがそう言って指をパチンと鳴らすと、俺たちを転送する光が足元から生まれた。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

アースラの通路を1人歩くのは、桃花色の髪や衣服を纏った少女キリエ。本局は第零技術部での修復・治療を終えた彼女や、その姉アミティエ、フローリアン姉妹の監視役だったクロノはアースラへと戻って来ていた。そしてキリエは1人で考え事をしたいという理由を付けて、アースラ内をぶらぶら散歩していた。

(1人にして、って言ったのにしてくれてないじゃないの、あの執務官って子)

キリエは後方から視線を受けているのを察知していた。彼女を監視しているのはクロノだ。いくらフローリアン姉妹――特にキリエが観念して事情を話したとしても、彼女の単独行動を許すほど甘くも優しくもない。しかしクロノは気付かれないように細心の注意を払って尾行していた。それでもなお彼に気付いたキリエのセンサーはかなりの優秀さと言える。

「あら?」

どうやって監視から逃れようかと考えながら歩き続けていると、クロノの視線と気配が消えたのが判った。しかしその代わり「キリエ」彼女の名前を呼びながらアミティエがその姿を現した。深桃色の長髪をお下げにし、青色を基調とした衣服を身に纏っている。

「お姉ちゃん・・・」

「どこへ行こうとしているのですか? 大人しくしていなさい」

「なんの用よ。散歩くらい許してよ」

アミティエの問いにぶっきらぼうに答えたキリエは踵を返し歩き去ろうとした。が、「いいえ、ダメです」アミティエがそれを止める。キリエはギリッと歯軋りした後に背後に居るアミティエに振り返った。

「そんな思い詰めたような、悲壮感と責任感に押し潰されそうな目と表情をしたあなたを1人にさせるわけにはいきません。一体、何をやろうというんですか?」

「そんな目なんか、顔なんかしてない!」

「なら、そこのお手洗いに入って鏡で自分の顔を見てみなさい。酷い顔だって判りますから」

「っ! わたしはどうしてもエグザミアが欲しいの。さっき聞いたのよ。マテリアル達の話し声。システムU-Dの再起動が近いって。この意味、お姉ちゃんになら解るでしょ?」

「・・・ええ。再起動したら、今まで以上の魔力出力を得、世界の2つや3つ、滅ぼしかねません」

「そうゆうことよ。再起動したらホントに手に負えない怪物になる。その前にわたしが・・・!」

あくまで“エグザミア”を手に入れる為と、キリエは両手を強く握り拳にした。アミティエは深く息を吐いて「たった1人で何が出来るというんですか?」そう言い放つとキリエは、「オーバーブラストがあるわ」と返した。アミティエの表情が驚愕に染まる。

「何を馬鹿なことを言っているの! アレは一種の自爆行為! 下手をすれば未来に戻ることも出来ない体になります!」

「でも倒せるわ! それにね、お姉ちゃん。機械は年下の方が性能は上なのよ。お姉ちゃんじゃ壊れるかもしれないけど、わたしはきっと大丈夫よ」

「やめなさい! それでも勝てないのは解っているでしょう!? 出力35%であなたの全力を受けても傷1つ付かず、ルシリオンさんと一緒に来た女性も、出力50%のU-Dに対して健闘しましたが、それでも勝てなかった。映像を観た限り、あの女性の最期の一撃は、私やあなたのオーバーブラスト以上の威力を持っていた。それでも倒せなかった」

第零技術部での治療を終えた後、アミティエとキリエは、自分たちを助けてくれたプリメーラがどうなったかと知るため、彼女と砕け得ぬ闇の戦闘映像をクロノに頼んで観ていた。その強さに驚き、その上をいく砕け得ぬ闇の強さに絶望を抱いた。キリエも解ってはいた。が、それでもまだ諦めきれないのだ。

「ですから!」

「もう放っておいてよ!・・・お姉ちゃんには教えてないけど・・・ホントは、エグザミアを持って帰ったところで確実に救われる保証はなくて、あくまで可能性の1つなのよ。それでも無駄足で、徒労だとしても、誰に叱られても、その可能性に賭けてみようって・・・。
それにわたしもね、今さらだって言われるかもしれないけど・・・、もしかしたらエルトリアを救えるかも、なんて曖昧な賭けの代償で、この関係のない世界や人たちが傷つくのは本当は嫌、困るって思っていたのよ。だから今、再起動する前になら、わたしの全てを犠牲にすればきっと・・・!」

キリエの独白を静かに聴いていたアミティエは、「ギアーズってさ、元々は人の為、命の為に生み出された機械だもん。壊れたら捨てればいい。生まれた目的の為に、壊れるまで働いてこその機械。だから行く。もしわたしが動けなくなってもお姉ちゃんが居るわ。わたし、間違ってないでしょ」と続けているキリエへと歩み寄って行き、パンッ、と頬を叩いた。そして目を丸くしてフラ付いたキリエを抱きしめた。

「馬鹿! あなたは私の大切な妹なんです! そんなあなたの自己犠牲で得た、エルトリアを救う術なんて絶対に持って帰りません! あなたが居なくなったら私も、博士も、泣き死んじゃいます!」

「っ!・・・叩いたり、抱きしめたり、意味解んない・・・。そんなところが嫌い、大っ嫌い・・・」

「叩いたのは、あなたが馬鹿なことを言ったことへの罰。抱きしめたのは、たとえあなたが私を嫌っていても、私があなたのことが大好きだから。さっき本音を言ってくれましたよね。迷惑を掛けたくないって。本当はその優しさを持っている、すごく良い子だって知ってますから。それに何よりキリエ、あなたは世界中で一番可愛い、私の大切な妹だから。だから大好きなんです」

「ふ、ふんっ。そんなことを言って、わたしが泣いて抱きつくとでも思う? そんなのあり得ないんだから・・・」

アミティエに抱かれているキリエの目から一筋の涙が零れ落ち、震えた声で強がりを見せた。アミティエはキリエの頭を撫でながら「別に思ってませんよ」と苦笑交じりで返した。

「私はただ、私の思ってることを伝えて、私がしたいことをしてるだけですから。傷ついて泣いてる妹を助けるのは、姉にとっては息をするのと同じくらい、ごく自然のことなんですから」

「なによ・・・なによ・・・」

とうとう大粒の涙を溢れさせたキリエ。アミティエは彼女の頭を撫で続け、あやすように背中をポンポンと優しく叩いた。

「今、皆さんが頑張ってU-Dを止めるために協力をしています。具体的な策も出来たようですし。私たちに出来ることは、その策が上手くいくように協力すること。これしかありません。だからあなた独りが頑張らなくていいんです。一緒に戦いましょう、キリエ」

「しょうがないわね・・・ぐす。キリエちゃんの本領、みんなに見せちゃうわ」

こうしてアミティエとキリエ、フローリアン姉妹は共に戦うことを誓い合った。

 
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