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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
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序章
  02話  竜の花火

『―――ッ!!!』

 破砕音、山吹を纏う戦術機…武御雷タイプFが蜂にも似た形状の60m近い大型の異形、要塞級の尾節より伸びる触角を叩きつけられあっけなく砕け散る。


『―――くっ!よくも!!』


 無数の紫電の流血を撒き散らしながら肢体をばら撒く山吹の機体に歯噛みした青い人食いざめを連想させる獰猛な面構えに紅の双眼を光らせる蒼い額に烏帽子に似た一本角を聳えさせる武御雷が疾走――――迫る幼虫の肉で出来たのサソリのような異形を74式長刀で切り裂き進む。

 其処へ再び振るわれる触角……片腕に保持した突撃砲を連射し、その触角の鞭の部分を36mm劣化ウラン弾で乱れ撃ちにする。
 千切れ跳ぶ触角、無防備になった要塞級本体に蒼の機体が74式長刀による斬撃を刳り出す。

『はぁあああああああッ!!!』

 裂帛の気迫を乗せた斬撃が要塞級の胴体と右舷の脚部の間接に入り、その接合部を強靭な靭帯ごと切断した。

 突撃砲の斉射により劣化ウラン弾をばら撒きながら着地する蒼の武御雷。
 ―――だが、しかし視界の端で部下の山吹の武御雷が数体の要撃級に一斉に集られ、剛腕による一撃を前と後ろから同時に叩きこまれ胴体を押しつぶされた。


『くっ……』
『きょ、恭子さま……我々だけではもう持ちません!!』

『弱音を吐くな!!弱音を吐けば心が止まる、心が止まれば腕が止まる、腕が止まれば待っているのは死だぞ!!―――救援到来まで持ちこたえ斯衛の矜持を魅せよ!!』

 部下の悲壮な声が通信機を介して届いた―――このままでは相手の圧倒的な物量に各個撃破されてしまう。
 それは分かっている―――自分たちの命を使い潰す心算で此処に張っているのだ。

 しかし、部下たちにそんな事を聞かせる事なんぞ出来はしない。


『は……はい!!』

 部下に激励を飛ばしつつ、足元に這いよって来た要塞級の腹から現れた戦車級を蹴り飛ばす。
 カーボンエッジ装甲を纏った武御雷の蹴りは斬撃その物、まるで獣に引き裂かれたように無残な死骸へと変じた戦車級が地面に落ちる。


(とは言った物の……この彼我戦力差では到底持たない。)

 部下たちには悪い事をしたなと思考の端で思う。自らの決死行に付き合わせてしまった。
 それに、先の明星作戦で父を失ったばかりの可愛い従姉姪もその心を痛めるだろう。


『ハ、ハイドラ1!1時の方向に……要塞級が!!!』
『馬鹿な、進軍速度が速すぎる―――!!』

 僚機の山吹の機体からの呼び声に武御雷Rの紅眼が視線を巡らし要塞級を捉えた―――その数20体以上。
 その巨体に似合うだけの攻撃力と防御力にタフさを兼ね揃えるだけに飽き足らす、その内部に光線級などの小型種BETAを輸送する要塞級の危険度は非常に高い。


『くっ!!』

 一斉に突撃砲を放つ――120mm滑空砲が放たれ要塞級の数体の甲殻が爆ぜる。
 しかし、それで弾切れ。要塞級の多くは致命傷に至っていない。
 36mm砲弾の斉射が要塞級とその足元のBETAを襲うが、幾ら葬ろうが次から次へと枠要撃級とそれを物ともせずに猛進する突撃級と戦車級。
 そして、その中を走破性の高さと防御力を併せ持つ要塞級が進んでくる。

 その巨体が一歩、また一歩と歩を進めるたびに死が近づいてくる―――――

『く、来るなぁあああ――ぎぃぃぎゃああああああ!!!』

 捌き切れない戦車級に集られた武御雷の装甲を食い千切られた管制ユニットから引きづり出された衛士が二体の戦車級に掴まれ、上下に引きちぎられながらその赤い異形の大口に消えた。


『あ、ああ……!』

 自身の小隊が自らを残し全滅―――周囲の者の目が無くなり、一気に嵩宰恭子を支えていたそれが音を立てて崩れ落ちる。
 終わりを告げるかのように、要塞級の触角が振り上げられ……落ちる。


『ひぃ!』

 その時だった。一発の弾丸が飛来した。

『―――え』


 空中に火花を咲かせながら要塞級の触角の先端を弾いた銃撃―――其方に視界を巡らすと漆黒の左肩に組合角に桔梗の紋章を持った不知火が疾走してきていた。
 そして、左腕に保持された支援突撃砲を下げ、代わりに右腕の突撃砲を構える。


『――――狙い撃つッ!!!』

 突撃砲の120mm砲が火を噴く。そして要塞級の頭部で爆発―――突撃砲の120mm砲はロケット弾を発射する機構だ。其の為、対象に命中すれば残ったロケット燃料が引火爆発しその威力を底上げする。

 煙が風に流される……命中箇所の甲殻はひび割れ肉面を晒ししていた。

『雄おおおおおおッ!!!』

 漆黒の不知火の跳躍ユニットがロケットモーターを点火、急加速する。
 そして、その猛スピードの中、36mm砲を連射する―――数十発に一発混入される啓光焼夷弾により可視化される射線はまるで吸い込まれるように先ほど甲殻を割られた頭部へと吸い込まれてゆく。
 致命へと至る損傷を受けて要塞級の巨体が倒れ始めた――――


『第二・第三小隊フラットシザースを仕掛けろ!第一小隊は(オレ)に続け!!』
『『『了解ッ!!!』』』

 絶命した要塞級が倒れるよりも早く、要塞級の群れを挟撃する形で左右から純白の何れも左肩に組合角に桔梗の紋章を持つ不知火たちが襲撃する。

 そして、その強化された出力に見合った高機動性を発揮し、要塞級を刈り取ってゆく。
 其処へ漆黒の不知火を戦闘とした小隊が足元の要撃級や突撃級に小型種を次々と葬ってゆく。


『あの機動……不知火壱型丙?』

 嵩宰恭子は不意の援軍に半ば呆然とつぶやいた。
 自身の駆る武御雷に似た機動―――それは武御雷のテストヘッドであった不知火壱型丙以外には取れる機動ではない。

 だが、特出すべきはその中で最前線を疾駆する漆黒の不知火だ。
 凄まじい機動制御――いや姿勢制御だ。
 機体各部の空力作用パーツによる空力制御を機体の姿勢安定化に用いらず、逆に機体を不安定化させることによる重心の急激な変動を用い、変幻自在な動きを可能としている。
 日本帝国の戦術機動とは正反対の乗りこなし方―――相当な手練れだ。

 一体、どういう発想を得られればあのような出鱈目な機動戦技を行えるのか想像すらつかない。その技量と発想は驚嘆の一言に尽きた。





中隊各機半円陣形(セミサークルワン)!』

 漆黒の不知火壱型丙と共に戦場を疾駆し、その両腕に異なるタイプの突撃砲に加え背に背負った突撃砲の銃撃という名の蹂躙にてBETAを駆逐しつつ頃合いを見計らい指示を飛ばす。

 要塞級の駆逐を終えた部下が駆る純白の不知火たちが指示を受け、一糸乱れぬ動きで蒼の武御雷を半円の陣形で囲い、全突撃砲を用いて弾幕を構築した。


『―――こちら斯衛軍第6大隊所属、ドラゴンホース中隊。救援に参りました。ご撤退を。』
『貴隊の救援に感謝する―――しかし、助けられてノコノコと戻る訳には往かない。』

 他者の眼が戻ったが故か、摂家としての顔を取り戻した嵩宰恭子が答える―――実際、高性能アビオニクスを搭載した武御雷タイプRは指揮官機としてはこの上ないほど適役の機体だ。
 それに順当なら、この部隊の指揮権は彼女に委ねられるべきなのだろうがそうはいかない。


『HQが壊滅した以上、誰かが主柱となり軍の再編を行わねばなりません。
 強権であろうと、此処は貴方様が主軸となり軍の再編を―――時は我らが稼ぎます。』


 ――本来、彼女が背負うべき責務、それを自分たちが代わりに矢面に立つことで時間稼ぎを行う。
 そして、彼女を主軸として軍を再編し事態に対処しなくては大きな犠牲が出る―――摂家であり京都大火での英雄譚を持つ彼女なれば、恐慌状態の帝国軍を立て直す精神的主柱としても十分に機能するはずだ。


『嵩宰恭子様。帝都での伝説聞き及んでおります貴方様でなければ部隊の再編には大きな時を有するでしょう―――兵貴神速、お早く。』
『ぐ……将が部下に死ねと言え、そう言うのか。』

『それが雷神の鬼姫、という英雄の分という物なのでしょう―――急いでください、壱秒判断が遅れるたびに兵が幾人も志半ばで果てるとお考えください。』
『―――諸君らの武士道に敬意を表す。ハイドラ中隊各機、ポイントa-7に集結!撤退するぞ!』


 摂家としての責務を正しく理解している彼女によって蒼き武御雷が踵を返し、噴射跳躍によって去る。―――邪魔者は居なくなった。


『――諸兄、意志は変わらぬな。』
『はっ!!生と死いずれの考えも浮かびませぬ。』
『今は全ての俗念も去り、すがすがしい気分です。』

『よろしい……武士道ゆえの花道!!見せつけてやるぞ!――我らの士魂にて不知火を灯してやれい!!!』
『『『応ッ!!!!』』』


 部下たちの意思と決意を確認する。返ってきたのは何れも否定の意ではない。


『然らば、九段にて再び(まみ)えようぞ!!!』
『『『『『『『了解ッッ!!!!』』』』』』』


 フットペダルを押し込む、跳躍ユニットが咆哮し漆黒の機体が駈ける。純白の機体がそれに続いき一斉に異形どもの海に飛び込んだ。

 咲くもよし、散るもまたよし桜花。

 不知火、それは海上にて揺らぐ鬼火の事を云う―――銃火とジェット噴射の戦花が咲き乱れるのだった。


 
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