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エターナルトラベラー

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第九話

夏休みも終わり、学院に戻ってきた頃には総てが手遅れだった。

何故ならトリステイン王国はアルビオンとガリアの連合軍によりあっさり侵略されてしまったのだから。

事の起こりはそう、学院が始まってしばらくしての事。

原作では男の貴族達は徴兵され、錬兵で忙しいはずの頃。

アルビオンと一戦交えたはずなのにどこか他人事のように感じられるトリステイン。

奇跡のような戦勝で飾った初戦に国全体が浮き足立っているかのようだ。

その日も別になんという事はない、特に特筆するべき事柄のない普通の一日のはずだった。

しかし、闇夜に乗じて魔法学院に現れるアルビオンからの刺客。

彼らはまず力の弱い貴族の子女を人質に取り、学院長室に押入り、学院長を脅した。

学院長に事を伝えさせず学院の貴族達を一堂に集めさせ、その後武力によって杖を提出させた。

何人か好戦的な学生も居たが、相手の力量の方が数段上。

そんな学生は皆、刺客達の魔法で気絶させられていった。

その恐怖もあいまって唯々諾々としたがう学生達。

魔法使い、杖が無ければただの人。

杖を取られてはなすすべが無い。

普通、杖との契約は何日も掛けてするもの故、代わりの杖を持っている魔法使いはまれだ。

まあ、俺とソラは提出を求められても、いつも持っているフェイクを提出しただけだったが。

首から提げている待機状態のソルが俺の杖だ。

誰も宝石が杖だとは思うまい。

食堂に集められた俺達。

とりあえず俺はソラの側に寄り、状況の確認に努めた。

杖さえ奪ってしまえば此方の抵抗を封じられると思っているのか、拘束らしい拘束はされていない。

まあ普通に考えて、抵抗しようにも相手の杖が突きつけられた瞬間に抵抗しようとする意思など恐怖で封じられてしまうのだろうが。

キュルケ、タバサの姿は見えない。

恐らく感か何かが働き、食堂に来なかったのだろう。

どこかに潜伏している可能性が高いか?

ギーシュ、モンモランシーはガクガク震えている。

サイトは今にも刺客につかみかかろうとしているルイズを必死で止めている。

しかし、声までは抑えられなかったようで、場の空気を読まないルイズが高慢な貴族そのままに言う。

「ちょっと、あなた達。即刻ここから出て行きなさい」

「おい、ルイズ!落ち着けって」

必死になだめるサイト。

「何よ!」

その言葉を耳にした傭兵上がりの刺客達は笑いながら返答する。

「あははははは、聞いたかお前達」

隊長らしき男が仲間達に言う。

「あはははは。勇ましい嬢ちゃんだ。だがどうにも礼儀って物を知ってないようだ」

刺客の男達がそう答える。

「だな。ここは俺達が礼儀って奴を教えてやらねば碌な大人になれまい?」

「そうだそうだ」

隊長の言葉に同意する刺客の男達。

「そういう訳だ、お嬢ちゃん。お嬢ちゃんは今から俺達の偉い説教を受けてもらう。こちらへ来い」

下卑た笑いをこらえながら隊長の男が杖を構えて言い放つ。

「いやよ!」

「ルイズ」

「何で私があんな品の無い傭兵どもに説教なんて受けなければ成らないのよ!」

うわぁ…

なんだろう、もはや記憶もおぼろげだが、ルイズは此処まで高慢だっただろうか?

そんな事を考えていると、傭兵達がルイズを取り囲み、ルイズを連れて行こうとする。

「や、止めるんじゃ」

と、ここで一応保護責任がある学院長が傭兵達に懇願する。

「ああ?じじいは黙ってろよ」

そう言って傭兵の一人に殴り飛ばされる学院長。

「ぐふっ」

「ちょっと!老人になんて事を!」

ルイズが喚く。

「ちょっと手が滑っただけだ。それよりも、オラ!来な!」

再びルイズに掴みかかる。

「きゃあ!」

「やめろ!」

サイトがルイズを助けようと間に入る。

「何だ?ナイト気取りか?」

「くっ」

間に入ったは良いが、武器の持ち合わせが無くルーンを発動させられないサイト。

ここは食堂だ、デルフリンガーは部屋に置いて来たのだろう。

見渡せばナイフの一本くらいはあるだろうが、ナイフは武器として使用できるかもしれないが、武器として作られたものではない。

握ったとしてもガンダールヴのルーンは輝かないだろう。

「ガキが、そこを退け」

「断る!」

「後悔する事になるぞ?」

「やってみろよ!」

その体1つでルイズを守ろうとするサイト。

しかし。

「ファイヤーボール」

男の放った炎弾がサイトに直撃し吹き飛んだ。

「サイト!」

慌てて駆け寄るルイズ。

サイトは火達磨になった体を床に転げまわって何とか鎮火する。

しかしその体はあちこちが焼けただれ、一刻も早く治療しなければ命に関わる。

しかし。

「歯向かわなければ死なずに済んだかもしれないものを」

「サイト!サイト!ねえ、誰か、水の魔法を!」

ルイズの懇願、しかしその言葉に答えるものは誰も居ない。

何故なら皆杖を取られ、既に燃やされているのだから。

「嫌!ダメ!死なないで、サイト!ねえ、誰かお願い、助けて」

瀕死の重傷のサイト。

どうしてこうなった?

こんな事は原作には無いはずだ。

しかし現実はサイトは重症で一刻を争う事態。

最悪だ…

どうしたらいい?

俺はマルクスを盗み見た。

するとマルクスのその表情は蒼白で、困惑している。

おい!いつもの余裕そうな表情はどこ行った!

そんな事を思っていると、突然食堂の窓と言う窓が破壊され、ガラスが宙に舞う。

「きゃーーー」
「うわっ」
「何だ?」

あっけに取られている一同。

俺も一瞬あっけに取られたがその混乱に乗じて食堂の入り口から風の魔法が叩きつけられた。

更に混乱する食堂の中で、混乱に乗じて潜入してきたキュルケが瀕死のサイトに近寄りレビテーションを掛け、サイトを運び出そうとしている。

しかし、流石はプロの傭兵、直ぐに混乱から立ち直り、入り口の方へと向う者と、サイト達の方へ向かうものが3人ずつ。

先ほどの風の魔法は恐らくタバサだろう。

しかし、普通ならこのタイミングでは仕掛けなかっただろう。

もっと情報を集め、王宮なり何なりの手を借りるはずだ、しかしサイトの瀕死にキュルケが懇願したか?

何はともあれピンチである。

「ソラ!」

俺は隣りにいたソラに声を掛けると胸元からソルを持ち出す。

「ソル!」
「ルナ」

ソラも俺の言いたい事がわかったらしく瞬時にルナを握り締めていた。

『『スタンバイレディ・セットアップ』』

すぐさまその身を斧を模した杖へと形を変えるソルとルナ。

俺は左手にソルを持ち直すとガンダールヴ(偽)の効果で強化された身体能力で混乱した食堂を駆り、サイト達に近づく3人の男達を背後から一撃で意識を駆り落とそうとしたが、二人までは成功したが残りの一人は防がれてしまった。

「ちいっ」

悪態をついてその場から離れると俺の横を魔法が飛んで行った魔法が最後の一人を吹き飛ばした。

ソラフィアの援護だ。

それを確認して俺はまた全速力でサイト達に駆け寄る。

「え?あの、貴方は?」

混乱したキュルケが俺に問いかけてきた。

しかし、それに答えている暇は無い。

振り返るとこちらに向けて杖を向け、魔法を放ってくる傭兵達。

『ディフェンサー』

しかし、それは間に入ったソラフィアの防御魔法によって防がれる。

今のうちだ!

「サイトは俺が運ぶ、ソラ!悪いがルイズを頼む」

「うん」

了承してくれるソラ。

本当に心強いパートナーだ。

俺はサイトを強化された握力で小脇に抱えると、ルイズ達に向って言い放つ。

「逃げるぞ!悪いがキュルケは自分で飛んでくれ」

「え?ええ」

すぐさまレビテーションを掛け壊された窓へと向っていくキュルケ。

俺もサイトを抱えつつフライの魔法を使用。

「ソラ!」

ソラに声をかけると、急ぎルイズを抱えフライの魔法をかける。

しかし、そこを狙ったかのように魔法が飛んでくる。

『ディフェンサー』

今度は俺が飛びながらソラの前に立ち、防御を展開する。

「あなた達は!?」

「うるさい!黙ってろ」

ルイズの問いかけを封殺する。

まずい、俺の精神力の限界が魔法使用無しで3分切った。

「ちょっと待ってくれ!ぼく達も連れて行ってくれ!」
「待ってよギーシュ!」

そう言って俺の脚に捕まるギーシュとモンモランシー。

くそ!邪魔だって!

しかも重い!

しかし振り落とす時間さえ勿体無い。

俺達は急ぎ壊された窓から食堂を出て、闇夜に乗じて一度火の塔の屋上へ。

「ねえ?これからどうするのよ?」

「飛んで逃げる」

キュルケの問いかけにそう答える俺。

「まって、魔法じゃそんなに長距離は飛べないわ。タバサ…さっき風の魔法で陽動してくれた子の使い魔の風竜と合流するはずだったのだけど…」

今は一分一秒が惜しい。

「驚かないでくれよ」

俺はそう言うとソルを待機状態に戻した。

「ソラ」

こくんっと頷くソラ。

そして俺達は一気にドラゴンへと変身する。

「へ?」
「え?」
「ぎゃああ」
「きゃ」

流石に驚きの表情を隠せないルイズ達。

ドラゴンと言ってもシルフィードに比べれば半分ほどしかない小ぶりな体だ。

人もせいぜい2人も乗せれば定員。

俺は身をかがめる。

「サイトを乗せて」

「え?」

「早く!」

キュルケはレビテーションを使いサイトを俺の背中へと乗せた。

「悪いソラ。3人頼める?」

「…頑張ってみる」

人3人はきつそうだが俺の方に載せてやれる余裕は無い。

サイトが絶対安静で動かせないからだ。

俺の背中にサイトとルイズ。

ソラの背中に残りの3人を乗せた俺達はすぐさま夜の空へと飛び立つ。

「待ちやがれ!」

俺達を発見した傭兵達から魔法の攻撃が仕掛けられるが既に効果範囲外まで上昇、魔法の脅威はついえたが、安心は未だ出来ない。

サイトが一刻の猶予も無いのだ。

空から辺りを見渡すと、遠くの方でそこらかしこに見える炎。

「何よ?何が起きているのよ!」

ルイズの戸惑いの声に答えられる答えは俺も持っていない。

「どこかサイトを治療できるところは!?」

俺の問いかけに答えたのはキュルケだった。

「私の屋敷へ。私の屋敷なら水の秘薬だってある」

「わかった。それでそれはどっちの方角?」

「えっと、魔法学院があっちだからえっと。あっちね」

そう言って杖で方向を指し示すキュルケ。

俺とソラは方向転換し、キュルケが指し示した方向へと飛んでいく。

しばらく飛んでいくと前方に一匹の風竜が旋回しているのが見える。

「タバサ!」

それを確認したキュルケが風竜に向って手を振り合図を送った。

その後、俺達と併走するかのように飛ぶタバサのシルフィード。

背中のタバサは俺達を一瞬見つめるとキュルケに確認する。

「そのドラゴンは?」

「えっと。私も良くはわからないのだけど…」

「悪いがそっちの風竜に何人か移してやってくれないか?ソラが流石に辛そうだ」

俺はその会話に割り込んだ。

「韻竜?」

「え?お仲間なのね?でもそんな色のドラゴンなんていままで見たこともないのね」

俺が喋った事でシルフィードまで口を開いてしまった。

それを見たタバサが持っていたワンドでシルフィードの頭を殴打する。

「痛いのね!」

どがっ

「わかったのね!喋らないのね!るーるーるー」

「タバサ!?その子って」

「そんなことは後で、レビテーションで2人ほど移動させて」

「わかったわ」

キュルケはしぶしぶ杖をふり、ギーシュとモンモランシーの2人をシルフィードの方へと移動させた。

その後、速度を上げ俺達はキュルケの実家へとひたすらに空を駆ける。


どれくらい経っただろうか。

ようやくキュルケの実家へと到着した。

そしてすぐさま運ばれていくサイトを見送る。

ルイズ、キュルケ、ギーシュ、モンモランシーはそれについて屋敷の中へと消えていく。

俺達はようやく肩の荷が下りたために人型に戻り、その場に尻餅をつく。

「疲れた…」

「うん」

へばっている俺達を見つめる4つの目。

タバサとシルフィードである。

じいっと見つめる瞳に耐え切れなくなって俺からタバサに話し掛けた。

「何?」

「…あなた達は韻竜?」

「違う」

「じゃあ何で人間の姿になっているの?」

「人間の姿になっているのではなく、ドラゴンに変身していただけ」

「嘘、そんな魔法聞いたことない」

「魔法なのか?と聞かれたら答えは解らん。魔法薬の副作用でこうなった」

「副作用?」

「そ。ある天才が作り出した変身薬。その副作用」

「ドラゴンに変身できる薬を作り出せる人がいるの?」

ん?なんだ?

タバサが必死になってこちらに探りを入れてくる。

「正確にはドラゴンにも、だけどね」

「?」

疑問符を浮かべるタバサに俺は変身してみせる。

「グリフォン」

「こんな体にしたドクターの事を恨んだことも一瞬くらいは有ったけど、これはこれで便利だからね」

主に偵察とか移動とか。

俺はグリフォンから人の姿に戻る。

タバサを見るとなにやら考え込んでいる様子だ。

そして口を開くタバサ。

「その薬を作った人を紹介して」

「なんで?」

「………」

口を噤むタバサ。

理由はまあ、察しは着いている。

母親の心を狂わせている水魔法の解除薬だろう。

「悪いが紹介する事は出来ない」

物語が進めば解除されるのだ、俺が下手に関わることもない。

この時の俺はそう思っていた。

「お礼はする」

「すまないが断る。俺達はこれ以上君達に関わる気が無いんだ。悪いがこれで失礼する」

そう言ってマントをひるがえし離れようとしたところで俺のマントを必死になってつかむタバサ。

「放して」

「お願い」

必死に懇願するタバサ。

その時城門の向こうから声がかけられた。

「レディの頼み事は聞くものだよミスタ」

振り向くとそこには金の髪、長身で整った顔立ちの男が一人。

「貴方は?」

「すまない、今ぼくは名乗る名前を失っていてね。今はウィルと名乗っている」

金髪で整った顔立ち、無くした名前、どこか気品漂うたたずまい、この時期にキュルケの実家に居る不審人物。

まさかウェールズなのか?

それは根拠のない勘だ。

俺は鎌をかけてみる事にした。

「アルビオンの皇太子がこんなところに居ようとは」

「君は何故それを…君が教えたのか?」

視線をタバサに移して問いかけるウィルことウェールズ。

フルフルと首を振るタバサ。

と言うか、正直すぎです、皇子様…

「ばれちゃしょうがない。そう、ぼくはウェールズ・テューターだ。君は?」

「アイオリア・ド・オランと申します。こちらはソラフィア・メルセデス」

俺の紹介にソラは頷くだけだ。

いや一応皇太子に対して失礼だが…まあ、いいか。

「とりあえず中へ、ここは冷える」

そうウェールズが促す。

「いえ。私達は失礼します」

「まあ待ちたまえ。もう夜も遅い、それに疲れているだろう。朝までこちらに留まった方が君達の為だと思うのだが」

ぐ……確かに今俺は一歩も動けないくらい疲れている、しかしここに居るのは余り得策では無い。

そんな事を考えていると。

「好意に甘えて、朝まで世話になります」

「ソラ!?」

「アオも限界のはず。今は体を休めないと」

「う…」

何故だろう?

俺は絶対的なところでソラに敵わない気がするのは…

タバサはここに俺達が留まるならば未だ説得のチャンスは有ると引き下がり、俺達は城門をくぐった。

俺は案内された客室のベッドに腰掛、一息つくと今までの疲労から意識を手放した。 
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