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サラリーマンの願い

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第三章

「妻が」
「かみさんもか」
「どうも。料理を手抜きしていまして」
「おやおや、それは困るな」
「子供達のお弁当作りには熱心なのですが」
「あんたのにはか」
「なおざりになってきていまして」
 それが、というのだ。
「私の御飯は粗末なものです」
「奥さんと上手くいってないのかい?」
「倦怠期でしょうか」
 力ない笑顔での言葉だった。
「それは」
「おいおい、浮気とかじゃなくてか」
「私は浮気はしませんし」
 それに、というのだ。
「妻もそういうことはしません」
「それでもかよ」
「長い間一緒にいますと」
「かみさんがあんたに飽きてきたのかよ」
「そうですね、それよりも興味が子供達にいって」
「しみったれてるねえ」
「はい、それに私のお給料も減りましたし」
 またこう言うサラリーマンでした。
「課長になったら余計に仕事が増えて残業ばかりですし」
「出世してもかよ」
「はい、出世してもお給料は然程増えていませんし」
「いいことないんだな」
「部下にも気を使わないといけないですし」
 何かと暗いことばかりだった。
「それに上司、部長からの圧力も」
「ああ、板挟みだな」
「リストラされないだけいいでしょうか」
「仕事なくなったら大変だしな」
 リドルも人間の世の中のことがわかってきているのでサラリーマンの言葉には納得出来た、それでうんうんと頷くのだった。
「そのことはな」
「おわかりになって頂けますね」
「まあ一応はな」 
 こうサラリーマンに答えるのだった。
「それ位のレベルだけれどな」
「それは何よりです。部下も最近若い子ばかりですが」
「世代が違うからか」
「言っていることがどうにもわかりません」
「おっさん幾つだと」
「四十三です」
 もう結構な年齢だ。
「もういい歳ですね。神経痛にもなりましたし」
「身体も壊してるのかよ」
「はい、リュウマチも」
 話は余計に暗くなった、病気の話も加わって。
「持病でして」
「それは辛いな」
「温泉に入りたいです」
「休日にでも行けばいいだろ」
「遠いですし時間もありません」
「休日位あるだろ」
「日曜出勤に接待と」
 寂しい笑顔での言葉だった。
「何かと」
「そういうのがあってか」
「はい、とても」
 こうした実情で、というのだ。
「温泉なぞ行くことも」
「いいことないな」
「それにです、子供達も」
「おいおい、まだあるのかよ」
「最近私に反抗的ですし」
「反抗期か」
 リドルはこのことも事情を察した。
「子供さん達も」
「そうなんです、何かと」
「あんた本当に大変だな」
「ええ、ただですね」
「ただ?」
「私はまだ仕事も家も家族も貯金もありますから」
 それで、というのだ。
「幸せですよ」
「そうかい!?」
 リドルはサラリーマンのその言葉に目を顰めさせて返した。 
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