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つがいの名前

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第三章


第三章

 次の日もその道のベンチに座るのだった。やはり散歩がてらでシロを連れてである。
「来るかのう」
 彼女を待ちながらの言葉である。
「果たして」
 暫く待っているとだった。来た。
「おお、来た来た」
「今日はどうだったの?」
「携帯のメアド交換したの」
 また三人で横に並んで道を歩いていた。そして真ん中にいるのも昨日と同じだった。
「今日はね」
「そう。よかったじゃない」
「うん、これで何時でも連絡できるわ」
 こんな話をしていた。力也はそれを聞いて笑顔になっていた。
「おお、今日も来たのう」
 彼女を見ながら目を細めさせるのだった。
「いいのう、また」
「それじゃあ今度はね」
「今度は?」
「さらに一歩進みなさい」
 そうしろと彼女に言うのだった。
「もっとね」
「もっとなのね」
「常に前進あるのみよ」
「そうそう」
 左右にいる友人達が彼女に話していた。
「こういう話はね」
「わかったわね」
「そうなの。前進なの」
 話を聞いてまずは目をしばたかせる彼だった。
「こういうことは」
「そうよ。退いたら駄目よ」
「一歩後退しても二歩前進するものよ」
 そうするべきだというのだ。彼女達の言葉では。
「奈々、あんた顔いいんだし」
「性格も真面目で親切だし」
「ほう、奈々というのか」
 力也はその話を聞いて彼女の名前を頭の中に入れた。その名前と顔を見ると確かに合っている。そのことを頭の中で確かめるのだった。
「あの娘は」
「胸だって大きいし」
「絶対にいけるよ」
「大丈夫大丈夫」
 そんな話をしながら彼の前を過ぎ去っていく。歩き方も若々しく溌剌とした感じだ。それもまた力也の目を微笑まさせるのだった。
 この日も彼女を見て満足した。そして名前も覚えたことにさらに満足していた。
「奈々さんというのか」
 その名前を家に帰って呟くのだった。
「いい名前じゃのう」
「奈々って?」
 また娘が彼に問うてきた。
「誰のこと?それって」
「いや、何でもない」
 こう言って今は答えない彼だった。
「何でもな」
「そうなの。ああ、お茶は」
「またさっき飲んでたのか」
「紅茶をね。飲んでたのよ」
「紅茶をか」
「お父さん紅茶も好きよね」
 このことを父に対して問うのだった。
「紅茶も」
「大好きじゃ」
 そのままありのまま答えたのだった。
「とてもな」
「そう。じゃあ」
「悪いな、持って来てくれて」
 その紅茶を受け取る。白いティーカップの中のそれをゆっくりと飲みながらそのうえで話す彼だった。
 
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