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普通のこと

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第一章

                     普通のこと
 フランシスコ=ザビエルはカトリックの布教に燃えていた、その為長い苦難と危険に満ちた航海をあえて行い。
 そうして祖国スペインのナバロからも教皇のいるローマからも遥か遠くに離れた日本まで来た。そうしてその国の人々に会い。
 共に布教に来たコスメ=デ=トーレスやファン=フェルナンデス達にだ、目を輝かせてこう言った。
「素晴らしい国ですね」
「はい、民は気品があり清潔で」
「しかも良心的です」
「戦乱が続いているとのことですが」
「それでも戦いで民が巻き込まれることはありません」
 欧州の戦争とは違いだ、トーレスとフェルナンデスもザビエルに言うのだった。
「領主と騎士、武士ですね」
「彼等は礼儀もあり分別を備え気品さえあります」
「文化も素晴らしいですね」
「まさかこの様な国があるとは」
「思いも寄りませんでしたね」
「全くです」 
 こう話してだ、二人もザビエルに同意する。ザビエルは彼等の話を聞きながら町を歩き木の家と独特の服を来ている人々を暖かい目で見つつ二人に答えた。
「この国に来られたことは幸いです」
「全く以てですね」
「これこそが神のご加護ですね」
「その通りです」
 そう確信しながらだ、彼等は日本を歩きその布教に務めていた。だが。
 次第にだ、彼等全員がだった。驚愕しその顔を蒼白にさせて言うのだった。
「あの、この国は」
「確かに素晴らしい国なのですが」
「それでもです」
「神に反することがあります」
「おぞましい悪徳です」
「あの様な悪徳がはびこっているとは」
「全くです」
 その通りだとだ、ザビエルも二人に蒼白になっている顔で答えた。それは怒りのあまりそうなっているのだ。
 その怒りの顔でだ、彼はトーレスとフェルナンデスに述べた。
「あの悪徳だけは滅ぼさねば」
「はい、全く以て」
「まさかあの様な悪徳が公にさえなっているとは」
「何という恐ろしいことか」
「おぞましいことこの上ありません」
「私もこの目で見たことがありません」
 そうだというのだった、ザビエルもまた。
「あの悪徳がここまで蔓延している国は」
「まるで黒死病です」
 トーレスはこの病を出した、欧州を何度も襲っているおぞましい病だ。
「それがこの国にあるとは」
「黒死病はこの国にはない様ですが」
 フェルナンデスも言う、おぞましいものを見ている顔で。
「しかしあの悪徳があるとなると」
「黒死病があるのと変わりありません」
 ザビエルはフェルナンデスに言い切った。
「まさに」
「その通りですね、では」
「我々は」
「はい、何としてもです」
 絶対にとだ、二人はザビエルに誓った。そしてだった。
 三人は布教を続けつつ日本の様々な素晴らしいものに感動しながらもその悪徳には目を顰めさせおぞましいものを感じていた、そうして。
 周防にいる時にだ、そこの大名彼等が言う領主である大内義隆に会った。義隆は非常に温和な顔をして文化を好み優雅ですらあった。
 義隆は寛容にキリスト教の布教も許した、ザビエルはこのことに深く感謝した。
 それでだ、ザビエル達は義隆に篤く感謝の意も述べた。彼に直接会いそのうえでだ。
 その場でだ、ザビエルは言うのだった。
「この国に来られてよかったです」
「そう思ってくれるか」
「はい」
 本心からだ、ザビエルは義隆に答えた。 
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