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恋をしてはならない

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第一章


第一章

                     恋をしてはならない
 三世紀のローマの話である。
 この時代キリスト教は激しい弾圧を受けていた。若し教徒とわかればそれだけで惨たらしい処刑を受けた。コロシアムでは連日夥しい数の教徒達が殺されていた。
 多くは獣の餌にされ死んでいく。そうした時代だった。
 だがその中でだ。教徒達は信仰を続けていた。ヴァレンティヌスもその一人だった。
 彼は真面目なキリスト教徒であるだけでなく愛も持っていた。人を愛する気持ちに満ちそれを全ての者に向けていた。そうした人物だった。
 信仰を隠していたがそれは確かであった。だがこの時代のローマはだ。
 彼が生きるにはあまりにも辛い時代だった。信仰が禁じられていただけではない。
 ローマはゲルマン人やペルシアといった外敵に悩まされその中も不穏な空気があった。内戦が度々起こってもいた。皇帝が武力で代わることすらあった。
 その為軍の士気が重く見られていた。その中で皇帝であるクラウディウス二世が言った。
「兵士達の結婚を禁じる」
「それは何故でしょうか」
「結婚すれば愛する相手に目が向き士気が落ちる」
 こう臣下に言うのだった。彼はこう考えていたのだ。
「だからだ。それは禁じる」
「兵士は独身でいよというのですね」
「その通りだ。いいな」
 こうしてであった。彼は兵士達の結婚を禁じたのである。ヴァレンティヌスはそのことを聞いて深く嘆息した。そうして言うのであった。
「愛は誰にも止められぬもの」
 彼の考えでもある。
「兵士だからといってそれを禁じるとは。何ということだ」
 しかし皇帝の命令は絶対である。兵士達は結婚を禁じられた。だがその中でもだ。ヴァレンティヌスの思った通り誰かを愛した兵士がいた。
 彼はその恋人とどうしても結婚したかった。だがそれは皇帝により禁じられている。それで彼は激しいジレンマに苛まれるようになったのだ。
 そしてである。偶然であるがこの兵士はキリスト教徒でもあった。ヴァレンティヌスも知っている兵士であった。当然彼もそれを聞いてである。
 その兵士に自分のところに来るように告げた。恋人と共にだ。
「私のところに来るといい」
「貴方のところにですか」
「その愛する相手と共に」
 こう告げるのである。
「共に来るのだ」
「そうなのですか」
「だからだ。来るのだ」
 また兵士に告げた。
「いいな、そうすれば救われるのだ」
「神によって」
「神は愛を否定したりはしない」
 皇帝とは違う。そう言うのである。
「だからこそだ」
「はい、それでは」
 こうしてであった。兵士はその恋人を連れてヴァレンティヌスの前に現われた。ヴァレンティヌスはその二人に対してこう告げたのであった。
「これから婚礼の儀式をはじめよう」
「えっ、しかし」
「それは」
「神が許される」
 驚く二人にまた告げた。
「皇帝ではなく神がだ」
「神がですか」
「私達を許して下さるのですね」
「神が愛を否定されることはない」
 ヴァレンティヌスの声は厳かなものだった。
「だからこそだ。婚礼も許されるのだ」
「では。私達は」
「いいのですね」
「そうだ。神が許される」
 またこの言葉を出してみせた。
 
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