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【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
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例えばこんな機業残党の皆さんも意外と元気です

10月11日 オータムの囚人日記

スコールには何度言っても信じてもらえないが、このゴスロリっぽい衣装にはちゃんとした意味がある。何の意味があるかって、これは治療用スーツらしいのだ。あのオウカとかいう疫病神の所為で全身ずたぼろになった私が、一応健常者程度の生活を送れているのもこれのおかげ・・・らしい。囚人だから確認は出来ないが、衣装の内部にはISスーツに似た構造をしているし・・・・・・

まぁ要するに医療器具のモルモットにされているのだ。何度か身体の調子がおかしくなったりもしたが、一応生きている。本当なら死んでいる所を助けられたと言えなくもないが、このスーツを着せられる前の尋問を思い出すと素直に喜べない。
これからどうなってしまうのだろうか?脅迫でS.A.の尖兵としてこき使われるのだろうか?それとも国際裁判にかけられてどこぞの収容施設行きだろうか。自慢ではないが殺した人間の数は覚えてはいない。最低でも終身刑といったところか・・・・・・くそっ。




10月12日 マドカ社会復帰日記

頭がおかしくなりそうだ・・・じゃなくて、なりそうです。社会復帰のための訓練とかいう下らない茶番に延々と・・・じゃなくて、社会復帰訓練は慣れない事ばかりで悪戦苦闘しています。姉さんめ、これでは身柄拘束より辛・・・じゃなくて、これも家族として暮らすために必要なことなので頑張ります。

・・・・・・ああ、もう!!違う違う!こんなことを書きたかったのではなく、こう・・・・・・学園OBだか姉さんの同級生だか知らないが、なんでこいつらは一々私の頭を撫でてくるんだ!?ISがないし体術で負けているから抵抗も出来ないし、一方的になぶられている気分だ!私は戦士だぞ!と言っても完全に子ども扱いだ!!

おのれ、憎きは姉さんの若いころそっくりなこの顔よ!あいつら絶対姉さんと私を重ねているだろう?そして姉さんが悪戦苦闘している所を想像して笑っているんだろう!大体何なんだこの「IS学園再教育課」って!?そんなもの聞いたことがないぞ!!
IS学園内で犯罪を犯した生徒が送り込まれる課だというが・・・・・・ということはここも学園の一部なのか。くっ、ここで再養育を受けていたら頭がおかしくなりそうだ。一刻も早く点数を稼いで外に出なければ・・・!!




10月14日 名前を与えられなかった少年の独白

ただ、周囲からは天才(ジーニアス)と呼ばれていた。

あれを作れと言われれば要求された性能と機能を備えたものを作り、それで褒められるのが嬉しかった。作れば作るほど、技術力が上がれば上がるほどに周囲は天才だと呼んで褒めてくれた。そのことを信じて、本当に自分は天才だと思い込んでいた。

一番褒めてもらえたのが、コアエミュレーターだ。
どうしてもコアに使われている材質が何なのか分からなかったため、研究に研究を重ねてコアと同じ活動を再現できる物質を数年かけて作り出した。その過程で本物のコアを解体して怒られたりもしたが、完成品のエミュレータが出来てしまえば皆が自分を認めた。自分自身の発明より篠ノ之博士の模倣の方が喜ばれたのはちょっと悔しかったけど、それでも自分が必要とされていると感じる瞬間が心地よかった。
だから――そのコアに宿る意志まで自分がエミュレートできているとは思いもしなかったのだ。いや、ISに意志があるという前提を理解したうえで考えれば可能性はあった。ISの特徴である自己進化機能に必要な記憶領域に用意した管理プログラムがその人格とやらを形成することは不可能ではなかった。

ただ、知らなかったのだ。ISに人と同じ意思があるなんて。

知らなかったんだ。自分の作ったもので人殺しをしているなんて。

だって誰も今まで教えてくれなかったじゃないか。

じゃあ知りようがないじゃないか。

一を聞いて十を理解できても、聞くはずの一がないのでは理解のしようがないじゃないか。


僕は自分の作ったコアエミュレータに罪を自覚させられ、そして連行された。基地の外に出るのは記憶する初めての出来事だったけど、自分の家から無理やり引き剥がされるような気分だった。周りの大人たちは僕の事を白い目で見て糾弾した。自分が何をしたのか分かっているのか、とか、こんな子供が、とか、僕の意見や主張などお構いなしだった。

誰も聞いてくれなくて、誰も言うことも分からなくて泣きじゃくって――そんな時に、あの人が現れた。

きれいな女の人だった。周りの大人たちに何やら言って下がらせた女の人は、涙を拭って顔を上げた僕の手を取って立ち上がらせ、その頭を抱いた。身長が違い過ぎて顔は女の人のお腹にあたった。その手がとても暖かくて、やわらかかった。

「君は、昔の私に似ているのかもしれない。だから、私と一緒に機械以外の勉強しない?」
「――貴方の、名前は?」
「束。篠ノ之束だよ」

篠ノ之束――この人が。
あの研究室と基地だけで完結した世界の中で、唯一知っている人の名前だった。基地の皆はあんまり好きじゃなかったみたいだから言わなかったけど、僕より天才がいるんならこの人じゃないかと密かに思ってた。きっときれいで、そしてすごく頭のいい人なんだろうという憧れも抱いたことがある、そんな人だ。

「君のママは悪い事をして捕まっちゃったみたい。基地にいた人たちも悪い事をしてた。勿論自覚はなかっただろうけど、君もね」
「ぼ、僕は・・・僕は知らなかったんだもん!」

この人も僕を責めるのかと思ったけど、篠ノ之束は責めなかった。

「そうだね。そんなこと知らなかった、こうなるとは思わなかった・・・・・・誰しも一度はそんな経験をするものだよ。でもね、ジーニアスくん。大事なのはそこからだよ」
「そこ、から?」
「大人たちは悪い事をした責任を取らなきゃいけない。それは罪人の義務。じゃあ子供はどうすればいい?親がいないと何をしていいかも分からない子供は、罪を知らなければいけないの。何が悪かったのかを学ばないと、また同じことを繰り返すでしょ?」
「・・・・・・なんでそんな事、僕がしなくちゃいけないのさ。悪いのは大人たちだ。僕は悪くないんだ」
「でもいつか君は大人になる。大人になった時に君は罪を誰のせいにするの?知らなかったからで何でも済ませてくれるほど、皆優しい人じゃない。だから学ばなければいけない。でないと、君はまた誰かに首を締められることになる」

だから、と篠ノ之束は僕に手を差し出した。

「いこう、ジーニアス。君がまた間違わないように。そして私が間違った時は――今度はジーニアスが私に罪を教えてね?」

僕は少しだけ躊躇って――その手を握り返した。
僕の罪を知るために。僕の未来を創るために。
  
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