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ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
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第1部 ゼロの使い魔
  第4章 伝説

 
前書き
どーも、作品です。

本日は、中間テストの答案返却でした。

点数はいつも通りだったので、よかったです。

さて、第1章で『イーヴァルディー』というオリジナルルーンを紹介したのを覚えているでしょうか?

今回は、この『イーヴァルディー』の能力解説と伝説を記したいと思います。

ガンダールブに近いですが、ガンダールブの強化版みたいな感じです。

では、詳しい内容は第4章の本編で… 

 
ミスタ・コルベールはトリステイン魔法学院に奉職して20年、中堅の教師である。

彼の2つ名は『炎蛇のコルベール』。

『火』系統の魔法を得意とするメイジである。

彼は、先日の『春の使い魔召喚』の際に、ルイズの呼び出したウルキオラのことが気にかかっていた。

正確にいうと、ウルキオラの魔力量と左手に現れたルーンのことが気になって仕方がないのであった。

珍しいルーンであった。

それで、先日の夜から図書館にこもりっきりで、書物を調べているのであった。

トリステイン魔法学院の図書館は、食堂のある本塔の中にある。

本棚は驚くほど大きい。

おおよそ30メイルほどの高さの本棚が、壁際に並んでいる様は壮観だ。

それもそのはず、ここには始祖ブリミルがハルケギニアに新天地を築いて以来の歴史が、詰め込まれているのだった。

彼がいるのは、図書館の中の一区画、教師のみが閲覧を許される『フェニアのライブラリー』の中であった。

生徒たちも自由に閲覧できる一般の本棚には、彼の満足いく回答は見つからなかったのである。

『レビテーション』、空中浮遊の呪文を使い、手の届かない書棚までうかび、彼は一心不乱に本を探っていた。

そして、その努力は報われた。

彼は一冊の本の記述に目を留めた。

それは『始祖ブリミルの使い魔たち』が記述された古書であった。

その中に記された一節に彼は目を奪われた。

じっくりとその部分を読みふけるうちに、彼の目が見開いた。

古書の一節と、ウルキオラの左手に現れたルーンのスケッチを見比べる。

彼は、あっ、と声にならない呻きをあげた。

一瞬、『レビテーション』のための集中が途切れ、床に落ちそうになる。

彼は本を抱えると、慌てて床に下りて走り出す。

彼が向かった先は、ウルキオラの事を初めて知った場所…学院長室であった。




学院長室は、本塔の最上階にある。

トリステイン魔法学院の学院長を務めるオスマン氏は、白い口髭と髪をゆらし、重厚なつくりのセコイアのテーブルに(ひじ)をついて、退屈を持て余していた。

ぼんやりと鼻毛を抜いていたが、おもむろに「うむ」と呟いて引き出しを引いた。

中から水煙管(みずきせる)を取り出した。

すると、部屋の隅に置かれた机に座って書き物をしている秘書のミス・ロングビルが杖を振った。

水煙管が宙を飛び、ミス・ロングビルの手元までやってきた。

つまらなそうにオスマン氏が呟く。

「年寄りの楽しみを取り上げて、楽しいかね?ミス……」

「オールド・オスマン。あなたの健康を管理するのも、わたくしの仕事なのですわ」

オスマン氏は椅子から立ち上がると、理知的な顔立ちが凛々しい、ミス・ロングビルに近ずいた。

椅子に座ったロングビルの後ろに立つと、重々しく目をつむった。

「こうストレスが溜まるとな、発散するということが何よりも重要な問題になってくるのじゃよ」

「オールド・オスマン」

ミス・ロングビルは羊皮紙の上を走らせる羽ペンから目を離さずに言った。

「なんじゃ?ミス……」

「ウルキオラさんが召喚されたことによるストレスがあるからといって、わたくしのお尻を撫でるのはやめてください」

オスマン氏は口を半開きにすると、よちよちと歩き始めた。

「都合が悪くなると、ボケたふりをするのもやめてください」

どこまでも冷静な声で、ミス・ロングビルが言った。

オスマン氏はため息をついた。

深く、苦悩が刻まれたため息であった。

「ウルキオラ君は一体何を考えているんじゃろうか?考ええた事はあるかね?ミス……」

「少なくとも、わたくしのスカートの中に答えはありませんので、机の下にネズミを忍ばせるのはやめてください」

オスマン氏は、顔を伏せた。

悲しそうな顔で、つぶやいた。

「モートソグニル」

ミス・ロングビルの机の下から、小さなハツカネズミが現れた。

オスマン氏の足を上り、肩にちょこんと乗っかって、首をかしげる。

ポケットからナッツを取り出し、ネズミの顔の先で振った。

ちゅうちゅうと、ネズミが喜んでいる。

「気を許せる友達はお前だけじゃ。モートソグニル」

ネズミはナッツを(かじ)り始めた。

齧り終えると、再びちゅうちゅうと鳴いた。

「そうかそうか。もっと欲しいか。よろしい。くれてやろう。だが、その前に報告じゃ。モートソグニル」

ちゅうちゅう。

「そうか、白か。純白か。うむ。しかし、ミス・ロングビルは黒に限る。そう思わんかね。可愛いモートソグニルや」

ミス・ロングビルの眉が動いた。

「オールド・オスマン」

「なんじゃね?」

「今度やったら、王室に報告します」

「カーッ!王室が怖くて魔法学院学院長が務まるかーッ!」

オスマン氏は目を剥いて怒鳴った。

よぼよぼの年寄りとは思えない迫力だった。

「下着を覗かれたぐらいでカッカしなさんな!そんな風だから、婚期を逃すのじゃ。はぁ〜〜〜〜、若返るのう〜〜、ミス……」

オールド・オスマンはミス・ロングビルのお尻を堂々と撫で回し始めた。

ミス・ロングビルは立ち上がった。

しかるのちに、無言で上司を蹴り回した。

「ごめん。やめて。痛い。もうしない。ほんとに」

オールド・オスマンは、頭を抱えてうずくまる。

ミス・ロングビルは、荒い息で、オスマン氏を蹴り続けた。

「あだっ!年寄りを。きみ。そんな風に。こら。あいだっ!」

そんな平和な時間は、突然の闖入者(ちんにゅうしゃ)によって破られた。

ドアがガタン!と勢いよくあけられ、中にコルベールが飛び込んできた。

「オールド・オスマン!」

「なんじゃね?」

ミス・ロングビルは何事もなかったように机に座っていた。

オスマンは腕を後ろに組んで、重々しく闖入者を迎え入れた。

早業であった。

「たた、大変です!」

「大変な事などあるものか。ウルキオラ君が召喚された事に比べれば全てが小言じゃ」

「ここ、これを見てください」

コルベールは、オスマン氏に先ほど読んでいた書物を手渡した。

「これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。まーたこのような古臭い文献など漁りおって。そのような暇があるのなら、ウルキオラ君の事について考えるじゃ。ミスタ……なんだっけ?」

オスマン氏は首をかしげた。

「コルベールです!お忘れですか!」

「そうそう。そんな名前だったな。君はどうも早口でいかんよ。で、コルベール君。この書物がどうかしたのかね?」

「これを見てください!」

コルベールはウルキオラの手に現れたルーンのスケッチを手渡した。

それを見た瞬間、オスマンの表情は変わった。

目が光って、厳しい色になった。

「ミス・ロングビル。席を外しなさい」

ミス・ロングビルは立ち上がった。

そして部屋を出て行く。

彼女の退室を見届け、オスマン氏は口を開いた。

「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」




ルイズの爆発により、ガラスが散乱した教室の片づけが終わったのは、昼休みの前だった。

罰として、魔法を使って修理することが禁じられたため、時間がかかってしまったのである。

といってもルイズはほとんど魔法が使えないので、あまり意味はなかった。

ミセス・シュヴルーズは、爆発に驚いた20分後に落ち着きを取り戻し、授業に復帰したが、その日一日『錬金』の講義は行わなかった。

トラウマになってしまったらしい。

片付けを終えたルイズとウルキオラは、食堂へ向かった。

ルイズが昼食を取るためである。

ウルキオラはルイズに尋ねる。

「全ての魔法が爆発するのか?」

ルイズは無言だった。

ウルキオラは続けて言う。

「あの力を制御しようとは思わんのか?」

ルイズは驚いた顔で見てきた。

「どういう事よ…」

「あれほどの爆発力を制御し、自らの力にする気はないのかと言っている」

ルイズは立ち止まり、怒った顔でウルキオラに詰め寄る。

「バカにしてるの!」

ウルキオラはそんなルイズに対して態度を変えることはなかった。

「バカにしていると思うか?」

ウルキオラがそう言うとルイズは黙り込んでしまった。

「力を制御出来るようにすることだな」

ルイズは何も答えずにそのまま食堂に入った。

「俺は外で待つ…」

ウルキオラは食堂の外に向かって歩き出した。




ウルキオラは食堂を出た後、行き先もなく歩き始めた。

「さて、どうしたものか…」

まだ、ここの地理も把握していないので色々回り始めることにした。

すると、大きなトレイにケーキを乗せ、一つずつ貴族たちに配っている人間がいた。

その近くに金色の巻き髪に、フリルのついたシャツを着た、気障(きざ)なメイジがいた。

薔薇(ばら)をシャツのポケットにさしている。

周りの友人が、口々に彼を冷やかしている。

「なあ、ギーシュ!お前、今は誰と付き合っているんだよ!」

「誰が恋人なんだ?ギーシュ!」

気障なメイジはギーシュというらしい。

彼はすっと唇の前に指を立てた。

「付き合う?僕にそのような特定の女性はいないのだ。薔薇は多くの人を楽しませるために咲くのだからね」

自分を薔薇にたとえている。

救いようのない気障である。

見てるこっちが恥ずかしくなるほどのナルシストっぷりである。

(感に触る人間だな)

ウルキオラはそう思いながら彼を見つめた。

そのとき、ギーシュのポケットから何かが落ちた。

ガラスでできた小瓶である。

中に紫色の液体が揺れている。

ウルキオラは落とし物を拾ってやった。

ウルキオラはギーシュに言った。

「おい。落とし物だ」

しかし、ギーシュは振り向かない。

「聞こえないのか?落とし物だと言っている」

それをテーブルに置いた。

ギーシュは苦々しげに、ウルキオラを見つめると、その小瓶を押しやった。

「それは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」

その小瓶に気づいたギーシュの友人たちが、大声で叫び始めた。

「おお、その香水は、もしや、モンモランシーの香水じゃないのか?」

「そうだ!その鮮やかな紫色は、モンモランシーが自分のためだけに調合している香水だぞ!」

「そいつがギーシュ、お前のポケットから落ちてきたってことは、つまりお前は今、モンモランシーと付き合っている。そうだな?」

「違う。いいかい?彼女の名誉のために言っておくが……」

ギーシュが何か言いかけたとき、後ろのテーブルに座っていた茶色のマント少女が立ち上がり、ギーシュの席に向かって、コツコツと歩いてきた。

栗色の髪をした、可愛い少女だった。

着ているマントの色からすると、一年生だろうか。

「ギーシュ様……」

そして、ボロボロと泣き始める。

「やはり、ミス・モンモランシーと……」

「彼らは誤解しているんだ。ケティ。いいかい、僕の心の中に住んでいるのは、君だけ……」

しかし、ケティと呼ばれた少女は、思いっきりギーシュの頬をひっぱたいた。

「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ!さようなら!」

ギーシュは、頬をさすった。

すると、遠くの席から一人、見事な巻き髪の女の子が立ち上がった。

厳しい顔つきで、かつかつとギーシュの席までやってきた。

「モンモランシー。誤解だ。彼女とはただ一緒に、ラ・ローシェルの森へ遠乗りをしただけで……」

ギーシュは、首を振りながら言った。

冷静な態度を装っていたが、冷や汗が一滴、額を伝わっていた。

「やっぱり、あの一年生に手を出していたのね?」

「お願いだよ。『香水』のモンモランシー。咲き誇る薔薇のような顔を、そのような怒りで歪ませないでくれよ。僕まで悲しくなるじゃないか!」

モンモランシーは、テーブルに置かれたワインの瓶を掴むと、中身をどぼどぼとギーシュの頭の上からかけた。

そして……。

「うそつき!」

と怒鳴って去っていった。

沈黙が流れた。

ギーシュはハンカチを取り出すと、ゆっくりと顔を拭いた。

そして、首を振りながら芝居がかった仕草で言った。

「あのレディたちは、薔薇の存在の意味を理解していないようだ」

ウルキオラは一生やってろ、と思いながら歩き出した。

そんなウルキオラを、ギーシュが呼び止めた。

「待ちたまえ」

「なんだ?」

ギーシュは、椅子の上で体を回転させると、すさっ!と足を組んだ。

いちいち気障ったらしい仕草をする。

「君が軽率に、香水の瓶なんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。」

ウルキオラは呆れた声で言った。

「二股をかけるお前が悪い」

ギーシュの友人が、どっと笑った。

「そのとおりだギーシュ!お前が悪い」

ギーシュの顔に、さっと赤みが差した。

「いいかい?使い魔君。僕は君が香水の瓶をテーブルに置いたとき、知らないフリをしたじゃないか。話を合わせるぐらいの機転があってもよいだろう?」

「なぜ俺がお前の話に合わせなければならない?」

「ふん…使い魔に貴族の機転を期待したぼくが間違っていた。行きたまえ」

「一生薔薇でもしゃぶっていることだな。下衆が」

ウルキオラがそう言うと、ギーシュの目が光った。

「どうやら、貴族に対する礼を知らないようだな」

「どうやら貴様は二股をかけていても、貴族を名乗れるらしい」

ウルキオラがそう言うと、ギーシュの友人たちが、また笑った。

「よかろう。君に礼儀を教えてやろう。ちょうどいい腹ごなしだ。君に決闘を申し込む」

ギーシュは立ち上がった。

「いいだろう」

ウルキオラは言った。

ギーシュは、くるりと体を(ひるがえ)した。

「どこへ行く?」

「ヴェストリの広場でまっている」

ギーシュの友人たちが、ワクワクした顔で立ち上がり、ギーシュの後を追った。

一人はテーブルに残った。

ウルキオラを逃さないために、見張るつもりのようだ。

一人の女がブルブル震えながら、ウルキオラを見つめている。

先ほど貴族にケーキを配っていた女だ。

ウルキオラは尋ねた。

「どうした?」

「あ、あなた、殺されちゃう……」

「なんだと?」

「貴族を本気で怒らせたら……」

女はだーっと走って逃げてしまった。

(なんだ?あの女は…)

後ろからルイズが駆け寄ってきた。

「あんた!何してんのよ!見てたわよ!」

「どうした?」

「どうしたじゃないわよ!なに勝手に決闘なんか約束してんのよ!」

「お前には関係ない」

ウルキオラはそう言うとギーシュの友人のそばに行った。

「案内しろ」

「こっちだ」

「ああもう!ほんとに!使い魔のくせに勝手なことばっかりするんだから!」

ルイズは、ウルキオラの後を追いかけた。




ヴェストリの広場は、魔法学院の敷地内、『風』と『火』の塔の間にある、中庭である。

西側にある広場なので、そこは日中でも日があまり差さない。

決闘にはうってつけの場所である。

噂を聞きつけた生徒たちで、広場は溢れかえっていた。

「諸君!決闘だ!」

ギーシュが薔薇の造花を掲げた。

うおーっ!と歓声が巻き起こる。

「ギーシュが決闘するぞ!相手はルイズの使い魔だ!」

(耳障りな連中だ…)

ギーシュは腕を振って、歓声にこたえている。

それから、ようやく存在に気づいたという風に、ウルキオラの方を向いた。

ウルキオラとギーシュは、広場の真ん中に立ち、お互い見つめあった。

「とりあえず、逃げずに来たことは、褒めてやろうじゃないか」

ギーシュは、薔薇の花を弄りながら、歌うように言った。

「さてと、では始めるか」

ギーシュが言った。

そして、ギーシュは薔薇の花を振った。

花びらが一枚、宙に舞ったかと思うと、甲冑を着た女戦士の形をした、人形になった。

身長は人間と同じぐらいだが、硬い金属製のようだ。

淡い陽光を受けて、その肌……、甲冑が煌めいた。

「ほう?」

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや文句はあるまいね?」

「ああ」

「言い忘れたな。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従って、青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」

女戦士の形をしたゴーレムが、ウルキオラに向かって突進してきた。

その右の拳が、ウルキオラの腹にあたる。

しかし、ゴーレムの腕の方が砕けた。

「なっ!?」

ギーシュは驚いた顔で言った。

周りの生徒も驚いたのか、ざわざわし始めた。

当たり前である。

金属と生身の体がぶつかり合って、金属の方が砕けたのだ。驚くのも当然である。

「どうした?もう終わりか?」

ウルキオラが呆れた顔で答える。

「調子にのるなよ!使い魔が!」

ウルキオラに、五体のワルキューレが襲いかかる。

しかし、殴りかかったすべてのワルキューレが砕け散った。

「この程度の攻撃では、俺の鋼皮(イエロ)はやぶれん」

「な、なぜ攻撃が通じない!」

ギーシュは息を切らしながら言った。

周りの生徒もあいつの体はどーなってんだ!といっている。

「今のが…全力か?」

ギーシュは驚いた顔でウルキオラを見る。

「く、くそ!」

ギーシュは何もしてこない。

「どうやらそうらしいな…」

ウルキオラは肩に付いた汚れを払いながら言った。

そして、その手をギーシュに向け、人差し指を立てる。

「残念だ…」

ウルキオラの人差し指に虚閃が溜まる。

ギーシュは遠距離攻撃が来ると思い、フライを使おうとするが、魔力切れで発動できない。

しかたなく、残った一体のゴーレムを前に移動させ、盾にする。

ウルキオラの人差し指から虚閃が放たれる。

それは、ギーシュを飲み込み、魔法学院を取り囲む石でできた壁を突き破り、200mほど先の地面で爆発した。

その刹那、空に向かって地面から五十メイル程の炎が上がる。

「ギ、ギーシュ!」

決闘を見に来ていたモンモランシーが叫ぶ。

「な、なんだよ…あれ…」

一人の男子生徒が言う。

「な、なんて威力なの…」

一人の女子生徒が言う。

周りの生徒はウルキオラが放った攻撃の威力に驚いていた。

やがて、煙が晴れ、ギーシュの姿が見え始める。

ウルキオラはギーシュの方に向かって歩き始めた。

ギーシュは地面に膝と両手を付き、息を荒げていた。

ギーシュの前に居たはずのワルキューレはドロドロに溶け、見る影もない。

ギーシュ自身も体の至る所に傷を負っていた。

二百メイル程離れた場所には、今だ炎が上がっている。

ウルキオラの虚閃の威力を物語っていた。

ウルキオラはギーシュに向かって歩きながら言った。

「虚閃を防御する瞬間、ワルキューレを盾に使ったか…だが、一瞬で溶けた。その状態では次はもう出せまい」

ウルキオラはギーシュの前で立ち止まると、もう一度虚閃を放つため人差し指をギーシュに向けた。

「諦めろ」

「ま、まってくれ…参った…こ、殺さないでくれ」

ギーシュは完全に怯えている。

ウルキオラは無視して、虚閃を放とうとする。

虚閃の威力を見た周りの生徒は一人を除いて後ろに後ずさる。

その一人がギーシュとウルキオラの前に立ち、両手を広げながら言った。

「ま、まって…ギーシュを殺さないで!」

それは、モンモランシーであった。

ウルキオラは呆れた声で言った。

「戯言だ…決闘をする以上、勝者が敗者をどうするかは自由だ。そこをどけ…。お前も消し飛ぶぞ?」

「お、お願い…やめて…お願いよ…」

モンモランシーは足をガタガタ震わせながら嘆願する。

ウルキオラが虚閃を放とうとした瞬間、後ろから声が聞こえた。

「やめなさい!ウルキオラ!」

ウルキオラは後ろを振り向く。

そこにはルイズがいた。

「これは命令よ!ウルキオラ!」

ウルキオラは少し考えたあと、虚閃を解除した。

「主人の命令とあらば仕方あるまい…命拾いしたな人間」

ウルキオラが手を下ろし、ポケットに手を入れた。

モンモランシーは地面にへたり込む。

ギーシュは既に気を失っていた。

二百メイル先の炎も鎮火していた。

ウルキオラはルイズの方に歩いていく。

「帰るぞ」

そう言うと、ウルキオラは建物に向かって歩いて行った。

「ま、待ちなさいよ!」

ルイズはウルキオラの後を追った。




キュルケは友人と、決闘を見ていた。

ウルキオラが勝つことは分かっていたが、予想外だった。

「まさかあんなに強いなんて…」

キュルケがそういうと、隣の友人が言った。

「あれは危険…私の使い魔もそう言ってる」

「あの風竜のこと?」

友人はこくりと頷いた。

「確かに…ヤバすぎるわ…」

キュルケはそういうと、赤い髪をかきあげる。

「でも、痺れたわ…あの人を…ウルキオラを私のものにしたいわね…」

キュルケはそう言って、広場を後にした。




オスマン氏とコルベールは『遠目の鏡』で一部始終を見ていた。

ウルキオラがモンモランシーとギーシュに攻撃を仕掛けようとした時はあたふたしていたが、大事に至らずホッとしていた。

コルベールは震えながらオスマン氏の名前を呼んだ。

「オールド、オスマン」

「うむ」

「やはりウルキオラ殿が勝ってしまいました…やはり彼は『イーヴァルディー』!」

「うむむ…」

コルベール氏はオスマン氏を促した。

「オールド・オスマン。さっそく王室に報告して、指示を仰がないことには……」

オスマン氏は、重々しく頷いた。

「それには及ばん」

白い髭が、激しく揺れた。

「どうしてですか?これは世紀の大発見ですよ!現代に蘇った『イーヴァルディー』!」

「ミスタ・コルベール。『イーヴァルディー』はただの使い魔ではない。」

「そのとおりです。始祖ブリミルの使い魔『イーヴァルディー』。その姿形は記述がありませんが、始祖ブリミル以上の実力を持ち、攻撃、防御、回復…全てに特化した存在と伝え聞きます。そして、すべての言語に優れ、あらゆる武器、道具を使いこなし、その原理を理解する。なにより、その強さと勇敢さゆえに『イーヴァルディーの勇者』という物語もあるほど…」

「そうじゃ。始祖ブリミルは、呪文を唱える時間が長かった…そして、その魔法が強大が故に連発することができない……。そんな中、始祖ブリミルを守り、始祖ブリミルの代わりに敵を倒す。その強さは…」

「十万もの軍隊を一人で壊滅させるほどの力を持つ…」

「それが、王室に知れればウルキオラ君を使って戦をするじゃろう…もし仮に、それでウルキオラ君の怒りを買うようなことになれば…」

「トリステイン…いや、ハルケギニアが滅亡しかねない…」

「そうゆうことじゃ…」

「ははあ。学院長の考え深さには恐れ入ります」

「この件は私が預かる」

「は、はい!かしこまりました」

オスマン氏は杖を握ると窓際へとむかった。

遠い歴史の彼方へ、思いを馳せる。

「あのウルキオラ君が伝説のブリミルの使い魔『イーヴァルディー』か……。謎は深まるばかりじゃな…」

コルベールは夢を見るように呟いた。

「もしかしたら、ウルキオラ殿が始祖ブリミルの使い魔だったのかもしれませんね…」

「否定はできんのー…」

2人はウルキオラと『イーヴァルディー』のことについて考察していた。




ウルキオラがルイズの部屋に戻る途中、さっきの女がいた。

「お前か…なにか用か?」

女はウルキオラを見て申し訳なさそうに言った。

「ご、こめんなさい…あのとき、逃げ出してしまって」

ギーシュとの口論時のことを言ってるのだろう。

「気にするな…お前が謝る必要はない」

ウルキオラはそれだけ言うと(きびす)を返して歩き始めた。

すると、後ろからルイズが来た。

「ちょっとあんた、私を置いていくなんて…どういうつもり?」

「置いてきたつもりはない。お前が遅いだけだ」

ウルキオラがそう言うと、ルイズは顔をしかめた。

「なんですって!使い魔としての仕事もしないで勝手なこと言わないで!」

「そういえば、そんなのがあったな…洗濯と掃除をするんだっけか?」

ウルキオラはそう言うとルイズの部屋のドアに手をかけた。

すると女が慌てたように言った。

「せ、洗濯と掃除なら私がやります!いえ…やらせてください!」

ウルキオラは驚いた顔で答えた。

「いいのか?」

「はい。私の取り柄はこれだけですから…」

女はそう言うと、部屋に散乱していた下着を拾い上げ、抱えた。

「感謝する」

「いえ…」

「名はなんだ…女」

「シエスタ…です」

「そうか…俺はウルキオラだ…掃除と洗濯は任せた」

「はい。お任せください!」

シエスタはそう言って走り去って言った。

「これでいいだろう」

ウルキオラはルイズに向かって言った。

「ふん…」

ルイズがそう言うと、ウルキオラは歩き出す。

「ちょ、ちょっとどこに行くのよ!」

ウルキオラはルイズに振り向いた。

「食堂だ…そろそろ夕食の時間だろう」

ルイズはあっ!と思い出したように言った。

ウルキオラは再び歩き出す。

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

ルイズは小走りし、ウルキオラの前に立つ。

「忘れないで!あんたは私の使い魔なんだからね!」

ルイズはそう言って、ウルキオラの前を歩き始めた。

(豪胆な女だ)

ウルキオラはそう思いながらルイズの後ろを歩いて行った。 
 

 
後書き
明日はマラソン大会です…。

距離は21.7㎞という地獄です。

自分は中学、高校と陸上部に所属していましたが、短距離走専門のため、長距離は気が滅入ります…。

また、部活を引退してから早3ヶ月…運動不足もさることながら、そもそも長距離は専門外なので倒れない程度に頑張ろうと思います。

さて、『イーヴァルディー』の設定はどうでしたでしょうか?

私自身、なかなかよい設定かなと思っています。

次回を楽しみにお待ちください。


 
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