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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos50-A束の間の奇跡/家族は巡り合う~Testarossa Family~

†††Sideフェイト†††

砕け得ぬ闇、システムU-D。マテリアルの子たちが追い求めていた、“闇の書”の真の闇としての基体。ヴィータの歳くらいの女の子であるU-D(私たちの間では、ヤミちゃん)の実力は、以前私たちが苦労して倒したナハトヴァールを軽く凌駕していて、普通に戦うことすらも難しい。
だけど、ヤミちゃんの背負う悲しみや苦しみを私たちは知った。傷つけたくないから誰とも関わり合いたくない。そんなことを聞いちゃったら、もっと放っておけないって思うのが私たちで。でもまともに戦えない以上は、助けるどころか逆に倒されてしまう。
でもその問題もクリア。最初は敵だったマテリアル達が協力してくれた。今、シュテルを筆頭に、ヤミちゃんの驚異的な戦闘能力を停止させるための切り札――対システムU-Dカートリッジを作ってくれている。完成したっていう連絡を待っていた時・・・

『フェイト、アルフ! どうしよう、ママとリニスが!』

ブリッジのアリシアから突然そんな通信が入った。すごく取り乱しているアリシアに「母さんとリニスの残滓が現れたの!?」って訊き返す。アルフが少し前レヴィに怒っていた理由が、リニスの残滓と会って戦ったからだって聞いた。だからもしかして、って思ったからそう訊いたらアリシアは強く頷き返してくれた。

『こちらエイミィ。闇の欠片が他にも複数再出現! 出撃できる子いる!?』

「私とザフィーラは出れます!」

真っ先にシャマル先生(本局で会った時、他の局員からそう呼ばれていたから、私たちもそう呼ぶようになった)が名乗りを上げて、ザフィーラも「うむ」って首肯した。続けて「私も出られます!」すずかが挙手。

「私も出ます!」

「あたしも出るよ!」

母さんとリニスの残滓が発生したなら、娘であり家族である私が、アルフが出ないと。とここで「シュテル。カートリッジの完成までどれくらいある?」ルシルが、シュテルへと通信を繋げる。

『そう間もなく、ベルカ式組のカートリッジが完成しますが・・・。それが何か?』

「いや、ありがとう」

カートリッジの作成状況を聴いたルシルはシュテルとの通信を切り、「ヴィータ、シグナム。それとシャル。俺たちは残ろう」って言った。対U-D用カートリッジの作成が終われば、そのカートリッジを制御できるかどうかの試験実戦をしないといけない。そういうわけもあって、ルシルとシグナムとヴィータ、シャルは待機することになった。

『フェイト、アルフ! わたしも連れてって!』

「・・・うん、行こう、アリシア!」

アリシアは、20年以上前の事故で魂だけの存在(アリシア談)になってからも母さんや私たちの生活を、夢のような感覚で見ていたってことだから、リニスが使い魔化した姿も当然知っている。それに母さんが本当に優しかった頃のことも、私よりずっと深く知っている。

「よし。それじゃあわたし、ルシル、シグナム、ヴィータは居残り。なのは達は残滓討伐を。フェイト、アルフ、アリシアは・・・こちらでプレシアとリニスの居場所へ誘導するから向かって」

シャルの指示に私たちは「はいっ!」そう応じて、ブリーフィングルームを後にする。

「母さん、リニス・・・。たとえ残滓であっても・・・ちゃんと・・・!」

話が出来るといいな。トランスポーターからみんなが順次出撃して行くのを見守って、私とアルフは「お待たせ!」アリシアの到着を待った。アルフが「あたしが抱えて飛ぶよ。しっかり掴まってな、アリシア」アリシアを背後から抱きかかえた。

「アリシアにはバリアジャケットが無いから、高速飛行は出来ないから気を付けてね、アルフ」

「ああ」

「お世話になります!」

そしてみんなに遅れること少し、私たちも出撃した。

†††Sideフェイト⇒????†††

気が付けば見知らぬ世界に飛ばされて、小っこい八神司令や司令の目付きの悪いそっくりさんと出会って、さらにはなんとかの闇に負けちゃうし。もう全然意味が解らない。闇とかいう小さな女の子の攻撃から強制転移で逃れた俺とリリィは、森の中にあった洞窟の中でひっそり野宿。見知らぬ世界で一夜を過ごした。

「――ねえ、トーマ。もしかして、なんだけど・・・」

たき火の後始末をしている俺の隣に居るリリィが立てた推測を思い返す。それは「信じたくないけどね。未来から過去に飛ばされたなんて」俺とリリィがどういった理由かは判らないけど、時間移動をしてしまったってことで。でも八神司令はどう見ても八神司令で。変身でも演技でもないってことも、実際に話したことでなんとなく解っている俺も居るわけで。

「はぁ。とにかく、だ。もし本当に時間移動をしたのなら、この時代の八神司令たちとはあんまり関わらない方が良いね」

「どうして?」

「フィクション作品だと、過去の人たちに未来のことを話したり、何か物を壊したりとか、未来へ繋がる出来事に干渉すると、未来が変わるって話があるんだ」

「え、そうなの? 未来って変わっちゃうものなの?」

「そりゃあね。何が原因で変わるかは判らないけど、場合によっちゃ俺とリリィが会えなくなっちゃったりとかするかな。特に、八神司令たちと関わったりしたら、きっとその可能性も高くなるんじゃないかって」

「あうー、それは嫌だよぉ」

俺だってそんな未来は嫌だ。いま知り合ってる人、仲良くなれた人、出会えた人、たとえ嫌いな人でも、その積み重ねが俺たちの知っている今なんだ。だからその未来を変えたくない。
とまぁそういうわけで、それを踏まえた上で「どうすれば帰ることが出来るか調べなきゃいけない」んだけど、俺とリリィだけで調べて、上手く帰る方法が判ったとしても、「俺、転送魔法使えないんだよな・・・」俺たちだけで成し得るのか不安でしょうがない。

「でも、ちゃんと帰らないとダメだよね」

「もちろん! 楽しいばかりじゃない、大変なこともあるけど、あの今が俺は気に入ってる。だから――」

≪警告。脅威判定を検知。戦闘中と思われ、徐々にこちらへ接近して来ます≫

側に浮いていた“銀十字の書”から警告。戦闘中ということは、きっと八神司令たちだ。下手に戦闘に巻き込まれないために「リリィ!」とリアクトする。リリィ、リリィ・シュトロゼック。リアクターっていう、俺がディバイダー(俺の持つ銃のことだ)で暴走しないように助けてくれる大切なパートナーだ。

「一応、誰が戦っているのか確認してみよう」

もしかしたら、俺たちをこの時代へ飛ばした張本人かも知れない。それを確認するためにも。木の上に跳び上がって、こっちに向かって来る誰かを視認する。1人は女の人だ。帽子を被った、スタイルの良いお姉さん。その人はステッキのようなデバイスで、『トーマのそっくりさん!?』俺?と戦っていた。

『トーマ!』

「ああ、判ってる! 行こう、助けないと!」

空戦へと移行する。俺に気付いたその女の人が「同じ格好! 新手ですか!?」って俺へとステッキの先端を向けてきた。俺は慌てて「違います、違います! どっちかって言うと――」こっちに襲い掛かって来ようとしていたもう1人の俺へ斬撃――クリムゾンスラッシュを放って迎撃。

「『味方です!!』」

「味方・・・? それに声が2人分・・・!」

その人の疑問に答えたいけど「とりあえずここは俺たちに任せて下がっていてください!」もう1人の俺をどうにかしないと。俺の偽者は「脅威判定検知。殲滅する」なんていうか「根暗!?」だった。

「なぁリリィ、俺ってモノマネされるとあんな暗い感じなのかな・・・?」

『そ、そんなことないよ! トーマは明るくて面白いし!・・・たぶん、未来の別の可能性・・・』

大剣――ディバイダーを振るってきた偽者の斬撃をひょいっと躱しながら「別の可能性って・・・?」負けじとディバイダーを振るう。俺の疑問に『たとえば、銀十字の闇に呑み込まれたうえで生き残っちゃったら、みたいな』リリィはそう答えた。スゥちゃん達に救われることがなかったかもしれない未来の俺。それがこんな根暗になるのか。俺は運が良かったんだな。改めて俺とリリィを救ってくれたスゥちゃん達に感謝する。

「銀十字」

偽者は“銀十字”のページで、俺の繰り出した斬撃を防いだ。すかさず二撃目の斬撃を叩き込む。ページに防がれる斬撃。だけどこれで終わりじゃない。こっちも「銀十字!」を使わせてもらう。
側にある“銀十字”から数枚のページが飛び出して、偽者の俺を包囲。そしてページ表面から発射したエネルギー弾で攻撃。偽者はその直撃をまともに受けてよろめいて、前面に展開させていたページを解除した。そのチャンスを見逃す事なく「シルバーハンマー!!」ディバイダー先端から砲撃を零距離発射。

「どうだ!!」

『・・・偽者の撃破を確認!』

「よしっ。俺たちドライバーとリアクター、誇張抜きの一心同体! 偽者なんかに負けない!」

『うんっ!』

偽者の俺はスゥちゃん達と行動を一緒にしない所為か成長できていないみたいで、戦闘パターンが直線的で見切り易かった。とにかく「あの、大丈夫ですか? なんかすいみません、俺の偽者がご迷惑を」って、襲われていた女の人に深々と頭を下げる。

「あ、いえ。助けてくださってありがとうございました。いきなり襲われてしまって困っていたんです。魔法効果も効きづらくて。どういう原理なんでしょう? AMFでしょうか?」

俺たちディバイダー使いは、魔導殺しなんていう力を持っている。相手の魔法攻撃を無効化したり出来るから、俺たちの時代じゃ恐れられてる。それを悪用してるフッケバインとかも居るし。たぶんこの時代で、魔導殺しに対してAEC武装無しで真っ向から戦えるのは、魔術っていう特別な魔法を使うルシルさんくらいだろうな。生まれつき使えるって教えてくれたし。

「あ、あー、その企業秘密ということでその・・・」

『ごめんなさい』

ディバイダーとかフッケバインとかティー・シーとか、未来に関わることは喋れないからそう誤魔化すしかない。すると「あ、いえいえ。あ、初対面なあなた達に訊ねるのもどうかと思いますが、1つお聞きしたい事があるのですが」代わりに別のことを訊かれた。
俺とリリィのことを知らないみたいだから、たぶん管理局とは関係ない。もしかして俺たちみたいにこの時代に飛ばされてきたのかも。だったら来る限り力になってあげないと。スゥちゃんに顔向け出来ない。

「はいっ。俺で答えられることなら!」

「ありがとうございます。あ、私、リニスとお申します」

綺麗な一礼をしたリニスさん。うん、知らない名前だ。すでに過去の八神司令に名乗ってしまっていることもあって「俺、トーマっていいます」『私はリリィです』ファーストネームだけだけど自己紹介。

「トーマさんとリリィさん。あの、迷子の女の子を捜しているんです。これくらいの背で、金色の長い髪を、こう・・・頭の両サイドで結っていて・・・」

リニスさんが手振りでその女の子の身体的特徴を教えてくれた。身長は6、7歳くらい。続けてリニスさんは「その子の側にはいつも、このくらいの女の子で、額に赤い宝石があって、オレンジ色の毛並みをした狼の耳と尻尾を持った使い魔が一緒で・・・」もう1人の特徴も教えてくれた。

『ねえ、トーマ。私、ちょっと心当たりがあったりする、かも・・・』

「あー、うん。でも人違いだと思う。万が一、この時代のフェイトさんとアルフの事だとしても、身長が低過ぎる」

金髪というのはあんまり珍しくないけど、額に赤い宝石を有した狼の使い魔となると、フェイトさんの使い魔であるアルフの特徴と一致する。リリィが『その子たちのお名前って・・・?』って訊くと、「金髪の子はフェイト、使い魔はアルフ、と」リニスさんがハッキリとそう答えてくれた。

『この時代のフェイトさんとアルフって、そんなに身長が低いのかな・・・?』

「実際に会ったことが無いから判らないけどね。とにかく、こればっかりは申し訳ないけど・・・」

リリィと相談して、知りません、と答えようとした時、「何か心当たりがあるみたいですね」って図星を指してきた。黙ってしまうと、「教えてください。あの子たちはどこに?」って少し語調を強めて訊いてきた。

「俺たちの知っているフェイトさんと、リニスさんの言うフェイトちゃんはきっと人違いですよ。俺の知っているフェイトさんは25歳ですから」

『そ、そうです! 私たちの知ってるフェイトさんは未来のフェイトさんですから!』

俺の知っているフェイトさん25歳が、リニスさんの捜しているフェイトさんと同一人物だって思われないだろうと思ったから年齢のことを言ってみたんだけど、「リリィ!?」のうっかりが発動、一瞬にして無駄な作戦に。

『え、あっ、わわっ、ごめんね、トーマ!』

「未来のフェイト? えっと、どういう・・・?」

うわ、思いっきり訝しげな目を向けられちゃってる。俺は「えっと、言い間違いですよ、やだなぁ、リリィ!」必死に誤魔化す。リリィも『は、はい、そうです、言い間違いです!』と参加。リニスさんは「なにと言い間違えたんでしょうか?」と深くツッコみを入れてきた。何か、何か、未来と言い間違えられるような単語。必死に考えるけど、「ダメだ、ない!」諦めた。

「あのぉ、リニスさんって、フェイトさん達とはどういったお知り合いで?」

「・・・家庭教師です。フェイトとアルフのお世話をしていました」

「(あれ? この話、聞いたことがあるような・・・)あの、ました、って過去形・・・」

家庭教師、お世話役。アリシアさんからそんな話をチラッと聞いたような気がする。というか、フェイトさんとアルフだけじゃなくね? フェイトさんのお姉さんであるアリシアさんの名前も出すべきじゃ・・・。

「あの、こんなことを言ったら頭がおかしいと思われるかもしれませんが、私・・・使い魔なんです」

被っていた帽子を取るとリニスさんの頭には『猫ちゃんの耳♪』リリィが弾んだ声で言うように猫耳があった。しかもお尻の方からも猫の尻尾が生えた。でもそれがおかしな事にはならないと思うんだけど。けど次の言葉で、何がおかしなことなのかと理解した。リニスさんが「私、一度死んでいるはずなんです」なんて言ったから。

「私は使い魔としての契約を解かれ、その命を終わらせたはずなんです。ですから、どうしてこうやって存在しているのか、そもそもここがどこかなのかも判らない状態で」

「俺たちと同じなのかな、それ。俺とリリィ、どうやら未来からこの時代に飛ばされて来たみたいで」

『もしかしてリニスさん、過去から飛ばされてきたのかもって』

俺とリリィも大概おかしなことを言ってるよな、これ。時間移動とかありえなさすぎて。だけどリニスさんは「ああ、だからさっき未来のフェイトがどうとか」って乗ってきてくれた。俺が「信じてくれるんですか?」って訊くと、リニスさんは「現状把握はまず色々な可能性を取り入れることから始まりますから」って微笑んだ。

「あの、トーマさん達は、25歳のフェイトを知っている風ですけど、それは本当ですか?」

こう言っちゃなんだけど、リニスさんはこの時代じゃ亡くなってる人だ。だから未来のことを教えてもたぶん問題ないはず。それに未来のフェイトさんのことを教えるのはきっと良いことのはず。

『本当ですよ。フェイトさん。管理局の執務官さんなんです♪』

「・・・・執務官!? あの執務官ですか!? フェイトが!?」

「えっと、はい。アルフは使い魔としてはもう引退していますけど、時々職場に来ますよ」

「ということは、トーマさんとリリィさんは・・・」

「まぁそんなところです」

正式な局員じゃないけど、お世話にはなっているから首肯する。リニスさんは「フェイトが管理局の執務官・・・すごいです、フェイト」誇らしげだっていう風に微笑んだ。と、「あら、あらあら?」リニスさんが困惑の声を上げると同時、「『リニスさん!?』」の体が消えていくのが判った。
どうにかして止める前に、俺たちの目の前からリニスさんが消えた。訳が解らず呆然としていると、“銀十字”から魔力反応の接近を知らせる警告が入った。今度こそ管理局の誰かだって直感が働いた俺は急降下。森の中へ隠れてリアクトを解く。変身してると確実に反応を捉えられる。

「ここにリニスの反応があったって!」

やって来たのはフェイトさんだった。少し遅れて「どこだい!?」俺の知ってる子供サイズじゃなくて、モデルのように背が高くて露出の高い服装を着たアルフ。そのアルフに抱っこされたアリシアさんがやって来た。

「と、トーマ! フェイトさんもアリシアさんもちっちゃ可愛いよぉー❤ なにあれー♪ ギュッてしたい、ナデナデしたーい❤」

すげぇちっちゃいフェイトさんとアリシアさんの可愛い姿にハート乱舞させてるリリィ。今にも飛び出して行きそうなリリィの腕を掴んで逃さない。頼むからやめてくれ。未来のフェイトさんとアリシアさんを知っている所為もあって、アリシアさんは兎も角フェイトさんはなんか恐ろしい。

「フェイト、アルフ、次!」

「あ、うん!」「おう!」

フェイトさん達がまたどこへ飛び去って行った。リニスさんを捜しているみたいだ。手伝ってあげたいけど、こればかりは無理だ。俺は「ごめんなさい!」と謝りながらフェイトさん達とは別の方角へと去った。

†††Sideトーマ⇒ヴィヴィオ†††

「くしゅっ」

「大丈夫ですか? ヴィヴィオさん」

「はい、なんとか」

初めての野宿、しかも季節は冬だということもあって、防護服着用でもその寒さには堪えちゃってクシャミが出ちゃった。小さい頃になのはママ達に連れられてきたこともある海鳴臨海公園の中を歩く。もちろん変身を解いた後で。変身してるとどうしても魔力反応が出ちゃうし。魔力反応を軽減させるステルスもあるけど、それをずっと使って魔力消費しすぎても後々苦労するだろうってことで、睡眠時以外ステルス魔法は使わない。

「お腹、空きましたね・・・」

「ですね・・・」

きゅーきゅー、わたしとアインハルトさんのお腹の虫が鳴る。この時代に来てから何も口にしてない。だって過去に干渉しちゃうと、きっと未来で色々と厄介なことになっちゃうかもしれないし。とは言え、「このまま何も食べないと倒れちゃいますぅ」空腹を紛らわすために水を飲んでるけど、水分だけじゃ膨れない。というかお腹がぷよぷよするよ(泣き)。

「とにかく、我慢です。空腹で倒れるより早く帰れる方法を探しましょう。ですがもし・・・限界を超えた場合は・・・」

「なのはママ達に保護を求めましょう。倒れてしまっては元も子もない、ですよね?」

「ええ。倒れて気を失っている間に帰れる手段を失ってしまっては・・・」

「はい。もしそうなったら・・・一生、誰とも関わらずひっそりとわたしとアインハルトさんの2人きりで生きていく事に・・・。アインハルトさんと一緒なら寂しくないですけど、でもやっぱり・・・」

「私もヴィヴィオさんと一緒なら寂しくないですけど、帰りたい、ですよね・・・」

アインハルトさんとずぅーんと肩を落とす。とそんな時「きゃっ?」目の前が急に発光。アインハルトさんと一緒に身構える。光はどうやら転移魔法だったみたいで、わたし達の目の前には1人の女の人が現れていた。

「あら? ここは・・・どこでしょう・・・?」

その人はきょろきょろと辺りを見回して、「あ、ごめんなさい。驚かせちゃいましたよね? 今のはその、イリュージョンです」わたしとアインハルトに気付いて謝ってきた。アインハルトさんはすぐに「いえ。大丈夫ですよ」と返したけど、わたしはその人をジッと眺めるのに夢中だった。

「あの、私の顔に何か付いていたりしますか?」

「ヴィヴィオさん・・・?」

「あ、いえ! なんでもないです、ごめんなさい!」

この女の人、どこかで見たことがある・・・かも。どこでだったかなぁ。その人はわたしの肩に乗ってるクリス、アインハルトさんの肩に乗ってるティオを見て「あ、お2人も魔導師ですか?」そう訊かれたことで、「ああああ!!」その人が誰なのか思い出しちゃった。

「リニス、さん・・・!?」

フェイトママとアルフの魔法の師匠で、お世話役で、でももう亡くなっている、フェイトママの本当のママ――プレシアさんの使い魔・・・。うんと小さい頃に写真で見たんだ、リニスさんを。

「私のことを御存じで? えっと、ヴィヴィオさん、でしたか?」

「あ、はい、高町ヴィヴィオです!・・・はっ(名乗っちゃった・・・!)あの、すいません、ちょっと! アインハルトさん!」

「え? あの・・・!」

アインハルトさんの手を引いてリニスさんからちょっと離れる。そしてリニスさんのことを思い出したのをアインハルトさんに伝える。話を聴いたアインハルトさんに「すでに亡くなった方が居るということは、あの方は過去から飛ばされてきた・・・?」そう言われて、「たぶんですが」と答える。

「あのー、ヴィヴィオさん? 私のことはどこで・・・?」

「どうします? 未来のことをお伝えしますか?」

「ど、どうすればいいんでしょう、アインハルトさん・・・」

「もしもーし」

「過去の方に未来のことをお話しするのはいけないというのは解っていますが、リニスさんにならまだセーフなのでは・・・?」

アインハルトさんの話も一理あると思う。リニスさんはすごく頭の良い人だったってアリシアさんは言ってた・・・と思う。だからもし過去に戻っても、フェイトママ達にはこの時代でのことは喋らないと思う。

「えっと、もしかしてうちのフェイト達とお知り合いですか?」

「その、なんといいますか。信じてもらえないかもしれませんが、わたしとこちら――アインハルトさんは、未来からこの新暦66年にタイムスリップして来たんです」

「66年・・・。私があの子たちの側から居なくなってから大体2年後が、この世界なんですね」

あっさり受け入れてもらえたことに戸惑っていると、「つい先ほど、トーマさんとリリィさんという未来から来たって子たちと会いました」なんてリニスさんが言ってきた。って、思いっきり聞き覚えのある名前が出て来たような気が・・・。

「あの、リニスさん。トーマってもしかして、トーマ・アヴェニール・・・?」

「はい、そうです。ヴィヴィオさんのお知り合いでしたか」

「ええええええええええええええええええッッ!!??」

もうこれ以上驚くことなんてないって思っていたけど、そんなことなかった。わたしの大声にビックリしちゃってるアインハルトさんとリニスさん。まずアインハルトさんが「ヴィヴィオさんのお知り合いですか?」って訊いてきたから「はいっ、そうです!」すぐにそう答える。トーマ・アヴェニール。スバルさんの弟のような男の子で、直接の面識はないけど、スバルさんと一緒に居た時に何度か通信でお話しした事がある。

「――トーマまで飛ばされて来ちゃってたなんて。捜してあげないと。トーマ、大した魔法も使えないから困ってる・・・」

「え? トーマさん、結構な実力のお持ちかと思いますよ。見知らぬ技術でしたが、融合騎のリリィさんという御嬢さんも居ましたし」

「へ?」

「え?」

リニスさんと小首を傾げ合う。待って。トーマに融合騎? それにリリィさんって人も知らない。しかもフェイトママ達の魔法の師匠でもあるリニスさんに、結構な実力を持ってる、なんて高評価を受ける? わたしの知ってるトーマとは随分と違うような気が・・・。うんうん唸っていると、「あの、そのトーマさんは、どの時代からやって来たか、などお話ししませんでしたか?」ってアインハルトさんがリニスさんに訊いた。

「詳しい時代は聞きませんでしたけど、フェイトが25歳の頃の時代のようでした」

「25歳? わたしの知ってるフェイトママは、23歳です」

ということは、わたしとアインハルトさんの時代から最低2年後の未来からトーマが飛ばされて来ちゃったってことになる。リニスさんのように過去からも来ちゃうんだから別段おかしくはないだろうけど・・・。なんかすごい状況になっちゃってる。

「ヴィヴィオさん。聞き違いかと思いますが、今、フェイトママ、と仰いましたか?」

「え? あ、はい。フェイトママです」

そう素直に隠すこともなく答えたら、リニスさんが百面相して「フェイトに娘ぇぇぇぇぇぇーーーーーーーッ!!」耳がキーンとするほどの大声で叫んだ。くらくらする頭を横に振っていたら、「ヴィヴィオさん、フェイトはそちらの時代では結婚しているのですか!?」って思いっきり詰め寄られた。

「えっと・・・」

「23歳の頃にはすでにヴィヴィオさんほどに大きな娘さんが居るということは・・・!」

「あの・・・」

「ヴィヴィオさん、今おいくつですか!?」

「じゅ、10歳です・・・」

「10歳!!? 10歳の娘を持つ23歳のフェイト!? ということは13歳の頃に生んだとなりますから・・・きゃあああああああ! あのフェイトがそんな幼い歳で誰かと結ばれたと!? いえいえいえいえいえ!! そんな、あの子に限って、そんな不良みたいな! 信じられません、信じたくありません! が! 実際にこうしてフェイトをママと呼んでいらっしゃるヴィヴィオさんが実在しているのも事実ですから!!」

どうしよう、リニスさんがちょっと壊れちゃったかも。頭を抱えて唸り続けるリニスさんが「ヴィヴィオさん! フェイトの夫、あなたのお父様は、一体どこのどちら様でいらっしゃいますか!!??」わたしの両肩をガシッと掴まえてそう訊いてきた。ちょっとした恐怖で泣きそう。でもそれを耐えて・・・

「あの! フェイトママは本当のママじゃないんです!!」

「うちの可愛いフェイトを13歳という幼い内から身籠らせた馬の骨はいった――・・・え?」

「その、わたし、生まれがちょっと特別で、本当のパパとママは居ないんです」

リニスさんに伝える。なのはママのこと、フェイトママのことなど。わたしとママ達の出会い、どういった経緯で親子になったとか。血の繋がりはないけど、それでも家族として一緒に暮らしてるって。すると「ごめんなさい!」涙を零したリニスさんがわたしを抱きしめた。

「あまりに無責任でした。ごめんなさい、ヴィヴィオさん!」

「いいんです。わたし、今とっても幸せですから。なのはママにフェイトママ、ママ達のお友達、わたしの学校でのお友達、みんな良い人たちばかりだから!」

「あなたはすごく強いのですね」

「わたしひとりじゃ全然ですけど、この強さはママ達から貰いましたから!」

リニスさんの涙を指で拭い取ってあげると、リニスさんが「ありがとうございます」ってすごく綺麗な、フェイトママみたいな笑顔を浮かべた。

「でも、ヴィヴィオさんから未来のフェイトがとても頑張って、そして強く生きてるってことを聞けて嬉しかったです。フェイトもアルフも元気でいてくれているようで」

今の言葉が気になったから「あの、リニスさん。アリシアさんも一緒ですよ」そう話す。どうしてアリシアさんの名前を出さないんだろうって。するとリニスさんは目を大きく見開いて「アリシアが、なんと・・・?」って震えた声で訊いてきた。

「アリシアさんですよ。フェイトママのお姉さん。昔は、と言うよりは今もよく遊んでくれたり――」

「アリシアは生きているんですか!?」

「「???」」

リニスさんの険しい表情にわたしとアインハルトさんはビクッと肩を跳ねさせる。わたしは「どういう意味か解らないんですが」と返すのが精いっぱい。それほどまでにリニスさんの様子がおかしかったから。

「そんな・・・だってアリシアは、使い魔になる前の私と一緒にあの時・・・。だからプレシアは、フェイトは・・・」

頭を抱えてふら付いたリニスさん。それをアインハルトさんが支えた。どういうことかは全然理解できないけど、アリシアさんは生きてる。それを証明するために「クリス。写真データ」その証拠として、「リニスさん。わたし達の時代で撮った写真です」をリニスさんに見せる。
久しぶりに揃った休暇にママ達が一堂に集まって開いたバーベキューパーティの写真。なのはママ、フェイトママ、アリシアさん、アルフ。それにはやてさんやルシルさんたち八神家のみんなの集合写真。

「っ!!・・・本当に・・・アリシア・・・生きて・・・!」

「「っ!!?」」

さっきとは違う涙を溢れさせたリニスさんの体が消えていくのが判った。わたしとアインハルトさんが何かをする前に、リニスさんの姿が完全に消滅した。一体何が起きたのか判らずに茫然と佇んでいると、「にゃあにゃあ!」ティオが鳴き始めて、クリスもわたわた短い前脚を必死に振った。

「ヴィヴィオさん、魔力反応の接近です。隠れましょう!」

「あ、はい・・・」

アインハルトさんに手を引かれて林の中に隠れる。遅れてフェイトママ、アルフ、アルフに抱っこされたアリシアさんがやって来た。きょろきょろ辺りを見回しているから、何かを探して・・・ううん、誰かを――リニスさんを捜しているんだってすぐに察した。

「入れ違いか!」

「フェイト、シャルからまた通信! リニスもママも、転移を繰り返してるって!」

「そんな・・・! 母さん、リニス・・・!」

そしてまたどこかに飛び去って行っちゃった。消え行くフェイトママ達の姿に「ごめんなさい」わたしは謝った。たとえフェイトママ達と顔を合わせる事になっても、リニスさんを引き止めておけばよかったって。

 
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