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受け継がれる運命

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第二章


第二章

「これから」
「わかったわ。私も誰かを」
「好きになりましょう」
「ええ」
 二人は笑顔でそんな話をした。そうして暫くして。セレネーはオリンポスの庭での神々の集まりの中で豊穣の女神であるデメテルからある話を聞くのであった。
「エリスにですか」
「そうよ。エリスにね」
 セレネーよりもさらに穏やかで大人の美貌を持つデメテルはにこにこと笑いながらセレネーに語るのだった。その黒い髪と目が実に美しい。
「凄い美少年がいるのよ」
「そうなのですか」
「私も一度見たけれど凄く奇麗で。彼氏にしたい位よ」
「それはまた」
 デメテルの冗談に思わず苦笑いを浮かべた。そうしてワインを飲むがここでデメテルがまた言うのだった。
「よかったら貴女も彼を見てきたらどうかしら」
「私もですか」
「ええ」
 そのにこやかな笑みでセレネーに述べるのだった。
「それに貴女はまだ」
「はい」
 デメテルが何を言いたいのかわかっていた。それは。
「一人だったわね」
「そうです。それでは」
「何の気遣いもないわ。楽しんでもね」
「そうですか。では私も」
「私も一人だし」
 デメテルはまた笑う。実は彼女は夫がいないのだ。今は恋人もいない。それでもゼウスや人間との間に子供が何人かいる。豊穣の女神は恋も知らなくてはならないのであろうか。
「気兼ねなく楽しませてもらったわ」
「そんなにその若者はいいのですか」
「やっぱり男は年下ね」
 それはデメテルの趣味であった。
「だから貴女も」
「その若者をですか」
「ええ。私はもうどんな感じか確かめたから貴女もそうすればいいわ」
「けれどデメテル、それは」
 セレネーはふとデメテルのことを思った。彼女もその若者を好きなのではないかと思ったからだ。わざわざ会いに行って恋を楽しんだのだからこれは当然であった。
「貴女は」
「私はいいの」
 だがデメテルはその優しい笑みでセレネーに言うだけであった。
「私はね。もう新しい恋人がいるし」
「そうなのですか」
「貴女も。恋をするといいわ」
 そう言って彼女に譲るのであった。
「それでいいわね」
「わかりました。それじゃあ」
 彼女の言葉を受けてこくりと頷くのだった。
「行ってみます」
「エリスよ」
 デメテルはまたその若者がいる場所をセレネーに教えた。
「そこで羊飼いをしているから。わかったわね」
「羊飼いなのですね」
「ええ」
 セレネーの問いにこくりと頷く。
「そうよ。それじゃあ」
「はい、これが終わったら行って来ます」
 こうしてセレネーはその若者のところに行くことになった。まだ昼だったが仕事の前に急いでエリスに行った。そうして草原に行くとそこに赤い癖のある髪に琥珀の瞳をした若者がいた。
「彼なのね」
 セレネーはその若者の美しさを見てすぐにわかった。彼こそがデメテルの言っていた若者であると。見れば顔だけでなく身体も整い肌は白くまるで月の光のようであった。
「何て奇麗なのかしら」
 セレネーはこの時空にいた。上から見下ろす彼は彼女が今まで見たどんな神や妖精、人間よりも奇麗で美しかった。彼女は一目見ただけで彼に心を奪われたのだった。
「もっと近くで」
 自然にそう思った。それで密かに降り立ち何気なくを装って彼の前までやって来たのだった。
「あの」
「はい」
 若者はセレネーが声をかけるとすぐに彼女に顔を向けてきた。見ればその顔は上から見るよりもずっと美しく映えるものであった。
「貴方は。どなたですか」
「私ですか」
「はじめて御会いして失礼ですけれど」
 そう謝ってからまた言う。
「気になりましたので。それで」
「私の名前ですね」
「そうです」
 こくりと頷いて彼に応える。
「何と仰るのでしょうか」
「エンディミオンです」
 彼はそう名乗った。その澄んだ高い声で。声もまた非常に美しい若者であった。
「僕はエンディミオンといいます」
「エンディミオンですね」
「ええ」
 にこりと笑ってセレネーに言うのであった。
「それでですね」
「はい」
 今度はそのエンディミオンがセレネーに問うた。これは順番であった。
「今度は貴女のお名前を知りたいのですが」
「セレネーといいます」
 彼女はそう名乗った。
「アテネから来ました」
「アテネからですか」
「ここに。移りまして」
 アテネから来たと言ったのには理由があった。それは彼女の神殿がアテネにもあったからである。それでこう彼に言ったのであった。
 
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