| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ソードアート・オンライン ≪黒死病の叙事詩≫

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

アイングラッド篇
第一層
  ソードアートの登竜門 その伍

 
前書き
黒死病という題名に唸る今日この頃。もっとキャッチャーなほうが良かったかも。でも黒死病は外せないんですよね。私の中でこれは黒死病として呼んでいるので。

 

 
 本来なら俺は此処、第一層迷宮区最上階である二十階には来ない予定だった。
 何故真昼間から此処にいるのかと言うと、前日に攻略会議に参加したこと、そしてインディゴにデュオを誘われたことが理由だ。迷宮区には顔を出さず、今まで手頃なダンジョンでレベル上げしていた俺にとってはこのタワー状の迷宮区という名のステージは新鮮で面白いものだった。

 そんな俺の横でインディゴは、俺の反応に一一(いちいち)突っ込みながら合わせてくれる。

「ひえぇ、奥に行けば行くほど薄暗いなぁ。広大な分、東南のダンジョンより不気味だぜ」
「そう? 面積は広いから見通しが良い。見通しが良いから敵の発見が早い。良い事尽くめじゃない」
「いや……俺のビルドじゃ最悪の環境っぽいな……。ソロだったら此処にキャンプは到底無理だ。隠密が弱すぎる」
「あら、じゃあデュオで良かったわね。ふふ、感謝しなさいよ」

 実際アサシンの俺はインディゴに感謝せねばならないだろう。ソロでは攻略不可能なエリアに狩りに(おもむ)けるのは、ひとえにこの藍色タンクのおかげなのだ。インディゴの提案した戦術により俺のビルドの弱点は完璧に埋まったのだから。
 その戦術、というのはインディゴが敵の標的率(ヘイト)を上げ、そのうちに俺が背後に回って最大火力のソードスキル≪(パニッシュメント)≫で静かに刺す、というものだ。するとあら不思議。敵は唐突の後方からの攻撃に反応できずにマックスまであったHP(ヘルス)が頭からつま先まで真っ赤に染め即爆散する。

 感想としては凄く効率が良い。同時に複数相手しても良いし敵が単体ならドット単位のダメージも受けないで済む。ビルドの相性もいいが、なによりも素晴らしいのが連携が取れていることだ。

 元々俺の畑であるRTSでは集団戦ができないとゲームをやっていけない。だから集団戦(チームワーク)には自信があるのだが、俺のプレイヤースキルに合わせられなくて集団戦で失敗する、ということがRTSではあった。強気な俺に弱気な味方、そういうチームだと集団戦を始めるつもりで俺が敵に突撃(インベード)しても味方が付いてこずに五対一で即死、というのがままあった。そうなると数で勝つ敵が一気に攻め上げてゲームセットとなる。
 つまりは、連携を取れる取れない、性格の相性の良し悪しで戦闘力が大幅に変わる。連携が取れないと一人の時より弱体化するし、連携が取れると二人でも三人相手に勝利することがある。

 これはSAOでも言えることだ。連携の相性がパーティーの強さを決める。

 その点では俺とインディゴのデュオは相当の戦闘力を誇ると言えよう。戦闘スタイルこそタンクとアサシンで違うものの性格は似ているようで攻撃的だ。SAOでのタンクは死にたくないという気持ちの現れだ、というのがこのデスゲームの定説だがインディゴに限って言えばそうではないだろう。敵の攻撃をすべて受ける徹底した坊御と≪弾き(パリィ)≫から繋がれる攻撃的なソードスキルには死への恐怖など微塵も感じられない強さがある。

「そうだなぁ……確かに考えれば考えるほど君のおかげだ。マジサンキュー」
「かっるぅ」

 そう言うインディゴの顔は笑顔だった。彼女もまた、相性の良さに感動しているのだろうか。

 そんな軽口と狩りがしばらく続き、俺がエフェクト光に包まれてレベルアップした頃、高相性の二人組のすぐ近くで男達の歓声が聞こえた。
 声のした方向に二人で歩いて近づくとそこには巨大な二枚扉が、まさしくボスの扉、という風に輪郭が段々と見えてきた。

「あれは、……きっとボス扉だわ。見つけたのは……ディアベル達のようね」

 薄暗い洞窟内でも感じるほどの重厚な存在感の大きな扉に視線をすべて奪われていたが、視線を下すと確かに六つの人影が扉の前で声を上げている。≪索敵スキル≫を取っていないとこういう時でも困るのか。その中で聞き覚えのある声が聞こえた。≪聞き耳スキル≫のおかげで良く分かる。ディアベルの声だ。

「本当だな。ディアベル達だ。ついに始まるんだな……。ボス戦が」

 しみじみとアインクラッドの歴史的瞬間を眺める。隣のパーティーメンバーもそう思っているのか、彼らから視線を外さない。俺達は狩りの手を止めディアベル達の歓声が止むのを待った。
 待ったのに特に理由はない。ただ感慨に耽っていただけだ。これから始まる新たなステージに高揚していたのかもしれない。

 そんな感慨に耽っている俺を現実に引き戻したのは、重厚な扉の開く音だった。その音に俺は反射を音にして出してしまう。

「んな……。行くのかよ。情報もないのに? 流石に六人じゃ無謀じゃないのか?」

 別に返答を求めていたわけではないが、インディゴは律儀に答えてくれた。

「じゃあ行きましょうよ。六人より八人のほうが安全でしょ? 恐らくは顔見るだけでしょうからそこまで危険じゃないと思うわよ?」

 インディゴに気後れというものは感じられない。むしろ余裕すら感じる。俺は内心正気かよと思ったが、直ぐに誰かがやらなくてはならないことだと思い直す。レベル的にもプレイヤーが死ぬことはないだろう。士気を上げる目的でも行くべきなのだろう。やたら時間を引き延ばすのも、きっと得策ではないだろう。
 だろうだろうだろうと考えていると、インディゴがこちらを向かずに俺の袖を二度引っ張って催促してきた。

――弱気になる必要はない、か。

俺とインディゴは小走りで、特に俺は両手をポケットに突っこむという格好つけた様子で、前方の六人パーティーに近づいて行った。

 大きな二枚扉に近づくにつれ、周囲の空気が気持ち重たくなってくる。これは空気の重量が上がっているのではなく、周りのオブジェクトに簡素ながらも彫刻や傷跡が施され、視界から入る細やかな情報が増えたからだろう。だからといってラグくなっている訳ではない。気持ちの問題だ。SAOは相当なことがあってもラグが起きることは有り得ない、と考えてもいいだろう。ソードアート・オンラインは皮肉にも、デスゲームという事件のおかげで過去最高のスペックを誇るゲームとなっているはずだ。もしかしたらだが、これも茅場明彦が望んでいたことなのだろうか。

 それを言うなら、少なくとも茅場明彦は第一層のボス戦を望んでいるはずだ。

 俺達は小走りでディアベルのパーティーと合流、俺から彼らに話しかけた。

「偵察かい? ディアベルさん」

 ディアベルは後方からの声に振り返り、一度こくりと頷いた。その後、ディアベルは「顔を見るだけだよ」と言いインディゴが「それなら混ぜてちょうだい」と返す。ディアベル達六人も特に異議はないらしい。無言の肯定も孕んだ「突撃」の言葉と供に、我らの八人の零細(れいさい)レイドのリーダーが先陣を切り突入した。

 ボスの部屋が最奥の、およそ百メートル先のほうから美しい七色に輝き、薄暗い洞窟が華やかなコボルト王の玉座と変貌する。

 玉座の間に佇んでいたボスは身の丈が二メートルを優に超える巨大なコボルト、名前を≪イルファング・ザ・コボルドロード≫、――イルファングとはどういう意味だろう、ただの名前だろうか、だとしたら中々にセンスがありカッコいい名前だ――クールな名前のインファルグの武器は右手の斧と左手の盾。取り巻きには≪ルインコボルド・センチネル≫という金属鎧に包まれた斧槍(ハルバート)持ちが三匹。
 インファルグはこちらを睨むと大きな咆哮を一つあげ、それを合図にセンチネル達が駆けてくる。

 そこまで分かるとディアベルは接敵はせずにそのまま撤退した。先ほど散々ビビっていた俺が言うのもなんだが拍子抜け、とまではいかなくても正直少しがっかりだった。
 ディアベル達は直ぐに撤退したが、俺は少し長く玉座の間に居た。といっても数秒だ。接敵するほどのロングステイはしていない。最後尾の俺はインディゴに急かされ名残惜しくもその場から立ち去った。俺がイルファングから出口へと顔を向けたら、インディゴが苦笑交じりで呆れ気味に話しかけた。

「貴方ねぇ……。何笑っているのよ……」

 俺は口に手を当てて、つい溢れそうな笑い声と高揚を無理矢理に押さえつけた。
 最早、俺はどうしようもないほどフロアボス、≪イルファング・ザ・コボルドロード≫の(とりこ)になってしまったのだった。












 日付は変わらずに夕方、昨日と同じ時間頃。第二回フロアボス攻略会議の会場、噴水広場にて。

 青髪の男騎士は今回の戦果であるボス≪イルファング・ザ・コボルドロード≫の情報を誇らしげに報告した。俺達、イロモノアサシンと藍色ナイトは後列の隅で足を伸ばしながらその報告を聞いていた。いや、聞いていたといってもあくまで横耳に挟みながらだ。

 実は今、俺達の手元にはもっと情報としての価値を有する≪アルゴの攻略本・第一層ボス編≫がある。この本を読みながらディアベルの声を聞き流している、というのが最も今の俺を表現するのに適しているだろう。たった三ページしかないこの本(観光パンフレットのほうがページが多そうだ)はページ数の割に驚くほどの情報量だ。裏表紙にはベータ時の情報という分かりやすい一文が書かれている。読んでみれば成程(なるほど)、ボス戦をする上でこの攻略本は間違いなく必須といえよう。

 と言ってもこれを持っているのはこの場では俺とインディゴだけだ。同じ広場の隅で店を広げているNPC露天商に無料で販売――もとい配布しているので、何故みんな貰わないのか。むむむ、まことに不思議である。

――ディアベルの話が終わったら教えるかぁ……。

 不思議も何も、この事を知っている俺達二人があの隅で売られていることを教えていないからだ。ディアベルが折角突入してまで手に入れた情報のあとに攻略本の存在を教えるのが一番自然で、一番良い流れだと俺が判断した。

 その後、特筆するようなことは起きなかった。普通に俺が本の存在を教えて、普通にアルゴの攻略本をみんなで読んで、普通にディアベルがこの本に感謝の言葉を述べた。レイドリーダーのディアベルが感謝した、というのは俺としては望ましい展開だった。
 βテスターとその他大勢が対立する構造は絶対に避けなければならない。キリトとフレンドだから、というような個人的な理由ではなく、攻略を進める上でβの情報は必須なのだ。円滑な攻略のためにもつまらない謝罪要求としょっぱい賠償金のせいでβテスターが更に引き(こも)る事態だけは起こしてはならない。
 情報なんかよりも人材のほうがよっぽど大事だということを、不思議だが誰も知らないらしい。

 そんな中、噛みつくんじゃないかと密かに俺が懸念していたキバオウは、何故かディアベルの言葉に対して反論しなかった。人の話を聞かないような印象を最初は受けたのだが、ひょっとすると議論する能力は有しているのかもしれない。

――そうだったら、なんとかなるな、案外。……少なくとも、この最前線(、、、)では。

 しかし今は前を見るときだ。それこそ、最前線である第一層フロアボスのインファルグを見るとき。その先――遠い未来――を見ることは得策ではない。未来は今の積み重ねから成る。だったら今を全力で戦えば最善の未来に辿り着くはずだ。そうだ、みんなおっかなびっくりだが現状を変えようと動いているんだ。アルゴは危険を冒してまでもβの情報を公開した。ディアベルもβテスターとの融和の道を示した。必ず、必ず近い未来に、このプレイヤー間の問題は解決されるはずだ。

 アルゴの攻略本により推敲されたディアベルの報告が終わったところで、インディゴが大きな欠伸をしたところで、今は懐かしき質問にディアベルは答えてくれた。サブリーダーの件だ。

「それで、昨日のスバルさんの案件……サブリーダーのことだけど、スバルさんの言う通り、オレの仲間のリンドをレイドのサブリーダーにしたいと思う。と言っても、オレの知り合いだけで責任職を占めるのはやっぱり良くないと思うから、参謀職、というか御意見番を置きたいと思う」

 そう言うと青色の騎士(ナイト)はエギルを見て俺を見て、最後にキバオウを見た。――いやいや待て待てディアベル、君それ収束できるのか?
 ディアベルは俺の予想を裏切らなかった。悪い意味で。

「御意見番としてエギルさん、スバルさん、キバオウさんを推薦したいと思う。勿論、御意見番以外の人も発言をしていいよ。むしろオレとしてはそっちを優先したい。まぁ、この御意見番という職はあくまで身内で固めたくない、っていうことだから深く考えないで欲しい!」

 遠回しに、名誉職しませんか、と誘われているのか。それならば俺は構わない。実際、平戦闘員がリーダーに意見を言うのは度胸がいる。直接リーダーに文句を言うことに対し渋るプレイヤーは少なからずいるだろう。俺達こと御意見番はその間のワンクッションとして振る舞えばよいということだ。ならばむしろ、キバオウの思想を変えβ問題の解決の取っ掛かりにさせるチャンスともいえよう。

 エギルと俺とキバオウは全員この(ロール)を請け(たま)わった。その後、リンドを含めお互い簡素な自己紹介した。彼らの性格を吟味するなら、エギルは頼れる兄貴分といった印象、キバオウは自己と灰汁(アク)が強い印象、リンドは……特に印象はない、個性がないというべきか。こう言うのもなんだが、御意見番を設置するのも頷ける。

 主要人物に纏めたところでちょうど、実は続いていた騎士様の言葉により俺は個人的な深刻事態に追い込まれる。

「――それじゃ、早速だけど、これから実際の攻略会議を始めたいと思う! 何はともあれレイドの役割分担もできないからね。みんな、まずは仲間や近くにいる人と、パーティーを組んでみてくれ!」

 そんな言葉に俺は反射的にううっという音になっていない声を出す。見れば周囲には既に六人パーティーがちらほら出来ている。当然だ。元々フルパーティーで参加していた人達がほとんどなのだろう。つまり、ソロであった俺は孤立しそう。

 最悪の事態、ガチぼっちからの余り枠に押し込められる、は役職持ちとして絶対に避けたい。その為には、柄ではないのだがナンパまがいをしなければならないようだ。

「インディゴ、俺達仲間だよな? 親友だよな? 最後の日まで、ベストフレンドだよな?」
「え? う、うん。フレンドではあると思うわよ? というかこの為に組んでたんじゃないの?」

 なんと。ディアベルの班に入るばかりと思っていたが、どうやらそうではないらしい。ディアベルの班を見れば確かに、既に六人(フル)いるのが確認できる。杞憂だったかと安堵の息を吐く。しかしこれでは一人ぼっちが二人ぼっちになっただけだ。御意見番という職があるのに寂しいパーティーを組むのは避けたい。割と本気で思う。エギルを誘うことも(御意見番の役割的にパーティーは分担したいので)できない。同様の理由でキバオウもだ。となるとどうしようか……と思ったらインディゴが。

「ププッ。ねぇ、候補がいないんならあそこの人を誘ったら? なんなら私が行くけど?」

 そう言われて噴き出すインディゴの指さす方向である左を見ると、灰色コートの片手剣士――キリトがこちらを顔ごと向けて、まるで救いを求めているような哀れな表情で凝視していた。

――ああ、そうだった。キリト参加するんだったな。キリトのことは割と本気で忘れていた。

 こうして俺のフレンドが二人、フレンドであるキリトの連れが一人、そしてレイドで余った一人が俺のところに入った。パーティーメンバーは、リーダーのスバル、フレンドのインディゴとキリト、キリトの連れの少女【Asuna】――アスナ、そしてソリスト(ぼっち)の【Gear】――ギアという男の子、の計五人だ。
 見れば俺のパーティーにだけ女性が、しかも――アスナはフードを深く深く被っているのでパッと見では性別はわからないのだが――二人いる。まぁ、むしろこういう性別で孤立した場合は普通同性同士でつるむのが多いだろうし、結果だけ見ればそう大して珍しい現象ではないだろう。

 レイド自体は六人パーティーが六個、五人パーティーが二個とバランスのいい形だ。ちなみにキバオウとエギルのパーティーは六人だった。彼らは人口密度の高い前列にいて俺はスッカスカの後列にいたからこの差は仕方ないといえよう。仕方ないのだ。決してこれが人望の差というわけではないと俺は信じたい。

 さて、パーティーが決まったあと、我らが騎士(ナイト)ディアベルは口だけではないことを実務面にて証明した。各パーティーをAからHまで定めて、防御力の高い(タンク)部隊を二つ。高機動高火力の攻撃(アタッカー)部隊を三つ。長モノを装備の支援(サポート)部隊を二つ。そして我らがH隊が担当する最後の役割――POPするコボルトを本隊に近づけさせない殲滅(クリアリング)部隊を一つ。
 俺としてはH隊の役割はメンバーから見ても効率的で適したものだと思うが、細剣使いアスナはそうではないらしくそこそこ怒っていた。キリトもおっかない人を連れている。なんだかクラインといいアスナといい、キリトのフレンドは一癖も二癖もあって一般的人間の俺としては肩身が狭いものだ。

 と、一応の役割と冗談も決まり、話し合いの輪を組んで自己紹介タイムとなった。まずは俺から右回りに。


「んじゃ、俺の名前はスバル。このパーティーのリーダだな。武器は手甲剣のジャマダハル、所謂アサシンだ。他の部隊と比べれば余裕があるから楽しくやろうぜ。GoodLuckHaveFun(よろしく)

「次は私ね。私はインディゴ。スバルとはデュオしているわ。武器は片手剣にカイトシールド、つまりDPSタンクよ。宜しくね」

「僕の番だね、僕の名前はギア。手数重視のスピード系片手剣が武器で、ダメージとAGIタンクのハイブリットって感じかな。ヨロシク」

「キリト、ソロだ。片手剣のアニールブレードを使っている。ダメージディーラだ。よ、よろしく」

「…………」


 順番が最後の細剣使いは自己紹介をしようとしない。フードだから表情は読み取れないのだが『何故そんなことしなきゃいけないの?』という感情はヒシヒシと伝わってくる。困ったもので、パーティー管理職である俺としては全員のプレイスタイルを知っておきたいところなのだが、教えないと言われたら強制もできないのでお手上げだ。
 キリトがせめて、といった感じであたふたしながら武器と戦闘スタイルを教える。それを苦笑しながら微笑ましく見る三人であった。

 その後、暗くなり街灯が灯り始めたころに俺達H隊の会議、自己紹介ぐらいしかない簡素な会議が終わった。他の部隊はまだ会議をするようでレストランなり酒場なりに固まって移動している。俺はパーティーリーダ兼御意見番としてどこかに参加しなきゃいけないだろうかと思ったが、リーダー会議なども第一層ではしないらしい。最初期はそれぐらいの緩さでないと人が集まらないのだろう、としみじみ思う。

 偽物の暗い青空に見える一等星らの下、俺の解散という一言により五人パーティーはばらばらに別れた。俺とインディゴ、キリトとアスナ、ギアの三組がばらばらに別れて。しばらく歩くとインディゴとも別れた。別にコンビだからと言って同じ宿に泊まっているわけではないのでそれは分かっていたことなのだが、いざ別れる時となると「ああそういえばそうだったな」とつい聞き取れないほど小さく言葉に出してしまう。

 インディゴと別れ、懐かしの悪趣味レストランに入る。カランカランと聞きなれた音を聞き流す。店内は汚れたランプによって鈍い光に包まれていた。昔は好きだったこのレストランの妖しい雰囲気に、今の俺はどことなく物足りなさを感じ、ふぅっと深い溜息と伴に椅子に腰かけ、首をコキコキ鳴らしながら、暗い性格をしてそうな店主に「いつもので」と料理を頼んだ。

 数秒後、星がまだ少ない夜のトールバーナにて、一つ驚愕の絶叫が響いたのは、言うまでもないことかもしれない。


 
 

 
後書き
正直まだボス戦に行かないのかと私も思っていますが、やっぱり第一層の醍醐味は、仮想世界に現実色が色濃く残っている点だと思いますので仕方ありませんね。ごめんなさいね。

感想は私にモチベーションと練磨をもたらします。些細なことでもいいので、気軽に感想をくだされば幸いです。
良い点を書いてくれた方は天使のように思います。その言葉に救われます。
悪い点を書いてくれた方は神様のように思います。その言葉を信仰できます。
ではまた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧