| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

【IS】例えばこんな生活は。

作者:海戦型
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

例えばこんなものはもう訓練ではなくて決闘だろ

10月20日 俺とオウカの運命の日

鋭角的でどこか鬼や鮫をイメージさせる攻撃的な意匠の装甲。
破壊と熱、そしてプロメテウスによって齎された神の炎を象徴する赤。
人ならざる不気味な威圧感を放ち、見る者を射抜く四眼(クアドラプルアイ)
UR規格型万能戦闘ISシリーズ『ヴァルシオン』2号機ヰ型、ペットネーム「ルーシィ」。
専属操縦者、リューガ・ゾルダーク。

それと相対するは、奇しくもリューガの作り出したISを駆る者。

しなやかで、しかしどことなく鎧武者を彷彿とさせる装甲。
闇と影、人の可視領域の最果てと有罪を示す罪深くも妖しい神秘の彩色、黒。
その身体から漏れ出す桜色は見る者を魅了する美しさを持つ。
通常規格専用戦闘IS『桜花(オウカ)』。
専属操縦者、真田悟衛門。


2者とも戦いの場でメディアに露出するのは初めての出来事であり、IS業界の裏ボスと称されるゾルダーク技研の跡取り息子と第2男性操縦者の激突は世界から注目を集めていた。

「私は話に聞いただけなのですが、リューガさんはそれほどにお強いのですか?てっきり技術屋専門なのかと・・・」
「アタシもそう思ってたんだけど、どうやら全然違ったみたい」
「どちらが勝つのだろうか、この戦いは・・・・・・」

箒の疑問は最もだった。専用機持ち達は全員が既にIS操縦者として新たなステージに立っているにも拘らず、リューガとルーシィはそれすら圧倒して見せた。その強さの秘密を知っていそうなのは、いつの間にか弟子入りしていた簪くらいである。

「簪、何か情報をくれないか?」
「UR企画のISは・・・・・・そもそも、通常の篠ノ之型ISとは、形式が異なる。あのISのコアは、博士ではなくリューガ先輩のお父さん・・・ビアン博士が作った、万能戦闘用の特別製・・・・・・」
「そうか、元来ISは人の心を理解するために姉さんが用意したもの。純粋な戦闘用を想定していたわけではない・・・」
「じゃあルーシィは戦うために生まれてきたIS・・・・・・?」

それは少し、哀しいような・・・と思うシャルだったが、ルーシィという人格がある以上はその意思も尊重しているのだろうと思い直す。

「ISコアが一度に放出できるエネルギー量が、通常コアとは異なる。通常の篠ノ之型ISだとコアから直列でエネルギー経路が繋がっているけど、UR規格はそのエネルギーをさらに増幅させるシステムを組み込み・・・その膨大なエネルギーによって、ヴァルシオンの規格外な装備と馬力を実働させている。単純計算でも、スペックは平均的な第2世代ISの・・・・・・」
「「「「「ISの?」」」」」


「10倍以上・・・・・・リミッター付きで」


全員絶句した。ちなみに、リミッター解除状態では日緋色打鉄でも勝ち目があるか分からないそうだ。あの人は一体何と戦う気なんだろうか?そう疑問に思わずにはいられない。一夏は密かにヴァイスに質問した。

(・・・なぁヴァイス、白騎士ならスペックで勝てる?)
『・・・・・・白騎士は、UR規格の型落ち。ゾルダーク博士に”及第点”を貰ったISフレーム・・・束母さんが今、本気で戦闘用を作ればギリギリで届くかも・・・ってレベル』
(衝撃の事実過ぎる!?)

束の師匠ラスボス説、浮上。



 = =



試合が始まった。片や緊張で言葉が出ず、片やもう話をするつもりもない男達。
そしてそんな男達のために剣を振るう2機のIS。

残像が残るほどの超スピードで斬り込んだ桜花の”散華”を出迎えたのはルーシィの持つ巨大な剣”ディバインアーム”だった。その瞬間、オウカは自分がこの斬り合いに乗ると間違いなく押し負けることを悟り、ゼロ距離で腕部内蔵のグレネードを惜しげもなく使って離脱した。
爆炎による攻撃および目くらまし、そして行動の制限を狙っていたが、離脱の瞬間にキィン、と甲高い音が鳴り桜花のバリアが切り裂かれる。咄嗟の斬撃であった筈のそれはしかし、きっちり絶対防御を発動させてエネルギーを削っていた。

余りにも鮮やかな太刀筋に、ゴエモンは冷や汗をかく。身体能力や集中力が人間の域を超えつつあるゴエモンの動体視力でさえ、その剣がいつ振るわれたのか認識できなかった。オウカの焦りも伝わってくる。

「良い判断だ。そのままぶつかれば損害はそれで済まなかった。俺の予想ではパワーで押し負けて今の3倍はダメージを受けていただろう」
『操縦者と繋がっていないくせに勘がいい・・・対象の評価を更新』

無表情で淡々と語るリューガさん。正直ターミネーターみたいで怖い。そのリューガさんにつき従うルーシィもこれといって心の乱れは見られない。なのに、その迫力だけが押し寄せる。

「・・・こ、呼吸が止まるかと思った・・・!」
『くうっ・・・ブリュンヒルデと同じ速度で吶喊したのに!?』

全く以て生きた心地がしない。俺はISを動かしてる訳じゃないから尚更だ。
俺は今の今までこの戦いを他人事のように考えていたのかもしれない。だとしたらそれは駄目だ。全然ダメダメだ。今までも練習試合だのは散々付き合ってきたが、リューガさんから感じる気迫が違う。あれは猛禽類か肉食獣の目だ。ケダモノアイズだ。のんびりしてると容赦なく喉を掻っ切られてしまう。

「確かにブリュンヒルデを参考にしただけあって速いな。しかしゴエモン君という荷物のせいで100%ではない。ついでに言えば君が剣を使う以上、あの人を参考にするであろうことは予測が出来ていた。他にも可能性のあるパターン11通り、フェイントから派生するパターンを7通り、先制攻撃を仕掛けずカウンターを狙う動きが5通り、高速機動でかく乱する戦法でその場を離脱するパターンが9通り・・・」
『・・・うそ・・・全部読まれてる・・・!?』
「オウカの”八紘一宇”は確かに正確にして緻密だ。だがそれまでの戦闘を見れば動きをIS使いの中でもヴァルキリークラスの物を多用してくるであろうことは最初からわかりきっていた。そこから動きを逆算すれば、こんなものだ」

何でもないように平然としているリューガさんだが、スパコンより化物染みた予測だ。本当にオウカの手の内を完全に読んでいるらしい。そして恐らくこちらへの攻撃パターンも、夥しいほどに用意しているに違いない。それを戦いの為なら平然とやる。そう思わせる本気があった。

膝を曲げ、地面すれすれを滑る様に距離を詰めるルーシィ。戦いを目の前で見せられるのも勿論怖かったが、これは違う。―――俺とオウカを全力で叩き潰そうとしている。暴力的なまでの殺意が込められた白刃が迫る。
負けじとオウカも気迫を返す。ジェーンとの喧嘩で目覚めた闘争の意志は折れていないらしい。

『・・・まだ、まだぁッ!』
「そうだ、簡単に諦めるな」
『そして絶望の眼をしかと見せよ!模倣の力で得た贋作など、我が究極の力には無力!!』

剣と剣がぶつかり合う。いや、傍から見ればそう見える。だが実際にはオウカは全力でディバインアームを弾き飛ばそうと最適な動きをしているのにルーシィが打点を的確にずらしながら迫っているに過ぎない。桜花幻影のバリアを大量に纏わせているにも拘らず、その威力を以てしても受け止めるのが精いっぱいだった。

無論それで終わるオウカではない。あらゆるIS戦闘における剣撃戦のデータを基に次々にモーションを変えてリアルタイムで動きを書き換えながら剣を振るっている。しかし、リューガさんとルーシィには通用していない。それは彼の事前対策もあったのだが、そもそもリューガさん自身が強いのだ。
そういえばお父さんに小さい頃から戦闘訓練受けてるってこの前言ってたな。ますますリューガのお父さんの人間性が疑わしくなってきた。


『・・・ならっ!!”桜花幻影”、フルドライブ!!』

―――と、オウカが切り札を切った。装甲の隙間から、バリアの表面から、散華の刃から、オウカの全身から桜吹雪の様なエネルギーが噴出する。瞬間、オウカの身体が恐ろしい速度で移動を開始した。急加速、急停止、急速転回、曲線軌道、螺旋軌道、おおよそISで考えうる三次元機動の全てを使用した超変則軌道戦法。

この花弁には流石のリューガさんも・・・だと考えたんだが。俺はそこで絶望的な事実を思い出してしまった。

「あ、そう言えばこの装備作ったのって・・・」
「そう言う事だ。ルーシィのセンサーには既に対策がしてある」

全身を強かに打つ衝撃。ルーシィの腕部からビームのようなものが発射され、”それが発射後に方向転換して”オウカに直撃した。
桜花幻影がフルドライブ状態だったのが幸いしたか、そのビームのようなものの威力は放出される桜色のエネルギーによって少しばかり減退したみたいだ。

『偏光制御射撃!?いや、違う!発射後にリアルタイムで追尾する・・・そういう兵装だね!!』
『答える義理は存在しない・・・さて、これで私が』
『まだ!高々シールドエネルギーが200ほど減っただけだもん!』
「ならこの重力衝撃波に耐えられるか!?」

ミチリ、と、空間が押し潰される音が響く。
瞬間、ヴァルシオンの周囲の重力が異常加重されてアリーナの地表が広域にわたって陥没した。
それは最早AICすら遙かに凌駕した紛れもない重力制御技術。
現行ISでは近付くことすら許されない領域だった。

黒い重力場の中心に佇むヴァルシオの目の前には、その重力で地面にたたき落とされたオウカの姿があった。地面からゆっくりと這いだし、未だ闘志を燃やして散華を構える。
だが、仮に刃が届いたところでヴァルシオンは揺るがない。何故ならば訓練の時点で使っていたバリアの突破方法がないからだ。
その名は、歪曲フィールド。空間そのものを歪めて形成する最強の防壁である。
URの意味する「究極」を冠するに相応しい、圧倒的な力。

「それを前にしてまだ立つか。いや、大したものだ」
『・・・・・・ッ、歪曲フィールドだって、万能じゃない!飽和状態に持ち込めば極所結晶化を起こして強度が低下する!そこを突けばいいもんッ!!』

勇ましく吠えるオウカ。未だ本気で勝つつもりなのだ。この子のそういう所は、本当に強いと思う・・・
オウカはいつも元気で、逞しくて、怖いもの知らずで・・・・・・


「そうか。――オウカのパートナーは戦いたくないようだが?」

『・・・!!』
「っ!!」

・・・さっきからここで震えてる弱虫の俺とは大違いだよ。



ああ、正直に言うけど・・・怖いよ。今までだって皆から銃だの剣だの向けられて震えあがるほど怖かった。オウカが護ってくれるという安心があったから、顔に出さず訓練に付き合うことも出来てた。

でも今回は違うよ。攻撃が当たるし、痛いし、次にいつ衝撃が襲うか分からない。
実力で上回る相手だ。しかも、オウカにまかせっきりの俺は何をすることも出来やしない。
IS同士の戦いって、本当はこんなに怖くて辛いものだったんだ。

リューガさんが真剣なのは、どこかで戦いを甘く見積もっていた俺への警告なんだろう。

『・・・・・・・・・ゴエモン』
「この戦いに負けたからと言ってオウカが弱くなるわけではないだろう。敗北から学ぶこともある。別にここで君がリタイアしても誰も責めはしないだろう・・・なにより、桜花幻影の花弁で今の俺達の戦いは殆ど外部から見えていないのだし」

そう言葉を投げかけるリューガさんの目には、「中途半端な覚悟で戦うな」という強い意志が込められていて、まるで今まで気楽に話していたリューガさんと別人みたいだった。突きつけられたディバインアームに反射する俺の引き攣った顔がさらに恐怖を加速させる。

怖いなぁ。手が、脚が震える。悲鳴が上がらないように我慢するのも、限界かもしれない。
逃げて良い・・・かぁ。逃げよっかなぁ。リューガさんもこう言っているし。


どうしよう、俺?
  
 

 
後書き
単純な性能差図
二次移行白式=紅椿<ニヒロ=暮桜改(機業決戦時)<桜花幻影フルドライブ桜花≦日緋色打鉄≦白狼状態ニヒロ≦リミッター付きヴァルシオン2号機<<<<<リミットブレイクヴァルシオン

大体こんな感じです。エクシードやティアーズ改、甲龍改は紅椿と同じくらいですが、あくまで総合的にはなので部分的になら越えたり劣ったりの部分が色々あります。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧