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ロックマンX~5つの希望~

作者:setuna
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第三十話 ルミネ

 
前書き
ルナがある人物と出会います。 

 
イレギュラーハンターとなると、イレギュラーの始末が仕事だと思われがちだが、そうではない。
施設の警護などを任されることも多々あり、特に重要施設ともなると、トップクラスのハンターが向かうこともある。

ルナ「…こんなもんかね」

ヤコブの管理者直々の指名を受けたルナはヤコブの警備についているハンター達からの報告書を纏めると溜め息を吐いた。

ルナ「だりぃ…」

ハンターとして出撃することもなく、文書を扱うだけの職場に早くも辟易していた。

面倒くさい。

今の彼女の現在の心境をいうならば、この一言に全てが集約されるといっていい。
絶え間なく続く事務仕事。
書類の作成。
確認。
ヤコブ計画関係の重役との今後の方針についての話し合い。
ルナの戦闘能力の凄まじさはジャンク屋時代からのジャンクパーツ収集やイレギュラーが起こした事件で得た経験により、コピー能力を持つ新世代型レプリロイドのプロトタイプでありながらそこらの戦闘型の新世代型レプリロイドを遥かに凌駕している。
彼女のその事務の能力も決して低いわけではない。
話し合いも向こう側に警戒心を持たれないように話すこともでき、信頼関係もそれなりに築いているといっていい。
だがそれでもルナの本領は戦いやパーツや武器作成等にあり、事務能力が低くないとはいえ、人並み程度なのが精々だ。
時間の大部分をそちらの仕事にとられ、ストレスが溜まり、鬱憤晴らしにトレーニングするも、つまらなさを感じる日々。
率直にいって、彼女はこの数ヶ月の間繰り返される日々に、苛立ちを感じていた。
決して表情には出さなかったが。

いつもいつも与えられる事務仕事。
1つの決断の誤りが致命的な失敗をもたらすことがある。
必要なことだとは理解してはいても、それでも嫌なものは嫌なのだ。

ルナ「大体、事務仕事なんざ…俺より向いている奴なんかごまんといるだろ…気分転換に外に出るか…」

ルナは伸びをしながら外に出た。










































高く聳える建造物に、鉄の箱が昇っていった。
宇宙まで達する建造物は人類の希望を乗せ、瞬く間に運んでいく。
箱が走る様は酷く機械的で、“希望”や“夢”など、そんな陳腐な言葉は酷く不釣り合いだ。
乗せられた物が鉄の塊であるがために一層無機質に映る。

ヤコブ計画

繰り返されるレプリロイドの騒乱により地上は荒廃し、人類は月への移住計画を進めた。
この計画のため、“ヤコブ”と呼ばれる軌道エレベーターが建造され、高性能な新世代型レプリロイド達が月面作業のために宇宙に運ばれていった。

ルナ「……地球を捨てて月に行くのか……自分達の生まれ故郷を捨てて…」

舌打ちしながら再び施設に戻る。
報告書の提出をするのを忘れていたのだ。




































真新しい床が天井からの光を反射していた。
沢山のレプリロイドが忙しなく行き交う廊下を進んで、いくつかの角を曲がった先に目的の部屋…管理官の執務室がある。

ルナ「ルミネ管理官、入りますよ」

ルミネ「どうぞ」

部屋に入ると白と紫のレプリロイドがいて、ルナは一礼をすると報告書を渡す。

ルナ「今日の報告書です。」

ルミネ「ご苦労様です。ルナ、これから気分転換にヤコブの周辺を散策しに出掛けようとしていたところです。ご一緒しませんか?」

ルナ「は?あ、はい。私でよろしいのであれば……」

ルミネ「勿論ですよ。では行きましょうか」




































軌道エレベーター・ヤコブの管理官であるルミネ。
紫色の髪と白いアーマーが特徴的な新世代型レプリロイドだ。
その彼が、今まさに密林の地平線に沈もうとする夕日を見つめながら、金色の隻眼を柔和に細めている。
時々だが、彼とアクセルがダブる時がある。
性格は正反対。
アーマーの色も正反対。
しかしあの時見たアクセルとルミネはあまりにも酷似しすぎていたからかもしれない。

ルミネ「美しい夕焼けですね。執務室からの風景も素晴らしいですが、こうして地上から見上げる夕日も素晴らしい」

ルナ「え?あ、そうですね…」

今までルナの周りにはいないタイプのレプリロイドにルナはどう対応していいのか分からないのか、視線が泳いでいる。
ルミネの瞳にイタズラっぽい光が宿る。

ルミネ「ああ、そうだ。私のことはルミネと呼んでください。出来れば敬語も使わずに接してくだされば嬉しいのですが」

少し警戒してみれば案の定、にこにこと楽しそうに笑ってそんなことを言ってきた。

ルナ「は?な、何でですか?」

ルミネ「私としてはあなたと親密になりたいのです。」

ルナ「いや、でも上司ですから…」

ルミネ「では、上司命令です。敬語は止めて下さい」

ルミネの言葉にはどこか有無を言わせない迫力があった。

ルナ「……………分かったよルミネ…これでいいか?」

ルミネ「はい………、こちらでの勤務はもう慣れましたか?」

ルナ「ああ、最初は戸惑うこともあったけど何とかな」

やはりハンターベースとは勝手が違い過ぎて慣れるのは大分かかった。

ルミネ「それは良かったです。私としては、あなたにはこのままこの施設に居て頂きたいところですが」

ちらりと伺うような目線を投げられた。
つまり、それは…ハンターから移籍しないか、ということだろうか。

ルナ「それはイレギュラーハンターを辞めてここで働かないかってことか?」

ルミネ「ええ、そうでもあります。あなたは中々の逸材ですからね。ハンターに留め置くのは勿体無い。プロトタイプということを差し引いても…それに。」

ルミネは言葉を区切って、まっすぐルナを見つめてきた。
ルミネがじっとこちらを見ている。
どこか思考の奥を見透かされているような不思議な感覚になった。

ルミネ「新世代型の私達と人間から新世代型レプリロイドのプロトタイプとなったあなた。進化した者同士、分かり合えると思うのですが?」

ルナ「え?」

一瞬だけ空気が張り詰めて、なにか薄ら冷たいものに変わった気がした。

ルミネ「どうです?」

ルナ「い、いや…何で俺を…」

ルミネ「あなたが人間を元にした新世代型レプリロイドのプロトタイプというのは聞き及んでいます。もう1人の人間からレプリロイドとなったルインのことも。」

ルナ「そ、そうか…」

進化したとはどういう意味合いなのだろう。
違和感を感じる。
何かが根本的にずれているような、隠しようのない違和感。

ルミネ「何なら、もう1人の新世代型のプロトタイプ…アクセルと言いましたか?彼も一緒でも構いませんよ?彼も一応、進化した者ですから」

ルナ「……………」

戸惑って閉口する。
ルミネは一体何を言いたいんだろうか?
違和感を抑えて、何か言わなければならないと口を開くが言葉は出ない。

ルミネ「……すみません、困らせてしまいましたね。今までありがとうございました。」

ルミネが去っていく方向を見遣り、ルナは彼の背中を見ていることしか出来なかった。
そして軌道エレベーター下り4番コンテナにて事故が発生するのはもう間もなくであった。 
 

 
後書き
新世代型同士の邂逅。 
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