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バカとテストと白銀(ぎん)の姫君

作者:相模
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騒がしい春の協奏曲
第一章 小問集合(order a la carte)
  第八話 侍女と鼻血と作戦会議

 
前書き
???「ちーちゃん、その服とっても可愛いよ?」
 

 
僕の暮らしている部屋は文月からは少し遠いが、駅に近いアパートの一室だ。
途中でみんながただで押し掛けるのは悪いからと、途中のケーキ屋でショートケーキのワンホールを買ってくれたのだが、たぶん、史も何らかのお茶受けを用意しているだろう。
けれど、折角の好意は無駄にしない方がいいだろう。
「ここに千早は住んでるんだ。」
「そうですね、千早さんはてっきり豪邸で暮らしているのかと思っていました。」
「確かに実家はそれなりに大きいとは思いますが、さすがにそのようなところで学生の二人暮らしはないと思いますよ?」
話をしながら階段を上り、三階の端にある僕の部屋に案内する。
鍵を開けると既に史が仕事着を着て玄関で待機していた。
「御帰り、お待ちしておりました皆様、そして千早様。」
そう言って恭しくお辞儀する硬い表情の少女の姿に僕以外は固まってしまった。
「妃宮さん、どうして家にメイドさんがいるの?もしかしてここメイドカフェだったりして、妃宮さんも……」
「……はっ(だばだばだば)」
吉井のバカ発言にムッツリーニ君は何を妄想したのだろうか、血の海を作り始めながらも、デジカメを取り出し……そして海へとダイブした。
取りあえず肖像権の名の下に彼のデジカメは没収させてもらう。
「そんなわけ無いでしょ吉井。」
綺麗に間接技を決める島田さんと
「吉井君はメイドさんが趣味なんですか?」
あいも変わらず天然な姫路さんと
「お前等静かにしろ。」
そう言って代表が馬鹿共を実力行使込みで黙らせる。
いつも通りだな、この人たちは。
そんなことを思いながら玄関の方を見ると掃除用具各種を用意し始めている史の姿があった。
「千早様、この方たちは大丈夫なのでしょうか。失礼ながら千早様がこのような行動をとっていらっしゃらないのか、無性に気になってしまいました。」
道具をそろえ終わりそう小声で僕に尋ねてくる史に安堵感を覚えた。
うん、こういう反応が普通だよね。
「……馬鹿ですけれど、面白い人たちなのですが、ね。」

玄関先が血だらけになっているのはさすがに許すことは出来ない。
「姫路さんの杏仁豆腐」という魔法の言葉により三倍速で掃除を始めてくれたムッツリーニ君と吉井は命がどれほど大切なのか良く分かっていると言えるだろう。
そんな二人を待つようなことはせず、他四名を先に家に上げてしまう。
その前にムッツリーニはデジカメを返せと主張してきたが、画像を示してにっこりと笑って見せたら断念してくれた。

だってね、下アングルからの僕の写真が一番新しいのものとして記録されているんですよ?
性別の問題の上に、何故か無性に恥ずかしく感じたのは人としての尊厳から来たものだと思う。そうしよう、そうしなければ僕は発狂するだろう。

話を戻す、僕の家には椅子が四脚しかないのに来客は六人になるということを伝えていたところ、史が八畳ほどの和室のところに足の低いテーブルと座布団を配置してくれていた。
リビングの方に荷物をおいてもらって、和室で会議をする。
会議だからギュウギュウで無ければよかったのだが、それなりにくつろいで貰えそうだ。

史の仕事は卒がないね。
当然です。
目線でそんな応酬をしながら来客がそれぞれ思い思いに座ってくれるのを眺めていた。
「Bを狙うとCクラスから援軍がくるっていうのは辛いわね。」
「間違いないんだとすると、勝機は薄いと思いもうんですがそれでもBクラスをねらうんですか?」
「そもそもC組と停戦じゃとかBと不可侵の取り決めとかは無理なのかのぅ?」
女子組(一人男子混じる)からの質問が坂本に投げられる。
「Bの代表を考えろ、彼奴はさっさとリタイアさせないと面倒だろ。」
B組の代表、根本恭二は背中に「卑怯・卑劣は弱者の妄言」という座右の銘が掲げられていると評判の溝池野郎、らしい。
作戦会議をさっそく始める四人の声を、僕はキッチンで聞ききながらお茶の用意をしていた。
手を動かしながら、昨日聞かされた録音を思い出していた。
『もちろん、その先の判断は友香に任せるよ。なんたって俺はお前のことを信用しているからな。じゃあ、俺は先に出るから友香はすこし時間を空けて出ろよ。』
『分かってるよ。』

時間を見るとそろそろ蒸し終わりの時間だ。
氷の入ったグラスを用意しながらぼんやりと思う。
どうしてそんな卑劣な男に友香さんが味方するのか、不思議に思っても気にするだけ仕方がないのだろうか。
「そうですよね……、喧嘩に刃物はデフォルト、みたいなことを言っていたとか聞きますよね。」
ポットから茶葉を捨て、シュガーを入れてかき混ぜてから、自分と史の分を含めて八つのグラスに紅茶を注ぐ。
「Bだけなら正面突破でごり押し、っつう手もあるがCからの援護のせいで難しいだろうな」
史の方を見ると丁寧にケーキの切り分けをしていた。
ケーキを切るときに一カット毎に包丁を湯に漬けなおしてやっているというのに、全く無駄なくやってくれている。
生クリームでそれぞれのグラスの水面に膜を作り、その上に牛乳を注ぎ、仕上げに抹茶を牛乳の層に一匙。
最近のお気に入り、「二層のロイヤルミルクティー」を作り終える頃には、あらかじめ用意していたらしいクッキーを付け合わせに皿の盛り付けまでしてくれていた。
「妃宮さん、玄関掃除終わったよ。」
玄関口からは吉井の声が聞こえる、皆さん手際が良いですね。
「私が見て参ります。」
「ありがとう。ってちょっと待ってちょうだい。貴女は頂かなくて良いのかしら?」
ケーキは綺麗に七等分されている、つまり史の分が一つ足りない。
史に直接お嬢様言葉を使うのは何とも気恥ずかしいが級友たちの前では構っていられないだろう。
「私はこちらがありますので。」
そいって無表情のまま冷凍室を開いて見せる。
スーパーの袋に入ったままに成っている5、6個のビスケットアイスに納得してしまう。どうも大好物を買い込んでいたらしい。
失礼しますと言い残して玄関に向かう幼なじみに呆れながらも、微笑ましく思っていると誰かが近づいてきた。
「妃宮よ、手伝った方がいいじゃろうか?」
先ほどのデジカメの容量の半分を占めていた秀吉君であった。
「そうですね……ちょっと待って下さい、手伝っていただけるなら直接持って行って頂きたいので。」
ケーキの載った皿と紅茶の入ったグラスを二つの盆に一セットずつ乗せる。
「綺麗じゃの、どうやったらできるのじゃこれは?」
そういって二層の紅茶に驚いてくれる秀吉君に、作り方を軽く話す。
「皆さん、お待たせ致しました。」
それにしても和室で紅茶っていうのも不思議な気分だが、仕方がないだろう。



「それで、どうやってBCを弱らせるかってことなんだよね?」
掃除に対する史からの指導が更に入ったらしく、くたくたになっていた吉井とムッツリーニもご褒美がわりのお菓子と紅茶ですっかり回復していた。
「代表、私が考えるに小山さんを欺いてBクラス、またはAクラスに攻め行ってもらうのが最上かと。」
片づけも終わり、会議に本腰を僕も入れ始めた。
「そうだな、対BC連合戦はいくら姫路と参謀が強くとも無理だ。そうなりゃ敗北が早いか遅いかのどっちかだろう。」
一応そうなったときの打開策は考えているがな、と付け加えながら代表殿は顎に手を当てながら考えている。
「でもCにBかAを攻めさせつもりなんですよね、どうするつもりなんですか?」
「そうよの、Aクラスに挑むなど本来は無謀じゃからの。それに小山と根本は付き合っているというのが専らの噂じゃしのぅ。」
「よし、是非小山さんには根本君を裏切ってもらおうよ。」
「……リア充には制裁を。」
笑顔の吉井と殺る気満々のムッツリーニ。
「?」
堅い顔のまま僕の隣に座っている史が不思議そうに彼らを見ていた。
本来、このような男の醜態を見る機会など無かったであろう彼女にとって彼らの行動は未知で不可解なのだろう。
かく言う僕も、いまいち理解が出来ていないので偉そうなことは言えないのだが。
「吉井、ウチらの目的忘れちゃだめよ。今はどうやって根本を叩き潰すかじゃないの。」
「美波ちゃんはどうしてそんなに興奮しているんですか?」
「彼氏にしたくない女子ランキングに入れられたのは元々彼奴のせいだからよ!」
こちらはこちらで本当に素直なことで。
「こほん、話を戻します。代表、私はCクラスをAクラスに攻め込むのが現時点で最良で、一番手間が無い楽な方法かと考えます。」
「そうだな、俺もそれが一番だと思う。」
「待つのじゃお主等、何故それが一番なのじゃ?Eクラスと同盟を結ぶという手は下策かの?」
秀吉君に待ったをかけられる。
攻防どちらの前線の指揮官を任されるだけあって次の戦いにおいての良手を考えていたようだ。
しかし
「「却下だな(ですね)」」
「何故じゃ、そっちの方がよっぽど現実的じゃろ!!」
「そうですね、Eクラスとの同盟ってお前等はCクラスに攻められるぞと言い含めれば組むことが出来そうですがどうして却下なんですか?」
姫路さんも考えていたのだろう。
「参謀、説明を頼む、端折るところ端折れ。」
「……そうですね、畏まりました。」
うん、代表は決起するに当たって嘘を理由の一つにしていましたからね。
「まず、Eクラスを味方にしたところで頭数が増えるだけですし、対等同盟をしたとしても、戦争はEクラス主導の形に成ってしまうのは不都合です。Eクラスを攻め落として、こちら有利の同盟を組もうとしても攻めている間にBC連合に叩かれれば一貫の終わり、だからでしょうか。」
そこまで言い切って秀吉君と姫路さんにどうでしょうと聞く。
唸っている秀吉君とそうですねとつぶやいている姫路さん。
「そうだとするならどうやってAクラスに攻め込ませるのさ。」
吉井の発言に代表が待っていましたとばかりに一人を指した。
「秀吉が罵倒すればそれで終わるからな。」
「……というとCクラスはドM集団と言うこと?」
やっぱり吉井はとんでもない馬鹿だ。半分ほど願望が混じっているではないかと額を押さえる。
「違いますよ、聞けば秀吉君はお姉様に良く似ていらっしゃるとか。」
「……その手は…、いやじゃの……」
「ですがそれが一番簡単なのです。」
どういうことだと目をぱちくりとさせている吉井はもう放っておこう。
いちいち教えるのも面倒くさくなってしまった。
「秀吉、俺としてもその方法が一番ありがたいのだが。」
「仕方ないのかのぅ……」



集まっていた彼らもそれぞれの帰路につき、僕ら二人だけになっていた。
さっきまでの騒がしさが嘘だったかのように静かだ。
今僕は自分の部屋で何となく勉強をしていた。
勉強することも生活の一部になりつつある。
「千早様、よろしいですか。」
「あぁ、史……どうぞ入って。」
「失礼致します」
「…どう、だった?僕の演技は」
「少なくとも史からは完全な女性に見えました。というか正直驚いています……千早様の意外な特技を発見した気がします。」
「び、微妙に褒められていないような気がするけれど……まあいいか。」
そうか、史は覚えてないんだ……それはそうかもしれない。
「もうすっかりお化粧も板について、ある意味拍子抜けな感じもしますね。」
「苦い悪夢を思い出させるのはやめてくれないかな、史。」
「史には奥様の、活き活きとした笑顔しか思い浮かびませんが。」
「だから、それが悪夢なんだって……」
編入する前にあった女性の所作を取り戻そうとか言われながら受けた母さんの講義、思い出すだけで苦虫を噛み潰したような感じになる。
「くっ……」
「……ご心痛、お察し申し上げます。」
「何でだろうね、史に労われるといっそう切ない気分になってくるよ。」
申し訳ありませんという型どおりの答えが返ってくる。
人間、直らないものの一つや二つあるが、この子の物言いもそういった一つだと思って諦めているし認めている。
だからといってそれを受け入れられるほどの寛容な心は、まだ僕には出来ていない。
「今日、いらした方々に対して千早様は随分と御気を張っていらっしゃったようにお見受けしました。」
「そうだね、ばれないようにと気を張る上に参謀になんて任命されちゃったからね。」
「ですが以前よりも明るくなられたかと史は思います。」
「そう……だといいのだけれど。」
失礼しましたと言い残し史は部屋を出ていく。




彼は部屋の姿見に自分の姿を映しながら、何事かを考えていた。
彼は鏡の中に映る自分の顔に手を当てながら、小さくこう零した。
「…千歳さんなら……、本当に何も気にせず楽しめたのだろうに、ね。」
寂しそうな表情の彼の心中を知る者はない。
「さぁ、寝よう。僕に話がある人が居るみたいだしね。」
明るく振る舞う彼を、鏡の中の彼女には、ただ黙ってみることしかできなかった。

……彼女?

 
 

 
後書き
問題
現代文

次の漢字の読み方、意味とこの漢字を使った例文を書きなさい
奇異

妃宮千早の答え・読み「きい」意味「普通と異なること、変なこと」
用例「Fクラスの皆さんは世間一般の常識から考えれば、失礼ながら奇異と言わざるを得ない。」

教師のコメント
正解です、また例文に関しては先生も大いに同意します。

島田美波の答え・読み「きい」意味「猿」例文「吉井は奇異だ。」

教師のコメント
島田さんはドイツ育ちとだけあってやはり難しかったでしょうか。
例文は本来の意味でもあっていますが、やはり正しい意味を押さえておいてください。
そうとは言え、島田さんの定義だと妃宮さんの答案がまさに的を射ていると言わざるを得なくなりますね。
 
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