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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos47律のマテリアルO/氷災の征服者~Oighear The Fearbringer~

 
前書き
アイル・ザ・フィアブリンガー戦イメージBGM
魔法少女リリカルなのはA's-GOD-「精神世界」
http://youtu.be/Q7ZRcrvPOBs
 

 
†††Sideルシリオン†††

残滓であったプリメーラをひとり残し、俺は両脇にアミティエとキリエを抱えて空を翔ける。プリムと砕け得ぬ闇が戦闘を開始したのか、とんでもない魔力波が後方から何度も襲ってくる。

「こちらルシリオン。アミティエとキリエ、フローリアン姉妹の確保に成功した。共に深刻なダメージを受けている模様。アースラへの転送を願いたい」

『判った! そのまま臨海公園へ向かって!』

アースラに繋げた通信に応えてくれたアリシアから指示を受ける。俺は「了解だ」と応じて通信を切る。ここでキリエが「ごほっ、ごほっ、放して・・・!」俺から離れようと身動ぎを始めた。それを止めるのが「もう、やめなさい、キリエ」彼女の姉であるアミティエ。

「悪いようにはしない。きちんと負った傷も治そう。だからもう、無茶はするな」

「U-Dの突進を受けて、あなたの体内は酷いことになっているはず・・・」

俺に続いてアミティエもそう諭すと、キリエもそれが解っているからか身動ぎを止め、大人しく俺の腕に身を任せた後、2人の意識が途切れた。張り詰めていた緊張の糸が切れたんだろう。
そうして臨海公園へ到着した俺たちは、そこから転送されてアースラへと乗艦することに。大人数を一度に転送させるためのアースラのトランスポーターへと着くと、「お疲れ様だ、ルシル」労いの言葉をかけてくれたクロノと、ストレッチャー2台を用意していたティファレトの他、女性看護師2人、計4人が待機していた。

「状況は?」

フローリアン姉妹をそれぞれのストレッチャーに横たえさせながらクロノに訊ねる。クロノの側にはモニターが1枚展開されている。おそらくさっきまでのことを観ていたんだろうと判断しての問いだ。

「君と一緒に居た残滓と思われる女性だが、つい先ほど砕け得ぬ闇――システムU-Dの攻撃を受けて消滅した。彼女は、君の知人か・・・?」

「・・・ああ、とても大事な女性だよ」

俺はそう詳しく答えなかったがクロノはただ、「そうか」と一言だけで話を切ってくれた。その気遣いに「ありがとう」と礼を言う。そんな中、「クロノ執務官。少しお話が」とティファレトがクロノへと歩み寄った。

「私の治癒はあくまで人間――ひいては肉体を持つ生物にのみ作用する力です。ですが、彼女たちはどちらかと言うと・・・」

言い淀んだティファレト。アミティエの折れた腕の断面から覗く機械部品を見て考える仕草を取るクロノ。俺はそれを黙って見ている。とここで「ドクターに協力要請する?」と声を掛けて来たのは、アクアブルーの長髪を揺らしながらこちらに歩いて来ているシャルだった。

「モニターで観てたけど、アミティエさん――というよりはフローリアン姉妹ってどちらかと言えばドクターの分野だと思うんだけど」

ドクター・ジェイル・スカリエッティ。人と機械を融合した存在である戦闘機人を、5番のチンクまで製造を終えて活動させている。確かに、フローリアン姉妹の体を見る限り人間ではなく戦闘機人寄りだ。治すと言うよりは直す、の方が正しいだろう。しかし、本当にあの男に任せていいのかどうか不安だ。

「そうだな。第零技術部とのコネがあるなら使わない手はない。イリス、スカリエッティ少将に連絡を頼めるか」

「了解! あ、ルシル。あとで話があるから、ちょっと付き合って」

シャルは最後に俺をジロリと睨めつけた後そう言い放って、本局は第零技術部へと通信を繋げた。彼女の背中を深い溜息を吐きながら見ていると、「頑張ってくれ」とクロノが俺の肩をポンポンと優しく叩いた。ダメだ、クロノ。絶対に俺、ストレス性胃炎、そこから胃潰瘍になる。だってもう痛むんだ、胃が。

「ああ、うん、じゃあよろしく。うん、それじゃ。・・・ふぅ。フローリアン姉妹のことを伝えたら、ドクター、2人を第零技術部へ連れて来てくれって」

不安だが、実際に戦闘機人のようなフローリアン姉妹を完全に治せるのはおそらくスカリエッティだけだ。ここは預けるしかないだろう。クロノはシャルに「判った。ありがとう」と礼を言った。

「それじゃ僕はフローリアン姉妹とティファレト医務官を連れて本局へ向かう。ブリーフィングはモニター越しにしよう」

そう提案したクロノに「俺も本局へ連れて行ってくれ」と申し出る。スカリエッティの監視をしたい、とは言えないが、「頼む」とクロノに願う。するとクロノは「判った。ルシルも一緒に来てくれ」と承諾してくれた。

「ちょっと待って。あのさ、ルシル」

今すぐにでもこの場から離れたいと思っていたら、やっぱりシャルに声を掛けられた。ピリピリとした空気だ。フォルセティ関連のことなんだろうと思う。だから「普通に考えれば変だろ。23歳の頃に子供が居るなんて」と先手を打つ。

「その歳で10歳の子供を持つには、13歳の頃には出産をしていないといけない。ないわぁ。考えられない。それに、そのフォルセティという子、俺と瓜二つらしいじゃないか。もし万が一、億が一、兆が一、俺とはやてがそういう行為に至って、子供が出来たとする」

なんて馬鹿な会話なんだろう、と泣きたくなってきた。9歳の子供になに言ってんだ、と。シャルは「???」と若干理解していないような表情だ。子供を作る行為についてはまだ無知なんだろう。前世のシャルが出てきて、イリスに教えませんように。だが、クロノは「コホン」と咳払い。耳が赤いところを見ると、知っているな。

「だったら俺とはやての見た目を受け継いでいるはずだろ? なのに、俺と瓜二つということは、普通の生まれじゃないと考えられる。となると・・・」

「??・・・あっ、プロジェクトF.A.T.E・・・!?」

「っ!?」

シャルどころかクロノまでが驚愕に染まる顔を俺に向けてきた。俺は「あくまで可能性として、だけどな」と最後に付け加えた。フェイト、エリオ、ヴィヴィオ。スカリエッティの技術で生まれた子たち。富豪とは言え一般家庭のモンディアル家ですらもプロジェクトFと繋がりを持てる。高確率でプロジェクトFによって生まれた1人だろう。

「というわけで、俺とはやては絶対にそういう関係にはならない。高町ヴィヴィオという子もまた、クローンと思う。これでいいだろ、シャル」

「それは、うん・・・。でも、プロジェクトFがまだ続いているなんて・・・」

「ルシルの推測が事実であるなら、このことはフェイトには黙っている方が良いな」

「ああ」「うん」

こうして、俺とシャルとクロノだけの秘密が生まれた。その約束も10年後には自然に破棄されてしまうが。そして俺とクロノ、ティファレト、フローリアン姉妹は、本局は第零技術部のトランスポーターへと直通転移した。

†††Sideルシリオンル⇒イリス†††

クロノやルシル達と別れてひとりブリーフィングルームに戻ると、わたしが出てく前と同じままはやて達が椅子に座って待っててくれた。わたしは元の席に座って、それからシグナム達も戻ってきたところで、『みんな、集まっているか?』ってクロノから通信。ブリーフィングが始まる。

『よし、では始めよう。まず未来からの来訪者、高町ヴィヴィオ、ハイディ・E・S・イングヴァルト、おそらくと付くが、トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼック。そして、アミティエ・フローリアンとキリエ・フローリアンもまた、未来からの渡航者である、と結論付ける』

クロノがそう話を切り出すと、「アミティエさん達も?」となのはが訊き返した。そんな予感はしていたから、わたしはもう驚くこともない。クロノは頷いて、『騎士カリムの預言にあった』とそう答えた。これにはわたしも驚いた。

「カリムの預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)で出たの? 今回の事件のこと・・・!」

「ああ。本局で、ヴェロッサ経由で騎士カリムからの預言を聞いた」

「あの、シャルちゃん、クロノ君。カリムさんの固有スキルって?」

「あ、うん。カリムはね――」

すずかの疑問に答えるべく、わたしはカリムの固有スキルについて話す。預言者の著書プロフェーティン・シュリフテン。最短で半年、最長で数年先の未来を、詩文形式で書きだした預言書を作成するという能力。だけど、発動条件も厳しく、的中率もさほど高くないってことになってる。でも実際は、的中率の低さは解読ミスによるところが大きい。古代ベルカ語の中でも特に古い言語だからね。

『預言書にあった、未来からの来訪者、運命を変革する者たち。つい先ほどのU-Dとフローリアン姉妹の会話を、強いノイズ混じりだったがいくつか聞き取ることが出来た。時と運命を操ってはいけない、厳然たる守護者であれ。おそらく彼女たち姉妹の出現が、他の来訪者の子たちの時間移動に関係していると見ている』

その映像はわたし達もここで観ていたから頷き返す。これでフローリアン姉妹。聖王教会が崇め奉る聖王、そのうちの御一人であり聖王女オリヴィエ様とそっくりで、なのはの子供らしいけど、血の繋がりはきっとない高町ヴィヴィオ。覇王イングヴァルトの子孫と思われるアインハルト。あと外見が極悪なトーマと、その融合騎リリィ。彼女たちは未来からの渡航者だと確定。

(ヴィヴィオって子と、フォルセティって子が、プロジェクトFによるクローンだとすれば、たぶんアレらを使ったんだ)

クローンを生み出すには元になる人物の遺伝子が必要だ。思い当たる節はある。聖王教会から盗まれた聖遺物、聖王女の聖骸布、魔神の髪輪。未だに犯人も聖遺物も発見されてない。これは聖王教会史上、最悪な失態だ。

『僕とルシルは今、フローリアン姉妹からの事情聴取もあるため、第零技術部へと来ている』

モニターに映り込むのは、応接室のソファに腰掛けたルシルと、その後ろをテクテク歩くチンクとクアットロ。クアットロだけがわたし達に向かって手をヒラヒラと振った。

『闇の欠片たちは、八神家の活躍もあって鳴りを潜めているとのことだ。新たな欠片の発生もない。問題は他の渡航者と――』

長テーブル上に複数のモニターが展開される。そのうち2枚に表示されているのが砕け得ぬ闇だ。片方は白、もう片方は赤へと防護服が変化している姿。その他はヴィヴィオ達だ。

『砕け得ぬ闇、識別名はU-D――アンブレイカブル・ダーク。彼女らの捜索を、君たちに任せたい。だが発見したと言っても戦闘をしかけないように注意してくれ。あれほどまでに凶悪な戦闘能力だ、対策もなしに挑んでも返り討ちに遭うのが関の山だ』

映像で観ただけだけど、その魔力や強さはよく理解できる。重い空気に包まれる中「その対策ってそう簡単に立てられるもんなの?」アリサが挙手。

『それをフローリアン姉妹から聴取する。あとは、マテリアル達から聴く必要もあるし、是非とも協力を求めたい。ルシルが言うには、というか僕もそう思うが、マテリアル達もこの切迫した事態だ、そう間を置かずに復活するはず。そこを狙う。エイミィやアリシア、観測スタッフが常時マテリアルの反応を探ってくれて――』

クロノがそこまで言いかけたところで、ブリーフィングルームに通信コールが鳴った後、『こちらアースラブリッジ』アリシアからの通信が入った。わたしが代表して「どうしたの?」って訊ねる。

『闇の欠片たちの反応が急激に増えたの。発生点は海鳴市近隣限定。フェイトとアルフ、レヴィの会話記録から見て・・・』

「マテリアルが出現した・・・?」

アリシアの話の続きを引き継ぐようにフェイトが言った。闇の欠片の発生は、マテリアル出現の際に起きる副次効果、ってレヴィは言ってた。ということは、フェイトの言う通りマテリアルが出現したってことになる。わたしはモニターに映るクロノに向かって「クロノ、わたし達出るけど、いいよね!?」そう訊く。

『階級的にも今は君が上官だ。指揮は任せる』

「・・・了解!」

『イリス、そしてみんなの健闘を祈る』

通信が切れる。そしてわたしは椅子に座ってるみんなを見渡した後、「八神騎士は休憩を。交代して今度はわたし達が出る。いいよね、なのは、アリサ、すずか、フェイト、はやて」と確認する。

「「「「「もちろん!」」」」」

みんなの承諾を得た。それじゃ「アリシア。出現ポイントを教えて。出るよ」と待っててくれたアリシアに、闇の欠片とマテリアルの出現ポイントを訊ねる。嬉しいのはどいつもこいつも海鳴市近隣に発生していること。やったね。

「シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ。アースラで休んでてな。リインフォースも」

「「「はい」」」「判りました」

「本当に申し訳ありません」

真っ先に体調を崩してリタイアしたリインフォースは、それでもはやてやシグナム達と一緒に居ようと医務室からここへと来た。はやては「ええよ。たぶん、あとで力を貸してもらうと思うから、それまで休んでて」ってリインフォースの頭を撫でた。そうしてわたし達は、闇の欠片とマテリアルの反応を追って、出撃した。

†††Sideイリス⇒すずか†††

アリシアちゃんやエイミィさんの通信に従って、私たちはアースラから出撃。海鳴市やその近隣の空を翔ける。アリシアちゃんの話だと、マテリアルと残滓の反応が混濁してて判別できないってことみたいで、いつマテリアルと遭遇するか判らないっていう緊張感がある。
なのはちゃん達から、残滓とエンゲージ(交戦開始っていう意味って教えてもらった)したっていう通信が入る。私も残滓の何人か戦って、その都度みんなにエンゲージって連絡をする。だけどマテリアルとはまだ誰もエンゲージしてない。

≪スズカ! 強大な魔力反応、来ますわッ!≫

“スノーホワイト”からの警告が出たすぐ、「きゃっ・・!」ものすごい吹雪が私を襲った。髪とスカートを押さえながら治まるのを待つ。その吹雪もすぐに治まって、髪やバリアジャケットに降り積もった髪を払う。

「あら? 誰かと思えば、私のオリジナルですわね」

「あっ。えっと・・・アイル、ちゃん」

私の目の前に現れたのは、私と瓜二つの外見を持った女の子。でも色違い。髪やバリアジャケットは真っ白で、瞳は真っ赤。あと、目付きがちょっと鋭いかも。アイルちゃんはふぁさっと自分の髪を後ろに振り払った後、「アリサは、居ないのですね」辺りを見回して小さく溜息。

「あ、あの・・・アイルちゃん?」

「何かしら? あなたに構っている暇がないのですけど」

どこかへと飛び去ろうとするアイルちゃんに「待って」って呼びかける。無視されちゃうんじゃないかって思ったけど、「今度は何かしら?」ってちゃんと止まってくれた。

「アイルちゃん、体、大丈夫・・・? ヤミちゃんにその・・・」

「ご心配に及びませんわ。アリサと真っ向から再戦しても勝てるだけの復旧はしましたわ」

「そっか、良かった。じゃ、じゃあ、他の子たちも・・・もう起きたのかな?」

「いいえ。私とレヴィの2基だけですわ。王やシュテル、フラムが、私たちにリソースを回してくださいましたからね。もうよろしいですわね? では、これで失礼しますわね」

「あぅ、あの、もうちょっと話を――」

――イガリマ――

「っ!」

≪アイスミラー!≫

もう一度呼び止めようとしたら、アイルちゃんがフローズンバレットを10発と発射してきた。だけど“スノーホワイト”がシールドを張ってくれたから直撃は免れる。ホッとしていると、アイルちゃんが「構っている暇がない、と言いましたわよ?」って鋭い目を向けてきた。

「ちょっと話をしたいだけで・・・!」

「管理局の融通が利かないのは、いつの時代も同じですわね・・・!

VS◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦
氷災の征服者アイル・ザ・フィアブリンガー
◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦―◦VS

「シュルシャガナ!」

冷気の砲撃バスターラッシュ――シュルシャガナを撃ったアイルちゃん。横移動で躱して「待って!」両手を上げて戦意がないことを示しすんだけど、「用があるのなら、勝って止めて見せなさい!」アイルちゃんは問答無用でフローズンバレット――イガリマを10発以上連射してきた。

「スノーホワイト!」

≪お任せ下さいまし!≫

――アイスミラー――

シールドを傾けた状態で展開。真っ向から防ぐんじゃなくて、逸らして受け流す。アイルちゃんが「頭の良い防御ですわね」って褒めてくれたから、「ありがとう!」お礼を返す。でもすぐ後に「では、これでいかがです?」って冷気の砲撃と魔力弾の構成弾幕を張ってきた。

「あわわわ!」

逸らす防御方法でも受けきることが出来ないって判断して回避行動に移る。

『こちらアースラのエイミィ! すずかちゃん、今、律のマテリアルと交戦中だよね・・・!』

「えっと、はい、戦うつもりはないんですけど・・・」

『その、言い難いんだけど、魔力量ですずかちゃん、マテリアルの子に負けているの。いや、すずかちゃんが負けるとは思えないし、魔力量が全てじゃないと思うし、でも・・・』

そんな気はしてた。アイルちゃんと真正面から対峙した時、魔力量の違いが大きいって。エイミィさんは続けた。援軍を寄越そうか、って。でも断る。勝ち負けじゃないから。

『――判った。でも一応、欠片討伐を終えた子を向かわせるね。それまでに勝敗がついていればいいし、ついていなかったら・・・』

「あ、はい。その時は、それでいいです」

エイミィさんとの通信が切れる。通信の最中でも続いてたアイルちゃんの射砲撃弾幕。うー、どれだけ撃てば気が済むんだろう。

「逃げているだけでは私は止められませんわよ、オリジナル・・・!」

「私、月村すずか、って名前です! 出来れば、そう呼んでくれると嬉しいなぁって!」

「私に勝つことが出来れば考えて差し上げますわよ、オリジナル!」

――ラマシュテュ――

アイルちゃんの前面に展開された翡翠色のミッド魔法陣から8本の氷で出来た茨――アイシクルアイヴィが伸びて来た。アレは防御魔法を避けてまで対象を捕まえようとしてくるから、「しょうがないよね・・・」茨の数の分だけフローズンバレットを発射して迎撃する。

「誘導操作もなかなかですわね。さすがは私のオリジナルですわ♪ ですが、私はあなた以上の力を得ましたのよ。たとえば・・・ティアマト!!」

「わわっ!?」

足元から、氷で出来た先端が六角錐の柱が10何本と突き出して来た。慌てて回避飛行。避けた先にもまた突き出して来たり、避けようとした先に突き出して来て妨害して来たり、少しずつ包囲されていっちゃう。

≪スズカ、上ですわ!≫

「う、うんっ!」

上昇を始めたと同時、私を閉じ込めるように氷の柱が頭上で折り重なるように突き出して来た。私は「バスターラッシュ!」砲撃を発射して、柱の1本の先端を撃ち抜いた。その隙間から脱出した時。

「上手く誘われてくれて感謝ですわ、オリジナル!」

――エチムミ――

私の頭上で待ち構えていたアイルちゃんの足元の魔法陣から、冷気の竜巻が落ちて来た。私の魔法、レフリジレイト・エアの別の使い方だ。避けようにも直径が広すぎて無理。だったら「アイスミラー・ロングサーペント!」シールドを七重に重ねて完全防御。
竜巻の先端と1枚目のシールドがぶつかる。1枚目がすぐに砕けて2枚目に衝突。2枚目もすぐに砕ける。次に3枚目・・・も砕けて、4枚目、5枚目、6枚目と砕けちゃった。最後の7枚目に衝突。これまでのシールドのおかげで勢いが弱くなってくれているから、すぐには砕けない。

「やりますわね! アリサとの決闘前のストレッチとしては十分ですわよ!」

「私としては、話が出来るだけでいいんだけど・・・!」

ヒビが入り始めたシールド。砕かれる、って諦めそうになったんだけど。完全に砕けれる前に、アイルちゃんの竜巻が消えた。と同時、アイルちゃんが急降下して来て、「ニヌルタ!」私の“スノーホワイト”と同じデザインのグローブの爪から生えた、刀の様な氷の爪での斬撃を振るってきた。

「わわ、危ない!」

――アイスミラー――

シールドで防御。アイルちゃんの斬撃によって縁にある氷が砕けちゃう。アイルちゃんは高笑いを発しながら「補助魔導師であるあなたとは違い、私は前線でも戦える戦闘魔導師へと生まれ変わったのですわ!」右に左に爪を振るい続けてくる。

「スノーホワイト!」

≪バインドバレット・サークルシフト!≫

アイルちゃんの周囲に展開する魔力弾12発。すぐさま発射する。アイルちゃんは「小賢しいですわよ」って微笑むと、アイルちゃんを護るように吹雪が円環状に発生して私の魔力弾を全弾、凍結破壊しちゃった。それと一緒にシールドが切り裂かれて砕けた、

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

その衝撃に踏ん張りきれなかった私は真っ逆さまに墜落。体勢を立て直すことに集中・・・したいんだけど、「私のオリジナルは、その程度ですの!?」容赦なく冷気弾イガリマを降り注がせてくる。

「本当に容赦ないよ・・・!」

≪ですわね。私と同じ口調でスズカに暴言など、許せるものではないですわ≫

急に墜落停止をして的になるんじゃなくて、緩やかな軌道で水平飛行に移る。その間にも降り注いで来る冷気弾を避けながら、緩やかな軌道で上昇を始める。

「スノーホワイト!」

≪フローズンバレット!≫

本当は戦いたくないけど話じゃ止まってくれないみたいだし、アイルちゃんの言う通り勝って、それから話を聞いてもらおう。冷気弾を連射しながらアイルちゃんより高度を上げようと試みる。

「私の上を、そう容易く取れるとは思わないでほしいですわ!」

――ムンム――

――イガリマ――

頭上に展開される魔法陣。そしてそこに向かって放たれてきた冷気弾が反射して、「きゃあああ!」私の頭上へと降り注いできた。9発中3発の直撃。2発が掠って、残り4発は外れた。着弾した左右の袖とコートの裾が凍って砕け散った。

≪スズカ!?≫

「大丈夫だよ、スノーホワイト。ちゃんと非殺傷効果を付けてくれてるみたいだから」

物理破壊設定だったら、バリアジャケットどころか生身まで凍らされていたかもしれない。でも、アイルちゃんは非殺傷設定で戦ってくれてる。

「アイルちゃん、優しいね!」

「優しっ――ば、馬鹿を言っているんじゃないですわ! 再起動したばかりでちゃんと設定が出来ていなかったからですわ、運が良かったですわね、オリジナル!」

「照れなくても良いのに」

「照れてなどいないですわよ! どーこを見てそう思ったのですの!?」

――シュルシャガナ――

顔を赤くして喚きながら冷気の砲撃を発射してきたアイルちゃん。やっぱりそんなに悪い子じゃないみたい。だって、マテリアルの目的ってどうやら自由になることみたいだから。何百年もの間、“闇の書”だった“夜天の書”のずっと奥に押し込められていて、不自由してたって話だから。

「まったく、まったく、まったく!」

なんかブツブツ言いながら砲撃を撃ち続けてくるアイルちゃんに「あの、良い雰囲気だからこのまま戦闘を止めて話を――」って話しかけるけど、「だぁかぁら! どこが良い雰囲気かっつうの、ですわ!」怒鳴られちゃった。

「あぅー」

「いいから、掛かって来るがいいですわ! その生意気な口を凍らせて閉じさせてあげますから!」

――イシュタル――

アイルちゃんが両腕を空へと向けて魔法陣を展開。その魔法陣から猛吹雪を発射。その吹雪が空で渦を巻いたかと思えば、「雪・・・?」が降って来た。ううん、違う、雪じゃない。雪の結晶だ。直径1m近い雪の結晶が無数に降って来た。

≪お気を付けて、スズカ! 魔力で出来た結晶ですわ、触れるとダメージを被りますわ!≫

「あ、うん!」

ユラユラと降って来るから軌道が読みづらい。しかも「イガリマ!」冷気弾も十数発と紛れ込ませてくるから厄介。結晶に触れないように、冷気弾に当たらないように気を付けながら空を翔ける。

「レフリジレイト・エア!」

私を中心として冷気の竜巻を発生させて、頭上から降ってくる結晶の雨や冷気弾を防御。冷気弾を全弾防御したのを魔力の気配で確認。竜巻を頭上へと放って、結晶を生み続けてる空に渦巻く吹雪を破壊する。

「ラマシュテュ!」

「きゃあ!?」

私の両手首と両足首を捕らえる氷の茨。バインドブレイクを割り込ませるより早く「私の勝ちですわね」アイルちゃんが私の目の前に来た。アイルちゃんがスッと私の頬に触れて「いかがです? 私の氷結魔法は」って胸を張った。

「・・・私の負けです」

≪申し訳ありませんわ、スズカ。私の力不足でしたわ≫

「ふふ。シュテルもレヴィもフラムも、オリジナルを相手に引き分けることしか出来なかったようですが。ディアーチェと同様にオリジナルに勝利した私こそ、マテリアルのナンバー2ですわ」

アイルちゃんが笑っていると、頭上から「そんじゃ、こっからは第二戦ってことね!」そんな声が。見上げてみると、ずっと高い空には紅い翼を羽ばたかせた「シャルちゃん!」と、こっちに向かって急降下して来てる「アリサちゃん!」の姿が。
アリサちゃんが手にしてる“フレイムアイズ”の刀身には全てを焼き払うような炎が渦巻いていた。バーニングスラッシュだ。その炎の斬撃で私を捕らえてる氷の茨を焼き斬って、すぐさま足元にフローターフィールドを展開して降り立ったアリサちゃん。

「すずか、大丈夫!?」

「うん。ありがとう、アリサちゃん」

ちょっと縛られてた箇所は凍っちゃってるけど、どうってことない。“フレイムアイズ”の炎の熱で溶けていくから。

「来ましたわね、アリサ! 待っていましたわよ!」

「もう観念しなさい、アイル・ザ・フィアブリンガー!」

「観念ですって? その大口、これを見ても叩けます!? アリサ・バニングス。あなたを打ち倒すために手に入れた、この魔法・・・受けて見なさい! 参りますわよ、エレシュキガル! テンペスト・オブ・エンリル!!」

アイルちゃんの魔力がグッと高まったかと思うと、今まで以上に強力で巨大な吹雪の竜巻がアイルちゃんを呑み込むようにして発生した。そんな吹雪の竜巻からは、氷で出来た剣や槍、それに弾丸が全方位に無差別に発射されてきた。

「アリサ!」

「頼むわよ、シャル!」

ここで降下して来たシャルちゃんが、アリサちゃんの隣に降り立った。

「すずか、防御お願い出来る?」

「あたしとシャルで、アイツを懲らしめてやるわ」

シャルちゃんとアリサちゃんの希望に沿いたくて、私は「出来るよ!」って強く頷いた。すぐに「スノーホワイト、行くよ!」って呼びかけて、今扱える魔力を全解放。

「アイスミラー!!」

私たちをカバーできる程に広くしたアイスミラーを発動。すると「フレイムアイズ、クレイモアフォーム!」アリサちゃんは大剣形態のクレイモアフォームへと“フレイムアイズ”を変形させて、そしてカートリッジをロード。半実体化した剣を、炎へと変化させた。

「負けてられないってね! キルシュブリューテ!」

シャルちゃんの“キルシュブリューテ”が3発とカートリッジをロードして、その桜色の刀身に真紅の炎を纏わせた。シャルちゃんとアリサちゃんがデバイスを頭上に掲げて、そして「解除!」って同時に私に向かって叫んだ。その意味を察した私は、シールドを即座に解除。そして・・・

「「双炎牙・獄火刃!!」」

アリサちゃんとシャルちゃんが同時にデバイスを振り下ろして、炎の斬撃をアイルちゃんの竜巻へと放った。勝負は一瞬。2人のすごい斬撃を受けた竜巻は吹き飛んで、「ありえないですわぁぁぁーーーー!!」アイルちゃんを吹っ飛ばした。

「こ、こ、こ、こんなことが・・・!」

宙で体勢を立て直したばかりのアイルちゃんへ私たちが向かうと、「2人掛かり、しかも共に炎熱系とは卑怯ですわよ!」って睨まれちゃった。

「なんとでも言いなさい。ほら、観念しなさい、アイル。レヴィが、フェイトに全部話したわよ!」

アリサちゃんがそう言って、私たちの前にモニターを1枚展開する。そこに映しだされてるのは、なのはちゃんとフェイトちゃん、はやてちゃん、アルフさん。そして、青い棒付きキャンディをペロペロ舐めて満面の笑みを浮かべてるレヴィちゃんだった。

「あ、ああ、ああ、あああ、ああああ・・・! あのお喋りお馬鹿水色ぉぉぉぉーーーーーーッッ!! 」

海鳴市の空に、アイルちゃんの絶叫がこだました。

 
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