| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Epos46戦天使/雷滅の殲姫~Primera Randgrith Valkyrja~

†††Sideルシリオン†††

「フォルセティ~~~~~♪」

俺の両手を取ってブンブンと上下に振る、大人モードに変身しているヴィヴィオ。ヴィヴィオの後ろに降り立ったアインハルトが「フォルセティさんも飛ばされていたのですね!」と声を掛けてきた。待て、ちょっと待ってくれ。嫌な汗が流れ始める。

「良かったぁ、って言っていいのか判らないけど、知ってる人が同じように時間移動してて嬉しい♪ ね、アインハルトさん!」

「はい。私とヴィヴィオさんは、学校帰りにこの・・・13年前の海鳴市に飛ばされていました。フォルセティさんもまた学校帰りで・・・?」

変身を解除し、年相応の少女の姿へと戻ったヴィヴィオとアインハルト。おいおい、冗談だろ。未来には俺と瓜二つ――フォルセティとかいうのが居るのか。今すぐ話を聞きたいが、ここで真実を伝えるより「あ、うん。家に帰る途中に、突然・・・」フォルセティとしての演技を続けて、さらに情報を引き出そう。

「あれ? 今日ははやてさん達の帰りが遅いから、わたしのお家に夕ご飯を食べに来るんじゃなかったっけ?」

「え? あ、そう、だったっけ?」

今から13年後となれば、ミッドは首都クラナガンの郊外へとはやて達は住まいを移し終えている。俺が家って答えたらヴィヴィオは、俺の家ははやての家だと暗に伝えてきた。ということは、フォルセティとかいう俺のソックリさんはミッドの八神家に世話になっているということに。

「フォルセティは、ルシルさんみたく家事が出来ないんだから」

ヴィヴィオの口から、ルシルさん、と発せられたその時、僅かばかりショックを受けたのは秘密だ。この次元世界での俺は、ヴィヴィオにとっての父親代わりにならないんだな。いや、それが当然だし、父親代わりになってもかえって辛いだけだから構わない。というか、フォルセティは俺の変身でもないということが判明。俺とフォルセティは別人となる。

「あのさ、転移のショックなんだろうけど、記憶がちょっと曖昧で・・・」

「ええ!? 大丈夫なの、それ!」

「あの、私とヴィヴィオさんのことは判ります、よね・・・?」

「ヴィヴィオとアインハルト、さん」

フォルセティの年齢がアインハルトより上か下かは判らないため、とりあえず敬称を付けてみた。すると「いつもはアインハルト先輩なのに」とヴィヴィオが漏らした。俺は少し考えるフリをした後、「あ、そうそう、アインハルト先輩だ!」と思い出したという演技をする。

「えっと、学校・・学校、St.ヒルデ魔法学院の・・・?」

「わたしやリオ、コロナと一緒の初等科4年生の10歳。ねえ、フォルセティ、本当に大丈夫?」

「お医者さまに診て頂いた方がよろしいのでは?」

「うーん、出来れば過去のなのはママ達とは会わない方が。タイムパラドックスっていう問題もありますし」

なるほど。それでヴィヴィオ達は逃げていたんだな。トーマやリリィという子らもそれを危惧しての逃亡か。この程度、すぐに気付くべきだった。ヴィヴィオにそう言われたアインハルトは「あ、そうでしたね」と自分の浅慮に呆れた。とここで、ヴィヴィオの側に浮いているウサギと、アインハルトの足元に寄り添う猫から視線を感じた。なんというか、俺のことを疑っているような、怪しんでいるような。

「にゃあにゃあ!」

「ティオ、どうしたんですか?」

ティオと呼ばれた猫が俺に向かって鳴き始めると、ウサギもヴィヴィオに何かを伝えたいのか小さく短い前脚をわたわたと振るう。2人が俺を怪しむ前に「・・・俺、俺の名前って、俺の家って、家族って・・・」情報を聞き出すために急ぐ。

「あぅー、アインハルトさんに偉そうに言っておきながらタイムパラドックスとか心配してる余裕があるのか不安になってきた。やっぱりなのはママに話を・・・。うぅ。しっかりして、フォルセティ。わたし達は新暦79年からここ66年の過去に飛ばされてきたの。
あなたの名前は八神フォルセティ。わたし、高町ヴィヴィオの幼馴染。暮らしてるお家ははやてさん達と一緒でクラナガン郊外、海辺の家。はやてさんがママで、ルシルさんがパパ、だよ!」

ヴィヴィオがそこまで教えてくれたところで俺とヴィヴィオの間にモニターが展開されたと思えば・・・

『なんですとぉぉぉーーーーッッ!!』

どアップで映ったシャルが絶叫した。突然の通信にビクゥッと飛び跳ねたヴィヴィオとアインハルト。

『ちょっと、オリヴィエ様のそっくりさん! 今、今、はやてとルシルに子供が居るみたいなこと言ったよね!? フォルセティ!? 八神フォルセティ!? どういうこと!? もしかして、2人は未来――新暦79年だっけ!? 13年後だから22か23歳!? その頃には2人は結婚して、子供も居るって弧と!? ぎゃああああ、信じらんない! わたし負けたってこと!? フラれたってこと!? もしかして祝福もしちゃったりしたの!? うそだっ、そんなのうそだぁぁぁーーーーっ!!』

頭を抱えてぶんぶん頭を振り回して叫ぶシャル。ここでさらに新しく複数のモニターが展開。映り込んだのは仮眠から覚めたばかりと思われるなのは達と、顔を真っ赤にしたはやてだった。

「え、あの、え、え?」

「ど、どういうこと、なのでしょうか・・・?」

困惑するヴィヴィオとアインハルトが少し可哀想になってきてしまった。

『どういうこと、ねえねえ!』

シャルはきゃんきゃんと吠え、

『未来の子なの!? あ、だから私のことを、第零技術部の主任だって呼んでくれたんだね』

すずかは笑顔を浮かべ、

『なのはママってことは、あんたはなのはの娘で、そしてなのは、あんたも結婚して子供産んだってことになるのよね!?』

アリサは問い詰めるように確認しようとし、

『結婚、子供、私に!?』

なのははアリサから話を聞いて混乱しだし、

『なのはとはやてが未来じゃ結婚していて子供もいるという事だよね。お、おめでとう!?』

『おお、おめでとう、なのは、はやて!?』

その混乱が伝わったフェイトとアリシアは首を傾げながらもはやてとなのはを祝福。

『ルシル君・・・あぅ・・・』

俺と目が合ったはやてはボンッと爆発したかのように顔をさらに真っ赤にして俯いた。えー、10歳のフォルセティ。両親となる俺とはやての年齢が今より+13の22か23歳の頃には居る血の繋がった実の子供だとする。その歳で10歳の子供を産み、育てている親になるには、何歳頃に体を重ねればいいか。単純に考えて13歳。

(そんなのねぇよッ、絶対に有り得ねぇッ! 13歳ではやてに子供を作らすなんて、どんな鬼畜外道だ!!)

口調が昔、アンスールの同性メンバーやステアにだけ使うものに戻ってしまうほどに、ありえない話だとツッコむ。ここで嫌な推測というものが立つ。ヴィヴィオの幼馴染。もしかしたらフォルセティは、ヴィヴィオと同じように人工的に生み出された存在なのかもしれない。クローンなんて血と細胞があれば作れるしな。
スカリエッティから提出を求められたら断固拒否・・・も出来ないか。すでに、存在している、という現実を過去の俺が知ってしまった以上は、フォルセティの誕生は絶対だ。どうしてこうなったんだよ、もう・・・。

「コホン。俺の名前、八神フォルセティじゃないんだ。騙してすまないね、高町ヴィヴィオさん、アインハルトさん」

「「???・・・・はっ」」

ヴィヴィオとアインハルトがハッとした。そして「ルシルさん、この時代の・・・!?」ヴィヴィオが確認してきたから、「どうも。八神ルシリオン・セインテストです」って微笑みかける。

「ルシルさん、ずるーい! この時代じゃわたしより年下だとしても、女の子を騙すのはどうかと思います!」

「ティオやクリスさんは、そのことを私たちに教えるために騒いでいたのですね」

「そうだったの!? あぅあぅ、タイムパラドックスがぁぁーーーー!」

「ど、どうしましょう・・・!」

頭を抱えたヴィヴィオと支えるアインハルト。そんな2人に『タイムパラドックスとかどうでもいいから、話っ、未来の話を聞かせてぇぇぇーーー!』そう言って騒ぎ続けるシャル。本格的に収拾がつかなくなってしまう、と思ったその時、とんでもない魔力反応が海上の方から発せられ、その魔力波が遠く離れたこの場所まで届いた。
俺は思わずグッと腰を下ろし、その魔力波に吹き飛ばされないようにと踏ん張った。次にヴィヴィオとアインハルトの心配をしようと思えば、「ごめんなさい!」2人が魔力波に紛れてこの場から離脱を計った。俺は「追跡を!」とアースラに頼もうとしたが、シャル達との通信も遮断されていた。

「すでにタイムトラベラーだって知られたのになぜ逃げる?・・・ああもう!・・・とにかく、砕け得ぬ闇の方が重要か・・・!」

冗談抜きでまずい存在だな、砕け得ぬ闇。魔術師化をしたとしても、創世結界くらい発動しないと単独での時間稼ぎというのは難しいな。とりあえず、「別の反応探知・・・フリーリアン姉妹のどっちかか」を捉えたため、「プリム!」と共に海上へと向けて飛び立つ。

◦―◦―◦―◦―◦―◦

朝焼けに輝く果てしなく広がる空と海。その狭間にて、2人の少女が対峙していた。1人はアミティエ・フローリアン。もう1人は、纏っている衣装の色が全体的に赤色となり、素肌には刺青のような模様が入っている様と変わっている砕け得ぬ闇だった。

「色彩が少し違うようですが、あなたはシステムU-D、そうで違いありませんね・・・?」

「そうだ」

「人違いだとしたらどうしようかと思いました。あなたのような子が2基もいると冗談では済まされないので」

砕け得ぬ闇であると確認したことでアミティエは「私に協力してほしいんですが」と話を切り出した。アミティエは、砕け得ぬ闇の持つ“エグザミア”なる物を、妹であるキリエに渡してほしくないということだ。話を聞き終えた砕け得ぬ闇はアミティエへと向き直る。

「アレは私にとって何よりも大事なものだ。永遠結晶エグザミア。アレを失うと、私はこの体を保てなくなってしまう。だから元より誰かに渡すつもりもないし、何があっても渡さない」

「そ、それは好都合です! それでは私が護りますから、あなたはキリエに見つからないよう安全な場所に避難してください!」

“エグザミア”がキリエの手に渡ることがないと判ったアミティエは安堵し、砕け得ぬ闇を護ると約束しようとしたが、「君は、そうか・・・エルトリアのギアーズか」対する砕け得ぬ闇は約束を交わすような発言をせず、突然アミティエの正体について話し始めた。

「この時代に在るべき人間じゃない・・・むしろ、人ですらもない、時の旅人・・・」

人間ではない、という砕け得ぬ闇の発言に「っ! そ、そうですよ・・・私は・・・」アミティエの表情に陰りが生まれる。そんな彼女へ砕け得ぬ闇が近寄ろうとした時、「そこまでよ!」第三者の声が響いた。

「きゃあ・・・!」

それとほぼ同時、アミティエが声の主――キリエによって撃たれてしまった。撃たれた個所、脇腹をもう手で押さえているアミティエの前にキリエが姿を現し、俯き加減で砕け得ぬ闇と真正面から対峙した。

「ホント、始めっから思い通りにならないと後々ずっと思い通りにならないのね。頼ってた王様たちもてんで使えないし、治癒術師も言うことを聞いてくれないし」

恨み言のような声色でブツブツと呟くキリエが「それでも・・・!」バッと顔を上げると、何かを覚悟したような強い光を宿す瞳で砕け得ぬ闇を見据え、左手に携える片刃剣の剣先を砕け得ぬ闇へと向けた。

「まだなんとかなる! 渡してもらうわよ、ヤミちゃん! たとえ力づくでも! アレさえ、エグザミアさえあれば、博士に、見せてあげることが出来るんだ、博士の願った夢を、希望を!」

「やめなさい、キリエ! 私たちギアーズの定めを忘れたわけじゃないでしょう! あなたは、博士との約束を破る気なの!? 時を、運命を操ろうなんて思ってはいけない! 厳然たる守護者であれ! 私たちは、自分勝手に運命を捻じ曲げてはいけないの、守らないといけないの! 解るでしょ!」

「解んないわよ! なんでそこまでして守らないといけないのよ! お姉ちゃんは、博士が夢見た希望を見ることなく死んじゃってもいいって言うの!?」

「それは・・・!」

「わたしはお姉ちゃんと違って、出来の悪いギアーズだもん! だから守らない!」

「キリエッ! やめなさい!」

アミティエとキリエが大声で怒鳴り合う。そしてキリエは肩で大きく息をし、「わたしはわたしの好きにさせてもらうわ」とアミティエとの言い合いに見切りをつけ、砕け得ぬ闇へと光弾――ラピッドファイアを連射。攻撃を確認した砕け得ぬ闇は、背後に発生させている赤い霧――魄翼をバサッと広げて自分を覆うことで防いだ。

「わたしは、博士から、お姉ちゃんから教わった! 一度決めたら、諦めずにやり通す! だから・・・!」

――ファイネストカノン――

「諦めない、やめない、絶対にやり通す!!」

2挺の銃から光弾を同時に発射させる事で砲弾と化させた強大な一撃を、砕け得ぬ闇へと撃ち込むがそれすらも魄翼の前には無力なものだった。

「白兵戦システムを起動。出力上限35%まで稼働」

砕け得ぬ闇の魔力量がさらに増加。その魔力波は海を渡り、海鳴の街にまで届いていた。砕け得ぬ闇が動く。自分に向かって光弾を撃ち続けているキリエへ真っ直ぐに。右の魄翼が怪物のような腕となり、それでキリエを薙ぎ払おうとするが、キリエの速度には追いつけなかった。

「っ! 全然通じない・・・!」

キリエは高速移動からの光弾連射で砕け得ぬ闇を全方位から攻めに攻め続けるが、彼女が纏う魄翼や魔力の膜が悉くキリエの攻撃を無力化していた。対する砕け得ぬ闇もまた、キリエにダメージを与えられずにいた。
いつまで続くか判らない死闘と思われたが、「はぁはぁはぁ・・・!」キリエに極度の疲労が見え始めてきた。全力も本気も出していない砕け得ぬ闇は、その圧倒的な魔力量で際限ない攻防を果たせるため、疲労など現れない。
しかしキリエにはエネルギーの限界がある。さらに、一撃でも貰えば即撃墜されるだけの攻撃に常に気を割かねばならず、その精神的負担は計り知れないだろう。それでもキリエは攻撃を止めない。彼女と姉のアミティエが慕う博士――父親の為に。

「負けられない、負けたくない、絶対に・・・勝つ!」

――アクセラレイター――

「フェニックスフェザー」

何度もその機動力で以って砕け得ぬ闇の攻撃を躱し続けていた時、砕け得ぬ闇の魄翼がバサバサと羽ばたき、その羽ばたきと同時に周囲に散った炎の羽根がキリエの動きを制限して行く。

「っく! まだ、まだ・・・!」

――ジャベリンバッシュ――

空域一帯に舞っている炎の羽根の1枚の直撃を受けたキリエがよろけるところで、砕け得ぬ闇は巨大な槍を魄翼から発射。直撃寸前だったキリエだったがそれすらも避け、「絶対に、諦めないんだからぁぁぁーーー!!」と2挺の銃を両手持ちの大剣へと変形させた。

――アクセラレイター――

そしてキリエは高速移動で砕け得ぬ闇へと突進。両手で握る大剣を全力で振り上げ、砕け得ぬ闇が防御に回るより早く直撃させた。

「S!」

上空に向かって斬り飛ばされた砕け得ぬ闇を高速移動で以って追い、そして全方位から大剣で斬り続けるキリエ。それでも砕け得ぬ闇の表情に焦りもなければ苦しみもない。全くと言っていいほどに通用していなかった。

「R!」

大剣から2挺の銃へと戻したキリエは銃口を頭上へと向ける。すると銃口からアミティエのメインカラーである青色と、キリエのメインカラーである桃色のエネルギーの光線が伸び、その先端に巨大な光球が発せした。

「I!!」

――スラッシュ・レイヴ・インパクト――

キリエが両腕を振り下ろしたことで銃口から伸びる光線の先に発生している光球も落下。それが砕け得ぬ闇に直撃、光球は大爆発を起こして砕け得ぬ闇を呑み込んだ。全てを出しきったキリエは、閃光爆発に呑まれたまま一切の動きを見せない砕け得ぬ闇に「勝った・・・?」と漏らした。

「いえ、まだです、キリエ!」

――クリムゾンダイブ――

アミティエから警告が発せられた瞬間、いやそれよりも早く閃光爆発の中から火の鳥――炎を纏い、魄翼を広げた砕け得ぬ闇が高速で突進して来た。自分のすべてを出し切った一撃を放った直後だったゆえ、キリエは回避や防御に移るのが遅れた。

「ごふっ・・・!?」

「君は、時の操手たりえない」

メキメキ、バキバキ、ゴキゴキ、と砕け得ぬ闇の突進攻撃の直撃を受けたキリエの体から何かが砕ける音、ひん曲がる音、潰れる音が激しく漏れ聞こえてきた。ドゴンと轟音と共にキリエは大きく吹き飛ばされた。そんな彼女を助けたのが「キリエぇぇぇーーー!」彼女の姉、アミティエ。キリエからこれまでに受け続けていたダメージやウィルスで満足に動けないにも拘らず、アミティエは身を挺して妹を守った。

「この魄翼の前にした以上、鉄屑となって砕けて消えるのが悲しくも動かざる、君たちに定められてしまった運命。もう痛みも苦しみも抱くのは辛いだろう。だからもう、ここで消えてしまう方が、君たちにとっての救いだ」

左の魄翼が触手となってアミティエとキリエに襲い掛かる。迫る魄翼の触手からキリエを護るためにアミティエはクルっと反転。砕け得ぬ闇に背中を向ける体勢になった。

「っぐぅぅ・・・!」

「お姉・・・!!」

アミティエの左腕に打ち込まれた魄翼の触手によって、彼女の左腕は無残に折れていた。ただ、様子がおかしかった。穿たれた個所から激しく飛び散るのは血液ではなく火花。それに焼かれて爛れていく皮膚の下からは銀色の金属部品が覗いていた。

「た、たとえ・・・痛くても、苦しくても・・・前を向いて、しっかりと歩んで生きて行けるように・・・心は、人の心は出来ているんです・・・! 確かに、私もキリエも、人じゃない、鋼の体を持っている人工物です! それでも優しい心は育ててもらった!! 家族の命と心を守って生きる、戦う、それが・・・一家の長女としての・・・務めッ!」

そしてついにアミティエの左腕が機械部品を散らしながら吹き飛んだ。伸ばされるキリエの弱々しい手が、その腕をキャッチ。それと同時、砕け得ぬ闇のもう片方の魄翼が触手となって、アミティエとキリエを同時に仕留めようと奔ったその時。

――天墜翔雷拳――

「「「っ!!?」」」

遥か頭上から墜ちてきたのは黄金に輝く雷撃で形作られた右拳。それが魄翼を粉砕した。その直後、「返してもらうぞ」背から薄く長いひし形上の蒼翼を10枚、剣翼12枚を展開している黒衣の少年――ではなく大人の姿へと変身しているルシリオンが急降下して来て、アミティエとキリエを左右の腕で抱き止めそのまま降下して、この場から離脱して行く。

「君は・・・?」

「残滓――偽者である私が名乗るのもどうかとは思いますが、プリメーラ、と」

砕け得ぬ闇と真正面から対峙するのは、完全自律稼働人型魔道兵器・“戦天使ヴァルキリー”の第七世代であるランドグリーズ隊の隊長、雷滅の殲姫プリメーラ・ランドグリーズ・ヴァルキュリア。雷撃系の機体最強であり、すでに消滅している“堕天使エグリゴリ”・グランフェリアの、約5倍の戦闘力を有している。オリジナルであれば、と後に付くことだが。

「警戒レベルを最大。魔力上限、50%に上方・・しゅう・・せい・・・! うぅ、くぅ、うぁ・・・うあああ!」

急に苦しみだした砕け得ぬ闇から発せられるさらに強大になった魔力。プリメーラはその衝撃で靡く長髪を片手で押さえながら「これはまた、随分な魔力持ちで・・・」砕け得ぬ闇を見詰めた。

――バレットダムネーション――

――雷覇双天槌――

大きく広げられた魄翼の表面から無数に発射される魔力弾幕。プリメーラは両手に発生させた直径2mほどの雷球を投げ放ち、砕け得ぬ闇の攻撃を迎撃した。2機の間で大爆発を起こす。

「どうして邪魔をする。君は、先ほど姉妹を助けて逃げて行った銀髪の青年――オーディンとなんの関係がある?」

「オーディン?・・・あ。・・・あぁ、彼は、私にとってとても大切な、心から愛すべき人ですから!」

オーディンはアースガルド初代の王であり、人間に扱える魔術ルーンを創り出した、ルシリオンらセインテスト王家の遠い先祖。プリメーラは、ルシリオンがいつかにオーディンと名乗ったのだろうとすぐに察した。

――ジャベリンバッシュ――

晴れ始めていた閃光爆発の中より飛び出して来た巨大な槍が4本。プリムは右に左にと体の向きを横に変えながら前進して回避。そして避けきったところで「天墜翔雷拳!」パリっと放電した両拳をストレートに連続で打った。プリメーラの両拳から放たれるのは拳の形をした雷撃。稲妻と同じ速度で飛来する雷拳が、砕け得ぬ闇の防御より早く着弾して行く。

「っ・・・!」

砕け得ぬ闇の表情に僅かな変化が現れる。最後の一発が彼女の右頬に当たると、「ぅあ」大きくよろけた。しかし、それでもまだ「コンストレイント・・・!」と活動を停止しない。プリメーラを拘束しようと魔力リングが一瞬にして狭まる中、プリメーラは拘束されるより早く迫るリングに手を掛けて握り潰した。

「遅いですよ・・・!」

プリメーラの姿が文字通り消え、砕け得ぬ闇の目の前――直近に出現。砕け得ぬ闇が迎撃しようと魄翼に働きかけるが、「砕ッ!」雷撃を纏ったプリメーラの右拳が砕け得ぬ闇の腹を打った。と同時。砕け得ぬ闇の背中から激しい雷撃が放たれる。プリメーラの雷撃が砕け得ぬ闇の体を貫通したのだ。

「っ。ドゥームプレッシャー・・・!」

その小さな手でプリメーラの右腕をガッチリと掴んだ砕け得ぬ闇は、魄翼を怪物の両腕へと変えてプリメーラを握り潰そうとした。プリメーラは空いている左腕を振り被り、「天震雷墜轟ッ!」迫る怪物の両腕に向かって拳を打ち、そこから激しい雷撃が放った。
その雷撃は右腕の動きを止める事は出来たが、「ぅぐっ!」左腕は止まらずに握り拳となってプリメーラを殴り飛ばした。砕け得ぬ闇は間髪入れずに「エターナルセイバー!」魄翼を炎の剣へと変え、体勢を立て直すか否かのプリメーラを左右から挟んで寸断する軌道で振るった。

「単純な軌道な攻撃ほど対処しやすくて助かる」

プリメーラは腕を大きく広げ、雷撃を纏わせた両手で砕け得ぬ闇の炎の剣を掴み取って止めていた。砕け得ぬ闇は「その防御は自殺行為だ」と、両手を塞いだプリメーラのミスを指摘した。が、「それはどうでしょう」とプリメーラがフッと笑う。砕け得ぬ闇の攻撃には基本的に魄翼を使う。そう、今は炎の剣となり、プリメーラに掴まれている状態の魄翼を。つまりは砕け得ぬ闇も攻勢に出られないということだ。

「私は雷滅の殲姫プリメーラ。お父様とお母様から、雷撃系最強の力を授かったヴァルキリー!!・・・墜ちろッッ!!」

――通天晃雷落――

プリメーラと砕け得ぬ闇の頭上、一瞬にして雷雲が発生し、複数の雷撃が一纏めになって降って来た。炎の剣を解除した魄翼で防御姿勢になった砕け得ぬ闇に落雷。雷雲出現から落雷まではほとんど一瞬の出来事だったが、砕け得ぬ闇は確実に防御した。

「ここに来るまでの間にお父様から聴いたわ。あなたと私――私たちヴァルキリーはどこか似ている」

魄翼による防御姿勢を解いた直後に砕け得ぬ闇へ最接近したプリメーラが、ギリギリにまで顔を近づけた上でそう告げた。そして両拳に雷撃を纏わせて砕け得ぬ闇の腹に拳打を数発と打ち込んだ。

「むぐぅ・・・!」

「私たちヴァルキリーもまた、戦に勝つために製造された戦力だった」

――障破雷靠打――

プリメーラが繰り出したのは、背面からの体当たり。中国武術・八極拳の1つ、鉄山靠。正式名称を貼山靠。連続拳打で砕け得ぬ闇の体を浮かせた直後に使用した。体当たりの直撃と同時、2機の間から強烈な雷撃が発生して、両者を大きく後退させた。

「それでも良かった。生まれた理由がそれだから。戦い、勝つ。それだけの役割でも・・・」

――バレットダムネーション――

――蹴破斬雷舞――

砕け得ぬ闇の放つ魔力弾幕に対し、プリメーラは雷撃を纏わせた右脚で前方を薙ぎ払うような蹴りを放った。蹴りの軌道に合わせて弧を描く雷撃が発生、弾幕を真っ向から迎撃した。

「だけどお父様やお母様、その家族に友人である皆さんは、私たちを兵器ではなく、道具ではなく、友として、家族として見てくれた!」

――天墜翔雷拳――

「何が言いたい・・・!」

――ナパームブレス――

雷の速度で迫る雷撃の拳を、炎と重力によって創られた球体で迎撃した砕け得ぬ闇が僅かな苛立ちを見せた。

「あなたにも、そう言った仲間が居るんじゃないかって話をしているの・・・!」

――雷覇双天槌――

「そんな者は居ない。私は砕け得ぬ闇、アンブレイカブル・ダーク。その目醒めは滅びの兆し、その歩みは絶望の足音。こんな私に仲間なんて居ない」

――バイパー――

プリメーラの両手に発生して放たれた巨大な雷球を、自らに着弾する前に足元から発生させた魄翼の槍で迎撃した砕け得ぬ闇は、すかさず「サイズディカピテイション」魄翼を大鎌へと変え、プリメーラの首と腰を狙って振るった。

「本当に!?」

その軌道を確りと捉えたプリメーラは僅かな動きのみで躱し、宙を蹴って再び砕け得ぬ闇へと突進。両手に雷撃を纏わせて。警戒する砕け得ぬ闇は片方の魄翼を分厚くして防御用に変化させ、もう片方を怪物の腕へと変化させた。

「本当、です・・・! 皆が私を恐れる・・・! 私の手が、この翼が触れた物、その全てが壊れるから・・・!」

「マテリアルという子たちが居る、そうですね・・・!(私が消滅させてしまったあの子たちのオリジナルが・・・)あの子たちこそが、そうなんでしょう!」

「それは・・・違・・・!」

――双打雷重拳――

左拳を打って雷撃の拳を放ち、間髪入れずに右拳を打ったことで放たれる雷撃の拳が、その途中で合流。すると2つの雷拳は砕け得ぬ闇以上の大きさとなり、彼女を覆う魄翼の盾へと着弾。周囲に雷撃を撒き散らせながら爆発を起こした。

――ジャベリンバッシュ――

爆発の中から魄翼によって創られた槍が3本と放たれてきた。プリメーラはそれらの先端を真下から殴っては蹴って反転させ、そのまま砕け得ぬ闇へと返した。驚きに目を見開く砕け得ぬ闇は回避行動を取った。
すかさずプリメーラが動く。一瞬で砕け得ぬ闇の回避先へ移動し、「仲間を頼るのは悪いことじゃない・・・!」雷撃纏う拳打を繰り出した。右の魄翼が怪物の腕となり、その手の甲でプリメーラの一撃を受け止めた。

「頼れない・・・! 私を起動させたディアーチェ達は、私がこの手で・・・打ち砕いた・・・! だからもう、私は誰とも関わり合いたく・・・ない・・・!」

もう片方の魄翼も怪物の腕となり、プリメーラへと拳打を繰り出した。プリメーラはそれに対して真っ向から「逃げるなッ!」空いている拳打で迎撃。再び砕け得ぬ闇の攻撃手段である魄翼を潰した。

「独りで出来ることなんて高が知れている! あなたのことを想ってくれる仲間が居るのなら、頼りなさい! 傷つけるから、苦しめるからと言って逃げてばかりじゃ、いつまで経っても現状は変わらない!」

プリメーラの全身から発せられる雷撃が、魄翼を弾き返した。そしてプリメーラは「ちょっと痛いけど、我慢しなさい」砕け得ぬ闇の幼く小さな体に容赦なく雷撃纏う拳を、蹴りを打ち込んでいく。直撃するたびに放電されている雷撃のダメージに、砕け得ぬ闇も表情を歪める。

「ぅ、うぅ、ぅぅ・・・!」

「真技ッ!」

プリメーラの強烈な蹴り上げが砕け得ぬ闇の腹に入り、彼女を勢いよく空に舞い上がらせた。即座に彼女を追って跳び上がるプリメーラ。その途中、プリメーラが過ぎた高度にアースガルド魔法陣が展開された。
中心には十字架、その四方から剣が伸び、それら剣を繋ぐようにルーン文字を散りばめられた三重の円環というデザインだ。
プリメーラは砕け得ぬ闇を追い越した後クルっと前転して、雷撃纏う右脚による踵落としを彼女へ打ち降ろした。砕け得ぬ闇が今度は急降下して、真下にあるアースガルド魔法陣へと墜落。

「天環襲雷華ッ!!」

魔法陣に叩き付けられた砕け得ぬ闇へと急降下して来たプリメーラが、今まで以上に強大な雷撃を纏った拳打を打ち込んだ。同時、世界を揺るがすほどの落雷音が発せられた。砕け得ぬ闇に直撃した拳打から周囲に拡散する雷撃は、言うなれば花弁の如く。そして魔法陣を突き抜けて海上へと落ちた雷撃は正に茎や根。夜明け直後の空に、黄金の雷の華が咲いた。

「はぁはぁはぁ・・・!」

「システム負荷・・・増大・・・!?」

それでもなお健在だった砕け得ぬ闇だったが、残滓であることで弱体化しているとは言え、強大な力を持つプリメーラの真技にはさすがに堪えたようでふらついている。プリメーラは「ここまで、ですね」と霧散し始めていた自分の体を見て、ふっと小さく微笑んだ。

(お父様と少女2人の完全離脱を確認。時間稼ぎの任、無事に完了)

それがプリメーラの役目だった。ルシリオンやアミティエ・キリエを逃がすという任を無事に果たしたことで、プリメーラはいつ消滅しても良いと悟った。だが、「砕け得ぬ闇。これで最後です。独りは寂しいものです。仲間を、頼りなさい」と、砕けえぬ闇に少しでも勇気を与えようとして、そう優しく告げた。

「う、ううぅ・・・うあああああああああ!!」

砕け得ぬ闇が頭を抱えて絶叫。そして・・・

「エンシェント・・・!」

プリメーラへと突進し、彼女の胸に右手を突き入れて、血色に染まる巨大な剣を胸から抜き出した。ブラッドフレイムソードと砕け得ぬ闇が名付けているその剣は、対象の魔力と自身の魔力で形作られている、特殊な魔法だ。

「マトリクス・・・!!」

砕け得ぬ闇がその剣をプリメーラへと投げ放つ。戦う意義を果たしたプリメーラだったが、壊すことに、傷つけることに、殺すことに苦しんでいる砕け得ぬ闇の苦悩の思い、このまま消されることを良しとせず、「雷護装纏盾・・・!」雷光の盾を発動。そして剣が盾と衝突。僅かな拮抗の後、

「ごめんなさい、これで終わりです」

砕け得ぬ闇が剣の柄頭に乗り、トンッと蹴った。その僅かな加力によって剣は盾を貫き、プリメーラすらも貫いた。それは必然。ブラッドフレイムソードは、攻撃対象の魔力で創られている剣でもある。砕け得ぬ闇の魔力と混じり合っているとは言え、元は対象の魔力だ。当然、対象の魔力や魔法への干渉がし易い。それゆえにどれだけ強大な盾であろうと、容易く突破できる。

「ああ・・・お父様・・・またいつか、お会いしたいです・・・」

それが残滓プリメーラの最期の言葉となった。彼女を貫いていた剣が大爆発を起こし、プリメーラを一瞬にして消滅させた。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧