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Fate/stay night -the last fencer-

作者:Vanargandr
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第二部
聖杯戦争、始動
  騎乗兵、再戦

 校庭の真ん中を突き進み、その中心地にて我らが御敵と対峙する。

 フェンサーとライダーが纏う戦気、両者の間に充溢する強大な魔力(マナ)

 彼女らが放つそれらの敵意が、鮮血結界に覆われた学園内の大気を震撼させる。

 二人だけの戦者しかいないはずの校庭が、今は間違いなく、紛う事なき戦場と化していた。



 たった七人で行われる聖杯戦争。



 あぁそう、戦争(・・)だ。

 喧嘩なんて矮小(ちゃち)なもんじゃなく。
 決闘なんて高潔なもんじゃなく。

 それはあらゆる手段を以て、敵対する存在の総てを滅ぼし尽くす戦いの名称だ。

 だからこそ、オレはこんなにも昂楊感に浸っている。
 熱に浮かされたような心地よさを身に感じながら、されど頭は凍りついたように冷静だった。

「慎二。次に敵として会ったときは殺すと言ったはずだが」
「死ぬのはおまえだよ黒守。のんきに学校になんか来てるからこうなるんだよ!」

 こうなるとは結界に閉じ込められた事を指してか。
 それとも魔力を吸収をして十二分に力を備えたライダーを敵に回す事を指してか。

 一対一ならまだしも、多対一の状況でその事柄は何の意味もなさない。

「ここにはオレ以外に士郎と凛がいる。計三人ものマスターを相手に、勝てるつもりでいるのか?」
「はっ。なら何であいつらは出てこないのさ? 答えは簡単だ、校舎内には────」
「キャスターが用意した使い魔の人形が犇めいているからだろ?」
「っ……」

 オレの魔力感知の精度はそこまで高くないが、解るだけでざっと数百体の人形が蠢いている。

 校舎の一階から四階までに止まらず、学園の敷地内を埋め尽くすほどの数だ。
 サーヴァントを引き連れているなら物の数ではないだろうが、セイバーは霊体化出来ないためにいつも留守番、アーチャーさえも今日は凛に待機を命じられているらしい。

 だがいざとなれば令呪による強制召喚も可能だし、二人も魔術師なら人形程度に遅れを取ることはないだろう。
 校舎内にいる生徒たちの安否確認、隠蔽された基点を壊して結界を解除するといった作業は二人に任せていい。

 オレの役割はここで必ず、ライダーと慎二を撃滅することだけだ。

「キャスターとは利害が一致していてね。衛宮はともかくセイバーに遠坂とアーチャー、それから不確定因子の黒守とフェンサーは邪魔なんだってさ。
 おまえら三人は互いに争い合う気がないみたいだから、学園に一塊になっているときにまとめて潰そうってことになったんだ」
「策を用意してきたのは誉めてやるが。それを敵前でベラベラ喋ってたら意味ないだろうが、三流」

 士郎と凛も含め、慎二は少なからずオレたちを敵視していた。
 さらには協力を断られてオレに完膚なきまでに敗北し、強い復讐心にも似た感情も芽生えていたはずだ。

 そこをキャスターに付け込まれ、体よく利用されたらしい。

 悪知恵の働く(頭の回る)キャスターなら、慎二を言いくるめるなど造作もないことだろう。
 自分たち以外のマスターに執着し、魔術師ではなく戦闘経験も権謀術数の知恵もない。だというのに破格の戦力であるサーヴァントを保有している慎二は駒として最適だ。

 実際にこうしていいように使われ、使い魔程度の兵力を貸し与えることで取引に応じる慎二は、キャスターにとって非常に都合の良い相手だっただろう。

「ふん、三流なのはどっちだろうね。今さら知ったところでもう既に結界は起動してるし、竜牙兵も展開してる。それに僕は、キャスターに乞われて仕方なく協力してやってるんだ。
 ちゃんとした協力体制を取って、策謀におまえたちを嵌めてきっちり殺す算段を立ててきてる。休戦なんて半端な取り決めをしながら、いつまでも敵に仕掛けにいかないマスターよりはよっぽど優秀さ」

 なるほど。キャスターがどういうふうに慎二を口説き落としたのか大体は分かったな。

 人一倍高いプライドを充足させてやるように下手に出ながら、あくまで自分の思い通りに動くよう交渉した。
 魔術師のクラス故に前線には出られないが、代わりに兵力を与え、それらを意のままに操れる権限を譲ることで自分がそれだけの存在であると思わせた。

 加えてキャスターに選ばれるほどの優れた魔術師に認められたという事実は、魔術師じゃないマスターである慎二には十分な価値があったのだろう。

 たとえそれが、仮初めの言葉だったのだとしても──────

「キャスターに唆されて、まんまと戦いに出てきたってわけか。馬鹿が……そうやって利用されてることさえわからない間抜けだから三流っつったんだ、ド素人」
「っ……精々吠えてろよ。おまえがここで死ぬことに変わりはないんだからな!」

 周囲を数十体の竜牙兵が取り囲んだ。
 内の何体かは、慎二とオレたちの間を阻むように陣取っている。
 一応、協力者としての姿勢は見せているのか。

 しかしオレとフェンサーに対してその壁は、多少は邪魔になるという程度。

 慎二がオレたちの内の誰かを倒せれば良し、もしくは多少のダメージを残すだけでもいい。
 陣地に引き篭って街中の人間から生命力を搾取するようなキャスターなら、いずれかのサーヴァントの手の内さえ見られればいいと思っているかもしれない。

 慎二がマスターであることによるライダーの欠点……魔力不足が解消された今、さすがに宝具の使用無しに勝利することは難しい。

(キャスターの策略に先手を打たれたのはマズかったか…………)

 嬉々とした表情を浮かべ、慎二は吐き気のする顔でニヤついていた。

「魔術師として教えてやるよ黒守…………殺せるときにキッチリ殺しておかないからこういう目に遭うんだよ!」
「…………ああ、それはご尤もな意見だ。けどな」

 無関係の人間をオレのせい(、、、、、)で巻き込む羽目になったのは反省点だ。
 本当ならその責任さえも無視してしまえればいいのだろうが、さすがにオレのせいで彼らに死なれては寝覚めが悪い。

 ────しかしそれも学習した。
 次からはそんなヘマはしないし、オレの落ち度である慎二も今から殺すのだから変わりはない。

「別に構わないだろ。もうおまえは死んでいるようなもんだしな」
「ハッ、何を根拠に言ってるんだよ。これから惨めに殺されるのはおまえの方なんだぞ!」
「…………根拠ならある」

 興奮冷めやらぬ感じで叫び散らす慎二を、感情を消した眼で睨み付ける。

 慎二が思わず言葉を無くすほどの殺気を叩きつけ、オレは────滅尽滅相の意思を宣言した。





「本気の黒守(オレ)を敵に回したというこの状況そのものが──────おまえの死を何よりも雄弁に物語ってるよ」





 フェンサーは剣の切っ先を下へ、白銀の宝剣を下段へと構える。
 ライダーの手にも、あの巨大な釘めいた二振りの牙が握られていた。

 これまで不動を守っていた二騎のサーヴァントが、一陣の旋風の如く疾走する────!

「っふ!」
「シッ!」

 打ち合う銀剣と対の鉄杭(キバ)
 膂力は拮抗しているのか、互いの得物は火花を散らしながらもどちらかが押し切るということはない。
 フェンサーが返す刃の二撃目にて首を撥ねにいくも、切り返した瞬間には既に相手は間合いを離している。

 さらには二撃目を振り切った隙を突いて後退から反転し、再びその鉄杭を手に前進する。
 先の一撃よりも速く鋭く振るわれる双牙を、更なる高速を以て銀の剣が弾き返す。

 以前のライダーとは明らかに違う。
 前回は通常状態(ノーマル)のフェンサーにさえ劣っていたというのに、今回は共振増幅(ブースト)した状態でなお互角。

 絶速の概念を発動し、速度というアドバンテージを得ているにも関わらず、高い機動力を発揮するライダーを捉えられない。

 緩急をつけながら一撃離脱を繰り返し、ライダーはこちらの態勢が崩れるのを待っている。

 援護をしたいのは山々だが、Bランクの対魔力を持つライダーに生半可な魔術は通しない。
 瞬間契約(テンカウント)レベルの魔術を用意しようにも、周囲を固める竜牙兵が詠唱する時間を与えてくれなかった。

Hit End(接蝕), Dispel(解呪)!」

 単調な軌道で降り下ろされた刀剣を回避し、躱しつつも相手を殴り飛ばす拳から術式破壊の魔術を核に直接送り込む。

 スマートなやり方ではないが、いちいち一体ずつ解呪している暇もない。
 こちらを狙ってくるガラクタ共を、片っ端から潰して潰して潰しまくる。
 そうして何十秒かに一度だけ訪れる数秒間ほどの猶予に、フェンサーを包囲しつつある人形共を掃射魔術で吹き飛ばす。

 忙しいながらに解析した結果、この人間ではないモノの骨で創られた竜牙兵は地属性を基とした傀儡魔術────ゴーレムだ。
 解呪する暇がないヤツには相反する風の魔術を叩きつけることで、外殻ごと内側にある核を破壊して粉砕する。

 核が残っているゴーレムは辺りに飛び散った破片で自らを修復し、何度でも立ち上がり襲い掛かってくる。
 せっかく撃ち込んだ魔術も核に届かなければ活動停止まで追い込めないため、トドメの確認まで逐一行わなければならない。

Wehen(吹き飛べ)!」

 時折フェンサーも魔術で周囲一帯を薙ぎ払うが、それは対魔力持ちのライダー対して無防備を晒すことになる。

 絶速の加護があるからこそライダーの駿足を活かした猛攻を凌いでいるが、このままではいつまで経っても戦局は平行線を辿る。

 宝具や大魔術の使用には僅かだがタメがいる。
 発動さえ出来れば戦況を変えることも可能だろうが、今はそうするための隙がない。

 ならば先に動きを見せなければならないのはオレだ。

「────散れ、雑兵!!」

 周りの雑魚を片付けながら溜めに溜め続けた魔力を、雷の属性(意味)を付与して解き放つ。

 純粋な魔力をただ雷撃に変換してぶつけただけだが、たかがクズ人形十三体など共振させたその雷刃一閃で消し飛ぶ。

 瞬間、オレは駆け抜けた。

「ッ!」
「な、く、来るな、来るなよ!」

 目標は慎二のみ。

 竜牙兵はともかくライダーの妨害は警戒に値するが、それさえ越えれば慎二を倒すことなど容易い。

 慎二の方へと走りながら、ライダーだけを注視する。
 予想通り、一撃離脱したのと同時にフェンサーを置き去りにしてこちらへと駆けるライダー。

 森の木々を掻い潜る蛇のように人形たちの間を走り抜け、オレの眼前に紫黒の大蛇が迫る……!

「甘い!!」
「なっ!?」

 突進の最後の踏み込みに合わせてこちらも踏み込み、ライダーの腹に前蹴りをブチ込んだ。

 暗闇に黒衣装だったあの夜ならまだしも、この明るい昼間に面と向かって対峙していれば近接対応は可能だ。
 こちらへ来るのは想定内、後は殺気の方向性、爪先から膝の向き、大腿部の筋肉の動きからある程度は何処をどう狙ってくるかがわかる。

 初めての接敵時に為す術なく、いいようにあしらわれたオレからの反撃というのも有利に働いた。

 ライダーの速度は限界強化した状態の動体視力で辛うじて視認でき、跳ね上がった身体能力でギリギリ反応が間に合うレベルだ。
 鉄杭と鉄鎖を絡めた多角的な戦法や、これ以上の高速移動で攻め込まれた場合、さすがに堂々と接近は出来なくなる。

「くっ……」

 今の蹴りのダメージなどないだろうが、それで一時的にでも後退させられたのは僥幸だ。

 この一瞬があれば、何の魔術行使も出来ない慎二の頭蓋を消し飛ばすなど容易に過ぎる────!
 
Blitz Shot(弾けろ)!!」

 後退りながら怯えた表情を浮かべる慎二の顔面に向けて、烈光の弾丸を放った。

 加減も容赦も情けもない。
 この機に決殺する意志を込め、全力でその一撃を放った。



 そうして必殺の確信とともに撃ち出した光弾は──────



 ──────三体の竜牙兵が慎二を庇ったことで阻まれた。



「チッ、うぜぇ!」

 続けざまに光弾を放つが、慎二の防衛に回ったライダーの身体に触れた瞬間、光弾は跡形もなく霧消した。

 そして対魔力を盾に、目前のオレへと紫蛇が牙を剥く!

「ッ……!」

 即座に後退するも、ライダーが両手に握る鉄杭を飛ばす。
 標的のはずのオレを逸れ、真横を通りすぎていく二つの牙。

 それを外れたなんて考える間抜けさは持ち合わせていない。

 鉄杭がオレの後ろに位置したのを確認してから鎖が引かれる。
 糸を手繰るようにして操られた双牙が、死角となる背面より迫る。

 ライダーは前進を止めていない。

 突進する自身と鉄杭による挟撃だ。

「く……ッ!」

 地面に這いつくばる勢いで伏せて鉄杭を躱すも、ライダーは既に蹴りを構えていた。



 姿勢を崩した今のオレに、二度目の回避は許されていない──!



「ハァッ──!!」
「がッ、ぁああ……!」

 顔面を打ち抜くように、突進の勢いと全身の回転を乗せて蹴り出される旋脚。

 まともに食らえば、万が一に頭が残っても首が砕き折れる。
 咄嗟に両腕を交差させてガードするも、その防御ごと貫通する超衝撃。

「ぐ、ぅっ……」

 …………一応、頭部へのダメージは防げたか。

 代わりに両腕の骨がギシリと、折り曲げられて軋む枯れ枝のような音を響かせた。

(……もしかしたら罅くらい入ったか? だがこの程度なら戦闘に支障はないな)

 冷静に思考を巡らせる。あくまで自分の状態を客観視する。

 すぐに行動不能になるような損傷ではない。
 肉がちぎれたところで、骨が砕けたところで、皮一枚にでも繋がっていれば修復は可能だ。



 己の身体など目的を成すための道具でしかない。
 内に宿る精神、その心と意志さえ折れなければ、最後まで立っていられる。

 夢で見たあの青年のように、完成された戦闘思考を構築する。
 自分さえも道具と割り切るその冷徹さと、必ず目的を成し遂げるという不屈の意思こそが魔術師として必要な在り方なのだから。



 骨に強化と硬化を重ね掛けする。
 強化によってまだ多少の無茶は利くようになるし、硬化で肉との隙間や骨の芯を固定できる。
 
 今はまだ無理にでも、この両腕には働いてもらわなければならない。

 治癒魔術は即効性に劣るので、今それを使っても無意味だ。
 痛覚遮断(ペインキラー)だけを施し、即座に体勢を立て直した。

「────────」

 追撃に駆けるライダー。
 だがその疾駆は、フェンサーの剣撃によって止められた。

 振るわれる銀剣。

 当たったかと思えた一撃は、而してライダーの残像を斬るだけに終わる。
 回避から後方跳躍(バックステップ)で一気に距離を開け、両者は己のマスターを背後に守る。

 しかし間合いを離しても安心はない。
 間断なく攻め込んでくる竜牙兵の群れが、オレたちに休息の時間をくれないからだ。

 背中合わせに立ち合い、二人同時に魔術を発動して全方位を薙ぎ払う。

Blitz Shot(雷撃), Phalanx(殲滅射撃) Ignition(一斉掃射)!! 」
Phalanx(一掃) Ignition(殲滅)!!」

 紡がれる呪文、術式は全く同系統の広範囲を殲滅する雷撃魔術。
 同種同属性の魔術は相乗効果をもたらし、周辺に蔓延る人形の群れを粉微塵に破砕する。

(一度見た魔術はラーニング出来るのか? デタラメだな)

 共振特性を活かして術式を編んだ雷撃魔術。
 光弾射撃と並んでオレが得手とする戦闘用魔術だが、一朝一夕に真似できるほど易いものではない。

 剣術のみならず魔導に精通しているとはいえ、フェンサーの魔術に関する能力は異常だ。
 単に魔術師として秀でているだとか魔術回路が優れているだとか、そんな簡単な話ではないだろう。

「それにしても…………」

 ライダーに限ったことではないが、対魔力スキルというのも実に反則的だ。
 慎二とライダーがいる場所まで拡散電撃は届いていたが、ライダーの周囲のみ、雷の暴嵐は効果を発揮出来ていなかった。

 高ランクの対魔力持ちのサーヴァントには、実質的に魔術は効かないと言える。
 少なくとも現代の魔術師に、それらに対する効果的な高位の魔術を用意することは不可能に近い。

 儀礼呪法や大魔術に分類されるものは、事前準備が必要不可欠だからだ。

 一個人の小源(オド)だけでは扱うことなど不可能なため、特殊な魔術礼装や儀式方陣、大気の大源(マナ)を利用することが大前提となる。
 いつどこで接敵し交戦するかも分からないのに、そんな大掛かりな仕掛けを幾つも用意するのは非効率でしかない。

 ならばやはり聖杯戦争における戦闘はサーヴァント同士の潰し合い…………そうなれば本来は支援が役目の魔術師のもその存在意義は無きに等しい。

 先程の攻防がライダーではなく白兵戦に長けたサーヴァントだったなら、今頃オレの命があったかはわからない。

 そもそもセイバーやランサーが相手だったなら何があろうと前に出るという選択肢は有り得ない。
 だからといって遠くで待機していても、どこかに身を隠していても、常に戦況を把握していなければ的確な令呪の使用が出来ない。

 本当に本格的な戦闘になった場合の有効的な援護手段を考えておくべきか。

 それは今後の教訓として活かすにしても、現状はあまり前に出ない方針にする。
 前衛はフェンサーに任せ、オレは周りの雑魚狩りに専念した方が得策だろう。

「悪い、世話を掛けた。前衛は完全に任せる。慎二は狙い目だが後回しだ、先にライダーを片付ける」
「了解」

 いつもの軽口はなく、ただ下された指示に従順する。

 フェンサーが己の役割に徹してくれるのなら、彼女を勝利まで導いてやるのがオレの役割。
 本当なら人形程度にてこずっている場合ではないのだが、これが思っていたより厄介だった。

 質より量とはよく言ったもので、個々が低性能であるという弱点を補うための物量作戦が見事に嵌まっている。
 実際に二、三十体の竜牙兵を一掃したにも関わらず、奴らは再び校庭へと集まり始めていた。
 破壊しきれなかった竜牙兵が自動修復で立ち上がってくる数も合わせれば、すぐにも元の数に戻るだろう。

 単一行動しか取れない人形でも障害物にはなるし、先程のように慎二を庇ったりする分には単純な壁にも使える。
 もしも組み付かれて身動きが取れなくなったりしたなら、高い敏捷性を持つライダーの恰好の餌になってしまう。

 だが──────

「おまえはライダーだけに専念しろ。人形はオレが片付ける」

 フェンサーが命を懸けて戦っているのに、オレがその程度のリスクも背負わなくてどうする。
 甘さも感情も何もかも捨てて、魔術師としての黒守(じぶん)に還ったとしても、フェンサーとの間にある信頼だけは最後まで残っているのだから。

 あの夜に抱いた共に戦い抜くという決意は、決して軽いものじゃない。

「往け、フェンサー! Blitz Shot(雷撃), a Precise Rifle Bullet(精密狙撃弾)!」

 進路内にいる邪魔になりそうな奴にだけ狙いをつけ、精密射撃で一体ずつ処理していく。
 オレに襲い掛かってくる竜牙兵も片っ端から殴り付け(解呪し)ながら、息の続く限り呪文を連続詠唱する。

 そうして開かれた道を、ライダーに匹敵する速度で駆ける銀の疾風。
 瞬閃────その一刀で首を落としにいった決殺の一撃を、ライダーは事も無げに躱し切った。

 反撃に繰り出される鉄杭。
 迫る鉄牙を剣の柄で弾き、そのまま力任せに胴体を叩き斬る。

 磁石が反発するように飛び退き、再び回避するライダー。
 リプレイする映像のように、二人は一進一退の攻防を繰り返す。

 そうして十一度目の剣撃。

 今まで残像しか捉えられなかった剣閃が、今回は相手の脇腹を僅かに掠めた。

 黒衣が裂け、ライダーの肌が露になる。
 次はその白い肌に朱色の線が走り、その次は明確な傷が刻まれる。

「くっ……!」

 追い付かれ始めたと感じ、ギアを一つ上げるようにライダーは更に一段階加速する。
 また同じように一撃離脱を行うも、今度は八度目の剣撃で追いつかれる。

 段階的に加速し続けるライダーと、それを追い越すように加速するフェンサー。

 最速を実現する概念を前に加速するということは、自らの首を締めることと同義。
 このままの調子で速度を上げていったなら、必ず先にライダーの方に限界がくる。

 己の加速によって相手も加速するのだ。
 限界までアクセルを踏み込んだ後、フェンサーがその反応速度を越えた時点で、ライダーは神速の剣の前に両断されるだろう。

 オレの動体視力ではもう残像しか捉えられない速度領域に到達した二人が、一体どのような攻防を繰り広げているのかはわからない。
 けれど間違いなく傷を増やしていっているのはライダーで、フェンサーが有利に戦況を運んでいるのは把握できた。

 切傷と裂傷にまみれ、血の赤に自身を染め上げながらも、致命傷はないままにライダーは駆け続ける。

 ひたすらに人形を倒しながらも、二人の戦いに見蕩れていたのはどれほどの時間だったか。
 いつしかライダーはその動きを止め、呼吸を多少乱しながらも落ち着いた様子でこちらを見つめていた。



 その瞬間、いつかに感じた怖気が背中を走った。



 初めてあった時から今もなお、眼帯で封じられている彼女の眼。
 隠され続けているそれを見たことなどなく、その眼がどうなっているかなど分かりはしないというのに、確実に視られているという違和感。

「シンジ、離れていてください。ここからは、少し荒れた戦場になるでしょうから」
「え?」

 言われていることがわからないといった感じのまま、今でもかなり後方にいる慎二は無意識のまま更に後ろに下がっていく。

 そうしてライダーの視線がフェンサーからオレへと切り替わる。

 断言できる。見えることのない彼女の目が、オレを見ているということを。

 眼を合わせるということ自体が魔的な効力を持つことはあるが、視線すら合わせずこちらに干渉することは不可能だ。
 ならばこうして感じている忌避感、嫌悪感は、彼女の眼そのものが帯びている魔力が強大であることを意味している。

 ライダークラスのサーヴァントを相手取るにあたって、最も警戒しなければならないのは保有する技能や所持している強力な宝具。

 多少とはいえ不利になってきている戦況を覆すために、そのどちらかを解放する気なのだろう。

「フェンサー。攻撃や迎撃は考えず、敵の初動への対応、もしくは回避だけに専念しろ」
「わかった。マスターは下がってて。直接戦闘じゃなく宝具勝負になれば、どこまで守りきれるか分からない」

 指示と方針をオレに完全に任せているフェンサーが言うのならば、よほど警戒に値するということか。
 余計な言葉や意見なら無視するのだが、さすがに助言を呈されたとあっては聞き入れないわけにはいかない。

 戦闘において、オレもフェンサーも遊びを挟むということは絶対にない。
 必要な言葉だけを交わし、敵を撃滅するという根幹にある戦闘思考が似通っているからだ。

 少しだけ距離を取り、オレ自身も敵の動きを注視する。

 幸い竜牙兵どもは綺麗さっぱり片付いている。
 再び取り囲まれるまでに、一分か二分程度の猶予か。

 ライダーが何かの能力なり宝具なりを発動するにしても、対処するだけの余裕はあるだろう。

「ふふふ……随分と警戒しているようですね」

 当然だろう。ライダークラスに限らず、敵が特殊な行動に移ったのなら普通は警戒心を抱くものだ。
 英霊と謳われたサーヴァントの能力、宝具は現代魔術の常識では考えられないような力を発揮する。

 それを初見で防ぎきる、躱しきることなど不可能で、事実ランサーとフェンサーが戦った時も、互いに痛み分けとするしかないほどの戦いだった。

 だからこそこうして、万全の態勢を整えているのだが………………

(けど…………なんだ、この胸騒ぎは)

 ライダーに視られていると感じ、背中に走った怖気と寒気。
 そのときからずっと嫌な予感がしているのだが、それは収まるどころか大きくなる一方だ。

 そしてライダーが、微笑みながらその眼帯に指を掛ける。





 そう、オレたちは間違えていた。



 強く警戒するあまりに、ライダーにその眼帯を外させてしまった。

 この世に在り得ざる瞳、宝石(ノウブルカラー)と位置づけされている最高位の魔眼。





 それは解放されてしまった時点で、手遅れだったのだということを────────



 
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