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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epos45-A空翔ける騎士/蘇る闇の欠片~Fragments~

†††Sideルシル†††

はやてが病院の定期通院日だということで、海鳴市へとリインフォースを連れて戻った。となれば、彼女の特別捜査官としての研修が休みとなる。それはつまりはやての補佐を務める俺たちも手が空くことになる。
その場合、シグナムとヴィータは武装航空隊の研修に従事し、シャマルは本局・医務局に従事、ザフィーラは局員ではないため、はやてかシャマルの護衛としてそのどちらに付く。俺は単独で特別捜査官としての研修を受けるか、または別の部署の研修を受ける。

「――さて。闇の欠片、そしてマテリアル達、さらには彼女たちが求めていた砕け得ぬ闇が現れたわけだが」

「ああ。それに異世界からの来訪者も居るという」

「そのうちの1人がアレだろ。イングヴァルトの名前を語ったって話。ハイディ・E・S・イングヴァルトって。名前や外見からしてシュトゥラのクラウス王子の子孫かもな」

「懐かしいわね。もう1人の来訪者も、オリヴィエ殿下と同じ身体的特徴を持っていたわ」

「アミティエ、キリエのフローリアン姉妹。そしてトーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックという騎士と融合騎は要注意だな。共に魔法とは違う技術で戦闘を行っている」

それぞれの研修先にマテリアルが復活したという連絡が入り、その報せを受けた俺たちは“闇の書”事件の当事者ということもあって、こうして海鳴の街へと戻って来た。正直、俺たちの事情で研修を切り上げることが出来るとは思えなかったが、権威の円卓メンバーからの指示があったのか、そう時間も掛けずに切り上げられた。

「では改めて確認だ。手配の掛かった異世界からの渡航者についての対応は・・・」

「なるべく傷つけずに確保ね」

「闇の欠片は・・・」

「接敵撃破。早ぇー話が、厄介事を起こしやがる欠片は全員ブチのめす」

「欠片たちはこの世界だけでなく近隣の無人世界にも現れているようだ。分散して潰そう」

「ああ。・・・では行くぞ。夜天の守護騎士の名に懸けて」

夜天の守護騎士の名に懸けて。本件は“闇の書”事件の延長だ。ゆえに楽園の番人パラディース・ヴェヒターとしてではなく、守護騎士ヴォルケンリッターとして戦いに行く。そうして俺たちはアースラのエイミィ達や、アースラに移ったアリシアからの報告を頼りに各地へ飛んだ。砕け得ぬ闇の復活と共に一気に具現化を始めた闇の欠片たち。前回みたくオリジナルより弱いのであれば助かるんだがな。

(しかし強かったな、砕け得ぬ闇。今の俺でもまず単独では勝てない・・・)

純粋な魔力量だけであれば、大戦時でも十分に活躍できるほどの戦力となるだろう。まさか“エグリゴリ”並に厄介な相手がいるとはな。問題はあの子だけじゃない。ヴィヴィオとアインハルトが居る。俺を蒐集した時に彼女らの情報を取り込んだかと思ったんだが・・・

――あの、月村すずかさん、ですよね? 時空管理局・本局の、第零技術部主任の・・・――

ヴィヴィオがすずかを相手にそう言った時点で、俺から取り込んだ記憶の再現ではないことが判った。先の次元世界では第零技術部など無かったからな。そしてもう1つ気掛かりがある。

――今日は新暦何年の、何月でしょうかっ?――

ヴィヴィオのこの台詞。どう考えても「タイムトラベラーの代名詞だよな、やっぱり」フィクションの映像作品などで、時間移動した者が現地人に訊ねる際によく聞いた台詞だ。にわかには信じられないことだが、海鳴市に現れたヴィヴィオとアインハルトは、未来からやって来たようだ。どうして、どうやって。彼女たちからの様子からして、自らの意思でやって来たわけではないようだが。

(となれば、アミティエとキリエ、フローリアン姉妹が原因か・・・? エルトリア。現代にて管理局が認知していない。先の次元世界でさえも認知していない世界名だ。それに未知のエネルギー運用技術・・・)

遥か未来の技術であれば、現代の管理局で確認できないのも無理はない。しかしアレは・・・似ている。戦闘機人。彼女たちもまた魔法とは違うエネルギーで戦闘を行っていた。ギアーズと言っていたっけ。歯車。彼女たちも人工的な存在なんだろうか。

「トーマ・アヴェニールとリリィ・シュトロゼックも、そう考えるべきだな」

それはともかく、ヴィヴィオとアインハルトが未来人ならば、禍々しい格好をしているが、おそらく心優しいと思う少年もまた、未来人とみるべきか。2人ははやてのことを、八神司令、と呼んでいた。確認時には海上警備部捜査司令、とも。はやてがそう呼ばれるその年代は俺も知っている。今から16年後、はやて達が25歳の時だ。となると、トーマとリリィは16年後の前後からこの時代に飛ばされた未来人となる。

「ま、とにかくあの子たちを確保すればいい。話はその時に聞こう。今は欠片たちの討伐に専念しよう」

俺が担当することになった海鳴市近隣の空を翔ける。俺は単独転移が出来るから、シグナム達のように無人世界まで出向こうと思ったんだが、

――回復したとしてもルシル君はヤミちゃんとの戦いで疲れてる。あんま無茶せんで――

はやてから懇願されてしまい、俺はこの世界に留まることになった。まぁ、砕け得ぬ闇もおそらくこの世界のどこかに居るはず。あの子と遭遇した際、魔術師化さえすれば仲間が集まるまで足止めくらいは出来るだろう。単独での勝利が無理ならば束で掛かって勝つ。外見が幼い少女であろうと、あの強さに絆されて手を抜けば殺されるだけだ。

「だから・・・」

目の前に現れた闇の欠片を睨みつける。俺の前に佇むのは「あれれ? ルシル君?」なのはの姿を模した偽者。見た目が可愛かろうがか弱かろうが、敵である以上は撃破するのみ。

「えっと・・あの、ルシル君?・・・ちょっと怖いかなぁって・・・」

おどおどする偽者が“レイジングハート”を抱きしめながら「私、なにか怒られるようなことしたかなぁ・・・?」と自己問答を始めた。俺はそんな偽者に「すぐに済むから」そう告げて、右手でバイバイと振る。偽者も「???」小首を傾げながら右手を振り返した。

――無慈悲たれ(コード)汝の聖火(プシエル)――

そんな偽者の背後から現れるのは蒼い炎で構成された龍プシエル。大きく開けた口で「へ・・・?」偽者をパクッと一飲み。それで終わりだ。なのはの偽者を焼滅させた。プシエルを解除すると、そこにはもう偽者の姿はない。空に舞う火の粉と魔力粒子を手で払い、「次だ」欠片たちの放つ魔力反応を頼りに空を翔ける。
それから俺は、フェイトやすずか、シャマルの偽者を片っ端から燃やし尽くした。痛みも苦しみもなく、気付くことすらもなく一瞬でその存在をこの世から抹消させてやった。そして次の反応地点へと目指して空を翔け・・・「馬鹿な・・・!」俺は遭遇してしまった。

「なんでお前まで、再現されているんだ・・・!?」

宙に佇む16歳ほどの少女。フェイトやアリシアと同じ長いブロンドヘアを、赤く大きなリボンでサイドアップにし、角度を変えれば色の変わる瞳を有し、そして俺がいま着用しているアースガルド同盟軍の軍服――前後の裾が燕尾になっている黒い詰襟の長衣とロングコートを羽織り、彼女独自のハーフパンツに編み上げブーツと言った出で立ち。

「ディアーチェ、シュテル、レヴィ、フラム、アイル・・・」

彼女は、撃破されたことで崩壊しかけているマテリアル達の姿を模した欠片たちの髪を掴み上げていた。ダラリと提げられた右手は王、理、力の髪を掴み、左手は律と義の髪を掴んでいる。

「お父様・・・?」

「プリム・・・、その子たちは・・・」

プリム。プリメーラ・ランドグリーズ・ヴァルキュリア。完全自律稼働人型魔道兵器・戦天使――ヴァルキリー。その一部隊である第七世代ランドグリーズの隊長。雷滅の殲姫のコードネームを持つ、雷撃系最強のヴァルキリー。

「この娘たちですか? いきなり襲い掛かって来たので迎撃を。大して強くもなかったので、そう労することもありませんでした。良かったですよね・・・?」

「あ、ああ・・・まあ」

「良かった。お父様に叱られてしまっては私、自害ものですから」

――天震雷墜轟――

視覚・聴覚が麻痺しそうなほどの強烈な雷撃がプリムの両手から発せられ、マテリアル達を一瞬にして消滅させた。

†††Sideルシル⇒シグナム†††

我らは再びその活動を始めた“闇の書”の欠片を撃破するべく、分散して各世界へと跳んだ。アースラからの指示に従い、無人世界の空をひとり翔ける。そして、「あれか・・・」視界内に人影を収めた。
かつての我らの主であったオーディンと交友関係にあった、シュトゥラの王子――クラウス殿下と同じ碧銀の髪。高町と相対していた映像を見せてもらったが、なかなかの格闘技術だった。

「(しかし映像で観た時のあの者とは、髪型や雰囲気が違うが・・・)確か・・・覇王流、と言っていたな」

覇王イングヴァルトとして後世に伝えられたクラウス殿下が生み出した流派、カイザーアーツ。
時を超えてクラウス殿下の血族と戦う日が来るとはな。人生とは実に判らぬものだ。私は「そこの者。ハイディ・E・S・イングヴァルトだな・・・?」と声を掛ける。その娘がゆっくりとこちらへと振り返り、「貴方は確か、守護騎士・烈火の将・・・」私のことをそう呼んだ。

「っ。その二つ名で私を呼ぶとは。やはりクラウス殿下の血筋か」

オーディンはバンヘルドとの決戦を前に、クラウス殿下らに我らの正体を告げたと言っていた。それがあの娘の代にまで語り継がれていたのであれば、まぁ知っていてもおかしくはない。シュテルンベルク家に我らの絵画やエリーゼ卿の日記が残っていたくらいだ。あり得る話だろう。

「守護騎士ヴォルケンリッター・烈火の将、そしてグラオベン・オルデンの剣の騎士としての貴方とは一度、お手合わせをお願いしたいと思っていました。ですので、今ここで一槍つけて頂きたいのですが」

構えを取るイングヴァルト。私は“レヴァンティン”を鞘より抜き放ち、「ああ。望むところだ」と応じる。

「守護騎士ヴォルケンリッターが将、シグナム。そして、炎の魔剣レヴァンティン」

「真正古代ベルカ・覇王流カイザーアーツ、ハイディ・E・S・イングヴァルト」

「参る」「参ります」

互いに一足飛びで最接近。イングヴァルトが間合いに入った事で“レヴァンティン”を横薙ぎに振るう。あの娘は“レヴァンティン”の刀身を真下から殴り上げることで、「ほう」私の一撃を妨害した。刀身の腹が下に向いているからこそ出来る迎撃法だな。
逸らし上げられた“レヴァンティン”を持つ右手を戻すより早く、「はぁっ!」左手に持つ鞘で、「断空拳!」イングヴァルトの繰り出して来ていた右拳を防御。鞘に拳が打ち付けられたと同時に鞘を左へ払う。振るわれる鞘に沿ってあの娘の右腕も外に向かって流された。

「っ!」

「せいッ!」

ここで“レヴァンティン”を降りおろし、「ぅぐっ!」イングヴァルトの左肩を斬る、ではなく打つ。よろけたこの娘の意識を刈り取るために頭部に向かって鞘を振るうと、「まだ、です・・・!」魔力を集中させた右腕を構えることで鞘の打撃を防ぎ、「覇王・・・!」左拳を強く握り締めた。

「させん!」

先ほどの初撃――断空拳もそうだったがイングヴァルトの拳打は、足元から練り上げた力を拳に乗せて打つようだ。ならば「ぅあ!?」その拳打の要で足をどうにかすればいい。足払いを掛けてあの娘の体勢を崩してやる。

「せやぁっ!」

「ぐっ・・・!」

遠心力を乗せた回し蹴りを、体勢を崩したままのイングヴァルトへ繰り出すと、この娘は私の蹴りを両腕で防御はしたが、踏ん張りきれずにさらに後ろによろけた。ここで「レヴァンティン!」のカートリッジをロードし、刀身に炎を噴き上げさせる。

「紫電・・・一閃!!」

イングヴァルトを袈裟斬りする。欠片か本物かはどうかまだ判別が出来ぬため、可能な限り手を抜いたことで、「何のつもりですか・・・?」肩から脇腹へと走る防護服の損傷を撫でていた娘から非難の視線を受けることとなった。手応えからしておそらく欠片なのだろうが、今一つ確信が持てないな。

「真剣な決闘で手を抜くなんて・・・!」

「すまんな。お前の正体が判らぬのだ。イングヴァルト。お前の目的はなんだ?」

欠片であれば僅かばかりの記憶の混濁があるはずだ。イングヴァルトは「強さを知るためです」とハッキリとした口調で答え、宙を蹴って向かって来た。“レヴァンティン”を振るい「陣風!」衝撃波を放つ。宙を蹴って跳躍することで躱し、弧を描きながら落下してくるあの娘は「せぇぇい!」落下速度を乗せた拳打を打って来たが・・・

(高町と戦った時より随分と弱くなったな・・・)

“レヴァンティン”の腹で受け止めてそのまま拳を外側へと払い退け、上段蹴りで蹴り飛ばす。イングヴァルトはまた両腕で防御し、焦りを見せながらも姿勢制御を行い、宙に留まった。飛行すらも危うい状態だな。明らかに高町と戦っていたイングヴァルトより格が落ちている。となれば、あの娘は欠片となるだろう。

「列強の王たちを全て打ち倒し、本当の強さを手に入れ、ベルカの天地に覇を成す。それが私の目的・・・です。古きベルカの名のある王すべてよりも、覇王が最強であると証明できれば・・!」

「・・・お前がいつの時代の者かは判らんが、ベルカはすでに終わりを迎えた。王たちもすでに存命していないだろう。・・・っ。まさか、末裔を狙っているのか? だとすれば止せ。そのようなことをしても、お前の目指す強さは見つからん」

「っ!・・・判っています。それでも・・・弱いままじゃ、誰も守ることが出来ないから・・・!」

悔しげに、そして悲しげな瞳を見せる娘だ。どういった理由でその道を選んだのかは知らんが、私に出来るのはこの悪夢を終わらせてやることだけ。ならば。

「王ではなく騎士な私だが、それでも今のお前以上には強いと自負している。付いて来い。陸に降り立とう」

眼下に広がる荒野へと降下していくと、イングヴァルトもまた高度を落とし付いて来た。そしてザッと地面へと降り立ち、「仕切り直しだ、覇王イングヴァルトの末裔よ」と言い放つ。

「しっかりと両足で地面を踏みしめることが出来れば、お前のカイザーアーツもその真価を発揮できるだろう。その上で沈めてやる」

「・・・感謝します」

ふむ。空中の時は違い、なかなかの構えだ。外見年齢は10代後半ほどか。その構えからして余程の鍛錬を積んできたのだろう。その真価を発揮できずに敗北を与えるのは忍びない。私としても本当に覇王流を見てみたい思いもある。

「では改めて・・・参ります」

空戦とはまるで違って勢いのある踏込み、「ほう」そして一足飛びの速度。“レヴァンティン”ではなく鞘を振り下ろす。イングヴァルトは体の向きを横に変えることで避け、勢いを殺すことなく、上半身の捻りを加えた正拳突きを繰り出した。
私は、右足を伸ばした状態で左足だけを曲げて腰を限界まで落とすことでやり過ごす。頭上を通り過ぎたのを確認。蹴りを打たれる前に立ち上り、イングヴァルトを左肩に担ぎ上げて「おおおお!」後ろに向かって放り投げる。息を呑むイングヴァルトの気配を背中で感じながら、振り向きざまに“レヴァンティン”を振るう。

「っぐ・・・!」

また防がれた手応えが右手から伝わって来たが、「おおおおッ!」そのまま“レヴァンティン”を振り払う。ここでようやく振り返り終え、大きく薙ぎ払われたイングヴァルトを視界に収めることが出来た。あの娘は両手を地面に付いて滑空を止め、後方倒立回転跳び――俗に言うとなんだったか、バック転か。それで勢いを殺した。

「結構本気で打ち込んだんだが、さほどダメージが入ってはいないようだな」

鞘へと“レヴァンティン”を納め、カートリッジをロード。その場から動こうとしないイングヴァルトへと歩み寄って行くと、あの娘が構えを見せる。最初に見た初撃より、私が中断させた二撃目より、魔力の練り込みのレベルがさらに高い。

「用意は出来たか? イングヴァルト」

「はい。ご配慮、感謝いたします。今の私に打てる最高の一撃を、お見せいたします」

「そうか。では私も、それに見合うだけの一撃を見せよう」

徐々に距離を詰め、そして一足飛びで“レヴァンティン”の間合いにイングヴァルトを入れる事が出来る距離になったところで止まる。ここに来てもう語る事はない。次の接近で、互いに必倒の一撃を揮う、それだけだ。

「覇王・・・」

「紫電・・・」

待ち構えるイングヴァルトへ一足飛びで最接近。

「断空拳ッ!!」

先手はイングヴァルト。極度に練り上げられた力が込められた右拳打が真っ直ぐ打ち出されてきた。本当に面白い技だ。速度も申し分ない。だが、私を相手にそれはあまりにも直線的。先ほどイングヴァルトが私の振り下ろしを躱したように、こちらも体の向きを横に向けて紙一重で回避。反撃を受ける前に、

「清霜ッ!」

上半身の捻りを加え、鞘内に溜めた魔力を爆発させて居合速度を加速させた一閃、紫電清霜を放つ。“レヴァンティン”はイングヴァルトの体を確実に捉え、「かは・・・っ」空高く舞い上がらせた。そしてドサッと背後に墜落。ゆっくりと振り返り、力なく横たわるイングヴァルトを見下ろす。

「かふっ、けほっ・・・」

「意識があるか。大した防御力だな。しかしもう立てまい」

欠片であることを証明するように崩壊し始めたイングヴァルトが僅かに動かせているのは手の指だけ。

「わた、しは・・・強くなり・・たい・・今より・・・もっと、ずっと・・・誰にも、負けな・・・ように・・・」

そう言い残して消滅したイングヴァルトの偽者。それを見送り終えた後、私は次の反応地点へ向かうために空へと上がった。

†††Sideシグナム⇒シャマル†††

砕け得ぬ闇・マテリアル・異世界渡航者・闇の欠片。いろんな問題が一気に発生しちゃってる今回の事件。アースラで一度集まった後、はやてちゃん達が遭遇した問題の子たちを映像で観たけど、ビックリしちゃった。オリヴィエ殿下やクラウス殿下の身体的特徴を受け継いでいた子が居るんだもの。
でも、それ以上に驚いたのが砕け得ぬ闇のその強さ。単体戦力としては間違いなく私たちの中で最強だって思えるルシル君の魔法を受けてもダメージが軽微。その魔力量は今まで出会ってきた人たちの中で最高レベルかも知れない。
ともかく。不思議な渡航者さん達の捜索も視野に入れた、闇の欠片たちの討伐を行うために、私たちは世界を渡り歩くことになった。そして最初に出会ったのが・・・

「フリーズ、で~す! キッチリ検問ちゅーな、キリエちゃん。K.K.K♪ そんなわたしのね・ら・い・は、あなた! 緑のおねーさん❤ というわけで、止まってくださーい!」

「えと・・・キリエ・フローリアン、ちゃん・・・」

桃色の髪をした女の子が、両手に銃を携え、そしてその銃口を私に向けた佇まいで現れた。私はそんなあの子に「あなたには今、手配が掛かっているから、出来れば投降してくれると助かるんだけど」って声を掛ける。

「知ってまーす♪ でも、投降なんてしません。わたしには、わたしでやることがあるんで」

「そのやることに、私がどう関係してくるのかしら?」

検問中なんて名目で私を待ち構えて、しかも狙いが私なんて言うんだから。キリエちゃんは「ええ。あなたの治癒の力で、マテリアルちゃん達を――王様たちを治してほしいんですよ」って話してくれた。

「本当に参りましたよ~。頼りの王様たちがみ~んなダウンしちゃうし、ヤミちゃんもどっかに飛んで行っちゃって見失っちゃうしで。もうどうしたらいいのかって困り果ててたんですけど・・・。だったら治せばいいやって思い至ったんですよ」

「あー、なるほど。だけど、マテリアル達の子を治すかどうかは私の一存じゃ決められないの。私たちの主であるはやてちゃん、それに司令部に話を通してからじゃないと・・・。あと、治し方が正直わからないってこともあるし・・・」

普通の人なら治せることも出来るだろうけど、相手はマテリアル――人ではない、実体化したプログラム。それを治せるような技術も魔法も持ち合わせてないわ。だからそう言ったら、「そうですかー。判りました~♪」肩透かしを食らっちゃうほどにアッサリと諦めてくれた。

「ほっ。それじゃあ――」

「それは、そっちの都合♪ だから知ったこっちゃないの♪ 許可とか貰わなくていいから、つべこべ言わずについて来てもらいます♪ もしかしたら、上手く治せるかもしれないですし、どうやっても治してもらいます。何せヤミちゃんを管理下に置く為には、王様の力が必要なんで。・・・どうしても必要なんです。ヤミちゃんが、あの子が持つエグザミアを持って帰らないと・・・。お父さんが・・・!」

「エグザミア・・・? お父さん・・・?」

後半からお気楽な声色の中に真剣さが混じり始めた。キリエちゃんは「必要なんです。エグザミアが。わたしとお姉ちゃん――アミタ、わたし達のお父さんの夢を叶えるために」って目の端に涙を浮かべさせた。

「それは、その、なんて言うか、個人的にはお手伝いをしてあげたいんだけど、でも公務員な立場的に出来ないと言いますか・・・」

「チャ~ンス」

「え・・・?」

――ラピッドトリガー――

「きゃあ!?」

キリエちゃんの2挺の銃から光弾が連射されてきたから、「クラールヴィント!」パンツァーシルトで防御する。これってまさかの「泣き落とし・・・!?」攻撃だった。危うく引っ掛かるところだったわ。

「どの道、こちらの時代、こちらの世界での治癒術師の協力は必要なんで、強制的に連れて行きます!」

そう言ってキリエちゃんは左手に持つ銃を片刃剣に変形させて、「大人しくしてくれれば、痛い目に遭わずに済みますよ♪」って剣を振り下ろしてきた。それを後退することで避けたすぐ、「っく・・・」右手の銃から光弾を発射。それもまた障壁で防御。

「拉致されるなんてお断りです! もう手加減なんてしてあげません。謝るなら今ですよ!」

「それはこっちのセリフですぅー。泣いて降参したって、みっともなく謝らない限りは止めませんからね~!」

――アクセラレイター――

キリエちゃんの姿が掻き消える。テスタロッサちゃんの高速移動魔法みたい。前情報が無かったら危なかったかもしれないけど、高速移動が出来ると判っている以上は「待ち構えればいい」その場から動かず、周囲に小型の竜巻――風の足枷を6基と発生させる。

「わわっ、きゃぁああああ!」

背後から悲鳴が聞こえた。足枷に突っ込んで弾き飛ばされた証の悲鳴が。速さに任せて背後からの奇襲なんてセオリー過ぎるわ。とにかく、一度でも向こうの出鼻を挫いてあげれば「私のターンの始まりよ!」“クラールヴィント”のペンデュラムを伸ばして、相手にぶつける打撃魔法、ペンダルシュラークを放って、「きゃん!?」キリエさんにダメージを追加。

「さらに!」

「ちょっ、待っ・・・!」

――逆巻く嵐――

竜巻状の砲撃を発射。キリエちゃんは「おっかしいな!? 治癒術師って、戦闘はダメダメっていうのが常識じゃなかったっけ!?」なんて、納得できないって風に大声を上げながらも光弾を発射して来た。

「無駄よ、キリエちゃん!」

障壁で防ぎ切り、「お願い!」風の足枷をキリエちゃんに向かって飛ばす。キリエちゃんは速度にものを言わせて避けきって、「フェイザー・エッジ!」両手に剣を携えての二刀斬撃。それを「風の護盾!」渦巻く障壁で防いで、「なんなのよぉー!?」弾き返されたキリエちゃんに、「戒めの糸!」ペンデュラムと指環を繋ぐ魔力の糸を絡ませる。

「うっそぉー! こんな簡単に負けちゃうなんて信じられなぁーーい!!」

「はーい、シャマル先生の大勝利ぃ~~~♪」

キリエちゃんに勝利のピースサインを向ける。私の高速から必死に抜け出そうとしているキリエちゃんに「そう簡単には抜け出せませんよ♪」笑顔を向ける。

「さてと。色々とお話を伺いましょうか。エルトリア、ギアーズ、あなた達の正体について。マテリアル達、砕け得ぬ闇について、知っていることを全て」

「むぐぐ・・・。も、黙秘権を行使します!」

「あらあら。じゃあしょうがないわね。弁護官が来てくださるまで、このまま拘束を続けさせてもらいますね」

キュッと戒めの糸の拘束力を強めちゃう。すると「あんっ。あいたたた! ちょっ、痛っ、痛い、締まる、食い込んじゃうぅぅーーー!」ちょっとアレな声を出しながら文句を言ってくるけど、聴かないもーん。

「あのね、キリエちゃん。無茶なことをしないで、ちゃんとお話をしてくれれば、無駄な争いも起きないのよ。砕け得ぬ闇のエグザミアがないと、お父さんが大変なことになるのよね? そういう理由なら、手伝うのにやぶさかじゃないから」

「つーん」

「はあ。それに、アミティエさん、あなたのお姉さんともケンカをしているらしいけど、それもあなたがお姉さんときちんとお話ししていないからじゃない? ちゃんと説明を、コミュニケーションを取れば、解決できると思うんだけど?」

「ふーんだ。あなたにわたし達のことなんて関係ないじゃないですかー。勝手に、土足で他人様の家庭の問題に踏み込んで来ないでくださいぃー」

駄々っ子。見た目ははやてちゃん達以上のお姉さんなのに、中身が本当に幼い。溜息ひとつ吐いて、アースラに連絡を入れようとした時、「っ!?」とんでもない魔力反応が付近で発生した。その魔力波で「ああ! 戒めの糸が・・・!」弛んじゃった。

「チャ~ンス! キリエ、緊急ダァーーッシュッ! C.K.K❤」

「待っ・・・!」

拘束力をもう一度強め、そして制止する間もなくキリエさんがとんでもない速さで飛び去って行っちゃった。あぅ、逃がしちゃったわ。しょんぼり肩を落とす。

「ううん。こんなことで落ち込んでいられないわ。さっきの魔力の発生点に向かわないと・・・!」

キリエちゃんの反応をアースラが捉えてくれるまで、私はもう1つの問題へ取り掛かる。魔力反応が発生した場所へ飛んで、「え・・・?」発生原因を視界に収めた。

「ルシル君・・・? あれ? ルシル君は海鳴市の担当じゃ・・・? それに、どうして大人の姿に変身して・・・?」

ふくらはぎまで伸びる、綺麗で長い銀の髪。背に展開するのは蒼い魔力で形作られた剣の翼12枚。見間違うはずのない家族の姿がそこにあった。

「シャマル・・・?」

「??・・!?・・・!!・・・うそ・・・!」

両手を口元へ持って行く。ルシル君じゃない。あの人は、あの人は・・・「オーディン、さん・・・!」だわ。ルシル君の大人形態と瓜二つでありながら、その身に纏う雰囲気が変身時より大人っぽい。

「オーディンさん、ですよね・・・?」

「どうした? シャマル。私が他の誰かに見えるのか?」

そう言ってペタペタと自分の顔を触るオーディンさん。視界が涙で滲みだす。また、こうして逢える日が来るだなんて、予想だにしていなかった。私は思わずオーディンさんの胸へと飛び込んだ。

「おっとと。どうしたんだ?」

「いえ、・・・いいえ、なんでもないです!」

「???・・・ふふ。おかしなシャマルだな」

オーディンさんに頭を撫でられる。何百年ぶりなんだろう。大きくて温かな、そして優しいその手で撫でられるのは。でも、このオーディンさんは・・・欠片。打破しないといけない障害・・・なのよね。私はオーディンさんの胸に頬を摺り寄せながら、今のオーディンさんの状況を伝えた。

「――つまりは、今の私は闇の書の闇が再現したことで実体化された記憶、だということなんだな」

「はい」

「なるほど。通りでアムルの街並みが周囲に無いわけだ。しかもいきなりここに放り出されたような感じもして、何故ここに居るのかさえも判らなかった。そうか、そうか。偽者なら、当然か」

「オーディンさん・・・!」

納得したと言った風に深く息を吐いたオーディンさんは、「なあ、シャマル」私の頭を撫でながら私の名前を呼んでくれた。それに「はい」俯くような首肯で応える。

「君たちは今、幸せか?」

「っ!!・・・はい・・・はい・・・はい! 幸せ、です!」

涙が溢れ出てくる。声だって嗚咽が少し紛れてしまって。

「オーディンさん・・・! あなたがかつて読んでくれた予言は、こうして叶いました・・・! 必ず私たちの前に最高の主が現れる。・・・魔法も知らなかった、小さくて、優しい女の子。私たち守護騎士と融合管制騎リインフォース! とても幸せな日々を送っています!」

感情を抑えきれなくて、オーディンさんにしがみ付きながら叫ぶ。幸せです、と。オーディンさんの人差し指が私の頬に伝う涙を拭う。顔を上げてオーディンさんと目を合わせると、「良かった。本当に・・・良かった」オーディンさんは満面の笑みを受かベてそう言ってくれた。

「幸せにな、シャマル。シグナム、ヴィータ、ザフィーラ。そしてリインフォースにも伝えてくれ。いつか再び、アギトとアイリと再会する日が来たら、彼女たちのこともうんと幸せにしてあげてくれ」

「オーディンさん・・・!」

「さあ、私も夢から覚める時だ。元気でな」

「オーディンさん!!」

そうしてオーディンさんは自らその存在を瓦解させて、光となって消滅していった。


 
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