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ロード・オブ・白御前

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オーバーロード編
  第14話 彼と彼女の行き先

 巴は自室で学生鞄をひっくり返した。バサバサとベッドに落ちる教科書とノートには目もくれない。巴は鞄の二重底を剥いで、量産型ドライバーとアーモンドのロックシードを取り出した。

(荷物なんて、これだけあれば充分よ)

 私服には着替えない。未成年のオフィシャルは制服だし、これが2番目に巴にとって動きやすい格好だ(ちなみに1番は学校指定ジャージ)。

 巴にとって街の混乱の原因はどうでもいい。ユグドラシルに忍び込む絶好のチャンスには変わらない。

 ――碧沙が光実と共に脱走したと知らない巴にとって、碧沙はタワーの中で今も被験者を続けさせられている人質なのだ。

 巴はスマートホンに目を落とした。

(あとは亮二さんに伝えて行くか行かないかだけ。わたしがタワーに侵入するって言ったら、亮二さんは……きっと自分も行くって言ってくれる。それはとても嬉しいことだけど、亮二さんを危険に曝しちゃう。ただでさえ、ドライバーは1台しかないんだもの)

 本心は叫ぶ。あの背中に守られたい。影松を揮って敵を破る初瀬を見たい。ふたりで、戦いたい。

(――なんてね。どうせケータイ繋がらないんだから)

 巴は苦笑し、ドライバーを装着した状態で部屋を出て、家を出た。





 巴は自転車を漕いでタワーの正面玄関まで来た。

 ユグドラシル・タワーは、それはひどい有様だった。ヘルヘイムの植物があちこちに蔓を張り、花を咲かせ、実をたわわに生らせている。
 これらがもっと低地に広がれば、果実の誘惑に負けてインベス化する人間がどれだけ出るか。考えたくもなかった。

 いざ階段に足をかけた、その瞬間だった。


「トモ!!」


 それは、いるはずのない人物の、声だった。

「亮二、さん」

 初瀬亮二が、汗まみれで息を切らして、自身の両膝に両手を突いている。

「こ、こんなっ、時に、どこ、行ってんだっ。家に、はっ、行ってもいねえ、から、探し、たんだ、ぞっ」
「ご、ごめんなさい。でも、亮二さん、どうして」

 初瀬は袖で汗を拭いながら上体を起こした。

「俺の姉貴が沢芽にいるのは話したよな」
「はい」
「さっき急に連絡が取れなくなって。何度やっても無理だった。インベスのこともあるし、何か始まったのかと思って、そっこー電車乗り継いで来た」
「何かって、それだけで?」
「こういうのは先んずれば制す? だっけか。動いたもん勝ちなんだよ」

 ニカッと笑う初瀬を見て、巴は泣きそうになった。
 会いたかった。会って、共に戦ってほしかった。どんな危地にも隣にいてほしかった。

 ――いいんですかここから先は死地ですよ下手すると死にますよドライバー1個しかないんだからそもそもこれはわたしが碧沙を助けたいからやる身勝手で……

 思い浮かんだ文句は、たった一粒の涙に負けた。

「と、トモ!?」
「うれし、です。亮二、さ……ってくださ…いっしょに、戦って、ください…!」

 涙を何度も拭いながら、ようよう言葉にした。

「――ああ、そのために来たんだから。俺は」

 初瀬は巴の涙を親指で拭い、笑った。


 *****
 

 紅いオーバーロードを倒したライダーたちは、今後を話し合うために、チーム鎧武のガレージに集まることになった。

 角居裕也は、ガレージに入っていく「仲間」たちの最後尾について、非常に気まずい思いをしていた。

(俺が行方不明ってことになって何ヶ月だっけ。舞の奴、怒ってんだろーなー。舞の大嫌いなユグドラシルに付いて戦ってましたって言わなきゃいけないわけだし。うわ、考えてると胃がキリキリしてきた。あ~やだな~)


「ちょっと。中途半端なとこで止まらないでちょうだい」

 耀子が半眼で裕也を睨んでいる。裕也はドアの前の踊り場、耀子は階段の途中。

「だって俺、ちょっと前まで悪の組織の一員だったんすよ? 古巣に戻るプレッシャー、パネェんですって」
「そうね。だから?」
「だから? って……」
「気まずいのは私だって同じよ」
「耀子さん……」

 少女のようにむくれる耀子は、容赦なしに裕也をガレージの中へ押し込んだ。

「裕也!?」
「裕也さん!」

 舞とチャッキーがイスを蹴倒す勢いで立ち上がった。裕也が花のアーチを潜って階段を降りると、彼女らはすぐに裕也を囲んだ。

「どこ行ってたんですか! ああ! しかもそれアーマードライダーに変身するベルト!」
「ごめんなー。心配してくれたか?」
「したに決まってるじゃないですかぁ! いつもふらっといなくなるけど、今回は長すぎるって」

 ねえ、とチャッキーと舞は肯き合う。

「ところで裕也さん、そのカッコ何です?」
「あー、似合わないのは分かってるからツッコまないで。――リカとラットは? やめたのか」
「……あ、その、来ることは減って、でも辞めたわけじゃ」
「そっか。ずいぶん様変わりしたな。次踊る時は俺にも教えてくれよ。振り、覚え直すからさ」
「――うん。絶対」
「さんきゅ、舞」

 裕也は舞の頭をぽんぽんと叩いた。舞は笑った。


「(なあ、ザック。あれ、誰?)」

 ペコがザックに囁いているが、生憎と耳聡くなった裕也には筒抜けだ。

「(チーム鎧武のリーダー、角居裕也。新戦力だぜ)」
「(マジっ? じゃあ、アーマードライダーなのか?)」

 ザックが肯くと、ペコはきらきらした目で裕也のほうを見て来た。チームバロンには荒くれ者しかいないイメージがあったが、彼のようなわんこタイプもいたらしい。

「舞、ここ、テレビ点くか?」
「え? ああ、うん」
「点けてくれ。今回のことで世間がどうなったか確かめないと、方針の立てようがないからな」

 舞は丸テーブルへ戻って、リモコンでテレビを点けた。

 戒斗は戒斗で、ペコにスマートホンが繋がるか試すよう言っている。城乃内はチャッキーからタブレットを借りて、繋がるか試し始めた。

 そして紘汰は、オーバーロードとの戦いで一番消耗しただろうに、外の様子を見にガレージを出て行った。

(止めても聞かないもんな、紘汰は)

 裕也は舞にリモコンを借りて、テレビのチャンネルを回した。
 株価、治安、隠蔽工作――どれも核心に触れないニュースばかり。沢芽市、の単語も出て来ない。

「困ったな……ミッチとも連絡つかないし」

 裕也は耀子と目配せし合った。

 光実は碧沙を連れて“森”へ貴虎を探しに行ったきり通信が途絶えている。言うべきか悩ましい所だ。

 加えて、この場にいないライダーがどう動くか。ダークホースが残っている。
 関口巴と、初瀬亮二だ。
 巴が今持つドライバーは量産型。初瀬でも変身は可能だ。この二人のライダーがどう出るか。

(俺も巴ちゃんも『碧沙のため』って部分は共通してるんだけど、俺とあの子じゃ碧沙の『何』に重きを置いてるかが食い違ってる。碧沙にはミッチが付いてんだから大丈夫だとは思うけど)


「ただいまっ」

 紘汰がガレージに帰って来た。

「外の様子は!?」
「インベスだらけだ。キリがない」

 ここで城乃内が聞き捨てならないことを言った。

「逃げ損なって、家に閉じこもってる人、相当いるんじゃないか?」

 数人がはっとしたように城乃内に注目した。

 避難警報は出ていない、そもそも電波が通じない。この状況で、自己判断だけで沢芽を出ようとする住民はおそらくほぼいないと見ていい。

「じきに警察とか自衛隊とか動くんじゃ」
「動かないわよ」

 耀子の声は冷たかった。努めて冷たくしようとしているように聴こえた。

「沢芽市で何かあったらユグドラシルで対処する。自衛隊は外から封鎖するだけ。そういう手筈なのよ」
「対処できてないだろ!」

 すると戒斗が丸テーブルの上から地図を持って示した。

「沢芽の出口は限定されている。隔離は簡単。端からそういうつもりで造りやがったんだ」
「許せない……!」
「許せなきゃ、どうする」

 戒斗は地図を放り捨て、外へ出る階段に向かって歩いて行った。

「他人を宛てにしたい奴は勝手にしろ。自分で動く意思のある奴だけ付いて来い」
「待って」

 その戒斗を耀子が止めた。

 耀子は持って来た鞄をひっくり返した。中から溢れ出たのは、数機の通信機。携帯電話が使えないなら、通信手段は限られる。ガレージに来る前に、乗り捨ててあったトルーパー隊のカーゴ車から裕也が拝借してきた。

「今は力を合わせないと、でしょ?」

 今度の耀子の声には血が通っていた。

「じゃあまず、街をパトロールして、取り残された人を安全な場所まで避難させる。みんなっ」

 おのおのが承知の返事をした。紘汰が通信機を投げ渡した戒斗も、舞の方針に否は唱えなかった。


 舞を残して皆が出て行く中で、裕也は耀子に囁いた。

「(抜けてもいいっすか? 巴ちゃんと初瀬が気になるんで)」
「(分かったわ。あの子たちはごまかしといてあげる)」
「(ありがとうございます)」

 パトロールに散っていく仲間と同じような動きをしつつ、裕也はユグドラシル・タワーへ続く道へ進んで行った。 
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