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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  リー

「久しぶりです、ジャシンさま。こんなところで貴方に会えるとは光栄です」

 カブトは目を丸くして、大蛇丸の敬語を使う相手を見つめた。
 見たところ二十代のはじめから三十代の終わりというくらいの、黒髪に黒い目の男だった。霧隠れ独特の尖った歯をしており、首元に緩く巻かれている包帯はどうやら元は口元を覆っていたものらしい。口元を覆っていないことと、黒髪が鎖骨にかかるほどの長さになっていること、黒い瞳が異様な光かたをしていることを除けば、彼は鬼人・桃地再不斬にとてもよく似ていた。

「〈誰か〉は男に出会う。〈伝説の三忍〉の男だ。〈蝦蟇仙人〉ではない方、〈白い大蛇〉と呼ばれる方。〈白い大蛇〉は、〈偽りを呼吸する者〉を従えて〈誰か〉にあいにきた。〈誰か〉は〈白い大蛇〉に告げる、犬の川端歩きの〈誰か〉に、敬語などは不要である、と」
「――ならいいわ、ジャシンさま。今日は桃地再不斬の顔なのね? まあ、それはどうでもいい。私は穢土転生をしたいの。だから、初代と二代目を貸してくれないかしら」

 〈偽りを呼吸する者〉とはどうやら自分のことらしいと、カブトは驚愕に目を見開いた。偽りを呼吸する者。スパイとして各国を渡り歩き、常に嘘偽りの鎧を纏い、巧言令色で相手を騙し、情報を集めていたカブトにとって、それは相応しい呼称だ。面識もないジャシンという男にそんな呼称で呼ばれるとは、思ってもいなかった。

「いくら払う?」
「そうねえ……ヒルゼン先生はどれくらいかしら」
「初代と二代目は合わせて九十。三代目は三十だ」
「なら穢土転生用の生贄も交えて、三十二人分の死は先払いしたってことにしてくれていいわ」

 払う、というのはどうやら金額のことではなく、“死”であるらしい。足りなくなったからって自分を殺すような真似はしてほしくないものだと、カブトは密かにそう思った。

「――三十二人分か。残りの五十八人分は?」
「なんとかなるわよ。何せ、やるのは“木ノ葉崩し”なんだから」
「〈木ノ葉崩し〉?」

 ジャシンは大蛇丸との取引に、急激に興味を持ったようであった。異様な雰囲気を持つ黒い瞳がきらきらと輝きだす。
 大蛇丸とカブトがジャシンに会ったのは全くの偶然だったが、大蛇丸はとても嬉しそうだ。カブトがジャシンに会うのはこれがはじめてだが、ジャシンが只者ではないというのは見て取れる。

「そうよ。ジャシンさまはこういうのに興味あるでしょう? だって、たくさんの人が死に、そして血を流すんだものね」
「〈誰か〉は、血と死を好む――いいだろう。たくさんの血を流し、そして、たくさんの死を〈誰か〉に捧げてくれ、〈白い大蛇〉よ」

 +

【  ロック・リー
      VS
  いぬづか キバ 】

「では……よろしくお願いしますよっ、キバくんっ!」
「へんっ……こいつにゃあ負けねえ、そうだろ、赤丸っ!」

 構えを取ったリーに、キバは赤丸と顔を見合わせ、ニヤリと微笑みあう。主人たるマナが治療を受けている今、紅丸はハッカの肩の上に座っている。

「では、はじめてください」
「行っくぜぇ、擬獣忍法、四脚(しきゃく)の術ッ!」
「――速いっ!」

 最初に動き出したのはキバだった。チャクラが彼の体を骨格から変えていき、四つ足で動き回るのに丁度いいような体形にかえてゆく。騎虎(きこ)(いきおい)で飛び出していったキバの攻撃の素早さにサクラが瞠目する。
 ただしリーも伊達に一年間体術の修行を積んでいたわけではない。鍛えられてきた動体視力は素早いキバの動きもしかと目に捉え、リーはその軌道を読み、攻撃を回避するのと共に、生き馬の目を抜くが如し早業でキバに蹴りと拳とを叩き込んだ。

「ぐっ……! 流石一期上の先輩は違うなァ……!!」
「まだまだ! これくらいじゃ終わりませんよッッ!」
「それはこっちの台詞だ! 通牙!」

 体を猛回転させながら向かってくるキバの攻撃に、リーは警戒の色を示した後、飛び上がってそれを避けた。床に亀裂が走り、床の破片が飛び散る。素早く方向転換したキバは空中で身動きの取れないリーに通牙を食らわし、彼を地面へと叩きのめす。

「――お見事ですね。ですが僕だって負けていませんよっ! 木ノ葉旋風!」

 上からの蹴りを咄嗟に避けたキバだが、下からの蹴りには咄嗟に反応できず吹っ飛ばされてしまう。空中でなんとか体勢を立て直したキバは、チッ、と舌打ちをすると、兵糧丸を取り出して赤丸に食わせた。赤くなっていく赤丸の体毛に、ナルトが驚きの声をあげる。

「あ、赤くなった!?」
「だーから赤丸なんだよ!」

 自らも兵糧丸を服用しながらキバは返答する。赤丸がキバそっくりに変化し、獣のように四つの足を地面につけるキバが二人並んだ。
 
「牙通牙ッ!!」
「くっ……!」

 猛回転しだした赤丸がリーへと襲い掛かる。リーがそれを避ければキバが攻撃し、キバを避ければ赤丸が攻撃するという猛攻撃が展開され、それらを避けているうちに、リーの動きも鈍くなり始めていた。数発の攻撃があたり、激痛と共に何度か吹っ飛ばされる。足の錘を外せたら、表蓮華を使えたらと幾度なく思ったが、ガイの許可が下りていないのならばこれは使えない。

「木ノ葉旋風ッ!」

 上の蹴りをキバが避けるのと同時に、赤丸が背後から襲来する。そしてリーがそちらに気を取られると、キバが前から攻撃してくる――それが今までのパターンだった。しかしそう何度も同じ攻撃パターンを見ているリーは、それへ対する対処法もちゃんと考え付いていた。
 木ノ葉旋風。そう言えばキバは、上からの蹴りがくるものと思い込む。なら、逆に下から蹴りを飛ばせばどうするだろう。リーはそれを実行したのだ。
 案の定、上から蹴りがくるものと思い込んで屈んだキバは下からの攻撃にいきなり反応出来ずに宙へ飛ばされる。背後から赤丸が襲撃してきたが、リーはそれを空中に飛び上がって避けた。同時に、「影舞葉」を使用してその下を飛んでいく。

「――!」

 表蓮華は師匠たるガイに禁止されて入るために使う気はない。キバの片腕を掴んで、下から迫っていた赤丸の方へ投げ飛ばす。赤丸の変化がとけ、キバは赤丸を庇う形で地面に激突してしまった。血を吐きながらもなんとか起き上がったキバが再び通牙を使おうとするが、使いすぎでチャクラ切れを起こしてしまっているらしい。飛び上がって拳を振り上げたキバに自分の拳をぶつけた。チャクラを使わない体術なら負けない自信ならある。そのままキバに体当たりを食らわし、キバは再び地面に落下した。

「かはっ……」
 
 血を吐き出しながらキバが再び立ち上がろうとするが、力が入らないらしい。荒い息をつきつつなんとか立ち上がろうとしていた彼だが、結局力尽きたようだった。それを見たハヤテが宣言する。

「勝者、ロック・リー」

 キバがぐっと悔しそうに下唇をかみ締めた。赤丸やヒナタ、紅の心配そうな声が聞こえてくる。

「お前……まだ、本気、出してなかったろ」

 気づかれていたらしい。悔しそうなその顔にリーはちょっとだけ困ったように笑って、手を差し出した。
 差し出された手に戸惑っていたらしいキバは、何度か視線をリーとその手の両方に巡らしていたが、やがて、おずおずとその手をとった。リーにそっと助け起こされ、よろよろと立ち上がる。ぎゅっと、リーがその手を強く握ってきた。

「僕はいつだって本気ですよ。試合、楽しかったです。ありがとうございました。――またいつか戦いましょう、キバ君」

 リーの朗らかな微笑に、キバは目を見開き、そして、彼もリーの手をぎゅっと強く握り返して、笑った。

「ああ。今度はまけねーぞ!」
「僕だって、後輩に負けるわけにはいけません」

 ――いい試合じゃったな
 中忍試験での試合では、テマリがテンテンにやったような仕打ちをしたり、勝者が敗者を侮辱したりということも珍しくはない。しかし勝者だからと驕ることなく、リーのように相手と握手をしたりするのは実に珍しいことだったのだ。
 パネルが再び流れ、最後の試合の対戦者の名前を示す。そして示された二つの名前に、三代目火影は目を細めた。
 どうやらこの戦いは、リーとキバのようで握手で終わるというわけには行かなさそうだ。 
 

 
後書き
一度こんな握手の終わり方をさせて見たかったん……だ……! 
リーさんならやってくれそうだったんだもんと言い訳しつつ。次はネジとヒナタ戦、予選最後の試合になります。 
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