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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ
壊れた世界◆ミドリという男
  第五十話 彼は誰だ

 
前書き
ミドリとは一体誰なのか。ミズキとは一体どのような関係があるのか。 

 
 夜八時、皆がエギルの店に集合した。キリトとアスナ、二人の娘ユイ。新生《月夜の黒猫団》からマルバ、シリカ、アイリア、サチ。天井から降って沸いた二人、すなわちミドリとシノン。そして店主エギルと、なぜか武器屋リズベット。十人が一つのテーブルを囲んで座った。空気が重く感じた。キリトが咳払いをして、皆の注目を集めた。
「えー、今日は集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは、ミズキに極めて関係のありそうなプレイヤーが見つかったからだ。ただし、本人は記憶を失っているようだから詳しいことは分からない。一番ミズキを知っているマルバたちなら俺たちよりもなにかわかるかもしれないと思ったんだ。
 それで……ええと、ことは十二日前に遡るな。七十五層のここ『アークソフィア』の街に、あろうことか天井から降ってログインしたプレイヤーがいた。そこのシノンだ」
 キリトがシノンに視線を向けると、皆もシノンを見た。シノンは身を小さくすると、仕方なしといった様子で簡単な自己紹介をした。
「……シノン。医療用NERVシステム『アミュスフィア』のテスト運転中に、システムに誤認されてここSAOにログインしてきたわ。最初はそこのミドリと一緒で記憶が混乱しててなにも思い出せなかったけど、今はもう全部思い出してる」
 シノンが言葉を切ったので、キリトが話を先に進めた。
「そういうことだ。その八日後、つまり今日から四日前、もう一人のプレイヤーが空から降ってきた。それがそこのミドリだ」
 全員がミドリを見た。マルバたちは最初からミドリに対して違和感を感じていた。そう、彼はミズキにあまりにも良く似ているのだ。
「ミドリだ。昨日、この店の二階で目を覚ましたばかりで、まだここのことはさっぱり分からない。……それどころか、自分のことも含めて何も思い出せないんだ」
 マルバたちはその声を聞いて目を丸くした。これは似ているなどという話ではない。実際のところ、ミドリとミズキの声は全く同一と言っても差し支えなかった。
「もう気づいてると思うけど、ミドリはミズキにそっくりなんだ。ミズキと無関係とは思えなくて、マルバたちを呼んで来たんだ」
「ちょっと待って」
 アイリアがキリトの話に割り込んだ。
「確かにミドリはミズキにすごく似ているけど……ミズキは死んだんだよ。いくら似ているとは言え、似ているだけだと思うんだけど」
「いや、違う。ミドリは間違いなく、ミズキと深い関わりがあるはずなんだ。昨日リズベットが気づいたんだけど、細かい癖とかもそっくりらしいんだ。外見が似ているだけじゃないと思う」
 シリカはキリトの話を聞く間もミドリを観察していたが、やがてこう言った。
「……確かに、そっくりです。話す前にあごをこすったりする癖とか、貧乏ゆすりのはやさまで一緒です」
「でも……ミズキが生きているわけがない。黒鉄宮の石碑に書かれた名前だって、消えていたって話だもん」
 マルバが反論したが、それにはキリトが首を振って答えた。
「アルゴに依頼してもう一度調べてもらった。石碑の名前は、文字通り消えていた(、、、、、)んだ。死んだのなら、二重線で消される。ミズキの名前は、石碑のどこにも存在しなかったらしい。代わりに、ミドリの名前が追加されていた」
「そんな……そんなことって! 石碑の文字が消えるなんて……これもシステムのバグなのか?」
「ちなみに、ミドリの名前はアルファベット順で『ミカエル』ってプレイヤーの後に二つ並んで書かれていて、そのうちの片方は二重線で消されていた。死因は六十二層のモンスターに殺られたこと。つまり、ミドリっていうプレイヤーはかつてこのSAOに居て、ここに居るミドリは二人目なんだ」
「そんなのありえない! 同じ名前のプレイヤーは一人しかいないはずだよ。だって、登録するときにすでに使われてる名前だって警告がでるはずだもん」
 アイリアが机に身を乗り出して反論した。アイリアの言うとおり、すでに登録されているIDと同じIDを作成しようとしても、弾かれてしまって登録できないはずなのだ。ただし、ミドリに関しては事情が違った。ユイが立ち上がって、説明を始めた。
「それについては、私が調べました。ミズキさんのプレイヤーデータにはなぜかアクセスできなかったのですが、シノンさんの接続端末を調べたところ、シノンさんのIDは作成記録が存在しないことが分かっています。つまり、シノンさんのように端末の不具合によってSAOにログインした場合、ID作成過程を経ずに、すでに作成されたIDがログインしたとカーディナルシステムは認識します。つまり、今ミドリさんは既に死亡した『ミドリ』というプレイヤーとしてログインしていることになります。その際、既に死亡した『ミドリ』が再び存在することに矛盾が生じたので、それを解消するために再び『ミドリ』というIDが作成されたのでしょう。アバターはその際新規作成されたのだと思われます。
 ミドリさんがシノンさんと同様にデバイスの不具合でSAOにログインしたと仮定すると、一つ言えることがあります。シノンさんが現実の姿と同じアバターを持っている以上、ミドリさんも同じく現実世界での姿と同じアバターを有しているはずです。私が見る限り、ミズキさんとミドリさんのアバターは全く同一です。つまり、ミドリさんとミズキさんの現実世界での姿も全く同一だということです。……或いは、ミドリさんがミズキさんの端末を使用してここにログインした結果、カーディナルシステムがミドリさんをミズキさんと誤認してしまったということも考えられます。……私にわかるのはこれだけです」
 ユイが着席すると、アスナがよくやったねと彼女の頭を撫でた。

「……結局、問題は、ミドリがミズキなのかどうか、ってことだよね。ミドリがミズキであるなら、ミズキは一旦回線が外れたあと、もう一度『ミドリ』っていうIDでログインし直したことになる。ミドリがミズキでないなら、ミドリは死んだミズキのナーヴギアをかぶり、それでログインしたってことだ」
 マルバがこれまでの話を一旦まとめると、その場の皆は考え込んだ。
「ミドリはどう思うの」
 マルバが聞くと、ミドリは俯いていた顔を上げた。手に、《リトル・エネミーズ》の集合写真を持っている。
「俺にはわからない。……だが、この写真を見てたらいくつか思い出したことがある。君はマルバっていったよな。君は円盤状の投擲武器を得意としていたはずだ。シリカ、君はリーチの長めの、刺突を優先した短剣を好んで使っていた。アイリアは棍を兼ねた短槍を得意としていた。そして、この男――ミズキは、大盾を攻撃に転用していた。俺はこの男の後姿をよく見たことがある。俺は何度も君たちの戦いを見ていたんだ。……俺は、君たちを憶えている。そうだ、思い出してきた。君たちのギルドホーム――確か借家だったけど、あれはのどかな小川のほとりにあった。そこで、マルバとシリカはよく攻略の相談をしていた。ミズキとアイリアは新聞を読んだり、おやつを食べたりしてだらだらしていた。……ここまで憶えているってことは――俺は、ミズキなのかもしれない」
 決定的だった。マルバは頭を抱えた。
「……信じられないけど、ミズキはあの時、死なずに生きていたのか……」
 ユイが首を振ってマルバの言葉に反論した。
「いいえ、違います。ミドリさんの今の発言は、ミドリさんがミズキさんではないという決定的な証拠です」
 その場の全員がぎょっとしてユイを見た。ユイはすこしたじろいだが、一言でその証拠を示した。
「人は、自分の後姿を見ることはできません。先ほど、ミドリさんはミズキさんの後姿を見たことがあると言いました。それなら、ミドリさんがミズキさんであるということはありえません」
 あまりに論理的、あまりに反論のしようがない発言だった。ミドリがぽつりと、更に決定的な言葉をつぶやいた。
「……確かに俺は、この男の戦う姿を、後ろから見たことがある。いや、ずっと見ていた。戦闘中も、ギルドホームにいるときも」

 議論は白紙に戻った。この男が一体誰なのか――その問いに答えられる人物は一人もいなかった。ただし。
「ひとつだけ、ミドリさんの言ったことに矛盾しない仮説を思いつきました。突拍子もないですし、正直ありえないと思います。でも、他の可能性を捨てていくとこれしか残りません」
 ユイが、はっきりと言い切った。 
 

 
後書き
ユイがたてた仮説とは如何に。次回、ミドリの正体が明らかになります。

あと三話更新したら、一旦更新は終了です。残念ながらほとんど推敲する時間がなかったため、無駄な描写と設定が削りきれていません。例えば『石碑の文字が消えていた』設定は、筋は通っているものの必要ない描写です。しかしここを削るには前後を完全に書き換えて整合性をとらないといけないけれど、その時間がとれなくて、仕方がなくこのまま更新した次第です。申し訳ありません。 
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