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アーチャー”が”憑依

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九話

新たな一年の始まり。ここ、麻帆良学園は新学期を迎えていた。

「「「3年! A組! ネギ先生ーー!!」」」

教室に入ると同時に、そんな大声が辺りに響いた。教室を見渡すと春休みボケなど感じさせない元気一杯な生徒たちの顔が目に映る。結構なことだ。だが……

「元気なのはいいことだが、余り五月蠅くしないように。新学期早々新田先生に怒られるのは嫌だろう?」

はーい、と返事をしてくれたのはいいがその返事がまたでかい。これは言っても無駄か?

「せんせーい! 先生が正式な教員になったのはいいけど、やっぱり子供の先生なんておかしいと思うんです」

「……それで?」

「テスト1位記念パーティが出来なかったからその代わりに進級パーティしよう!」

「「「さんせーい!!」」」

……話が全く繋がっていないが、追及されるのも面倒であるため何も言うまい。それはさておき、私の都合で先学期にテスト1位獲得記念のパーティが出来なかったからか、クラス全員が非常に乗り気だ。おそらく、もうおさめられまい。

「手早く連絡を済ますから残り時間で詳しい事を話し合え」

生徒達に丸投げだ。那波等の常識人がストッパーになってくれるはずだからそれほど無茶な企画は立てないだろう。そう信じたい。常識人の例に挙げた人物が意外と悪乗りすることを思い出して少し不安になった。



皆がパーティの企画で盛り上がる中、その輪に入っていかない人物も何人かいる。幽霊である相坂は勿論、エヴァや茶々丸等を筆頭に魔法関係者。そしてもう一人……

「コイツら……」

頭を抱えて机に突っ伏している少女、長谷川千雨だ。彼女には麻帆良が酷く耐えがたいものであるようだ。その理由としては学園を覆うように展開されている認識阻害の魔法だ。これだけ大きな学園全体に作用する術式、何らかの不備がでるのは当然だろう。彼女自身の魔法に対する抵抗力が高いのか、あるいは魔法の不備なのか……そのどちらかは知れないが、彼女には辛いことだろう。

「別に無理して出る必要も無いし、今日ももう帰って構わんぞ。伝えるべき連絡は終えたしな」

最後に辛いだろうからな、と声をかけると長谷川は此方に顔を向けて目を見開いた。

「ああ、辛いぜ本当に。何が辛いってここで一番の異常であるアンタが一番まともなのが一番堪える」

「それはすまないな……」

「別にいいって。どうしようもないんだろ? それにアンタ個人は別に嫌いじゃないしな」

悩む生徒を救ってやれないことをふがいなく思うが、自身が嫌われていないと言うのは正直嬉しい所だ。

「今度差し入れでも持ってこよう」

「そいつは楽しみだ。アンタの料理は美味いらしいからな」

だから少しでも、気がまぎれるように力を尽くそう。






「本当にこのままでいいのだろうか……」

悩める乙女? エヴァンジェリンは深いため息を一つつき、再び思考の海へと潜っていった。
自分はちゃんと師匠ができているのか? そんな疑問が浮かんだのは偶然であった。何を馬鹿な、最初はそう思った。だが、今まで自分がエミヤにしてきたことは……

――魔力の効率運用に対するアドバイス、模擬戦。

細かく言えばもっとあるが、大きく分けるならこの二つだ。正直、頭を抱えてしまった。魔力の効率運用はエミヤも以前から心がけていたことだし、所詮やっていれば辿り着くだろうことをちょっと近道させているだけにすぎない。
模擬戦に関しても”全力”で戦える、と言う点に関しては適任だろうが元々が膨大な戦闘経験を頼りに過酷な戦場を生き抜いてきた男だ。今更命がけの特訓なんてものはさして重要ではない。
エミヤは充分だと言うかもしれないが、納得できない。この闇の福音が弟子をとっておきながら教えているのがこの程度、というのはプライドが許さない。習得は速いが練度が中々上がらない、という奴の特性から新魔法を教えるのは控えてきたが、今、それを破る。よくよく思い返して見れば奴の魔術属性は剣だ。もしその属性が魔法にも影響を及ぼすのなら、ピッタシの魔法があるではないか。”剣”であり、闇の福音の弟子が振うに恥ずかしくない強力なのが。

「茶々丸」

「なんでしょう?」

「エミヤはどこにいる?」

丁度紅茶を運んできた茶々丸からカップを受け取り目的の人物の所在を尋ねる。今日は猫に餌をやってから来ると言っていたためここに入ってくるのは一緒だったはず。ならば、奴の居場所を知っている可能性は高い。

「ネギ先生でしたらビーチの方に向かわれました。なんでも確かめておきたいことがあるとか……」

「確かめておきたいこと?」

少なくとも、自分はそれがなんであるか知らない。と、なると魔術関連のことだろうか? 魔術に関してはいかに私であろうと何もすることはできんからな……

「行ってみるか……」





「…………何だ、これは?」

目に映るのは白い砂浜……に突き刺さる剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣剣。
もう数えるのが馬鹿らしくなるほどの武具であった。その一本一本が凄まじい威圧感を放っており、普通からは大きく外れた逸品であることを如実に表している。こんなことができるのはただ一人。

「エミヤー!! これは一体なんなんだあああああ!!」

剣のせいで姿の見えないあの男だ。



「ようするに、だ。魂と肉体の齟齬は魔法だけじゃなく魔術にも影響していたと?」

「そうなる。これを見てくれ」

そういって、エミヤの両手に現れた陰陽の夫婦剣を受け取る。

(むぅ……相変わらず良い剣だな。チャチャゼロが固執していたのも分からんでもない)

あいつと違って刃物フェチなんてものでは無いはずなんだが、と思いつつも双剣についつい見入ってしまう。だが、そんな所に奴は爆弾を投下した。

「私が愛用した剣、干将・莫耶。私が最も投影しなれた剣だが、それでも、それは私がエミヤであったころの8~9割程度の出来だ」

「な、に?」

コイツは今何と言った? かつての8~9割だと? そんなはずがあるのか? この剣の性能は知っている。何度か障壁ごと四肢を斬り飛ばされたことだってあるのだ。それで全開ではないなど、どうして信じられよう。

「元々無いはずの物が使えているんだ。ここまで影響が無いのが奇跡といったところか」

「そう、だな」

魔術は魔法なんかよりも制御が難しい。暴走も魔法と魔術では危険度が全く違う。だというのにその程度で済んだとなれば、なるほど、奴の言うとおり奇跡と言えるかもしれん。

「それで、影響はどれほどだ?」

「刀剣は8割、それ以外の武具が7割。盾は下手すれば6割を切るやもしれん」

話だけ聞くと深刻そうに見えるが、本人はさしたる問題ではないと言った感じで飄々としている。事実、本人は魔術を戦闘で使用するつもりは無いと言っていたし、それが良いということも分かっている。だが、魔術が強力であることには変わりない。

「固有結界はどうなんだ?」

「……展開はできるだろう。だが、どれほど負荷がかかるかは分からん」

投影が使えることから使用できるだろうことは想像に難くない。問題は世界からの修正力だ。魔術とは成り立ちが違うこの世界を塗り替えたその時、何が起こるかは全く予想がつかない。

「まぁ、使うつもりはないさ」

そのためにこうして君の元で修行している、そうしめくくるエミヤに私はひそかに決心する。この男を魔術が必要無い程に鍛え上げて見せる、と。

「よし、エミヤ早速始めるぞ!」

「どうした? 今日は何時に無くやる気だな」

「うるさい! 今日は新しい魔法を教える。よく聞いてろ、この魔法は……」

この男にいなくなって欲しく無い。かつて、ある男に抱いたものと同じものを今再び感じている。それが、あの男の時と同じなのかはまだ分からんが、どうでもいいことだ。コイツがいる。今はそれが重要なのだから。 
 

 
後書き
更新が遅くなりました。リアルが忙しかったのもありますが、ダークソウルというゲームのDLCが発売したのでやってました。なんとか新キャラで黒竜以外は自力でボスを倒しきりました。 
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