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蜘蛛の村

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第五章

「あの研究所は蜘蛛が一杯いるでしょ」
「ええ、女の子で行った娘はいないけれど」
 蜘蛛が大勢いるからである。
「それでもね
「蜘蛛が一杯いるからなの」
「それでなの」
「害虫も危険を察してるのかね」
 本能的に、である。
「近寄らないらしいのよ」
「じゃあ夏はかなり快適なのね」
「害虫がいない分」
「あの研究所の周りは」
「そうなのね」
「そうみたいよ、まあ確かに蜘蛛は気持ち悪いけれど」
 それでもというのだ。
「あの研究所の周りに害虫がいないことは確かよ」
「そうなのね、あそこの周りは」
「そうした場所なのね」
「そう、だからね」
 それでだというのだ。
「蜘蛛もあながち悪い訳でもないのよ」
「害虫を食べてくれるのは知ってるけれど」
「実際にそうだからなのね」
「蜘蛛は外見が気持ち悪いだけで」
「いい生きものなのね」
 厳密で言うと虫ではないがだ。
 女の子達は次第にそのことがわかってきた、それでだった。
 北川は南城にこのことを話した、すると南城はにこりと笑ってこんなことを言った。
「よし、イメージアップだな」
「蜘蛛のですね」
「これは好機だ、今こそだ」
「秘策発動ですか」
「そうだよ、オペレーション=ブラックウィドーだよ」
 尚南城のネーミングセンスのなさは有名である、妻に産まれてきた息子に土左衛門と名付けようとして怒られたこともある。
「これでいこう」
「毒蜘蛛の名前じゃないですか」
 北川もこのことに突っ込みを入れる。
「イメージ悪いですね」
「駄目か?」
「駄目ですよ、絶対に」
「じゃあどんな作戦名でいいんだい?」
「普通に秘策でいいじゃないですか」
 北川は常識家としてこう返した。
「そんな作戦とか言わずに」
「そうか」
「とにかくその作戦をですね」
「発動しよう」
「蜘蛛のイメージアップにですか」
「君も協力してくれるか」
「まあ今は暇ですし」
 特に考えることなく答えた北川だった、しかし。
 南城からその秘策の中身を聞いてだ、瞬時にむっとした顔で駄目出しをした。
「何考えてるんですか」
「駄目か?」
「蜘蛛と触れ合おうですか」
「そうだよ、手に取ってな」
 その蜘蛛達を、というのだ。
「その手に触ってみれば何もしてこないということがわかって親しみも持てる様になるからな」
「カブトムシとかクワガタじゃないんですよ」
「駄目か」
「蜘蛛を触られる女の子なんていませんよ」
 北川は何ですかそれはという顔で言った。
「まず」
「そうか、駄目か」
「もうここはですね」
「ここは?」
「オーソドックスかつマイルドにいきましょう」
 ルー大柴の様に言うのだった。
「そうしましょう」
「というと一体」
「映像です」
 これだというのだ。
「これでいきましょう」
「あれか、ビデオ等の」
「はい、蜘蛛の生態を見てもらって」
「益虫だとわかってもらうんだな」
「そんな女の子にですよ」
 それこそ、というのだ。
「蜘蛛を直接見てもらうとか。あまつさえ触ってもらうとか」
「無理があるか」
「絶対にですよ」
 無理だというのだ。 
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