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蜘蛛の村

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第二章

「ずっと研究しているからね」
「そうですよね、では」
「そのことについては」
「一つ言っておく」
 こう返した北川だった。
「蜘蛛は害虫ではないのだよ」
「益虫ですよね」
「その通り、害虫ではないのだよ」
「けれど外見があれですから」
「足が八本で」
 蜘蛛の最大の特徴だ、昆虫の足は六本だ。
「それもあってだね」
「しかも目が沢山あって」
「それは昆虫もだがね」
「はい、複眼で」
「しかし普通の虫は蜘蛛程怖がられないね」
「生理的に感じるものが違うんですよ」
 北川はこう話した。
「全く」
「そう言うのだね」
「はい、本当に」
「それは先入観に過ぎないが」
「ですが先入観は重要ですよ」
 つまり第一印象はだ、確かにこれで全てではないが先入観が相当に大きなものであることは紛れもない事実だ。
「特に女の子にとっては」
「わかっているが残念な話だね」
「あまりそうも見えないですよ」
「蜘蛛はいい生きものだよ」
「益虫だっていうんですね」
「厳密に言うと昆虫ではないがな」
 専門であるだけにこのことはよくわかっている。
「それを理解してもらいたいね」
「ですが」
「わしも怖がられるのかい?」
「いえ、教授は特に」
「そうか、ならいい」
「はい、ただこの研究室も研究所も」
 そちらもだというのだ。
「蜘蛛の村とか言われていますから」
「それで怖がられていると」
「イメージはかなり悪いです」
 北川は真剣な顔で南城に告げた。
「お化け屋敷みたいに思われてますよ」
「ふむ。それはわしとしてもな」
 南城はそう聞いて英文を読みつつ腕を組んだ。
「心地よいものではないな」
「ではどうしますか?」
「女の子達に蜘蛛を見てもらってわしが教えて蜘蛛のよさを知ってもらうか」
「いや、見たその姿が怖いんですから」
 生理的な嫌悪感で、と言う北川だった。
「それは無理ですよ」
「では蜘蛛のよさを教えるか」
「それも」
「駄目か」
「毒持ってる蜘蛛いますよね」
 これもまた蜘蛛が怖がられる理由だ、毒蜘蛛の存在は子供でも知っている。
「ですから」
「ゴケグモなりだな」
「日本にもいますよね」
「カバキコマチグモだな」
「はい、そうでなくても巣を張って獲物を捕まえて噛んで」
 そこで毒を注入してだ。
「中身を溶かして吸っていきますよね」
「蜘蛛の生態だな」
「女郎蜘蛛なんて言葉もありますよ」
「その蜘蛛はよくおるぞ」
「好かれる要素がないですよ」
 そうした様々な理由が重なって、というのだ。
「それこそ」
「女の子にはか」
「確かにリケジョの娘は生物学の方にもいますよ」
「しかし蜘蛛はか」
「昆虫自体に来る娘が少ないですし」
 特に蜘蛛は、というのだ。
「蜘蛛なんかもう」
「妖怪みたいな扱いか」
「実際女郎蜘蛛っていう妖怪いますよね」
「民俗学の話だな」
「はい、それに土蜘蛛とか」
 これも有名な妖怪だ、その正体は大和朝廷に追いやられたまつろわぬ者達であるという説が有力である。 
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