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全てを賭けて

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第三章

「聖ソフィアの寺院ですね」
「そうだ、しかしだ」
「今は、ですね」
「彼等のモスクになっている」
 イスラム教のそれにというのだ。
「この都が彼等のものになってからな」
「それからですね」
「そうなった」
 子爵はこのことについては感情を込めない口調で述べた。
「ビザンツ帝国が滅ぼされてな」
「そうでしたね」
「そしてだ」
「今は、ですね」
「ウィーンにまで迫ろうとしている」
 神聖ローマ帝国の都であるこの街にというのだ。
「そこまで来ている」
「そうですね、よくそこまでと思います」
「勢力を広げているな」
「トルコは強いです」
「あまりにもだな」
「はい」
 ヒメルスは苦い顔で主の言葉に応えた。
「全く以て」
「そうだ、トルコは強過ぎる」
「特にイエニチェリは」
 またこの話になったのだった。イスタンプールの繁栄の中を観る中で。
「悪魔の如きですから」
「陛下のご慧眼だ」
 カール一世、彼のだとも言う子爵だった。
「敵を知らねばな」
「どうにもなりませんから」
「フランスや教皇庁もそうだが」
「どちらも厄介な相手ですが」
「どういった相手かを知っているからな」
「対することが出来ていますね」
「サラセンについても同じだ」
 つまりトルコも、というのだ。
「知ることが」
「どうした相手かを」
「だからイエニチェリもな」
「知らねばなりませんね」
「その為に来ているからな」
 このイスタンプールに、というのだ。
「ここに」
「はい、それではイエニチェリを探しますか」
「彼等は目立つ」
 その探し求めている相手は、というのだ。
「決まった服を着ているからな」
「あの服ですね」
「そうだ、全員な」
 これもイエニチェリの特徴だ、イエニチェリなら誰もが同じ服を着ているのだ。
「あの腰の刀といいな」
「すぐにわかりますね」
「しかもだ、彼等は皇帝の親衛隊だからな」
「間違いなくこの街にいますね」
 オスマン=トルコの帝都であるこのイスタンプールにというのだ。
「彼等は」
「今皇帝はこの街に留まっている」
「では間違いありませんね」
「少し探せばな」
 それで、というのだ。
「すぐに見つかる筈だ」
「そうですね、それでは」
 ヒメルスも主である子爵の言葉に応える、そしてだった。
 二人でイエニチェリ達を探した、するとすぐにだった。
 市井の中を歩く彼等を見つけた、白い顔の美男達がだ。
 あのイエニチェリの服を着て数人で歩いている。市民達はその彼等を見て笑顔でいる。
 だが子爵はその彼等を見てだ、ヒメルスに鋭い顔で囁いた。
「いたな」
「はい、イエニチェリですね」
「見つけることは案外楽だったな」
「そうですね、ですが」
「これからだ」 
 やるべきことを果たすことは、というのだ。
「これから調べよう」
「彼等を見て、ですね」
「さて、どうして調べるか」
 具体的なその方法をだ、子爵はヒメルスに囁いた。 
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