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切らなかったカード

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第二章

「何で監督はわしを投げさせてくれんかったんや、投げさせてもらいたかったな」
 いぶかしむことしきりだった。試合が終わって首を捻るのだった。
 だがその彼にだ、チームのスタッフが言ってきた。
「スギさん、監督が及びです」
「監督が?」
「はい、ちょっと話があるって言うてます」
「わしにかいな」
 まだ登板させてくれなかったことがわからない、それでだった。
 ここで呼び出されてもだった、彼はさらにわからなくなった。首は余計に傾げさせられた。
 そのうえで鶴岡のところに来た、するとだった。 
 鶴岡は彼にだ、こう言ったのだった。
「スギ、御前には大阪で投げてもらうんや」
「大阪に帰ってからですか」
「そこで御前に思いきり投げてもらう」
 鶴岡は確かな顔で杉浦に語った。
「大阪のお客さんに御前のピッチングを観てもらうんや」
「大阪球場で」
「そや、けど今日御前に投げてもらったらどうなる」
 鶴岡は杉浦にさらに語る。
「御前は大阪で投げられても全力やないやろ」
「はい、確かに」
「そやからや」
「今日僕を登板させなかったんですか」
「うちの本拠地は大阪や」
 このことは絶対だ、南海にとっては。
「東京やないやろ」
「それはもう」
「大阪のお客さんに観てもらわんでどうするんや」
 本拠地のファンの人達に、というのだ。
「そやからや、御前には今日は我慢してもらったんや」
「ほな大阪で」
「頼むで」
 鶴岡は杉浦ににやりと笑って告げた。
「大阪のお客さんに御前のピッチング見せてやるんや」
「わかりました」
 杉浦も鶴岡の言葉に確かな顔で頷いた、そしてだった。
 杉浦は大阪球場のマウンドに上がった、そこで。
 まさに快刀乱麻のピッチングを見せた、並み居る敵のバッター達を次から次に三振に凡打に打ち取る。肩が万全の杉浦はまさに無敵だった。
 その杉浦のピッチングを観て大阪の観客達は沸き立った、そしてこう言うのだった。 
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