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ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~

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DAO:ゾーネンリヒト・レギオン~神々の狂宴~
  第九話

「さて、そろそろ準備もできただろう」

 コハク達一行が装備の準備を整え終えたのを見計らって、ラーヴェイが出発を宣言する。いよいよか。《白亜宮》がどんなところなのかは分からないが、きっと厳しい戦いになるに違いない。

 コハクが覚悟を決めて頷こうとした、その時――――

「ま、待ってください!」

 声が響いた。

 ふりかえると、水色の髪の毛の女性が駆けてくる。どこかで見たことがある顔だ。

「ハクアさん!?」
「先生?何でこんなところに……」

 カズとハクガが口々に驚きの言葉を呟く。それで思い出した。彼女は《ボルボロ》のメンバーの一人だ。オペレーションやコハク達の世話まで担当してくれた人だった。彼女も《適合者》だったのか。

「ようやく追いつきました……」
「ハクア、なぜおまえがここに居る?《六門世界》へのダイブは制限されているのでは――――」

 息を切らせるハクア。体力はないのかもしれない。そんな彼女に全く気を使わず、コクトが疑問をぶつける。そうだ。そうでなければ、何のためにわざわざ分散してここまで来たのか――――

「喜んでください。《ジ・アリス・レプリカ》のアクセス制限が解除されました。私たち《適合者》と、それとどうやらALOプレイヤーがログイン可能になったようです」
「ALOプレイヤー?」

 声を上げたのはハザードだ。彼は実質的なALOの生みの親である、かのSAO開発者、ヒースクリフこと茅場晶彦の実の弟だ。以前聞いた話によると、《カーディナルシステム》やSAOの開発にも携わったらしい。そのため、同じカーディナルシステムを下敷きにしてつくられているALOに、《六門世界》にアクセスする機能が無いことも知っているのだろう。

「詳しくは分かりませんが、《白亜宮》側から招待されたようです。一部のALOプレイヤーがすでにこの世界に来ています。もっとも、相当分散してしまっているようですが……」
「なるほど……一種のトラップのようなものなんですね……」

 ハクナが考え込む。

「とにかく、私も参加します。戦力は一人でも多い方がいいはずです」
「助かる。……よし、それでは行くぞ!」

 ラーヴェイが宣言する。

 今度こそ、《白亜宮》への突撃の開始だ。


 ***
 

 《白亜宮》の入口は、《六王の神殿》というエリアになっている。以前セモン達が訪れた時には、ここには《六王神》という強力なNPCがいたらしいが、彼らは今回、別の仮想世界の侵攻に参加しているらしい。相当強いらしいので、彼らの進軍を受けた仮想世界の住民たちが気にかかるが、今は素早く敵陣地に切り込めることに感謝するべきだろう。

 《六王の神殿》は、神々しさと禍々しさを兼ね備えた、ギリシャ遺跡のような姿をしていた。空の色もどこかおかしい。まるで――――そう、まるで絵に描いたような風景。

「ここが《白亜宮》への入り口となる。前回はノイゾの介入で入ったが……俺達が最初に来た時は、入った瞬間に離れ離れにされた。恐らく今回もそうだと思う。気をつけろ」

 コクトが忠告する。頷く一同。

「できる限りかたまって移動できることを祈ろう――――行くぞ!」

 再びのラーヴェイの宣言。《六王の神殿》の中央にあるストーンサークルの中央に移動する。SAO時代に、アインクラッド各階層主街区にあった転移門とよく似ている。同時に、この世界にダイブした時、後ろにあったゲートにも。

 メンバー全員が入ると同時に、サークルが真っ白い光を放つ。浮遊感。SAO時代、何度も感じた転移の感覚――――


 ――――目を開けた時、そこには別世界が広がっていた。

 白い。唯々白い。純白の廊下だ。大理石ともプラスチックとも違う質感と輝き。一体何でできているのだろうか。良く目を凝らすと、非常に豪奢な装飾が施されていることに気づく。その一つ一つが非常に緻密だ。この世界に来た時から薄々気づいていたが、この世界のリアルさは現行のVRエンジンでは再現不可能な域だ。

「これは……」
「すごいな……」

 後ろで声。いたのはハザードと子龍のレノンだ。どうやら他のメンバーとははぐれてしまったらしい。

「私達だけってことね」
「そうだな……よし、セモンを探すぞ」
「うん」

 恐らく、清文/セモンは《白亜宮》城内に取り残されていると思われる、と、小波は言っていた。ここが《白亜宮》の城内なら、清文もいる可能性が高い。

「……待っててね、清文」
「――――その必要は、ない」

 その時だった。

 懐かしい、あの声がしたのは。

 はじかれたように振り向くと、純白の廊下の角から、見慣れた茶色い髪の毛が見える。

 緑色の和風コートを纏い、バンダナを巻いたその姿は、まぎれもなく――――

「清文!!」

 栗原清文/セモンの物だった。懐かしいその姿に、思わず涙が出そうになる。彼に抱き着こうと、コハクが駆けだしかけたその時――――

「待て!様子がおかしい!」

 ハザードがその肩をつかんだ。

「清文……?」

 言われてみれば、どこかおかしい。

 無表情なのだ。基本的に明るくて無鉄砲でそのくせ優柔不断なセモンは、ころころと表情が変わる。だが、今の彼は無表情。その顔に、一切の感情がのっていない。

 それだけではない。彼の右目は、()()色になっていた。

 ――――現実世界(リアル)の清文と同じ……?

 それは、本来の彼の目の色ではないはずだ。

「……清文?どうしたの?」

 ただならぬ気配に、コハクは彼に問う。そして直後――――彼の返した、信じられない言葉に凍り付いた。

「たった一つだけ問う。お前たちは……敵か?」

 自分達のことが、分かっていない――――!?

「そんな……清文……私だよ?コハクだよ?何で……どうして……?」

 その瞬間、セモンの動きが一瞬だけ止まった。無表情だった顔がゆがめられる。

「コハク……琥珀……?いや、違う……違う……違う!コハクは……琥珀はお前じゃない……でも……あれ……?コハク?どうして……?いや……違う!」
「どうしたんだ、セモン!?」

 ハザードが声を荒げる。

 明らかに、セモンの様子がおかしい。こちらのことが認識できていないのだ。確かに二カ月余り彼とは会っていなかったが、それだけの間が空いただけで顔も忘れてしまうほどヤワな関係ではなかったはずだ。

 それにコハクの顔なら…悲しいが…忘れてしまうかもしれない。けれど、ハザードの方を認識できないのは明らかにおかしい。彼は、セモンと十年以上の間、常に共に過ごしてきた親友なのだ。

 それを見分けられないなんてことが、あり得るわけがない。

「何で……違う……?いや、合ってるのか……?馬鹿な……う、ぁ、ぁぁぁああああ!?」

 頭を押さえてうずくまるセモン。苦しそうなうめき声が漏れる。

「清文!」
「――――違うよ、清文」

 コハクが彼に駆け寄ろうとした瞬間。

 全く別の声が、届いた。

 セモンの後ろから、誰かが姿を見せる。その姿を見て、再びコハクは絶句した。

「……刹那?」

 その人物は、天宮刹那と、全く同じ顔をしていた。いや、よく見ると所々が異なっているように見える。特に違うのは、巻いているマフラーの色だ。刹那が黒なのに対し、彼女は青い。その色は、コハクがSAO時代、好んで身に付けていた装備と同じ色だった。

「違うよ、清文。『あいつらは敵で――――()()()()よ』」

 そのフレーズがセモンに届くと同時に、彼の叫びはぶつり、と止まった。

 再び顔を上げた時、彼の顔は無表情に戻っていた。

「そうだ――――そうだ。お前たちは敵だ……俺と琥珀の平穏を乱す、敵……だから、倒さなくちゃいけない……」
「操られているのか……!?」

 ハザードがうめく。その声を聴いて、刹那によく似た少女が頷く。

「そう。清文にはね、私の事が杉浦琥珀に見えている。琥珀からの頼みなら、断れないよね――――優しいのか、甘いのか……それも強さ?まぁいいや……『清文、あいつらを殺して』」
「分かった」

 その言葉に一切の疑問を抱いていないかのように――――セモンは、空中に手をかざす。

 空間が凝縮する。歪みは一本の剣の形を作りだし、セモンの手に納まった。半透明の水晶のような、柄の両方に刃のついている剣――――《両剣》だ。

 たしかハクガ達が、セモンが《六門世界》で《冥刀》と呼ばれる強力な武器を手に入れたと言っていた。銘は《雪牙律双(せつがりっそう)》――――そのカテゴリは、《両剣》だったはずだ。

 つまりあれが、セモンの手に入れた《冥刀》なのだろう。

 それだけではない。セモンの周囲を闇色の揺らめきが蓋っていく。それは清文の体にまとわりつき――――闇が消えた時、セモンの和風コートは、どことなく吸血鬼っぽいデザインの、黒と紫を基調としたコートに変わっていた。

「――――俺達の平穏のために……消えてくれ」

 冷徹に目を細めて――――セモンは宣告する。

「そん、な……」

 せっかく会えたのに。せっかく声が聞けたのに。

 まさか、戦いあうことになるなんて、思っても無かった。

「――――コハクは下がっていろ」
「ハザード?」

 その時だった。琥珀を押しのけて、ハザードが前に出たのは。

「こいつは俺が倒す。お前はそこで、あいつが元に戻るのを見ていろ」

 そう言って、漆黒の大剣を抜き放つハザード。静かに、しかしたしかに、彼はセモンの方へと歩いていく。

「……二人一緒には、来ないのか?」
「必要ない。お前は二人で俺を倒しに来たが、俺は一人でお前を倒せる」

 彼が言ったのは、恐らくSAO最後の日のこと――――茅場晶彦の弟として、全プレイヤーの敵であることを宣言したハザードは、セモンと壮絶な戦いを繰り広げた。あの時、セモンはコハクの援護を受けながら戦った。

「とはいえ、これは俺の力だ――――使わせてもらう。来い、レノン!」
「きゅるぅ!」

 ハザードの肩に泊っていた、真紅の子龍が啼く。同時にその体が、同じく真紅の光に包まれ――――なんと、ハザードの中に吸収されていくではないか。

 ハザードの背中から龍の翼が突きだす。ハザードの腰から、龍の尾が流れる。

 その姿は、ALOで彼が見せた《ファーヴニル》の姿。ユニークスキル《獣聖》の真価、《人獣一体》。

「……行くぞセモン。お前を、倒す!」
「……来い、侵入者。叩き潰してやる」

 その問答は、奇しくも、アインクラッドの決戦の場でかわされた会話に、よく似ていた。 
 

 
後書き
 どうもー、Asakです。二日ぶりの『神話剣』更新。今回はコハク達の方の話です。
刹「ってセモンさん敵なんですか!?」
 おお、刹那たんが真面目に話に突っ込んできた。
 今回の話は前に刹那祭りの時に一緒に描いた吸血鬼セモン君が思いのほか好評だったことからできたものだよ。
刹「これ↓ですね」

 √作成に貢献してくださったArditoさんに多大な感謝を……最近いらっしゃらないけど。

 さて、色々変なところで区切りつつも、しかし次回はキリト君か他の《ボルボロ》のメンバーに話が移りまする。更新はやっぱり遅めかなぁ。
刹「なるべく早くしてくださいね。それでは次回もお楽しみに」 
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