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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百八十七話 厳罰

 
前書き
お待たせしました。

 

 
帝国暦486年1月31日

■銀河帝国 イゼルローン要塞

「そうなの、15万人もか・・・・・・」
テレーゼは宇宙を見ながらケスラーの報告に呟いた。
「はっ、ロイエンタール少将以下の救援部隊が救い出したときには、既に包囲下で相当数の損害を得ていたとの事です」

テレーゼは右手で持っていた扇を握り潰しながら震えている。
「15万人を煉獄に叩きこんだ訳よね、こうなることは判りきっていたのに止める事をしなかった・・・・・・私
は最低よね」

「殿下、その様な事はございませんぞ。あの時点で敵がシェーンバルト艦隊の包囲殲滅を図る事など、何%程度でしか想定されていなかったのですから、それでも救援部隊を差配なされたことで、10万の将兵の命が助かったのです。殿下が責任をお考えになる必要はございません。そう言ったことは我等の仕事でございます」

ケスラーはそう言うが、テレーゼにしてみれば原作知識でラインハルトが酷い目に会うことを知っていたが故に、それを利用しようとした自分に自己嫌悪を感じていたことと、実際に最前戦で兵達に接し生の将兵の声を聴いたことで、“指揮官とは効率よく味方を殺す事が仕事だ”と言う言葉に因る、将兵の大量死に自らの浅ましさを感じていたので、自分の責任を感じていたのである。

「そうは言うけど、15万の将兵にはそれぞれの人生と家庭があるわ、それを止めなかったが為に永遠に奪ってしまったのだから」
「殿下・・・・・・」

その後、黙りこくりながら宇宙を見続けるテレーゼをケスラーは何も言わずに待ち続けた。一頻り時間が経って心が落ち着いたのか、徐に話しはじめた。
「シェーンバルト艦隊が帰投したら、負傷兵の収容に全力を尽くすように、私もその場で立ち会います」

その言葉にケスラーは止めるようにと説得する。
「殿下、今回の損害を考えれば、今までのような負傷の度合いでは済みません。恐らくは相当酷い事に成っているでしょうから、お止めください」

「ケスラー、私は逃げたくはないのですよ。私が見逃したが為に犠牲になった人々に向き合わなければ何のための皇族かと嘲られるなら構いません。しかし血を流した者達を見ずに、いるのは耐えられません。例え迎え入れるだけしか出来ませんが、それだけでもしたいのです」

ケスラーにしてみれば、テレーゼが何故其処まで責任を感じて打ちひしぐのか判らなかったが、その姿に保護欲を擽られることには成っていた。





軍港にシェーンバルト艦隊の艦が次々に入港してくる、入港して艦の全てが無残に傷つき中にはよく生きて帰って来たかと思われるほどの艦も有った。艦が桟橋に接続され、ハッチが開くやいなや負傷兵が次々と搬出され、待機していた救急車両が近づき病院へと搬送されていく。その様子をテレーゼは悲痛な心を隠しながら、ジッと全ての艦が入港するまで見続ける。

全ての負傷兵が搬出される頃には、ロイエンタール救援艦隊全艦も入港を終わりロイエンタール以下7人の提督達、彼等の参謀長達、シェーンバルト、キルヒアイスが帰投報告のためにテレーゼの前に立つことになった。本来であれば、エッシェンバッハ元帥が対応するの事が筋ではあるが宇宙艦隊司令長官として叛乱軍の動向を確認する必要が有るために、此処には来ておらず、代わりにケスラー大将が代理として来ていた。

8人の司令官と8人の参謀長がテレーゼの前で敬礼をする中、(ラインハルトは嫌々していたのであるが)テレーゼは、徐にラインハルトの元へ行くと、公式の場では全く見せない顔をする。その姿は全身から怒気を発するが如く眉間に皺を寄せ目は三白眼で正に不良のガンツケ状態と言えた。その直後その口から発せられた言葉にその場にいた者達は驚愕するする事に成る。

「シェーンバルト少将、卿は自らを天才と自称しているが、この体たらくは何ぞ!15万もの将兵の命をすり減らしたのは何ぞ!言ったはずよ。教科書通りの攻撃など敵につけ込まれるだけだと、兵の命を無駄にするなと言ったはずよ!卿はそれを無視した挙げ句にこのざまよ!こんな馬鹿なことをする卿に大事な兵を指揮する資格などないわ!戦争は遊びじゃないのよ!一瞬の判断が数万数十万の命を消すことになるわ。それも判らずにまるでピクニックか狩りでもするが如くの戦場での振る舞い。今まで散々グリューネワルトの弟だからと父上から言われて我慢してきたけど、今度ばかりは堪忍袋の緒が切れたわ!お前なんか、引きこもって家で艦隊戦のゲームでもしてればいいのよ!お前のような馬鹿の指揮で兵を無駄死にさせないためにお前の指揮権を剥奪する!」

テレーゼの感情を爆発させた怒声にその場にいた殆どの者が息を呑んだが、当のラインハルトはテレーゼの発言に対して感情を爆発させ、手の平に爪が刺さるほどに手を握りしめながら“戦場に出たこともない癖にこの小娘が何を言うか!”と怒りを溜め込んでいた。キルヒアイスはテレーゼの見たこともない行動に驚きながらも兵を無駄死にさせたことに今更ながら後悔の念が出始めていた。

「殿下、お気を確かに」
一緒に居たケスラーが驚きながらも、テレーゼの行った事が危険だと感じ、何とか場を取りなそうとしたが、テレーゼにしてみれば、それは返って火に油を注ぐ行為になった。

「ケスラー、今は言わせて頂戴、シェーンバルトは幼年学校では父上の寵姫である姉の威をかって我が儘放題に振る舞い、同級生は元より上級生までを殴る蹴るの暴行三昧、普通ならば放校処分が当たり前なのに、寵姫の権力でお咎め無し!そんな輩が幼年学校首席卒業な訳が無いじゃない!姉の口利きで下駄履かせただけなのにも関わらず、天才だってチャンチャラ可笑しいわ!アンネローゼも親代わりに育てたくせにこんな馬鹿が出来るなんて甘やかしすぎなのよ!無能の極地だわ!」

姉を馬鹿にされた事で、完全にラインハルトは頭に血が上りテレーゼを睨み付ける。キルヒアイスも不味いと思うがアンネローゼの悪口を言うテレーゼを許せないと怒りに震える為にラインハルトを注意することも忘れてしまっている。

其処へ更にテレーゼが捲し立てた。
「シェーンバルトの我が儘は、姉だけじゃなくキルヒアイス大佐のせいでもあるわ、卿の功績によりシェーンバルトはとんとん拍子に出世して今では少将よ、卿の同期生のイザーク・フェルナンド・フォン・トゥルナイゼンは伯爵家嫡男だけど未だに士官学校生で、其処の馬鹿と比べようのない程、努力しているわよ。判るかしら戦争は指揮官だけじゃ出来ないよ、兵はゲームの駒じゃないのよ、キルヒアイスが何でもかんでも世話をするからこんなシスコンの大馬鹿野郎が出来上がったのよ。この大馬鹿野郎!」

息を切らすほどの罵声をあげるテレーゼにラインハルト以外は心に染みていたが、ラインハルトは姉上の事を此処まで馬鹿にされたことで激高して遂に叫んだ。
「何を言うか!お前・・・・・・」(何を言うか!お前如き小娘に何が判るか!)
慌てたキルヒアイスがラインハルトの口を手で塞いで不敬な発言を何とか止めようとした。

廻りに居た提督達が愕然とし全く動くことも出来ないが暫くすると皆が驚愕の顔をし始める。
内心で“何が起こった”“馬鹿な”“不敬な事を”“幾ら寵姫の弟でもこれでは”“・・・・・・”など考えていた。

その発言を聞いテレーゼは不快感を見せることなく坦々と喋りはじめたことで、ケスラー達も驚く。
「シェーンバルト少将、卿の性根はそう言う事か、卿のような物(敢えて物にしてます)を軍に置いておくことは帝国臣民250億の為に成らぬ事が判った以上、妾の独断ではあるが、卿の階級を剥奪し軍より放逐する事に致す」

あまりの事にケスラーが意見する。
「殿下で有られましても軍の人事に手を入れる事は許されません、その様な事をなされたら殿下の為にも成りません故、ご考察頂きたく」

ケスラーの意見にテレーゼが答える。
「ケスラー提督、卿の意見は尤もであるが、このままこの物を残して置く事は妾の気が済まぬのじゃ」
「シェーンバルト少将は20数度も戦果を上げております、それを無視することは出来ません。何とぞご考察を」

確かにその点がある、シェーンバルトは戦果をあげている以上、通常であれば今回の事は些細なことと考えられる事案であったが、テレーゼの剣幕にそれを言える人間がケスラー以外にいなかった為、それを聞いていたラインハルトにしてみれば、嫌っているケスラー何ぞに擁護を受けていること自体が屈辱でしか無くキルヒアイスに抑えられてはいるが、今にも再爆発しそうな状態が続いていた。

暫くケスラーによる弁論が続けられた結果、テレーゼも折れた。
「シェーンバルト少将、ケスラー大将の有り難い軍法講釈で卿を妾が罰する事は帝国の軍法に私恨を持って行う事に成るために撤回します。したがって卿の事についてはエッシェンバッハに任せる事に致します。シェーンバルト少将、キルイアイス大佐はエッシェンバッハ元帥に元へ出頭し事後の命を受けるようにせよ。クルムバッハは両名を元帥の元へ護送せよ」
「御意」

テレーゼは坦々とそう伝えると頬を両手で“パチン”と叩くとロイエンタール達に向き合う。
「ロイエンタール提督、ケンプ提督、ルッツ提督、ファーレンハイト提督、アイゼナッハ提督、ワーレン提督、ミュラー提督、御苦労様でした。卿等のお陰で10万を超す将兵が帰ってくることが出来ました」
そう言いながらテレーゼは7人に頭を下げる。

先ほどまでの怒気を含んだ声色ではなく、鈴のような可憐な慈愛を持った声に皆も唖然としてしまい何も言えなかったために不敬をしてしまったと慌てる。
「殿下、頭をお上げください」
さしものロイエンタールも度肝を抜かれる。

「卿等には無理をさせてしまい済まぬ」
「殿下、我等は軍人です。命令と有れば何処へでも向かいましょう」
「皆、ありがとう。ありがとう」

テレーゼは14人の指揮官と参謀長一人一人に握手し苦労を労い続けた。テレーゼの真摯な態度に触れた、提督達と参謀長達は“この方は本当に兵の事を考えてくださっている”と思った。そして“何故女子に生まれたのであろうか、殿下が男児であれば次期皇帝として忠誠を尽くせるのに”と熟々残念がった。



これらの話は、その場に居合わせた将兵の口からイゼルローン要塞全域に流れ、シェーンバルトの無謀さと将兵を駒としてしか見ていない態度と、シスコンの大馬鹿野郎という噂が流れまくり、益々人望を失う事に成った。

エッシェンバッハによるラインハルトに対する処罰は指揮権を停止し自室謹慎と言う事に成ったが、本人は反省の色を見せずに、姉の悪口を言われたと怒りまくって、更なる簒奪への野望を燃やすことになった。 
 

 
後書き
テレーゼ自身が自分の性根の醜さを自戒している状態なんですよね。 
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