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燃えよバレンタイン

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第五章


第五章

「雅には一本取ってやるって思ってたけれど」
「斬るっていうのは考えなかったんだな」
「全然ね」
 その通りだというのである。
「じゃあここは気持ちを切り替えてね」
「ああ、あいつを斬る気でな」
「いってみるよ」
「そういうことでな。それでだけれどな」
 ここまで話してだ。クラスメイトは話を変えてきた。
「もう二月だけれどな」
「うん、中頃だね」
「御前あれはどうなんだよ」
 こう猛に言うのだった。
「チョコレートはな。どうなんだよ」
「チョコレートって?」
 これまでで最もきょとんとした返事だった。
「何?」
「だから二月なんだぞ」
「うん、受験も無事パスしたしね」
 こんな返答を出す猛だった。
「よかったね。本当にほっとしてるよ」
「御前今の言葉本気で言っているんだよな」
 クラスメイトは呆れながら彼に言葉を返した。
「今の言葉な」
「うん、後は雅に何とか勝ってというか一本取ってね」
「御前今そのことしか頭にないんだな」
「ちょっとね。そうなんだ」
 真面目な顔で答える。本当にそれしかないというのがよくわかる。
「うん、絶対にだよ。斬るってつもりで」
「ああ、頑張ってくれ」
 クラスメイトの返答はかなり投げやりなものになっていた。
「もうな。一本取ってくれよ」
「わかったよ。僕頑張るよ」
「ったくよ、古賀もよ」
 クラスメイトはわかっていた。それで今ぼやくのであった。
「回りくどいことするよな」
「回りくどいって?」
「いや、何でもない」 
 言ってもわからないと見てだ。彼は今ここで猛に話すことは諦めたのだった。放棄してしまったと言うこともできる。とにかく諦めたのだ。
「気にするな。勝負頑張れよ」
「よし、今日こそ」
 こうしてだった。彼は雅との勝負に思いを馳せるのだった。そしてだ。
 部活ではだ。やはり負けっぱなしだった。しかしである。
「そうか。雅の動きは」
 負け続けているうちにだ。彼女の動きがわかってきたのだ。
 彼女の動きは直線的なのだ。その剣もだ。一本気な彼女の性格がそのまま出てである。剣道の動きもそうなのである。
 もっともこれは猛もである。直心影流はそうした剣術だからだ。
 それでだった。彼はだ。雅の動きを頭に入れながらだ。
 道場に入った。即ち彼の家だ。そこに入るとだ。
「猛よ」
「あっ、父さん」
「雅からいい加減一本取れないのか」
 こう我が子に問うてきたのである。
「どうなのだ、それは」
「ううん、とりあえずはね」
 こう返す我が子だった。応えながら着替え室に入る。
「やってみるから」
「一本取れるんだな」
「だからやってみるよ」
「やってみるのか」
「思うところがあるから」
 父に対して答える。
「それやってみるよ」
「一本取ればだ」
 ここで父はついつい言ってしまった。その厳しい顔でだ。
「御前達はな」
「僕達?」
 その言葉にだ。猛も顔を向けた。何だという顔でだ。
「僕達って?」
「あっ、いや」
 失言に気付いた。それで慌てて取り繕うのだった。
「何でもない」
「そうなんだ」
「そうだ、何でもない」
 こう我が子に返す。
 
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