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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第三十二話  風紀委員と風鈴と


 放課後、佐天さんが補習プリントをやってなかったことで先生から怒られている頃、俺は初春さんとおしゃべりしていた。

「それじゃー、白井さんとは仲直りしたんだ」

 初春さんから、ジャッジメントの支部を飛び出して犯人の潜伏先に向かっている途中で白井さんと合流、白井さんが約束を思い出していたので仲直りして一緒に犯人を確保、アンチスキルに引き渡した、という話に俺は相槌を打っていた。

「はい、おかげさまで」

「俺は車上荒らしの犯人探しを手伝っただけだよ」

 初春さんからの感謝の言葉に、特にたいしたこともしていない俺は恥ずかしさを覚えながら答える。

「いえ、固法先輩から聞きました。私が犯人を捕まえるために出て行った後で、白井さんにも知らせるように提案してくれたって」

「あー、それは佐天さんだね」

 俺の言葉を謙遜だと受け取ったらしい初春さんから理由を説明されたのだが、残念ながらそれは俺のことではなかった。

「そうだったんですか。それでも前に常盤台の寮に行ったとき、神代さんが郵便局強盗の話を出してくれていたから私との約束を思い出せたって白井さんが言ってましたから」

「まー、それならどういたしまして」

 俺が郵便局強盗の話を出したのは、そもそも初春さんと白井さんの仲が悪くならないように打っていた布石だったので、その目論見は見事に外れていたというわけになるんだけど……。しかも、アニメでは同じように仲直りしていたので、俺が手出ししなくても恐らく大丈夫だったのだろうということを考えると、お礼を言われるのはいささか心苦しくもあるのだが、俺がこの世界に居ることが少なからず影響を与えているかもしれないので、素直に受け取っておくことにする。

「それにしても、佐天さん遅いですねー」

 なかなか戻ってこない佐天さんを初春さんが心配している。

「うん、そうだね。まぁ、佐天さんだから不用意な発言でもして更に先生を怒らせているとかありそうだけど……」

「うわぁ、ものすごくありそうですねー」

 俺が適当に佐天さんのやりそうなことを言ってみると、初春さんも大きく頷きながら同意してくれた。

「お前ら、佐天のことをよく分かってるじゃないか」

「あっ、先生」

 急に先生が現れて初春さんが驚いている。俺は先生が教室に入ってくる少し前に気配で気付いていたため特に驚かなかったのだが、先生の言葉で俺の想像はほぼ間違ってなかったことが分かってそっちに驚いた。

「まあ概ね神代の言ったとおりなんだが、佐天は生徒指導室で補習することになったから、お前達は先に帰っていいぞ」

「はーい」

「分かりました」

 わざわざ伝えに来てくれたということは、先生も俺達が佐天さんを待っているのは知っていたのだろう。初春さんもそろそろジャッジメントの仕事があるし、佐天さんには悪いが二人とも先に帰らせてもらうことにした。

「それじゃー初春さん、今日もがんばってね」

「はい、当然です」

 下駄箱の前で俺が仕事に向かう初春さんにエールを送ると、初春さんはかなり気合を入れて答えてくれたのだが、ちょっと心配になったので一言付け加えておく。

「でも無理はしないようにね」

「分かってますって」

 こうして初春さんとは校門前で別れて寮に戻ったのである。





 寮に戻ってしばらくはゆったりとくつろいでいたのだが、暑さもあって何だか無性にカキ氷が食べたくなったので出かけることにした。扇風機こそ回していたものの、エアコンを使ってなかったのが大きいのかもしれない。

 カキ氷を食べに行くといっても、俺は“カキ氷屋さん”というのがどこにあるのかを知らない。まぁ、ファミレス辺りならこの時期間違いなくメニューにカキ氷があるはずだが、気分的には出店とか屋台のカキ氷屋で買って付近のベンチで食べたいのだ。

 繁華街付近の大きな公園か、いそべ銀行前の広場辺りならカキ氷屋さんも出ているだろうと思ってその方向へ歩いていると、途中でよく知っている気配を感じたので行ってみる。

「御坂さん、こんな所で何やってるの?」

「あっ! いや……その、まー、色々とね」

 なぜかコンビニ前で掃除をしている御坂さんに声をかけると、あからさまに動揺した様子で答えてくれた。

「御坂さん、遊んでないでちゃんと仕事する。……って、神代君じゃない」

「あ、こんにちはー。お仕事中ならお疲れ様です、固法さん」

 コンビニから出てきた固法さんに御坂さんが注意されているが、ここに来てようやくアニメの展開だということに気付いた。確か女の子の鞄を探して御坂さんが池だったか噴水だったかに飛び込むやつである。

「神代君と御坂さんって、知り合いなの?」

「はい」

「ええ、まぁ」

 固法さんに聞かれて俺と御坂さんが答えるが、御坂さんの答えは歯切れが悪いものだった。というか御坂さんは今、俺に初春さんの忘れ物である腕章が見えないように、そして固法さんにも動きが不自然に見えないように頑張りつつ、俺に向かって「余計なことは言わないでよ」オーラを発するという、客観的に見ればかなり器用なことをやってのけているのである。ここで流暢に切り抜けられていたなら、御坂さん的には完璧だったに違いない。

「それで、神代君は何してたの?」

 固法さんが俺に話を向けてきたので、御坂さんはほっとしつつも俺に向けている「余計なことは言わないでよ」オーラを更に強める。滅茶苦茶に器用である。

「暑いのでカキ氷でも食べに行こうかと思って歩いてたら、御坂さんの気配がしたもんで来てみたんです」

「気配? そんなのが分かるの!? ……あっ、神代君なら分かるのか」

 俺が答えると固法さんが一度驚いた後で納得した。確か昨日はそんな話とかしていないはずなのだが、初春さんや佐天さん、もしくは白井さん辺りから聞いているのだろうか。

「あ、固法先輩も知ってるんですね」

 俺に余り話をさせたくないのか、御坂さんが会話に入ってきた。

「ええ、ちょっと前にあった常盤台狩り事件の時にね。御坂さんも知ってるんでしょ? 神代君と神代さんのこと」

「え……ええ、まぁ」

 眉毛女事件のことを出されて御坂さんがうろたえる。これはどう見ても完全に、藪をつついて蛇を出したという状態である。

「それで、その時は神代さんだったんだけど、犯行現場に居合わせてね。その時に、見えない犯人を気配で気付いてた、っていうのをうちの支部に所属してるジャッジメントの二人から聞いたの。その二人とは知り合いらしいから御坂さんも知ってるんじゃないかしら?」

「まぁ……一応は……」

 固法さんの説明で御坂さんが曖昧に答える。御坂さんとしてはとにかくこの話題を広げたくないのだろう。そして、俺の気配察知に関してはやはりあの二人から聞いていたのだ。しかし、この前の常盤台の寮で白井さん宛ての宅配便を寮監さんに受け取ってもらった時の事を思い出しているのだろうか、ここにきて御坂さんからの「何も言うなよコラ!」オーラが凄いことになっている。流石にこの状態の御坂さんの前では「御坂さんもその事件で一緒に解決したから知ってますよ」なんてとても言えそうにない。

「それで神代君、今御坂さんはジャッジメントの研修中だからおしゃべりはまた今度で良いかな?」

「あ、はい。すいませんね、お仕事中に。それではお仕事頑張って下さい」

 御坂さんの精神力がガリガリと削られてきたところで、固法さんからやんわりと「仕事の邪魔しないでね」の注意を受けたので、俺はここで抜けることにした。少しかき回したら面白いかもしれないとは思ったものの、今後のストーリー展開に変な影響を与えても困るのでそれはやめておく。御坂さんのほうは心底ほっとした表情だ。

「じゃ、またね」

「うん、またね」

 御坂さんとも挨拶を交わした後で、俺はカキ氷を求めて歩き出したのである。





「メロン一つお願いします」

 いそべ銀行前の広場でカキ氷屋さんを見つけたので注文をする。カツンッカツンッといった感じの微妙な風鈴の音を聞きながら待つことしばし、鮮やかな緑色をしたカキ氷を受け取りつつ代金を支払った。

「ありがとうございましたー」

 先がスプーン状になったストローでカキ氷を一口、氷のシャリシャリした食感を楽しみつつベンチに向かう。もう少し「何これ! まるで本物のメロン使ってるみたいじゃないかっ!」みたいになることを期待していたのだが、残念ながら学園都市でもカキ氷のシロップは全く変わらないんだなぁと少しがっかりしてしまった。

「まぁ、普通に美味しいんだけどね」

 ベンチに座ってなぜか独り言を言ってしまいながらカキ氷を食べる。この暑さとここまで歩いて来たことによる疲労が相まって、冷たいカキ氷がとても美味しく感じられる。

「そう言えば、風鈴とかいいよな」

 しばらく普通にカキ氷を食べていたのだが、カキ氷屋に吊るされていた風鈴をふと思い出して呟いた。かき氷屋に吊るされていたのは江戸風鈴っぽいガラス製の風鈴だったが、俺としては出来れば南部鉄の風鈴が欲しいところだ。

 思い立ったが吉日とばかりに、ほとんど溶けて微細氷入りのメロンジュースになってしまったカキ氷を飲み干し、カップやストローをゴミ箱に放り込むとホームセンターへ向かって歩き出す。以前、ポリカーボネイトの三角定規やチタン合金のコンパスを買ったところである。

 ホームセンターで風鈴を探し南部鉄の風鈴を数種類購入して寮に戻ると、早速風鈴を吊るして扇風機を当てる。全ての風鈴の音を聞き比べて一番良い音がするものを飾り付けると、二番目に良い音がする風鈴は台所に飾り付けておき、それ以外を箱に戻した。

 取り敢えず使わない風鈴を袋に入れて外に出る。4つあるので佐天さんと初春さん、そして常盤台の二人にも一つずつ配ろうかと思ったのである。しかし、よく考えてみれば常盤台の二人は同じ部屋に住んでいるので、二つ風鈴を貰っても意味がないだろうということに後で気付いた。

 寮の敷地から通学路に出るとちょうど佐天さんが歩いてくる。

「あ、神代君」

「お、やっと補習終わったのか」

「あはは……、まぁね」

 何とか補習は切り抜けられたようである。

「ちょうどいい所に、……これあげる」

「何これ……風鈴?」

「うん、ちょっとした涼しさのプレゼント」

 佐天さんに風鈴を渡し、俺が風鈴を持っていた理由を話しつつ歩いていたら、佐天さんの寮の前を通り過ぎてしまった。

「あれ、通り過ぎたけど……」

「あー、直接初春のところへ行こうかと思って」

「そうなんだ」

 俺が指摘すると佐天さんはまたジャッジメントの支部にお邪魔するということなので、便乗して俺もそのままついていくことにした。恐らくジャッジメントの支部には初春さんと白井さんが居るはずなので、そのまま風鈴を渡してしまえばいいだろう。ついでと言ってはいけないのかもしれないが、余る風鈴もジャッジメントの支部に飾ってもらうか、もしくは固法さんに渡せば良いだろう。

「おじゃましまーす」

 ごく普通に入っていく佐天さんを本当にいつも来てるんだろうなぁと思いながら眺める。

「ついでにこんちはー」

 佐天さんに続いて俺も入るがちょうど白井さんが電話を終えたところだった。

「佐天さんに神代さん、いらっしゃいですの」

「初春居ます?」

「奥に居ますの」

 初春さんの居場所を聞いてすぐに佐天さんが歩き出すが、俺は風鈴を一個取り出して白井さんの前に置いた。

「涼しさのプレゼントです」

「あら、ありがとうですの。あ……もしもし」

 白井さんからお礼を言われたところで電話が鳴り出し、すぐに白井さんは話し始めたので俺も初春さんの居る奥へと向かった。

「初春ー、聞いて聞いて、探してた曲がやっと見つかったんだー」

「しー、静かにしてください。あ、神代君も静かにお願いしますね」

「了解」

 佐天さんが初春さんに話しかけている時にはついたてがあって見えなかったのだが、初春さんが見える位置まで移動すると初春さんに膝枕されて寝ている少女が見えた。多分鞄の少女だろう。

 初春さんは自分で「静かに」と言っていたにもかかわらず、佐天さんのちょっかいにいちいち反応するするので女の子が起きそうになったりもしたのだが、何とかこの女の子の状況を説明し終える。やはり、この女の子が鞄の少女だった。

「他の支部まで巻き込むって、鞄一つに大げさじゃない?」

「学園都市って基本、家族と離れ離れじゃないですか。こういう事には皆、積極的なんですよ」

「ふーん、ジャッジメントって色んなことするんだねー。大変だなぁ」

 佐天さんの疑問に初春さんが答える。それを聞いて佐天さんがお守りを取り出しながら呟いていた。

「あ、そうだ。初春さんにこれ、涼しさのプレゼント」

 初春さんと佐天さんの話が一段落ついたところで俺の本題を切り出す。

「これ、風鈴ですか。ありがとうございます」

「あと一個残ってるんだけど、この支部にでも吊るしとく?」

「なんで風鈴をこんなに持ってるんですか?」

「この風鈴はどうしたんですの?」

 固法さんが居ないようなので最後に残った一個をこの支部にでも吊るしてもらおうかと思ったのだが、初春さんと電話が終わったらしい白井さんから風鈴について尋ねられた。

「自分用に風鈴買おうと思ったんだけど、良い音がする風鈴が欲しかったから色んな種類の風鈴買ってきて、その中から余ったやつ持ってきた」

「それって、この風鈴の音が良くないってことなんじゃ……」

 俺の説明が悪かったのか、初春さんがそんなことを聞いてきた。

「あー、流石に音の悪いやつがあったとしてもそんなのは持ってこないよ。良い音がする風鈴の中から自分用のを厳選しただけだから」

「そうなんですか。まぁ、それならうちに飾らせてもらいますね」

「それでは(わたくし)も……まぁ、お姉さまの許可を貰ってからですが、部屋に飾らせていただきますの」

 追加で説明することにより何とか納得してもらったが、白井さんの「お姉さま」という言葉にふと思い出す。

「あっ、そう言えば、その御坂さん。固法さんに連れられてジャッジメントの研修とかやってたんだけど、御坂さんもジャッジメントになるの? それとも、臨時とか応援?」

「御坂さんが!?」

「え……お姉さまが? そのような話など……あっ!!」

「………………あっ!!」

 俺が尋ねると真っ先に驚いたのが佐天さんで、白井さんと初春さんは何やら考えた後で二人ほぼ同時に声を上げた。

 二人から話を聞くと、初春さんが外回りをしていた時に御坂さんと出会って、ファミレスでパフェを食べながらお喋りしようとした所に、白井さんがやってきて初春さんは強制的にジャッジメントの仕事に連れ戻されたらしい。しかし、その後ジャッジメントの腕章がないことに気付いて探したもののファミレスにはなく、恐らく御坂さんがその腕章を持っていったのだろうということだった。しかも、御坂さんは白井さんから色々お小言を言われたことが気に障っていたらしく、初春さんの腕章を持ってジャッジメントの真似事をしているのだろうと推測したのである。

「いや、でもさ。いくら腕章があるからっていっても、見たことない人が「研修中の新人です」って言ってきたところですんなり通るものなのか?」

「た……確かに」

「その辺は固法先輩に聞いてみませんと分かりませんわね」

 俺の疑問には二人とも答えることが出来ないまま、結局固法さんに話を聞いてみないことには分からないという結論に落ち着いたのである。





「よーし、この辺で良いかな」

 エアコンの吹き出し口付近にあるつり看板に風鈴をくくりつけると、風鈴の涼しげな音が響きだす。エアコンの風が直接当たらないように場所を考えたので常に鳴り続けるわけではなく、時折気が向いたように鳴る程度のものである。

「わぁー、いい音ー」

 鞄の女の子が最初に声をあげる。初春さんに膝枕されてさっきまで眠っていたのだが、ちょうど目を覚まして俺が風鈴を取り付けるのを見ていたのだ。

「何となく涼しく感じますねー」

「風流というものですわねぇ」

「いやー、やっぱり風鈴の音って落ち着くねー」

 初春さんと白井さん、そして佐天さんもそれぞれ感想を述べる。

「帰ったら絶対に飾りますね」

「そうだねー、こんな音がするんだったらずーっと鳴ってる位置に飾っときたいねー」

 初春さんと佐天さんがそんなことを言っているのだが、一言注意しておく。

「常に鳴るところは避けたほうが良いよ」

「え、何でですか?」

 佐天さんが俺の注意にすぐ反応する。

「ずっと鳴り続けてると、逆にイライラの原因になるから」

「あー、確かにずっと鳴り続けてたらイライラするかも……」

 俺が答えるとすぐに佐天さんも納得してくれたようだ。

「それなら、今取り付けた風鈴ってベストポジションじゃないですか」

「一応その辺のことも考えて吊るしたからね」

「わぁー、風鈴のお兄ちゃんすごーい」

 思い出したかのように鳴り始めた風鈴の音を聞きながら、初春さんの言葉に答えたら、鞄の女の子からも褒められた。しかも俺は「風鈴のお兄ちゃん」になったようだ。

 俺が風鈴を飾って以降ずっと、初春さんと白井さんは他の支部との連絡や通常のジャッジメントの仕事をこなして、俺と佐天さんで女の子の相手をして遊んでいる。

「固法先輩、鞄が見つかったんですの?」

 遊ぶネタが尽きてきたのでどうしようかと悩んでいたら、突如電話を受けていた白井さんが声を上げた。

「見つかったんですか?」

「ええ、そのようですわ」

「この子の鞄ですか?」

「ええ、そうですわ」

 初春さんと佐天さんが矢継ぎ早に尋ねると、見つかったのはこの子の鞄で間違いなさそうである。

「鞄、見つかったんだって。良かったねー」

「うんっ!」

 佐天さんがそれを女の子に伝えると、嬉しそうに返事をしていた。

 初春さんと白井さんが急いで他の支部へ鞄が見つかったことを報告し、皆で固法さんが鞄を見つけたという公園に行ってみると、ピンクの鞄を持った固法さんとベンチに座って力尽きている御坂さんを見つけた。綺麗な夕焼けで辺りがオレンジ色になっていることもあって、御坂さんはまるで某ボクシング漫画の灰になった主人公のようである。

「はい、もう無くしちゃ駄目よ」

 鞄を持っている固法さんに女の子が駆け寄ると、固法さんはそう言ってから鞄を渡す。

「うん!」

「お疲れ様です、固法先輩」

「さすが固法先輩ですの」

 女の子が元気に返事をしたところで俺達も合流し、初春さんと白井さんが固法さんを労う。

「お疲れ様でーす、私達も付いて来ちゃいましたー」

 佐天さんがついでとばかりに挨拶をするが、俺は会釈をするにとどめておいた。

「あら、貴方たちまで来たの。まあいいけど。それから、鞄を見つけたのは私じゃなくて、彼女よ」

 固法さんが指差したのは当然ながら御坂さんである。

「やっぱり御坂さんも探してたんですねぇ」

「はぁ、お姉さまったら……というか、なぜあのようなびしょびしょのぬれぬれに?」

「彼女ね、噴水に飛び込んでまで鞄を守ってくれたのよ。鞄を爆弾だと思い込んでたらしくてね」

 初春さんと白井さんは俺から話を聞いていたので御坂さんが居ることに驚くこともなく、固法さんは俺を通じてこの二人と御坂さんが知り合いだと思っているので普通に話している。

「でも、何で御坂さんがジャッジメントの仕事なんてしてるんですか?」

 ちょうどタイミングだと思ったのだろう、佐天さんが固法さんに尋ねる。

「え? 彼女、ジャッジメントの新人だと思ってたんだけど……彼女が腕章を持ったままボーっと立ってたから、ついサボってるんだとばかり思って……」

 佐天さんの言葉で御坂さんがジャッジメントとは関係のない一般人だと察したようで、固法さんがかなり言い訳じみた返答を始めた。

「それで、初春さんの腕章を持ってただけの御坂さんをジャッジメントの仕事に引っ張りまわしてたんですね」

 固法さんの様子を見ていると、つい面白そうだと思ってちょっと意地悪く説明する。

「えー!? あれ、初春さんの腕章だったの?」

「はい、多分。御坂さんとファミレスに居た時に忘れちゃったんだと……」

 驚く固法さんに初春さんが状況を説明するが、腕章を忘れたのは初春さんなのでかなり申し訳なさそうな感じである。

「そっか、私の勘違いで無理矢理御坂さんを引っ張りまわしちゃったのね。でも、それならそうと神代君があの時言ってくれれば良かったのに」

 反省の色を見せる固法さんだったが、勘違い中に一度会っている俺へ矛先を向けてきた。

「最初は確かに何で御坂さんがジャッジメントの研修とかしてるんだろうって思いましたけどね。見ると固法さんは普通に指導してたし御坂さんは妙に緊張してるっぽかったし、『常盤台のレールガン』がジャッジメントの仕事をするって事になれば犯罪発生率が下がるかもしれないし、それを見込んだ上で御坂さんを臨時とか特例のジャッジメントに据えようってことにでもなったのかなーと思いまして」

 非難するような視線を送ってくる固法さんに答える。何とか体裁は整えているものの、こんな言い訳で果たして大丈夫だろうか。

「あー、そうだったのね。……ん? 常盤台のレールガン? もしかして、御坂さんって、あの御坂美琴さん!?」

「そうですよ、固法先輩」

 固法さんが一度納得した後「ん?」と言った時には、言い訳のおかしな部分を突かれるのかとヒヤヒヤしたりもしたのだが、固法さんが引っかかったのはレールガンの部分だった。研修をしていた時には何度も呼んでいたのに、どうやら御坂という苗字だけではレールガンに思い至らなかったようで、ここにきてようやく驚きの声を上げる。それに対して初春さんが冷静に答えていた。

「ところでさ、その御坂さんをいつまでもあのまま放っておいていいの?」

「……あっ!」

 取り敢えず、噴水に飛び込んでびしょ濡れになっている御坂さんをそのままというわけには行かないので、俺がそのことを聞いてみると全員が一斉に声を上げたのである。





「御坂さん、お疲れー」

「あ、神代さん。……げっ、黒子! いや、これはその……何て言うか……」

 俺が最初に声をかけると御坂さんが顔を上げて答えてくれるが、すぐに白井さんを見つけて何か色々言い訳をしようとあたふたしていた。

「お姉さま、言いたいことは色々ございますが、まずは……」

 白井さんは御坂さんの前でお説教モードに入ると見せかけて、すぐに横へ移動した。白井さんの後ろからは初春さんに連れられた鞄の少女が歩いてくる。

「お姉ちゃん、ありがとう!」

「あ……いえ、……どういたしまして」

 女の子が御坂さんにお礼を言うと、御坂さんは一瞬どう答えていいのか迷っているような感じになったので女の子も不安そうにしていたのだが、御坂さんがはにかみながら答えると女の子も笑顔になっていた。
 
 

 
後書き
大変遅くなりまして申し訳ありません。
元々8月から9月半ばにかけて休止することになっていたので、この話を7月中に書き上げてその旨お伝えするつもりだったのですが、スランプに陥ってしまい何の報告も出来ないままこんな時期になってしまいました。
 
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