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ロード・オブ・白御前

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ビートライダーズ編
  第4話 錠前ディーラーとお嬢様


 フルーツパーラー“ドルーパーズ”。その店の一番奥の個室席は、常に錠前ディーラー、シドが座っている。
 ビートライダーズ以外で彼に話しかける物好きはいない。なのでシドはのうのうと紅茶とドライフルーツを愉しみながら客を待つ。

(これで給料が高けりゃ言うこと無しなんだが)

 こつ。思考を遮る絶妙なタイミングで、個室席に人が入ってきた。シドはその人物を見て、にやりと笑った。





 ドルーパーズに入る前に、制服にシワがないか確認し、ガラス窓を鏡代わりに髪を整える。そして、胸に手を当てて深呼吸。そして、呉島碧沙は店に入った。

 一直線に彼がいる個室席へ歩いていく。

「よう、呉島のお嬢サマじゃねえか。この間はどーも」

 碧沙は両手で学生鞄を持ち、折り目正しく頭を下げた。

「いいえ。こちらこそ、先日はお世話になりました」

 よかった。噛まずに言えた。

「今日は相方はいないのかい?」
「巴は追試で遅れるそうです」
「そりゃ災難なこって」

 碧沙は小さく笑い、シドの正面のソファーに腰を下ろした。

 ――実は、シドとは知らない仲ではない。知り合ったのは中学に上がってすぐからだが、錠前ディーラーとビートライダーズの枠に収まらない知り合いなのは確かだ。
 何せユグドラシル・コーポレーションという、沢芽市ではこの上なく大きな枠組みの中での知り合いなのだから。

 ユグドラシルを抜きにしても、碧沙という少女はシドに関心を寄せていた。兄の部下でもある湊耀子には「趣味が悪い」と一刀両断されたが。

(こっちはアウトローに憧れるオトシゴロってやつなんですもん。シドさん、その筋の人にしてはイケメンだし、うさんくささが少ないし)

「今日のご注文は? ロックシードかい」
「はい。それと、ロックシードを嵌めるためのベルトを」

 す、とシドは目を細めた。兄の部下としてではない、商売人としての目。
 碧沙は竦み、それを悟られまいとアルカイック・スタイルで耐えた。

「その注文には応えかねる。戦極ドライバーはこれと見定めた奴にしか渡さないようにしてんだよ。お嬢サマにせよ相方にせよ、ふさわしいとは思えない」
「そう――ですよね」

 碧沙は顔を伏せた。

「何だ、アーマードライダーになりたいのか?」
「いえ。わたしじゃなく、巴が。他のチームのライダーを見るたびに、考え込んでるみたいでしたので」

 スマートホンの画面を観ていた巴を思う。
 焦がれるように。焦るように。鎧武を、龍玄を、バロンを。

 シドの視線に責める色が加わり始める。碧沙は慌てて笑みを繕った。

「ご心配なさらなくても、自分が()()だってことはちゃんと自覚しています」

 検体。有体に言えば、実験動物。
 時には倫理を超える「検証」も、碧沙は歯を食い縛って耐える。

「ここまで想われているくせに気づかないなんざ、貴虎も悪い男だな」
「お、想われて、なんて、そんな」
「分かんねえぞ? 好意は捧げられて当たり前だとか思っていそうだ、あの坊ちゃん育ちは。――第三者の俺としては、あんたの献身を見てる分、気づかねえ貴虎に苛つかないこともないんだぜ」

 まるで口説かれているようだが、これもリップサービスだと知っている。
 兄への献身に加え、気になる相手の満更でもない態度が、碧沙をもっとユグドラシルに縛りつけると、あちらは知っているから。

「被験者始めた頃もそうだった。中学上がりたてのガキなら泣いてスト起こしてもおかしくないのに、お前はケロッとした顔で。俺にも湊にも普通に話しかけてきたんだよな。自己犠牲をためらわないのは、さすが呉島貴虎の妹ってか」
「わたし、は、わたしの体が、知らない誰かを救うのに役立つなら、それでいいんです」
「そうかい。――ベルトはないんだ。ほら、帰った帰った。こんなとこで油売ってるとお兄様が怖いぜ」
「? 貴虎兄さんは優しいですよ」
「ブラコン」
「自覚はしてます」

 碧沙はアルカイック・スマイルを崩し、心からの苦笑で返した。 
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