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ゾンビの世界は意外に余裕だった

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13話、駐車場

 第四駐車場と第一兵舎で一生分の善行をやり尽くした俺は、救出した島田一等兵から第三駐車場にある武器の情報と第三兵舎の生存者についての情報を得た。

 まあ第一兵舎と同様に第三兵舎の人達も武装しているようなので、こちらの準備を少しくらい待てるだろう。

 第一兵舎と連隊本部を制圧したアンドロイド達は、第四兵舎で人間を監視させる部隊と第三駐車場に向かう部隊に分けた。

 そんなわけですぐに第三兵舎に制圧部隊を送らず、俺もアンドロイド達と車に乗り込み第三駐車場に向かった。

「事故か?」

 第三駐車場への途上、結構な数の車が交通事故を起こしたような状態で止まっていた。多重玉突き事故もあれば哀れにも人がひかれたままの状態で放置された車もある。

 おそらくゾンビから逃げようとしてこうなったのだろう。いずれなんとかしようと思うが、今はやはり第三駐車場に行くことを優先する。

 土建屋の駐車場でダンプ達を見た時は小躍りしたものだが、実際に第三駐車場を見た瞬間、ラテンダンスを激しく踊りたくなった。

 五号戦車を載せたワイマール軍の大型戦車輸送トレーラーが四台見える。装甲兵員輸送車や幌付き三トントラックがたくさんならんでいて、端には四輪型の自走ショベルカー、タンクローリー、給水車、地対空ミサイル、自走砲、移動式レーダーまである。

 土建屋の駐車場が霞むような宝の山だ。

 ついでにゾンビの番人が結構な数いる。推定八百。入り口同様に子供から大人まで居たので、武器を見つけた高揚感一瞬でさめてしまう。

 まあ大した驚異ではない。とりあえず一号車と三号車、応援のアンドロイド達に排除を命じた。さらに四号車からも俺製のマイルズと四等兵四号を参戦させる。

 俺は精神衛生のために何時ものように後ろを向いていたが、届く音だけでも気分よくなかったので少し車を移動させた。。

 間もなくゾンビ排除の完了した。手前のトラックに乗り込み積載してある木箱を開けてみると、そこにはネオ・ワイマール軍の武器が所狭しと詰まっていた。

 どうやら日本から半数が本土に引き揚げた在日ネオ・ワイマール軍の余っていた武器弾薬と装備らしい。そういえばここは在日ネオ・ワイマール軍の規模が大日本共和国で第ニ位の県だった。こういう武器の恩恵は受けやすいのだろう。

 ……それにゾンビの群れにも元ネオ・ワイマール将兵らしいゾンビが少し混ざっている。異国の地で大日本共和国市民を守ったご遺体は、特に丁重に弔おう


 十一日目。十七時になった。俺達は自衛軍基地の第一、第四兵舎、連隊本部、弾薬庫、第三、第四駐車場と各門を制圧し終えている。

 ふと、門に居たM-25やM-27などを見てどうにもロボット感丸出しなところが気になった。軍服を着せて顔にはマスクをつけるよう命じた。遠目や夜目には兵士に見えるかもしれない。

 今は発見した大量の車両を研究所に運び込む計画に着手している状況なのだが、会うのを先延ばしていた第一兵舎の人達が、第三兵舎のゾンビを攻撃しろって騒いでいるというので、仕方なく第四兵舎に向かう。

「飯山一等兵です」 
「香田巡査部長です」

「この集団のリーダーである斉藤です」

 第一兵舎で救った兵士と警官の二人と、挨拶を交わす。飯山一等兵はまだ二十歳くらいの精悍なつきの青年で、香田巡査部長は四十代前半の温厚そうな人物だ。

 礼儀正しく御礼をたくさん言われて面倒だなと思っていたら、ようやく香田巡査部長が本題に入った。

「斉藤さん。第三兵舎をこのまま放置すると聞きましたが、どうか考え直して下さい。一昨日、あそこにいる部下がライトを振って生存をしらせてきたばかりなのです」

「武装して生き残っているならもう少し待てるでしょう。ところでお二人は私との契約書を読みましたか」 

 俺は要求に応えず、契約書を読んだか確認する。いまのところ第三兵舎の制圧は明日行う予定だ。

「読ませて貰いました。斎藤さんは命の恩人ですし、こういうご時世ですから私は批判をしませんが国は許さないと思います」
「国ですか? そうか香田さんはご存知なかったですね。国は自分達の守る人間を限定しましたよ。ひょっとしたらこの地域はまだ重点防衛区域かもしれませんが」

「まさか……」
「キャリー。政府の記者会見を見せて差し上げろ」

 俺はここにいる全員に現状を知らせた。

「斉藤さん。現状は理解しました。大変なことはわかります。ですがどうか第三兵舎の生存者を救ってください」

 香田巡査部長はいい人なんだろうけど迷惑で契約出来ないタイプな気がしてきた。

「香田巡査部長はどうやら契約してくれないみたいですね」 

 どうせ万人とわかりあえないし無理に契約する気もない。嫌なら契約するなというやつだ。

「待って下さい。部下を救っていただければなんでもやります。どうかお願いします」 

 一応俺は命の恩人らしいし、契約もあくまでも善意で申し出ているつもりだった。まあ、警官の存在はありがたいのも確かだし、第三兵舎の掃討を急ぐか検討する。

「斉藤さん。私もなんでもやります」

 土下座した香田巡査部長に飯山一等兵が土下座する。これでは、俺が完全に悪者だ。しかも、一緒に助けた民間人の青少年達が生暖かい視線を送っている気がする。

「仕方ありませんね。キャリー。大佐に制圧部隊を第三兵舎に回すように伝えてくれ」
「了解です」

 一応、最後に香田巡査部長が部下を見かけた場所を優先させるが、約束を守るためには第三兵舎全体の掃討を同時に行う必要があるだろう。結局レムルス、四等兵一体、S3ニ体、M-27戦闘ロボット八体の計十ニ体を投入した。

「斉藤さん。ありがとうございます」

「あなたは許可が出るまで第三兵舎に入らないで下さい。それからこれが契約書です。少し厳しい契約にしましたが大丈夫ですか」
「……はい」

 二人はすぐに契約書にサインした。

「お二人はここでお待ち下さい」

 他の五人はサラリーマン・男子大学生、女子高生一人づつ、主婦と中学生の娘。という構成で、慶太が話をして問題ないと判断したため全員と契約する。

「出発間際に少し作業を手伝って貰いますが、しばらく休んでいてください。あ、貰う車を運転出来る方は何人いますか?」

 駐車場の夫二人と兵舎の香田巡査部長、飯山一等兵、主婦、大学生の六人が運転出来るようだ。

 夜間に無灯火で帰還するんじゃなければ、第三兵舎に投入した部隊の代わりに研究所まで車を運転していって貰うところだ。

 第三兵舎に釘付けの香田巡査部長と飯山一等兵以外の契約者が休んでいる間、俺は作業アンドロイドに宅配業者の冷蔵冷凍者を駐車場の奧から引き出させたり、第一兵舎から持ち出せる生活物資やベッドなどの備品をトラックに積み込むよう伝えた。

 それから俺は研究所に持ち出す最初の車を選び始めた。運転手候補はまずチーフCとチーフZに作業アンドロイド十八体。これだけで二十台を引き出せる。他に運転手として戦闘アンドロイド十体を駆り出せば、三十台か。

 運び出す車両はやはり見た目のインパクト優先になり、つい五号戦車を積んだ運搬車を真っ先に選んでしまう。

「ボス、念のため橋を補強してはどうでしょうか」

 キャリーが何か明確な不都合か不確定要素を発見したらしい。聞けば、ルビコン川の橋が戦車と運搬車の重量に耐えられるか分からないとのことだ。

 いきなりルビコン川の橋が崩落したら笑い話で済まない。俺の士気にも影響する。最優先車両に橋を補強する特殊車両を追加した。

 他に運び込む車両を選ぶ基準として武器と燃料を優先して生活物資を最低限運ぶことにする。そこで装甲車両、タンクローリー、工事作業車、通信車、物資満載の八輪トラックなどを選んだ。

 研究所に被せたくなるようなカモフラージュ用の迷彩シートを積んだトラックも追加する。ついでに迷彩シートで戦車や荷物を覆わせることにした。

 さて、辺りがだんだん暗くなってきた。もちろんまだ第三兵舎の制圧は終わっていないが、暗くなり次第、車列を研究所に出すことにする。

 とはいえ、ここにきて大きな問題にいくつも気づいてしまった。車列が長くなったせいで目立つ上に守りにくい。さらにつけられやすい。

 ホームセンター前のようにゾンビがたくさんいるところでは、最初の車のエンジン音でゾンビを引きつけ、後続車が大群に襲われる危険性もある。そして、その隙を悪意ある人達に襲われる可能性も零ではない。

 そこでまずありまあまる装甲車両で護衛部隊を強化することにした。乗用車や社用ワンボックスと機関銃や迫撃砲を積んだ装甲車では比較的にならないほどの戦力向上だろう。

 そして念のため、俺の車と契約した人を乗せた車は若干車列の前よりに置くことにした。万が一後方が混乱して襲撃されても前部は比較的安全だろう。

 そんなわけで第一陣は五号戦車を載せた戦車輸送車四台と橋を補強する特殊車両、タンクローリー三台、給水車、八輪輸送車十台、三トン幌付きトラック三台、自走ショベルカー、冷蔵冷凍車、契約者達が乗る大型バス、軽装甲高機動車二台、装甲兵員輸送車三輌となる。これに軽装甲車三台と俺用を含めて装甲兵員輸送車三輌が護衛としてつく。

「出発するぞ」

 気軽に俺は命じた。留守番の大佐の指揮で既に第ニゲート前のトラックを動かしてあり、ゲートから五百メートル先の偽装用の車両などもどかしてある。

 車列は順調に帰路についた。途中、行きにはなかった邪魔な車が何台か増えいたが、自走ショベルカーでサクッと脇にどかした。

 装甲兵員輸送車の窓から外をみると、月明かりのおかけでホームセンターのすぐ近くにいることが分かる。

「ボス、間もなく危険地帯です。護衛から二台を先行させゾンビを掃討させます」
「全て任せる」 

 俺はキャリーに鷹揚に頷いた。やる事ができるまで寝ていても良さそうだ。俺は目を瞑った。


「ボス、ルビコン川に着きました」 

 えっ?  もう着いたの。えーと、そうだ土建屋の様子だ。

「島田一等兵は土建屋に来ていなかったのか」
「いませんでした」

「そうかでは橋の補強をしてくれ」 
「完了しています。今から本車も橋を渡ります」

「わ。分かった。いや、橋の途中で車を止めてくれ」
「分かりました」

 見てなかったのでどういう仕掛けか分からないが、橋を補強した結果は橋の上に橋みたいな感じだ。県道からこのわき道に侵入してきた奴らは、真っ先にこのオブジェを見て警戒するだろう。とはいえ毎回、置いたりどかしたりするのもたぶん面倒だ。

 やはり研究所の警戒ラインを拡大させるべきなのかもしれない。

 俺は月明かりでうっすらと見えるルビコン川をちらっと見た。こうも行ったり来たりするなら別の川の名前にすれば良かったなあと思いつつ、車列に研究所に向かえと命じた。
 
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