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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第八十九話 定まる道筋

 夜は明け、朝日が照らす。

 鍛冶場で行っていた瞑想をやめ、静かに立ち上がる。

 工房でもある鍛冶場に循環する魔力と夜という吸血鬼の最も得意とする時間。

 この二つにより士郎の肉体は完全に回復している。

 魔術回路、肉体を解析で再確認し、ゆっくりと立ち上がる。
 そして、静かに鍛冶場を後して、吸血鬼にとっては忌々しい太陽を睨む。

「ここにいるのも最後になるのかもな」

 色々と手を加え、愛着もわいている鍛冶場と屋敷を見つめて、屋敷の中に入っていく。

 時間は朝の六時。
 皆が起きて来るまでは時間があるだろうから、朝食の準備をして答えを聞けばいいかと思っていると

「おはようございます、士郎」
「リインフォース、おはよう」

 士郎が屋敷を入ってくるのを待っていたかのようにリインフォースが出迎えた。

「皆が待っている」
「皆?」

 リインフォースの言葉に首を傾げながら、もしやとリインフォースの後に続き、昨晩の説明をした部屋に足を踏み入れる。

 そこには士郎の到着を待っていた者達が全員揃っていた。

「おはよう、士郎」
「ああ、おはよう、プレシア」
「ちょうどお茶の準備もできたから座って頂戴」

 プレシアの言葉に頷きながら、士郎の登場にわずかに緊張したように全員の表情が硬くなる。

 最後に現れた士郎の紅茶を注ぎ、リインフォースもプレシアも席に着く。

 士郎が全員を見渡す。
 それぞれが覚悟を秘めた瞳で士郎の視線を受け止める。

「一晩で答えが出たようだな。
 皆の答えを聞かせてくれるか?」

 士郎は昨晩に問いを投げかけてはいない。
 だが、皆が士郎が一晩という落ち着かせる時間を与えた理由を察していた。

 そして、その答えという覚悟を持って士郎の視線を受け止めたのだ。
 士郎が答えを促すには十分であった。

 初めに口を開いたのはリンディ。

 その表情は硬く、淡々と事務的に管理局側の方針を伝え

「時空管理局は衛宮士郎君との関係をこのまま維持したいと思います。
 今回の情報についても私達の心に秘めて明かすことはしません」

 一旦言葉を切り、リンディの表情が穏やかなものに変わる。

「士郎君のことは今までのことで信用しているもの。
 これからも仲良くしていけたらうれしいわ」

 管理局局員ではなく、友人として、仲間としての思いを口にした。
 同意するようにレティとクロノが頷き、安堵するようにリンディの言葉を受け入れるグレアムとリーゼ姉妹。

「私もリンディ提督と同じや。
 特にうちの子達がお世話になったお礼もまだなんやからこれからも一緒に居れたらうれしいよ」

 リンディに続くように、はやてがにこやかに士郎を見つめる。

「我等守護騎士も、主はやての意見に反対はない。
 何より世話になりっぱなしというのもな」
「ということでこれからもよろしくしてやる」

 主あるはやてに同意するように、警戒ではなく仲間に向ける穏やかな視線で頷くシグナムとどこか照れながらそっぽを向いて頬を赤くしているヴィータ。

 そんなヴィータを仕方がないとどこか苦笑しながら頷くシャマルと無言で、だがしっかりと頷くザフィーラ。

「魔術のこととか色々隠してたのは正直気に入らないけど、士郎は士郎だもの。
 大切な友達なのは変わらないわ」
「私もアリサちゃんと同じかな。
 驚かなかったといったら嘘になるけど、これからも士郎君と友達でいたいから」

 自信に溢れて堂々と士郎を見つめるアリサと穏やかだが芯のある視線を士郎に向けるすずか。

 その姿は士郎が元いた世界にいた姉妹にとてもよく似ていた。

「私はまだ弱くて士郎の横には並べないかもしれない。
 それでも必ず追いついてみせるから」

 自身の手を握り締めて、不安そうに、だが士郎を真っ直ぐ見つめるフェイトと支えるように傍に立つアルフ。

「まだ守ってもらってばかりだけど、きっと士郎君を守れるぐらいに」

 その言葉と思いに重ねるように、瞬きもせず、意思を伝えるなのは。
 そんななのはの思いを後押しするように頷き、後ろに立つユーノ。

「私の、いえ私達の運命を変えてくれた恩を返すまで貴方から離れる気は私にはないわよ」

 フェイトの肩に手を置き、対等でありながら包み込むような視線を向けるプレシア。

「士郎、いえ新たなる我が主」

 最後にリインフォースが士郎に歩み寄り、士郎の右手を握る。

「ここいる皆、貴方と共に時を過ごしたいと思っております。
 そして、私も皆と同じく主を支える祝福の風でありたいのです」

 膝をつき、士郎がリインフォースと契約を交わした時と同じように、士郎の右手に唇を寄せる。

「誓いは此処に、私は貴方を支え続けます。
 我が主」

 士郎のことを信じると、共にいると真っ直ぐな視線を受け、誓いを受けた士郎は目を丸くしていた。

 化け物と、異常者と、破綻者と警戒され、拒絶されると思っていた。
 予想を裏切る仲間達の言葉をうれしく思うと同時に不安にも感じていた。

 自身といることで、この得がたい仲間達が危険に晒されるのではないか。
 未熟な己に彼女達を守ることができるのだろうか。
 否、守る権利があるのだろうかと自身に問いかけていた。

 元いた世界のように伸ばしてくれる手を振り払い、彼女達の思いを胸に一人で歩む。
 そんなことを考え始めたとき

「最後まであの子たちを信じて傍にいなさい」

 闇の書の中で出会った最愛の者の言葉が振り払おうとした手を止めた。

 もしかしたら士郎といることで苦悩するときがくるかもしれない。
 だが、例えそうだとしても一人で破滅の道を歩むということを繰り返すのではない。
 元の世界の大切な人との約束を果たしてみるとしよう。

 リインフォースの手を改めて握りなおし、この場にいる全員を見つめる。

「リインフォース、皆、ありがとう。
 そして、未熟者だがこれからもよろしく頼む」

 士郎の肩の力の抜けた穏やかな言葉に全員の肩から力が抜け、ただ笑い合う。

「さあ、朝食にしましょう」
「そうね」

 リンディとプレシアの言葉に全員が頷き穏やかな朝食を迎えるのであった。



 穏やかな朝食を終え、リビングでそれぞれが寛いでいるとき

「ところで士郎、そろそろ教えてくれてもいいんじゃないか?」
「ん? 魔術のことか?
 非公開で個人的に説明するのは構わないが、魔術師になるというなら教える気は無いぞ。
 後は俺の奥の手についてもな」
「魔術師を増やすつもりは無いのか?
 いや、というか奥の手ってエクスカリバーが君の奥の手じゃないのか?」

 士郎の言葉に全員が耳を傾けながら、目を丸くしていた。

「エクスカリバーも奥の手といえば奥の手ではあるが、まだ見せていない手がある」

 そんな周りの反応に苦笑しながら、あっさりと奥の手がまだあると明かす。

 だが奥の手であるが故においそれと見せれるものではないし、魔術の中でも禁忌中の禁忌とまで言われるモノだ。

 士郎自身、余程のことがない限り使うつもりは無い。

「隠したい奥の手を無理やり聞き出すつもりは無いが、魔術の弟子を取ったりするつもりは無いのか?」

 クロノの言葉に士郎は無言で頷く。

「魔導に比べてあまりにリスクが高いというのもあるし、魔術師の根底が魔導や管理局に比べてあまりに血生臭い。
 それに俺の属性や魔術は投影に特化していて誰かに教示するのはあまり向いていない」
「士郎君、少しいいかしら?」

 士郎の言葉に引っかかるものを感じてか、リンディが口を挟む。

 他の面々も口にこそ出していないが、やはり気になるようでこちらに注目している。

「士郎君の魔術が特殊だというのはわかるけど、他の人に教えることも難しいの?」
「無論、初歩ぐらいは教えることはできます。
 ですが、前に話したとおり俺の属性が剣なので、鉄を鍛えるという意味で火属性は多少は教えられると思いますが、それ以外の属性になるともはや完全に門外漢です。
 魔術の異質性は高いですが魔術師としては俺自身は三流ですから」

 士郎ほどの投影という魔術、さらに戦闘能力を持っていながら魔術師として三流という言葉に魔術師という者達が魔導師とあまりに異なる基準を持っていることを実感させられる。

「あとは魔術師の能力があまりにも素質に偏るので、魔術回路を持つ者が見つかりコントロールを出来ない様なら教えることはしなくはありませんが」

 その時、士郎の視線が一瞬だがアリサとすずかに向けられる。
 だがそのことに気がついたのはプレシアとリインフォースの二人だけであった。

「士郎、確かに素質でスタートは違うかもしれないけど、訓練とかでどうにかならないの?」

 フェイトの魔導師としての訓練を思い出して、提案をするが

「もちろん訓練で魔力効率や生成能力は向上することは可能だけど、魔術回路は生まれながらに持てる数が決まっている、増えることも減ることもない内臓のようなものなんだ。
 当然、内臓を増やすことは普通できない。
 運がよければ俺のように人の理から外れたときに増えるかもしれないけどな。
 だからこそ魔術師は代を重ねてより多くの魔術回路を持つ子孫を残そうとするんだ」

 静かにフェイトの案に首を横に振った。

 リンディやレティ達、時空管理局組としては魔術という新たな術を取り込みたかったのだが、質こそ違えど同じ魔力を使う技術と思っていたが故に頭が痛い話であった。

「でも魔導に比べてリスクが高いって言ってたけど、魔導師だって魔力の制御や術式を誤れば怪我を負いかねないのよ」

 魔導師が使う魔法とてリンディの言うとおり魔力を使う以上は怪我やリンカーコアに負荷がかかり魔法が使えなくなる等のリスクはある。

 だが士郎の言葉で全員が言葉を失った。

「魔術師にとって魔術を使うだけで人として肉体が苦痛を訴えるもので、制御するのは本人の意識のみです。
 限界を超えることなんて簡単にできてしまう。
 そこから戻ってくるのは運次第ですが」
「……そんなにあっさり?」

 魔導とは違う魔術のコントロールに誰かの呟きが漏れる。

「例えるならリミッターの付いていないエンジンのようなもの。
 アクセルを踏み続ければ限界なんて簡単に超えられます。
 ですがそんなことをすればエンジンは壊れてしまう。
 怪我で済めばいいほう、魔術は制御を一歩間違えば廃人になりかねないものなんですよ」

 あまりの表現に誰もが唖然としてしまう中で

「いや、魔術や魔術師についても確かに気になるが、別の話だ」

 いち早く、質問を思い出したクロノが咳払いをして

「君の年齢について僕達には本当のことを教えてもいいと思うんだが」

 その質問を口にした。

 あまりに予想外の質問にクロノ達、時空管理局関係者以外の面々が固まった。
 質問をされた当の本人といえば

「ああ、魔術のことばかりでそのことを話してなかったな」

 驚くことなくあっさりとクロノ言葉に頷いた。

「ということはやはり見た目どおりの年齢ではないということか」

 クロノ言葉に士郎が頷くと同時になのは達がクロノに詰め寄る。

「クロノ君、士郎君の年齢が見た目通りじゃないってどういうこと?」
「うん、どう見ても私達と変わらないぐらいだけど」
「そやけど大人びとるような気も」
「そう言われればそうよね」
「だけどそんなことってあるの?」

 なのは、フェイト、はやて、アリサ、すずかが首を傾げる中で

「ところでクロノ、何でそう思ったか聞いてもいいか?」

 クロノに確認するように士郎が言葉を投げかけた。
 その言葉に頷き、説明を始める。

「最初に疑問に思ったのは始めて出会った後に行った模擬戦。
 他にもあらゆる技術、経験面で年齢に即していないと思っていた。
 だがそんな魔法は存在しないだから何らかの方法で技術を継承していると考えていた。
 だが此処に来て、平行世界から渡ったということがわかったからな。
 もしやと思ったんだ」
「やはり経験は誤魔化せなかったか。
 正解だよ。俺が生きた年数は見た目より遥かに上だ」

 士郎の言葉に驚くなのは達、それとは対照的に納得したようなシグナム達。

 守護騎士達も士郎の年齢についてはどこか疑問を感じていたため、あっさりと納得していた。

「にしてもそれだけ長生きして私たちと変わらんのやったら成人するまで百年ぐらいかかるん?」

 はやてのそんな疑問に士郎は苦笑しながら首を横に振る。

「成長は皆と変わらないよ。
 成人した後にこっちに来る時に肉体を若返らせられたから、肉体年齢的にはなのは達と変わらない。
 副作用として精神が肉体に引き摺られるところがあるけど」
「じゃあ、士郎は元の世界で何歳だったのよ」
「年月を数えられる状況じゃなかったから正確にはわからないが……三十は超えていたと思う」

 士郎の言葉に改めて言葉を失うなのは達。

 肉体年齢は別としても精神的には二十以上の年の差だ。
 内心悩むところがそれぞれにあるようである。

 ちなみに士郎が正確な年齢を把握していないのは単純に死徒になってから生活の中心がアルトルージュの城という普通の人の世界と離れてしまった事。
 さらに一人で彷徨う中であらゆる場所を転々として年月など気にしなかったためである。

 吸血鬼というモノ自体が人とは比べ物にならない時間を生きる故に数年程度の年月をあまり気にしないというのもあったのだろうが。

「ホントに士郎には驚かされてばかりだわ」
「なのはちゃん達が魔法使いっていう話が普通に思えるよね」

 呆れたようなアリサとすずかの言葉に苦笑するなのは達。

 士郎は秘密を明かし、共に歩む思いを心地よく思いながら、ようやく全てが終わったと穏やかな時間を過ごしていた。

 そして、士郎以外の者達にとっても進む道が定まり、久々の穏やかな時間を堪能していた。

 約一名、レティに耳打ちされたリンディが顔を赤くし、口にしていた紅茶でむせて全員が首を傾げるという場面があったが、平和な日常であった。 
 

 
後書き
というわけで八十九話でした。

前々回、前回で答えが出てたので今回はまとめ編と士郎君の年齢ネタですね。

そして、次回からオリジナル編。
士郎の魔導師としての特性やデバイスの話が出てきます。

A's編の最後としてはサウンドステージのお花見まで行こうと思っています。

次回も三週間後、十二月十四日辺りに行きます。

少しずつ執筆がのってきた&時間が取れてきた!

それでままた次回にお会いしましょう。

ではでは 
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