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小鳥だったのに

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第四章


第四章

「そして旦那は五郎左だからな。信長は彼を絶対に忘れなかったんだ」
「あの、普通逆では?」
 和彦はすぐに課長の言葉に突っ込みを入れた。
「旦那が信長で女房が」
「それもすぐにわかる」
 また笑顔で言う課長だった。
「安心するんだ」
「ううん、そうですかね」
「女房は最初小鳥だと思って結婚してな」
 課長は今度はこんなことを言った。
「ところがこれが鶏だった」
「ええ、今実際にそう思ってます」
 言われてみればその通りである。まさに雌鶏だったのだ。
「本当に」
「ところがずっと小鳥でもあるからな」
「そういうものですかね」
「それもわかるからな。楽しみにしておくんだ」
「楽しみにですか」
「そうしたことがわかる時をな」
 課長は余裕そのものの態度で言っていく。そして。 
 遂にだ。こう言いきってみせたのだった。
「結婚・・・・・・これはいいものだ!」
「ガンダムじゃないですか」
「けれどその通りだからな」
 和彦の突っ込みに平然と返し続ける。
「それは」
「いいものですか」
「そうだ。だからすぐにわかる」
 課長の言葉は変わらない。
「その時を楽しみにしておくといい」
「ううん、そうなったらいいんですけれど」
 和彦はいぶかしむ顔で述べた。
「そうなれば」
「そうなる。だから楽しみにしておくんだな」
 最後の最後までこう言う課長だった。だが和彦は課長の言葉は今回だけは信じられなかった。しかしある日のことであった。
 家に帰るとだ。いきなり。
「あっ、待ってたのよ」
 出迎えてきた愛生がだ。満面の笑顔で言ってきたのだった。
「おかえりなさい」
「待っていたって?」
「だって今日あなたの誕生日じゃない」
「あっ、そうだったのか」
 言われてそのことを思い出した彼だった。
「今日だったのか」
「だからすぐに中に入って」
 妻は夫を急かしてきた。
「一緒に食べよう」
「一緒にって」
「まずは着替えてね」
 ここでも急かしてくる妻だった。
「それからね」
「ああ、わかったよ」
 といあえず頷く彼だった。そうして玄関からあがって寝室の箪笥を開ける。その時妻もその着替えを手伝う。実はこれはいつものことだ。
 そうしてだ。いつも食事を食べている席に向かうとだ。そこにあったのは。
「これは」
「どう?全部私が作ったの」
 妻は満面の笑顔で夫に言ってきた。そこにあったのは若布とレタス、それにミニトマトのサラダにティーボーンステーキ、コーンポタージュスープ、ジャガイモのパイにオイルサーディン、どれも彼の好きなものばかりだった。
 それを見てだ。和彦は驚いた顔で妻に尋ねた。
「これ、本当に全部御前が」
「ええ、そうよ」
 また答える妻だった。
「時間かかったけれどね」
「豊彦は?」
「今は寝てるの」
 席の横にある子供用のベッドに顔を向ける。するとそこに我が子が寝ていた。実に気持ちよさそうな顔ですやすやと眠っている。
 
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