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ボロディンJr奮戦記~ある銀河の戦いの記録~

作者:平 八郎
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第3話 士官学校 

 
前書き
なかなか上手く視点変更が書ききれません。

とりあえず原作登場人物を2名とオリキャラ(名前だけ)を登場させてみました。 

 
 宇宙暦七八〇年一一月一〇日 テルヌーゼン市 

 父の死からいろいろあったが、正式に俺はグレゴリー叔父の被保護者となった。まぁグレゴリー叔父も軍人で、民法上の手続きによる養子とはいえ、現実はトラバース法の状態と大して変わりはない。

 だがトラバース法であれば、一五歳までの養育期間中は政府から養育費が支給される。それに遺児が軍人か軍事関連の職業に就くのであれば養育費の免除がある。逆にいえば本人が期間終了後軍事関連以外の職業に就くとなれば、養育費は国庫に返還しなければならない。

 俺は士官学校への入学を希望していたし、当然その事実はグレゴリー叔父もレーナ叔母さんも知っていたはずなのだが、二人はあえてトラバース法ではなく民法上の扶養手続きを取ったのだ。特にアントニナを産んだばかりのレーナ叔母さんが、トラバース法の適用に断固として反対したらしい。
 
「冷静に考えるとね。ヴィク(養子になってからレーナ叔母さんは俺をこう呼ぶようになった)が一五歳になった時、アントニナはジュニアスクールに入学するでしょ? いっぺんに養育費を返還するのは家計上苦しいのよ」

 そうアントニナを横に寝かせていたレーナ叔母さんは言っていたが、全く筋が通っていない事くらい俺には分かっていた。国に俺の将来を縛らせたくない。俺を軍人にはしたくない。という親心は十分すぎるほど理解できる。
 
 結局、一五歳の時に俺は士官学校の入学志望届を出した。既に准将に昇進していたグレゴリー叔父も、六歳のアントニナと三歳のイロナと乳飲み子のラリサ(なんでみんな妹ばかりなのよ)を連れたレーナ叔母さんも反対しなかった。若干寂しそうな顔をしていたのは見間違いではない、と思う。

 ともかく俺は宇宙歴七八〇年に自由惑星同盟軍士官学校に入学することを許された。入学時の席次は三七八番/四五六七名。戦略研究科志願者内では一四五番/三八八名中。というか、この入学試験が半端なく難しい。
 一五歳で卒業するミドルスクールの学力を基準にしているというのは真っ赤な嘘だと、ヴェルドーラ市立ミドルスクールの最優秀卒業者である俺は断言できた。普通にユニバースクラスの問題が並んでいる。まさかここで第二の人生躓くわけにはいかないと必死に勉強してもこの席次。前世の基準でいえば中学三年生に、三田の医学部を受験させて満点を獲れという感じ。一応四年制大学を卒業している身としても、社会人を一五年近くやっていて記憶が完全に飛んでいた俺には、久しぶりの受験勉強は身に染みた。

「そのくらい出来て当然じゃないのか。ヴィクトール」
 というのが、宇宙歴七六四年戦略研究科入学席次一二番/四二七五名中の叔父のありがたいお言葉であり、
「だから法務研究科か後方支援科か戦史研究科にしておけばよかったのよ」
 というのが、宇宙歴七六五年法務研究科入学席次三三番/四四七七名中の叔母のありがたいお言葉である。……宇宙船暮らしでろくに勉強してなさそうな魔術師の脳みその良さを思い知らされた気がする。

 ともかく俺は士官学校の初年生として、実家と大して距離の離れていないテルヌーゼン市で集団生活を送っており……

「貴様ら、よくその程度の知力と体力でこの栄えある自由惑星同盟軍士官学校におめおめ来れたものだな。もう一度鍛えなおしてやる。グランドをあと一〇周。俺に続け!!」

 そういって再び走り出す、少し伸ばせばなかなかに見ごたえがあろう金髪をきっちり角刈りした、胸筋ムキムキランニングな二年生に付いていくこと三〇分。もはや一人で立つことすらできない俺達初年生は、同室の仲間と互いに肩を貸し、足を引きずりながら部屋へと戻っていく。

「ランニングとはいえ、さすがに“ウィレム坊や”が出てくるとキツいな、ヴィク」
 俺と肩を組んだまま、二段ベッドの下へ仰向けで倒れこんだ同室の戦友(バディ)は、荒い息遣いで目を閉じて言った。俺も今は『あぁ』としか答えられない。

 だいたいあの“ウィレム坊や”の存在は異常だ。現役合格で士官学校の二年生なのだから、数え年一六歳の俺達より一つ年上なだけなのに、体つきは二〇過ぎのレスラーと言っても過言ではない。それでもただの脳筋であればまだ可愛げがあるに、学年主席だという。そして当然のように戦略研究科に所属しているから、直下の学年である俺達は徹底的にしごかれる。三年四年の上級生も、戦術シミュレーションや射撃実技等で後れを取っているせいか、形式なりとも“ウィレム坊や”が敬意をもって接している以上、あまり口を挟んでこない。第三次ティアマト星域会戦で、自分の年齢以上の軍歴を持つビュコック提督にああも慇懃無礼な態度が取れるというのも、士官学校におけるこういう経験が原因なんじゃないだろうか。なお最上級生は現在絶賛訓練航海中で不在。帰還は三か月後。それまでは“ウィレム坊や”の天下だろう。

「ところでヴィク、今、何時だ」
「一八三七時だ。フョードル=ウィッティ候補生殿。飯に行くなら一人で行け。ついでに哀れな同室戦友に冷たい経口補給水を持ってきてくれると感謝してやる」
「ヴィクが俺に感謝してくれたことなんかあったか?」
「口に出した記憶はないが、心の内では毎日感謝している」
「あほぬかせ」

 同室戦友のフョードルの悪態を聞き流しつつ、ようやく息が整った俺はベッドの端に半身を起こし、大きく息を吐いた。士官学校に入学して数日のうちに、同室戦友となった彼ウィッティは、原作ではクブルスリー本部長の高級副官でクーデターの最初の一撃であるアンドリュー=フォークの狙撃事件を未然に防げなかった奴だ。入学早々、特徴的な髪型をした原作登場人物に出会って俺は驚いたものだが、次の週には“ウィレム坊や”に遭遇したので、もう驚くことは諦めていた。まだ会った事はないが後方支援科四年生にはアレックス=キャゼルヌの名前も確認した。

 これからの同盟、それも軍事的な意味に絞ってのみ考えれば、俺の年齢を境にして上下五年の世代の士官という存在は極めて貴重だ。帝国領侵攻時には三七歳から二七歳。いずれにしても働き盛りで軍の中核となる存在になっているはずだ。もしかしたら好き嫌い関係なく彼らと積極的に交流し、金髪の孺子による侵攻を阻止できるだけの戦略と戦力と叶うのであれば国力を構築することが、転生者として同盟に産まれた俺のめざすものではないか?

 勿論わざわざ金髪の孺子が元帥や宰相になるまで待ってやる必要もない。同盟軍が金髪の孺子をその砲火の下に捕らえた事は幾度としてあった。その機会を逃さず仕留めればいい。ついでに一緒にいる赤毛のイケメンも仕留める事が出来れば、自由惑星同盟は少なくとも近々で滅亡などという事は回避できる、と思う。

「おい、ヴィク!!」
 突然体を揺さぶられ、俺は慌てて眼を瞬いてから小さく首を振ると、目の前にウィッティの顔があった。
「お前、時々そういう風に突然意識を飛ばすことがあるが、それは一体どういう病気なんだ? もしかしてオカルト的な『なにか』なのか?」
「いや、単に空想好きって奴だ。むしろ非常に想像力が逞しいと言って欲しいね」
「……士官候補生として、それがいい事とは思えないが、お前、今のうちに夕飯を食べないと拙いんじゃないか? 今晩は当直巡回だろ」
 俺はウィッティの言葉に、一度目を閉じて今日の予定表を思い浮かべる。一八三〇時、第五限終了。一九〇〇時から二〇三〇時までが希望者の自習時間。その間の二〇〇〇時から士官学校内の閉門及び巡回業務がある。たしかにウィッティの言うとおりだ。
「おっしゃる通りだ。我が高級副官殿」
「おい!! いつから俺はお前の高級副官になったんだよ」
 ウィッティが容赦なく俺のちょっと短めに切りそろえられた琥珀色の頭を叩く。確かに痛いが、後に引きずるような強さではない。彼の気遣いに感謝しつつ、俺は“ランニングで”痛む体を起こすと彼と共に食堂へと向かった。

 だがこのタイミングで食堂に行ったのは明らかなミスだった。
 かなり広い食堂ではあるが、雑然としているわけでもない。四隅がそれぞれの学年ごとに占有され、食堂の中心あたりが学年間の交流スペースになっている。学年を跨いでの部活動や同好会活動の打ち合わせなども行われているわけで、上級生と下級生の『美しき』上下関係もそこかしらで見受けられるわけで……

「おい、そこの初年生二人。第二分隊のヴィクトール=ボロディンとフョードル=ウィッティだったな」
 こっちに来い、と言わんばかりに大きな声と手招きで俺達を呼び寄せるのはやはり“ウィレム坊や”だった。
「「ご用でしょうか、ホーランド候補生殿!!」」
「用があるから呼んだんだ。そこに座れ」
「「はっ」」
 バカ丁寧に敬礼する俺達を一睨みすると、自分の取り巻きの一部にずれるよう顎で指図する。同期生相手にその扱いはどうかとは思うが、怒るのも怒らないのも取り巻きA・Bの心の持ち方一つだし、下級生の俺が斟酌する話ではない。遠慮なく俺とウィッティが空いた席に座ると、ドンと太い腕で安造りのテーブルを叩いた。

「貴様達には聞いておきたいと思った。特に第二分隊でもお前達は目立つ二人だからな」
「は」
「二人とも父君が将官だというのは聞いている。そこで聞きたいのだが……」
「失礼ですが、それは違います」
「どう違うのだ?」
 話を止められ明らかに不愉快な表情になったホーランドに対し、俺は遠慮なく答えた。
「私の父もウィッティ候補生の父も既に戦死しています。私の場合は叔父に引き取られましたが、ウィッティ候補生はトラバース法によりアル=アシェリク准将閣下のお世話になっていたのです。故に父親が将官であるというのは不正確です」

 それが俺とウィッティの共通点。高級軍人であった父親が戦死したことと、扶養先も高級軍人の家庭であること。その事実を知っている教官達は、俺達に対して他の候補生とは時折ではあるが、若干違った態度で接することがある。

 ゆえに一般家庭から努力で這い上がってきたと思っている奴や、同じ養子先でも佐官・尉官の家庭に送り込まれた奴から俺達二人はあまり好かれていない。特に平凡そのものの俺達がエリート揃いの戦略研究科に在籍しているのは『何らかの意図』が働いているのではないか、と勘ぐる奴すらいる。逆に取り巻きになって、卒業後の配属先に配慮してもらおうと考える奴もいた。そういう奴らに対して俺達二人は明確に隔意を持って接してきた為、最近ではごく普通の同期生すら必要以上に俺達に接近することがなくなってきている。

 だが、この自分の能力に過剰なほど自信を持っている上級生ですらも、そういう奴らと同じように考えているのかと思うと俺は軽く失望せざるを得なかった。
「……わかった。不正確だったのは認めよう。だが俺が聞きたいのはそういうことではない」
 逆らって来た事に対する不満よりも、俺の呆れたと言わんばかりの視線に自身を軽く見られた事に屈辱を感じたであろうホーランドは、小さく舌打ちしてからそう応えた。
「貴様達は子供の頃から軍事教育を受けてきたと思うが、戦争に勝つためには何が必要かも教わって来ていると思う。受け売りでも構わん。是非教えてもらいたい」

 俺はホーランドがそう言うことすら信じられず一瞬呆然とした。左横に座るウィッティも同じように困惑している。だが数秒して頭に血が回り始めた俺は今更ながら納得した。この自信満々な“ウィレム坊や”は俺達に教えを請うているのではなく、俺達の後にいる将官に教えを乞うているのだと。

 そう考えると、俺はやはり可笑しくなった。“ウィレム坊や”もせこい野心を抱えているのだ。それに対して、今更ながら軽蔑だの何だのと余計なことを考える必要はない。グレゴリー叔父の名前だけ借りて、言えるだけ言ってみよう。それで今後……第三次ティアマト星域会戦までに影響を与え、原作では失われてしまった第一一艦隊の将兵が少しでも救われるのであれば。

「戦争に確実に勝つ方法はただ一つ。敵に比して一〇倍となる圧倒的多数の戦力と、正確で適切に運用可能な情報処理機能、および確実に途切れることのない後方支援体制を確立し、それを運用できるだけの国家経済力を整備することです」


 悪いな。不敗の魔術師さん。台詞を貸してもらうぜ。

 
 

 
後書き
2014.09.24 更新
2014.09.24 士官学校の入学定員数を変更
2014.10.25 アントニア→アントニナ(3ヶ所)修正 
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