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【短編集】現実だってファンタジー

作者:海戦型
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KillinGirl Night [R-15]

 
今日はどの人殺そうか?

少女は狩場を見渡した。日が沈み影が街に這い出す逢魔が時を過ぎれば、それからは少女の時間だ。
道ゆく坊や、くたびれたリーマン、気取ったOL、暇そうな男子学生、いろんな人がヨリドリミドリの選び放題だ。ポケットに入れたナイフを握る手が興奮でゴキゲンになってしまう。

刺突するのはそれなりゴキゲン。人間って骨が沢山あるから刺さる所と刺さらない所があって、一発で難しい所に刃が侵入する感触がエクスタシー。黒ひげ気分でピックしよ?

肉を裂くのは結構ゴキゲン。筋肉と血管を綺麗に裂けるとぺろっと肉が削げちゃって、赤とピンクと、上手に出来れば骨の白まで見えてきちゃう。職人気分でフィールグッドだね?

血を見るのってとってもゴキゲン。動脈を綺麗に裂くと、彼岸花が咲くの。裂いて咲いて、真っ赤に染まるその身体はとっても綺麗に光沢を纏うの。それってとってもステキじゃない?

でもね悲鳴はソーバッド。なんだか美しくないし、豚の鳴き声みたいだし、なかなか綺麗に鳴いてくれる人がいないんだよね。若い女の子が一番耳触りがいいんだけど、心の汚い女の子だと台無しになっちゃう。子供は当たり外れが激しくておみくじみたい。オジサンは、いい声で鳴く前に一撃で咲かせて言葉も出させない。それもお洒落でナイスキル。

そして切り裂きワンポイント。返り血は見てると気分上々だけど、被るとゴキゲン急落下。お洋服も汚れちゃうし、臭いもちょっとバッドなスメル。髪の毛もごわごわになるし、おまわりさんの顔も怖くなっちゃうから浴びないのがクロウトのワザなのだ。
飛んで跳ねて駆け抜けて、風のように舞って刈り取るようにスラッシュ。これが鉄則キマリゴト。速く走れば走るほど、斬って裂くのが難しい。そのハードな難易度と速さの狭間がスリリングでタマラナイ。


さあさあ誰を殺そうか?

夜の時間はオトナの時間。この時間はみんな刺激を求めてて、ちょっと誘えばすぐ来てくれる。オトコのヒトにはカラダを魅せて、オンナのヒトには言葉で魅せる。口説いて誘って最後に堕とす、ナンパのテクならちょっとしたジマンだ。

スケベな目線はオモシロイ。ちょっと動くとすぐ目で追って、からかい甲斐がありまくり。誘えば誘うほど引っかかるけど、時々カンチガイでボディタッチが欲しくなっちゃう人がいるから、距離を取るのもポイントだ。

トモダチの目線はとっても楽しい。ホントに気が合う子もいたりして、最後にKILLのが勿体無い。出来ればメアドも交換したいけど、アノヨに電波は届かない。イチゴイチエを楽しんで、ベストタイミングでカッサバけ!

コドモの目線はとってもレア。夜の時間にオトナぶる、強がる子供もベリーキュート。おまわりさんと取り合いになる前にちゃんとイイコイイコしてあげよう。子供は褒められるのが大好きだから、怒るオトナよりお姉さんを選んじゃう。そこもキュートでソソられる。

マジメと臆病はノーサンキュー。誘うの面倒、KILLのも面倒、そのうえ刈ってもなんかイマイチ満たされない。何が他と違うんだろう?ともかく声はかけずにスルーがベター。だって楽しくないんだもん。でもねでもね、こっそり後ろに忍び寄り、ササっと刈るのは達成感。

ネオンと街灯に照らされた、ビルと光の摩天楼。寄って集まり囲われ囲み、ここはヒトの見本市。お好きな命を摘まんでみれば、甘くて酸っぱいざくろ味。寄ってらっしゃい見てらっしゃい、在庫限りのセールスよ。急いでお目当てを見つけないと、電車に運ばれ別の店。急いで急いで見つけなきゃ、夜は長いが品薄必至、レディーファーストなんて無い。


今日はあの人、気になるな。

今日はあの人、決定だ。



 = =



決めた相手はお兄さん。甘いフェイスに猫なで声で、不思議なお薬を配ってる。
でもね、私知ってるよ。そのお薬は人を駄目にする悪いお薬なの。お薬を飲んでる人は、みんな斬ってもツマンナイ。骨まであっさり斬れちゃうし、なんだか変なにおいもするし、なにより揃って目が濁ってるし。
そんなイケナイ薬を配っちゃうお兄さんはイケナイ人だよ。これはオシオキ決定だ、この町はシゲキでいっぱいだけど、お薬の刺激はノーサンキューなの。私の狩場に必要ないの。フジュンブツは捨てちゃおう。


だからお願い、アナタは――ここで彼岸花を咲かせてね?


路地裏ってなんだかちょっとロマンチック。町の裏の顔、危険な香り、ハードボイルドの予感がするの。でもこの町の路地に漂う危険の香りは、実は私が流してる。すんすん鼻を鳴らして御覧?しょっぱい潮と、ちょっとメタルな匂いがするでしょ?
危険な香りは中毒にご用心。嗅ぎ過ぎると鼻が馬鹿になっちゃうから、咲かせた後は直ぐにいなくなろう。立つ少女跡を濁さず、ただ紅を残すだけ。彼岸花は毒花なのよ。

そろそろ頃合い、イッちゃおう。

とん、とコンクリートを蹴って空を飛び、窓の淵をゆっくり掴む。6,7メートル跳んだかな?わたしったら人を殺すより新体操かサーカスにいたほうがいいのかも。でもそれも、咲かせた彼岸花を前にすれば気が変わる。天邪鬼のシリアルキラー、だからそれは私なの。

お兄さんが焦ってきょろきょろ周囲を見渡してる。ちょっと面白いけど、残念早めにスイープだ。ノンビリしてると逃げられちゃう。

足で上手く壁を蹴って、背中から体が宙を一回転。ムーンサルトだって決められるけど、高さがあるから二転三転、着地点。つま先でよろけず一発だ。10点満点間違いなしだね。物音にお兄さんが気付いて後ろを向く。振り向く瞬間見つめれば、動きがスローに見えてくる。
まだ簡単な角度かな。まだ待つ。
ちょっと難しい角度かな。もうちょっと待つ。
……一番難しい角度になった!今こそ刈り時カッティング!

敢えてそこを狙うのがスリリング!足に力を入れて、チーターのように地面すれすれを疾走!ぐんぐん伸びて、加速して。ポケットからするりと愛用ナイフちゃんを取り出す。地面と水平に刃を寝かせ、峰には人差し指を軽く添える握り方がお気に入り。

距離はどんどん縮まって。
あと5メートル。
3メートル。
1メートル。
10センチ。
コンマ1ミリまで間合いを計って――腕に必要なのは筋肉より突入角。

深く、頸動脈と喉ごと脊髄の隙間を縫うように、ラピッドリィな一閃を。

Very Good Cut !!

何か言おうとしたお兄さんの口がパクパク動き、直後に首から綺麗な紅が噴出した。
おお、会心の一撃。手に返り血もつかなかったし、綺麗に切断しすぎて首が取れそうなくらいぱっくり刈っちゃった。これだけ綺麗に刈ったのは初めてかも。写真に収めたい気分になっちゃう。惚れ惚れするほどグッジョブだ。

――っと?ビルに反射して物音が聞こえてくる。堅気の人じゃあないようね。5人ぐらいで群れている。多分、このお兄さんに薬を渡してるモトジメって奴じゃないかな?なんだか急に、シリアルキラーから仕事人だ。この光景を見られた以上、生かしておけん、って奴だね。


丁度いいや、ここからこの町に薬を撒くイケナイ人たちの仲間なんて咲かせちゃえ、チャレンジタイムがスタートだ。むき出しナイフをそのままに。裏路地の曲がり角からこっちに向かう、悪い人。音を立てないようにのびのび跳躍して、ビルの2階部分にあるむき出しの鉄パイプをグラップ。そこから更に3階の柵、4階の室外機。スパイダーウーマンにだってなれちゃうかも。

今度の狩りはコウモリだ。血の匂いに気付いた黒いスーツのお兄さんが路地を曲がり切った瞬間を見定め、そのまま垂直落下!今度はナイフじゃなくて自慢の美脚でいってみよう。

地面までの距離がみるみる間に縮まる。既に降りる時点で速度も角度も持たせたので、後はタイミングを見計らって足を――路地に入ったスーツのお兄さんの中でも一番後ろにいた頭蓋の真上にプレゼント。

ぱぐっ、と変な音を立てて、踵がぶじゅっとお兄さんの頭蓋を綺麗に割った。

Clash !!

頭蓋には継ぎ目があるって聞いたことがあるよ。きっとそれがパッカンで、中の脳味噌はぐちゃぐちゃかな。ある程度速度を持たせたから、頭蓋から漏れ出す血液と脳髄(わた)は靴底と平行にスプラッシュすると予想したけど、脚が頭蓋の中に入っちゃってお靴の中がさあ大変。紅の飛び散り方がちょっと汚いけど、引っこ抜いた脚先の返り血はソーソーかな。やっぱり血管を斬らないとそこそこ止まり、コンティニューだ。

ピンクで可愛らしいワタが肩にかかって後ろを向いたお兄さんへ、潰したお兄さんの頭を土台にジャンピング。飛び込むように頭を下向きに、右手でお兄さんの肩を掴み、左手でブスリ。体をねじった勢いで動脈を根こそぎ刈る!

Soso Cut !

うーん、角度に無理があったのか、ちょっと切り口が汚いかも。
ともかく着地、あ、返り血がお洋服に着いちゃった。脚も汚れちゃうしなんだかしょんぼり。でも、目の前にあと3人いるのを思い出して正面から接近だ。

今度はもっと、沢山切ろう。私を捕まえるように突き出した右手首を、身を翻しながら袈裟切りにさくり。
そのまま刃を斜め上に切り替えして二の腕のお肉をするりと削ぎ落とし、ナイフを右肺の肋骨にひっかけて力任せにスイング!そのまま吹っ飛ばして奥のお兄さんに当てようと思ったんだけど、力を込めすぎて肋骨ごと切り裂いちゃった。

Good Cut !

彼岸花が小ぶりで、それもまぁキュート。でも肺を傷付けるとみんな苦しがって煩くなっちゃうのがイタダケナイ。足を踏ん張って体を反転させ、肺を刈ったお兄さんの背後に回り込みナイフをズブリ。肺動脈、大動脈、上大動脈を纏めてさっくり斬り飛ばす。

Bad Cut !

どばどばと血が飛び出るが、やっぱり咄嗟だったせいか傷口が荒くてキレイじゃない。噴き出し花火は好みじゃないの、まぁるい花火がクールなの。もっと素早く斬ればキレイだったのに、失敗だらけでブルーマインド。メイヨヘンジョーオメーバンカイしたい気分だけど、四字熟語が苦手だから何か間違ってる気もする。

あ、お兄さんの一人が鉄砲取り出した。男の子ってなんであんなの好きなんだろう。ナイフの方がキレイなのに。身体をバレリーナみたいにクルッと回転させながら射線から逸れて、ナイフを逆手持ちにチェーンジ。踏み込んで、隙だらけの首に刃を刺し、ターンしながら鉄砲お兄さんの首を360度ぐるりと刈って空にジャンプ!2階にあったパイプを掴んで返り血から逃げる。

Very Good Cut !!

思い付きでやったけど360度サークルカットは満開の彼岸花だ。途中で引金を引いちゃったのか、パァンと大きな鉄砲の音がでてたけど、私には掠りもしないもん。でも見下ろしてみるとすごい。これまで見た中でも指折りの美しさだろう。ビューティフルフラワーを目に焼き付ける。美しいほどに早く散ってしまう、それが殺しの花なのだ。

この調子なら最後の5人目は気合を入れて――と思ったんだけど。

4人目のお兄さんの撃った弾が5人目のお兄さんの脳天に当たってもう死んじゃってた。あーあ、無くなっちゃった。死体は刈ってもお花が咲かないツマンナイ。
まあいっか。ちょっと体も汚れちゃったし、今日の狩りは――たった今目の前に現れた幻の6人目で終わりにしよっと。後ろの前衛的アートになった皆を見て悲鳴を上げようとしているその喉、もーらいっと。

足を踏ん張って、びゅんっ。風切り音が全身を包む速さで、引き寄せて、引き寄せて――今!

カンペキな跳躍。カンペキな速度。カンペキなタイミング。この一撃は、ゲージュツだ。

するん、と私の身体はお兄さんを通り抜け、宙返りしたように舞い、滞空時間でお兄さんの彼岸花がどうだったか確認するためにさかしまの背後を上から眺める。他人から見たら、私どういう動きをしてるんだろう。自分自身、何がどう動いているのか完全には分かってないミステリー。

やがて、最高の一撃は私の予想と微妙に違う光景を見せてくれた。


 る
  り
   っ

滑るように、完全に両断された首がフリーフォール。
彼岸花というより、この紅の出方は百合の花。ぶしゅっと吹き出す首なしの身体はなんというか、アメージング。これはこれで――新感覚!

Perfect/
   /Cut!!

And…Finish!!

今日はとっても楽しかった。新しい刈り方、新しい目標設定、そして新しい花の咲かせ方。失敗も沢山あったけど、豊作豊作大豊作。さてはて次は、誰を狩ろう?このお薬・・・えっと、確か「マヌタラ」だっけ?これを作ってる人を狙うのもいいかも。偶には目標定めないとね。


――この町には、殺人鬼(シリアルキラー)が住んでいる。
――老若男女無差別殺人極悪非道邪魔外道。
――悪鬼羅刹は権利義務なく人を狩り、そしてその首を刈る。

――正体不明の切り裂き魔はしかし、昼の世界では普通の人ごみに普通に紛れて笑ってる。
――どうしてそれが許される?刈られたヒトが何をした?
――正義は神は、法律は?何故何故悪を、罰しない?何ゆえ弱者を見捨てるか?

――だけれどそもそもこの町は、裏へ踏み込めばやくざ、宗教、裏稼業、秘密と嘘の掃き溜めだ。
――血溜まり死溜まり吹き溜まり。鉛の弾など珍しくもないその場所で、誰が他人を気に掛ける。
――国家権力の及ぶ範囲は限られる。表と精々、裏の「入口」が関の山。それより奥には入らない。

――だから、自分で奥に足を運べば、勝手に入った地雷原。
――何が吹き飛び泣き叫ぼうが、無償の助けがあるはずもなし。
――お前は金を持ってるか?お前の主人は金持ちか?持ってないなら価値は無し。

――知らぬお前が悪いのよ。
――知らぬ貴殿が悪いのよ。
――知らぬ君らが悪いのよ。


楽しいな。楽しいな。明日は誰を、殺そうか。
明日は誰を、咲かそうか。毎日毎日幸せだ♪
  
 

 
後書き
英語タイトルって嫌い。たまに読みがわかんないもん。そしてこの小説も意味わかんない。わかんないから、首を刈れ。
そんな気分で書きました。 
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