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夏祭り

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第二章


第二章

「そうなんだ。小林さんも」
「ああ、どうせならもう大勢で行こうぜ」
「人数多い方が楽しいしな」
「だからな。もう呼べる奴皆呼んでな」
「楽しくやろうぜ」
「わかったよ。じゃあ」
 今思うと僕はこの時下手な演技をしていた。内面を探られないようにして。けれど今思うとモロバレだった。皆ひょっとしたら気付いていたかも知れない。
 そんな臭い演技をして。僕は頷いてだった。そのお祭りに行くことにした。
 待ち合わせは駅前だった。駅前の噴水のところで。
 僕はもう来ている友達のうち何人かとだ。こんな話をしていた。
「あの神社のお祭りっていいよね」
「ああ、夜店凄い多いしな」
「毎年凄いからな」
 小林さんのことを考えながら話していた。実は。
 けれど話はあえてお祭りのことにして。それで話していた。
 友達も僕にとっては運のいいことに乗ってくれた。それでだった。
 僕はさらにだった。お祭りの話をした。
「綿菓子あるかな」
「そりゃあるだろ」
「フランクフルトにお好み焼きにたこ焼きもな」
 夜店の定番だ。ない筈がないものばかりだ。
「それと後はクレープか」
「かき氷も絶対あるな」
「御小遣い全部持って来たぜ」
「俺もだよ」
「だよな。こういう時に使わないとな」
「だからな」
 皆だ。お金はここで思いきり使うつもりだった。
 そして僕も。そのことを決めてこう言った。
「よし、僕も」
「ああ、小遣いたっぷり持って来てな」
「御互いに楽しもうぜ」
「そうしような」
 こうした話をしてだ。僕達は。
 他の皆が来るのを待っていた。そして暫くして。
 残りの男の子達も女の子達も来た。女の子達は。
 皆浴衣だった。えんじ色やオレンジ、黄色に青、水色、そして白。それぞれ金魚や菖蒲や朝顔、そうした柄の奇麗な浴衣を着ている。
 その中で小林さんもいて。彼女は。
 白い浴衣だった。白に赤や青の朝顔、そうした色の朝顔の柄で僕達のところに来てくれた。その小林さんを見て僕は笑顔になりそうになった。
 けれどそれを止めて。僕は皆に言った。
「皆来てくれたんだ」
「ええ、お祭りって聞いてね」
「毎年楽しんでるし」
「だからね」
 女の子達が僕の言葉に笑顔で応えてくれた。
「じゃあ今からよね」
「お祭りに言ってね」
「楽しもう」
「そうしよう」
 こう話してだった。男の子達も。
 僕と一緒に女の子達に声をかけていた。
「まさか皆浴衣なんてなあ」
「何人かは着てくるって思ったけれどさ」
「全員はないだろ」
「予想外の展開だよな」
「けれどいいでしょ」
 女の子の一人、えんじ色の浴衣の娘が男の子達の言葉に笑顔で応えて言う。
「浴衣って」
「浴衣は魔術だろ」
「夏の魔術だよ」
「浴衣ってだけで人が死ぬぜ」
「なあ」
 何故かだ。浴衣は兵器になっていた。
「何ていうか女の子を余計に奇麗に見せるっていうかな」
「和服美人か?夏の」
「あだっぽく見せてくれてな」
「浴衣を発明した奴は神様だよ」
「日本の生み出した文化の極みだろ」
 遂には何処かのアニメみたいな言葉まで出て来た。
 
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