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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第17話 伝説なんて知らないぞ

虚無の曜日だが、モンモランシーには魔法学院からの遠出は控えてもらって、薬草とりぐらいだろう。そこで俺は一緒に薬草をとるよりも観察が中心だ。魔法薬も最初の4割までに減っているが、来週も完全0になってから3日間は遠出をさけることになるだろうから、また1人でトリスタニアの化粧品店に行くことになろう。

教室もゲルマニアとトリステインが同盟を結ぶことと、アンリエッタ姫殿下が結婚する以外の話では、比較的静かで平和な週かなと思っていたら、昼食中に女子生徒の話から何やら『ひこうき』という珍しいものがあると聞いたので、たまたま名前が俺の前世で知っているものか、それとも名前だけが同じものか確かめたかったが、まだモンモランシーのそばを離れるタイミングではないので、あとにすることにした。

授業後にアウストリの広場へきたが、あったのはレシプロ機?
日の丸がついているってことは、第二次世界大戦以前の古い機体か?

そのレシプロ機のそばに何人かの生徒はいたが、レシプロ機に乗っているのはサイトだ。何か操縦席で確認をしているらしい。俺はサイトが降りてくるのを待っていたが、ルイズがきてサイトをおろさせて、何やら問答を初めていた。仕方がないのでサイトには後日に聞くことにして部屋へ戻る途中、とある人物たちがモップやぞうきんを持ってあるいてくるのを見て、

「やあ、さぼりの罰で窓ふきってところかい?」

「そうよ。残念ながらね」

「けれど、そんな格好をしていたら、窓ふきの時に、下着が見えるかもしれないぞ」

「いいのよ。見せられるものだから」

キュルケらしい言い草だ。

「あっ、そっ」

「ちょっと、用事があるから」

そういって、レシプロ機の方にむかっていたが、窓ふきなら反対方向なんだが、ルイズとサイトのことでも見にいったのかもしれんな。ちょっと興味はあるが、あそこの主従関係はよくわからないから、みてても仕方がなかろうと思い部屋へ戻ることにした。



翌日の授業後も再度レシプロ機のところに行ったら生徒もいなくて、サイトが操縦席で確認作業をしているみたいだ。そこで、俺は声をかけてみた。

「やあ、サイト。その『ひこうき』という物の中で調べているようだけど、わかるのかい?」

「まだ、全部というわけにはいかないけれど、調べられる範囲ならね」

「まだってことは時間とかをかければ、調べられるのか?」

「ああ、コルベール先生が、このひこうき用の油を作ってくれるから、それを入れてくれれば、飛べるかどうかはわかるよ」

「飛べる? そのひこうきって飛べるのかい?」

「そうだよ」

「うーん。俺たちの常識なら、空を飛ぶ竜に乗るのにも訓練が必要だ。サイトはそういう訓練を受けているのかい?」



サイトは考え込んだ。手のルーンのことを、話してもいいのかどうかというところだ。ジャックという相手自身に話すのは良いのだろうが、彼の主人であるモンモランシーとルイズとの間には、けんか友達なのか、気にかけるようにサイトへ忠告したりと、よくわからないところがある。そこでサイトとしては珍しく無難に

「ハワイってところで習った」

俺ははっきりしたフレーズは思いだせないが、どっかの『身体は子ども、頭脳は大人』ってやつか? お前はって。もしかして、単発でトライアングルの土ゴーレムをこわせる武器も、ハワイで習ったって言うんじゃないだろうな。おれも実践的なことはこっちで生まれてから習ったから、前世では、よくはわからないが、サイトは何らかの戦技訓練を受けているような気もする。



その後は、にぎやかといってもよい休み時間がもどってきた。クララとフラヴィの診察は
夏休みも近いので、クララはこのまま安定させて、フラヴィは安定するかの確認だ。モンモランシーも薬を減らしていき、ついに魔法薬を飲まなくて済むようになり、あとは数日間の様子見となった。

虚無の曜日の前日である今日は、ゲルマニア皇帝とアンリエッタ姫殿下の結婚式まで、2日後とせまった授業の開始時に、

「昨日アルビオンが、わがトリステイン王国に対して宣戦布告をしてきた。今日の授業は中止とする。魔法学院の外に出るのは禁止として、自分の部屋からも必要な時以外は出ないようにすること」

いわゆる禁足令、外出禁止だろうから、伝書ふくろうなども禁止されるだろう。この時期にトリステインにアルビオンが来たということは……過去のアルビオンからの戦争はいつもラ・ロシェールあたりだから、そこは無理として、ゲルマニアからトリスタニアまで早いのはともかく、本軍がくるまで最低5日ぐらいはかかるだろう。それまで持つかが勝負だろう。ただし、戦力の逐次投入は愚の骨頂だろうから、ゲルマニアがどう動くかだな。キュルケにでも聞いてみるか。っと、その前に

「モンモランシーは1人で部屋にいるかい? それとも話し相手ぐらいとしてならいけると思うけど」

「いいわよ。1人で」

「それでは」

みなゆっくりと教室からでていく中に、キュルケをみつけたので、

「ちょっと教室で話していけないかな?」

「あら何かしら」

「人が少なくなってからでどうだい?」

「教室ってことは、恋人とかっていう話じゃなさそうね」

「そう。だけど、あまり大勢には聞かれたくはない」

「まあ、暇になりそうだからいいわよ。それぐらいの時間」

人が減っていくなか、俺は教室の隅でキュルケと2人で、サイレントの魔法で周りとの音を遮断した。

「それで聞きたいことは、アルビオンとの戦争のことかしら」

「その通り。ゲルマニアとトリステインは軍事同盟を結んでいるが、ゲルマニアが普通にくると思うかい?」

「そりゃあ、くるでしょうね」

「本当かい? 俺の考えだと、通例通りにラ・ロシェールから進行してくるんだと思うが、不可侵条約をやぶっての奇襲をかけられたとみるから、ラ・ロシェール付近の空海軍の船は壊滅で、地上軍がどこかはわからないが、やぶられるのは明日いっぱい。遅くても明後日には首都トリスタニアでの空船との攻防が始まると思う。そこで、ゲルマニアの斥候隊が参戦するだろうか?」

「アルブレヒト3世次第だと思うけど、ゲルマニアは本軍が整うまで斥候隊は偵察だけで、斥候隊が参戦をするのは、本軍がきてからだと思うわね」

「話をきかせてもらってすまなかった」

「どういたしまして。暇つぶしぐらいにはなったわよ」


うーん。問題はどこで戦っているかだな。ラ・ロシェールの手前か向こう側かで時間が1日は違う。ラ・ロシェールよりこちら側は、わりと船から人や馬を下ろせる場所は少ないので、ラ・ロシェールの向こう側に降ろすだろう。あとはラ・ロシェールがアルビオン空軍に制空権を握られたら、こっちはおしまいなんだよな。そうすると、首都で防衛線という手はあるが、不可侵条約を破ってくるようなアルビオンなら、首都に火薬詰めの樽を落としてくるとかするかもしれないってのは、ありそうだ。俺が思いつくんだから、国軍か魔法衛士隊の誰かが気がつくだろう。

どちらにしても判断材料が少ないから、望遠鏡でも作って首都の上空でも見れるようにするぐらいかな。部屋で望遠鏡つくりをしていたが、なかなか焦点をあわせることができなくて時間がかかっていた。

昼食や夕食時には食堂に集まるが、比較的陽気なのと、そうでもない場所がごく一部だがある。俺も聞かれるが

「俺って騎士見習いだったから、戦術上のことはそれなりにわかるけれど、戦略や政略上のことは、わかんないんだよなー。まあ、トリステインは他国よりメイジの割合が多いから勝つんじゃないかな」

っと、適当なことでお茶をにごしていた。しかし、夕食後にモンモランシーを部屋まで送っていったら、部屋の中へということで、テーブルの席についたところで聞かれた。

「貴方、食事のときの話って、本当のことを言ってるの?」

「そういえば、モンモランシ家って護衛隊をもっていたんだっけ?」

「私はあまりそっちはわからないけれど、ゲルマニアとの軍事同盟でアンリエッタ姫殿下が政略結婚なさられる直前で、アルビオンが不可侵条約を破って戦争をしてくるなんて、前代未聞のことぐらいわかるわよ。それくらいのことをしてくるのなら、ほぼ全力をもってくるんじゃないかしらって思うの」

「いや、全力ってことは無いから、それは安心していいよ」

「なぜ?」

「それはゲルマニアがいるから。彼らがトリステインとの軍事同盟として、アルビオンに直接でむいて、退路を断つという方法があるからね」

「それって、トリステインを護ったことにならないじゃないの?」

「直接的な戦闘ではないけれど、補給路を断つというのは基本的な方法だから、ここを最低限まもれなくてはいけないんだよ。なんせ、トリステインは占領できたけれど、かえる場所がありませんでしたっていうのは、避けたいはずだからね」

「そうしたら、本当に勝てるの?」

「何をもって勝ち、というかによりけりだね」

「えっ?」

「先ほど前代未聞のことって言ってたよね?」

「そうだけど」

「少なくとも短期的には、今回のことは問題視されるだろうが、トリステイン王国が無くなれば、それも帳消しになるという考え方もありえる」

「まさか」

「だから、こちらとしては、国が残れば、アルビオンは卑怯な国として名を汚して、こちらはそれをもってして、勝ちという以外には無いだろうな。そうすれば、他国と連合を組んで、アルビオンに支配されたところを取り返して、アルビオンにたいしては経済封鎖をして、アルビオンが根をあげたところで、何らかの条件を引き出す、ってところじゃないかと思うんだけどね」

「そうすると首都トリスタニアはどうなるのかしら?」

「そこがよくわからないところなんだ。アルビオン軍は単に包囲して、白旗をあげるのを待つのか、攻撃をしかけるのか、それともアルビオン軍に包囲される前、こちらはゲルマニア近郊に名前だけでも遷都をするのかね」

「そんな、屈辱的な……」

「まだ、問題があるんだよ」

「これよりもまだ、屈辱的なことがあるのかしら」

「うーん。今は国王が定まっていないというのが一番の問題であって、遷都をしたとしても、誰が国王として、残った領地で戦いを続けていけるかなんだけどね。国王が定まっていない現状では、ヴァリエール公爵あたりが国王になってもらうのが、一番だと思うのだけど、それでも求心力がどこまであるのやら」

「……なんてことかしら」

「それでも、今日、アルビオンの空軍が首都の付近にいないので、なんとか、今日は侵攻される心配は無いけれど、明日はどうなんだろうねって、ところで、どう行動するのかは、トリスタニアの上空に、アルビオン空軍が見えてからでも遅くはないだろうってところかな」

って、俺の場合、家族とか、ティファンヌも気にかかるところだが、手の出しようが無いだろう。自領にもどっても、兵力はほとんどないし、遷都が本当にされたら、どさくさにまぎれて国軍の下士官ぐらいにはなれるかもしれないが、勝てる見込みは薄そうだしなと思っていたら、ドアがノックされたので、俺はモンモランシーのほうを見た。

「どなたかしら」

「メイドです。ドア越しですみません。アルビオンとの交戦は勝利したとのことです。次の部屋に知らせてきますので、ここで失礼させていただきます」

その話を聞いて、俺はぽかんとしてたのだろう。モンモランシーに

「どうしたのぼんやりとして」

「いや、まさか、緒戦で勝つとは思えなくて、事前に情報でもあったのか? それともどんなイカサマをしたんだ、わがトリステイン王国は」

予測の斜め上を言っていたのは、ルイズの虚無魔法によるエクスプロージョンだったのだが、それを知るよしもなかった。
 
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