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泣きぼくろ

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第三章


第三章

「幸せなんだよ」
「既になんですか」
「そう。椎葉さんそういう幸せになった人を見てどう思うかな」
「嬉しいです」
 実際にだ。そうだと答える律子だった。
「とてもです」
「そうだね。嬉しいよね」
「はい、それじゃあ」
「そう。人の幸せを見て嬉しいと思える人は幸せなんだよ」
 彼はまた律子に話す。その恵比寿の顔が綻んでいる。
「そういうことなんだよ」
「そうですね。じゃあ私はもう」
「人の幸せを願って喜ぶ人は幸せになれて」
 そうしてだというのだ。
「自分はもっと幸せになれるんだよ」
「もっとなんですか」
「幸せはさらに幸せを呼ぶんだよ」
 俗に言われていることをだ。彼は律子に話した。
「だから。椎葉さんが願っているその縁もね」
「縁も?」
「実るよ。後は待っていればいいから」
「待っていればそれで」
「向こうから来るから」
 そのだ。縁の方からだというのだ。
「安心していいんだよ」
「そうですか」
「そのほくろはね」
 律子の左目の付け根のだ。その泣きほくろについても話す。
「幸せを導いてくれるものだからね」
「だから私も」
「だから安心していいから」
 こう律子に話すのだった。そしてだ。
 律子もだ。笑顔で彼に言うのだった。
「何か。部長の今のお話で」
「どうなったかな」
「ほっとしました」
 こうだ。胸のつかえが落ちた様な笑顔で言うのだった。
「そうですか。私もう幸せなんですね」
「そうだよ」
 その恵比寿顔のだ。部長はまた律子に話す。
「だから。その幸せがね」
「さらに幸せにしてくれるんですね」
「そう。後はその幸せを楽しむんだ」
「わかりました。そうします」
 満面の笑顔で答える律子だった。それと共に己の左手でその泣きぼくろを触る。するとそれだけでもだ。幸せを感じたのだった。
 その彼女にだ。暫くしてだ。
 母親からだ。こんな話が来た。
「お見合いですか」
「そう、お見合いね」
 その話を持って来たのである。
「どうかしら。御相手は球場に勤めてる人だけれど」
「球場っていうと」
「そう、あの球場よ」
 そこがどの球場かというとだ。札幌ドームだ。日本ハムの本拠地である。
「あそこの職員さんなんだけれど」
「嘘でしょ」
 律子は思わずこう言った。びっくりした顔でだ。
「そんなの。あの球場の人って」
「営業の人でね。大阪からこっちに移ってきた人で」
「大阪?」
「だって。あの球団の親会社って日本ハムでしょ」
「ええ、そうだけれど」
「その日本ハムの本社は大阪だから」
 それでだ。大阪からだというのだ。
「大阪の大学を出て日本ハムファンでね」
 それでだというのだ。
「日本ハムと札幌ドームの入社試験を受けてそれで札幌ドームに入社したのよ」
「ううん、大阪からこっちって」
「中々できないわよね」
「そうよね。それにしても札幌ドームって」
 律子は目を輝かせてだ。そうして言うのだった。
 
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