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銀河英雄伝説〜ラインハルトに負けません

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第百八十六話 救援

 
前書き
お待たせしました。

気分転換に執筆出来ました。

 

 
宇宙暦795年 帝国暦486年1月30日

■イゼルローン回廊 シェーンバルト艦隊旗艦タンホイザー

「フォーク中佐、貴官の勧告に従い、降伏勧告を受諾する」
「諒解した。貴官と艦隊の降伏を認めます。直ちに全艦の機関を停止してください」

ニヤリと笑いながら言うフォークに苛立ちを隠せないが、俺はこの男に負けたのかという悔しさで心が痛んだ。

「全艦に機関停止を指令せよ」
ラインハルトが悔しそうにオペレーターに命じる。
オペレーターは坦々と命令を各艦に伝えようとしたがその言葉は途中で遮られた。
「全艦機関・・・・・・」

突如、囲みを行っている同盟軍艦隊が乱れ始めたのである。
映像でしたり顔をしていたフォーク中佐が目をキョロキョロし始めたうえに、向こうのオペレーターが発する言葉が聞こえた。

『敵艦隊凡そ一万突っ込んできます!』
『馬鹿な何故此処まで接近されたのだ!』
『敵はレーダー透視システムを作動させていなかった上に、機関を最低限にして慣性だけで近寄ってきたため、隕石群か艦の残骸だと誤認した模様です!』


「味方だ!味方が敵を攻撃中です!」
情報をいち早くキャッチしたオペレーターが喜色のある声で叫んだ。
同盟軍は、よほど慌てたのか通信を切らずにいたために、帝国艦隊襲来情報が駄々漏れ状態もあり、オペレーターからの情報を合わせて、ラインハルトも直ぐさま状況を悟り命令を出す。

「味方だ、機関出力最大、味方艦隊の攻撃した部分へ全艦斉射三連せよ」
阿吽の呼吸というものであろうか、救援艦隊もレーザー水爆ミサイルと主砲を絶妙な塩梅で使い分け、同盟側の弱い部分を的確に削りラインハルト艦隊の脱出口をこじ開けた。

同盟艦隊が一個艦隊ではなく一部が別の艦隊であり、指揮系統が統一されていないことを的確に感じた救援艦隊は同盟艦隊の弱点を突いて混乱に拍車をかける。その上降伏したと思っていたラインハルト艦隊からの攻撃まで食らったの為に混乱が更に悪化する。その混乱をさせて居るのが、フォーク中佐の居る司令部直属艦隊で有ることは誰の目で見ても明らかであった。

「今だ。全艦戦速前進、味方艦隊と呼応して突破せよ」
本来なら降伏して捕虜交換で帰ればよいと考えた者達も、この状態では例え降伏しても流れ弾で死にかねないことと、味方からも誤射されかねない事が有るため誰も彼も死にたくない一心で攻撃を集中し恐るべき圧力と成って破壊と殺戮の渦を同盟艦隊に叩きつけた。

同盟艦隊が混乱の坩堝の中、ラインハルト艦隊はこじ開けた空域から一気に包囲下へと脱出していくが、本来であれば脱出口を作った艦隊と交差して混乱するはずであったが、救援艦隊の指揮官がよほど優れているのか、ラインハルト艦隊が包囲下から出た瞬間には既に陣形中心に受け入れるが如く、中心を空けた筒型の陣形を取ると、一気に後退を始めながら同盟艦隊へ向ける砲火を更に凄まじくし追撃を不可能な状態に陥らせる。

その攻撃は緻密でありながら大胆で剛胆な攻撃にラインハルトも感嘆を覚えた。
「見たかキルヒアイス、あの攻撃を、あれほど出来る人間がいるとは、後で会うのが楽しみだ」
「はいラインハルト様、元帥府を開いた際にスカウトする人材としても十分な人物だと思われます」
この主従は助かったことで、軽い気持ちになっていた。

混乱真っ盛りの同盟艦隊が迂回して追撃しようとしたが、何故か多数の輸送艦が残されたままで進路を塞いでいる状態のため、まともに追撃が出来なかった。それならばと拿捕しようと近づいた瞬間、田作の歯ぎしり状態なのかやけっぱちなのか輸送艦が無茶苦茶に防衛用小型ビームを放ち、拿捕に向かった巡航艦を攻撃してきたため、やむを得ず攻撃した瞬間、輸送艦が大爆発を起こし多数の艦艇に被害が生じる。

なんと輸送艦の中にはゼッフル粒子が満載されており無人状態で放置されていたのである。これはヤン戦法をお復習いしたテレーゼ版の戦術教科書から導き出された罠であったが、ヤンも未だ使っていない戦法なのでこの世界ではテレーゼが第1号の発案者と成ったのである。尤もテレーゼが発案したと戦史に記載されるのは遙か先になったのであるが。

後退しつつある艦隊は、更に繰り引き方式で最後尾の艦隊が前に出てコンテナから多数の宇宙機雷をバラマキながら後退していく。宇宙機雷の存在で辛うじて追撃しようとしたワーツ分艦隊も追撃を断念した。

フォーク中佐は悔しがりながら、ヤンがまともな戦術を作らなかったために恥をかいたとヤンの事を逆恨みし、ヤンは救援部隊の指揮官は敵ながら天晴れな戦術眼だと考えていた。艦隊の者達は一度降伏を受諾しながらそれを反古にしたラインハルトを汚い奴と罵る者が続出した。

この話は数ヶ月後にはフェザーン経由でオーディンまで伝わり、これほどの失態をしたにもかかわらず何の咎めも無いとラインハルトは門閥貴族は元より下級貴族から平民に至るまで、“寵姫のスカートの陰でこそこそと悪口を言い、助けてくれたケスラー提督を一方的に逆恨みしたうえに、騙し討ちまでする屑以下の卑怯者”と嫌われる原因と成るのである。

救援艦隊に護られた状態でイゼルローン要塞へ帰投しつつあるラインハルト艦隊はやっと落ち着きを取り戻したために、ラインハルトにも余裕が出来たため救援艦隊指揮官へ礼を言うべく通信を繋いだ。

通信に出たのは三十前の黒髪の美男子であった。双方とも敬礼を行う。
「ラインハルト・フォン・シェーンバルト少将です。この度は救援誠に忝ない」
『オスカー・フォン・ロイエンタール少将です。危ない所でしたな、間に合って何よりです』

「卿が来援してくれなかったなら、我が艦隊は全滅か降伏していただろう。全艦乗組員を代表して来援を感謝する」
ラインハルトとしても今回は非常に危なかったため、姉上に会えるように助けてくれたロイエンタールには彼としては珍しく謝意を述べる。

そんな彼の精神を逆なでするような言葉がロイエンタールから発せられた。
『なに、テレーゼ殿下とケスラー閣下から卿の艦隊は危ういから面倒見てくれと頼まれたからこそ、間に合ったに過ぎないので、礼は殿下と閣下に言って頂ければ幸いだ』

途端にラインハルトの顔が引きつり歯を噛みしめる様な音がする。
「殿下と、ケスラー大将とは・・・・・・」
『シェーンバルト少将どうかなさったかな?』
ロイエンタールもラインハルトの噂は聞いているのでニヤリと挑発した様な感じで話す。

「いやなんでもない、兎に角、卿に助けられたのだ、改めて礼を言う」
『気にせんでくれ、俺だけじゃなく、ケンプ、ルッツ、アイゼナッハ、ファーレンハイト、ワーレン、ミュラーも参加しているのだからな』
「そうか、卿等のお陰で帰って来られた事を感謝する」
そう言うラインハルトで有ったが、顔は笑っておらず、素千匹の苦虫を噛みつぶした様な顔であった。

通信が終わると、ラインハルトは素手で柱を殴りつける。慌てたキルヒアイスがラインハルトの手を見ると皮膚が破れてうっすらと血が滲んでいた。
「くそう、またしてもケスラーか!」

ラインハルトの意識を別のことに逸らそうとキルヒアイスはアンネローゼの事を話す。
「ラインハルトさま、こうして無事帰還できるのですから、アンネローゼ様も御喜びになると思います」
「そうだな、姉上に会えるように助けてくれたのだから、今回ばかりは感謝せねば成らないか・・・・・・」

「ラインハルト様は負けた訳ではありません、又一つ経験を積んだのですから」
「キルヒアイス、判ってはいる判ってはいるが、今回の事も、あの小娘とケスラーにはお見通しで俺にお守りを付けただと、この俺にお守りをだ!俺は遠足で迷子になる幼稚園児じゃ無いのにだ!」

結局の所、ラインハルトの苛つきは要塞へ着くまで消えることがなかった。苛つきとテレーゼ、ケスラーに助けられたと言う屈辱で頭が一杯のラインハルトは本来であれば、戦死者の余りの多さに愕然とする所をすっかり忘れていたのである。更に普段ならそう言う事に気がつくキルヒアイスもラインハルトに着きっきりだった関係で、ケアを殆どしなかったため、生き残りの兵達から怨みまくられたのである。



宇宙暦795年 帝国暦486年1月31日

■イゼルローン回廊 ロイエンタール艦隊旗艦モルオルト

モルオルト艦橋ではロイエンタールとラインハルトの先ほどまでの話を聞いていた増援部隊の提督達がスクリーンを介して話していた。
「しかし、噂通りの御仁だったな」

ロイエンタールの言葉に、同期のワーレンが答える。
『そうは言っても、未だ18歳でしかないのだからな、俺達の18の時と比べれば仕方のない事だろう』
『そうだな、ロイエンタール候補生の門限破りは有名だったからな』
ルッツがロイエンタールを茶化す。

アイゼナッハが相変わらず喋らずに頷くだけであるがニヤリと笑う。
『何はともあれ、殿下からの御願い自体は成功した訳ですから。これで良しとしないと行けないのでしょうけど・・・・・・』
ミュラーの言いたいことが判る為、皆が黙り込む。

「そうだな、喪失艦艇2000隻以上、戦死行方不明者は15万を越えるだろう」
『殿下のお怒りが相当有る事は間違いないだろうな』
ファーレンハイトがクールに話す。

『殿下は殊の外、兵の命を大事に為さる方でだからな』
『その辺は我々平民出身者でも安心して殿下に命を預ける事が出来る』
殿下に一番近い位置にいたルッツの言葉にワーレンが感想を述べる。

「それに引き替え、姉の権力で出世するスカートの中の少将閣下は武人の風上にも置けないか?」
『そうまでは言わんが、今回の20数度の勝利とて、正規の士官教育を受けている我々からしたら、教科書でもシミュレーションでも何度となく勉強したもので誰でも知っているものだからな』
『仕方有るまい、シェーンバルトは幼年学校しか出ていないのだから、我々とは出来が違うエリート様と言う訳だ』

ファーレンハイトの話にケンプがだめ押しをすると、皆から大笑いが起こった。

「しかし、シェーンバルトも今回はばかりは無事では済むまい、殿下の警告を無視し挙げ句のこの体たらくだ」
『確かに、そうですね。どうなるのでしょうかね』
「判らんな」

こうしてイゼルローン要塞へ帰るまでラインハルトの話で盛り上がった増援部隊であった。
 
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