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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Myth13邂逅・新たなる堕天使~Unvollendet EgrḗgoroI~

 
前書き
Unvollendet Egrḗgoroi/ウンフォルエンデット・エグリゴリ/未完成の堕天使 

 
†††Sideオーディン†††

ラキシュ領本都からミッテ領上空(やはりラキシュ領より被害が甚大だった)と翔け、シュトゥラの心臓とも言うべき王都ヴィレハイムに到着した。到着してすぐ目に着いたのは、王都ヴィレハイムの全域とは言えないが、それでも砲撃を防ぐための結界が王城を中心として展開されている様。
強力な結界である事は判る。が、あの砲撃を受け続ければ確実に粉砕されるのもまた判る。まぁ私がアムルの防衛のために張った結界インヴィンシブル・ガーデンも、本来の持ち主であるアリスが展開していないから完全無欠とは言えないけどな。
さて。ヴィレハイムに来たは良いが、

「・・・それにしてもどうやって入れば良いんだ・・・?」

ドーム状に展開されている結界。中へ入る手段が判らないから困り果てる。強硬手段で行ってもいいが、その時は完全にシュトゥラの敵に回る事になってしまうために却下。とりあえず街に降りてみよう。そう思い、降りたったところで「お待ちしておりました、オーディン様」と声を掛けられた。
結界側の民家の扉から1人のメイドが姿を見せた。この前、私をクラウスの私室に案内してくれたあの娘だ。今回もまた素っ気ない態度だが、その本性はもう既知なため別段思う事はない。そんな彼女に民家の中へ案内され、真っ先に「地下通路か」床に設けられた地下へと続く階段が視界に入った。

「地下を通って結界内へ向かいます。オーディン様。私について来てください」

そういうわけで私は彼女に続いて階段を降り、地下道を進むことになった。レンガ造りで、壁面には松明が一定間隔で設けられてある。通路を進むと、だだっ広い空間に辿り着いた。そこには、避難してきた住民の百数十人という姿があった。
結界に入れなかった民家の住民かもしれない。その空間の一角にある階段を上り地上へと出る。すぐ目の前に王城がある。すでに私を迎え入れるための一個騎士団が整列していた。

「お待ちしておりました、オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード様!」

そんな熱烈歓迎をしている場合じゃないだろ、とは思うがまぁいいか。とりあえず何人かに頷き応える事でこの場をやり過ごす。王城へと入り、さらに案内される。辿り着いたそこは、今まで立ち寄った事のない場所。目の先にある扉が目的地のようだ。

「こちらです」

メイドと共に近付くと、扉の両側に立つ騎士が扉を開けた後、剣を胸の前に掲げると言う礼の姿勢を取った。扉を潜る。奥にもう1つの扉があり、それに続く廊下の両側に男女混合の騎士たちが整列していた。全員がすでに武器を胸の前に掲げていて、結構な熱い視線を向けてくる。中には見た顔も居る。先の戦の終結後に話をした者たちだ。一番奥の騎士2人が扉を開ける。

「オーディン様。さらに奥の扉より先が、ここシュトゥラの王族および執政をなさる御方たちが集う議会場です」

メイドがそれは信じられない事を言った。部外者である私が来ていいような場所じゃない。それを伝えようと振り向いてみれば、全員からの視線が、さぁどうぞ、ってなっていた。隣のメイドはホテルマンのように見送り体勢に入っているし。仕方ない、行くか。
ここでメイドと別れ、議会場へと続く廊下をひとり歩きだすと、背後の扉が閉まった。私を逃がさないためか、警備のためか。後者であってほしいと切に願う。奥の扉の前に立ち、ノックする。するとスライド式のその扉が開かれた。扉を潜ると、目の前に大きな扇状のホールが広がった。最下段へと段階的に下がって行くような階段状構成で、一段ずつに三日月状の机が設けられている。

「オーディンさん、待っていました」

最下段よりひとつ上の段に設けられている意匠の凝った椅子に腰かけていたクラウスが立ち上がり、私の元へと駆け寄ろうとしたところで、「よく参った、異界の魔導師」と厳かな男の声がここ議会場に響き渡った。
私の正面である議会場の最下段の奥。十数段の階段の上に鎮座している玉座がある。それに座しているのが、シュトゥラの現在の王デトレフ・テーオバルト・ストラトス・イングヴァルト。真っ直ぐ私を睨みつけるような鋭い虹彩異色の双眸。外見は若く見えるが、歳は結構行っているはずだ。

「お初にお目に掛かります、デトレフ陛――」

「よい。汝もかつては一国の王だったと聞く。過去とは言え容易く頭を下げるような男ではない。我は気にせん」

「・・・そういうわけですので、オーディンさん、こちらの席へどうぞ」

クラウスに招かれ、彼の座る机まで階段を降りていく。隣に座ると、「来て頂いてありがとうございます」と小声で礼を言ってきた。それに対し「気にしないで良い。あんなふざけた砲撃を見過ごせないからな」と返す。
ここまで来る時に見た被害の大きさ。アレがこれからも続くかと思うと、落ち着いて過ごせない。早々に砲撃を放つ砲台を沈める必要がある。その前に情報だ。だからここへ来た。

「――では続けます。先のシュトゥラを襲った砲撃は、イリュリアが有している古代遺産ミナレットによるものだと思われます」

重要な名称が出てきた。“ミナレット”。古代遺産という事は、かの聖王家の有する“聖王のゆりかご”と同じか。この時代にですらロストロギアと認定されていたという“聖王のゆりかご”。それと同じという事は、攻略するのに苦労しそうだな。
次々と情報がもたらされる。私が見た反射鏡の砲弾は“フェイルノート”。魔力砲が“カリブルヌス”。効果はすでに見たとおり。フェイルノートにカリブルヌスを反射させて、その周囲一帯を殲滅する砲撃。物質弾であるにもかかわらずフェイルノートの最大射程は19000km。純粋魔力砲カリブルヌスに至っては倍以上の射程はあるものだと予測されている。
果てしなく面倒な射程範囲だが、私の戦友であり弟子でもある砲撃魔術師カノンの無限射程に比べれば可愛い方だ。

「――問題は、このミナレットが海上に在るという事です。シュトゥラの陸地より船で渡るにはあまりにも無防備。戦船による空襲でも、イリュリアもまた戦船で防衛網を敷いているはずです」

「防衛網を突破している最中にカリブルヌスで迎撃され轟沈、という可能性も否定できません」

「それに戦船だけでの攻略戦は無謀。やはり騎士も参加しなければ」

「しかし先にも出たように、船で渡っている最中に攻撃を受けては一気に全滅という結果に」

「空戦の行える騎士を招集し、一個騎士団を設ければ――」

「その空戦騎士が少ないのが現状だ」

「やはりシュトゥラのみで攻略するのが問題では?」

「ウラル――いや、こうなれば三連国(バルト)と同盟を結ぶのが得策ではないか?」

「雷帝が同盟を結んでくれるかどうか、という問題が出るぞ」

各々意見を出し合っている。まぁほとんど私たちグラオベン・オルデンが出れば、ある程度解決できる問題ばかりだが。

「ならばアウストラシアはどうか? こちらには聖王家の王女オリヴィエ様がいらっしゃる」

その意見が出た時、「なっ・・・! オリヴィエを盾に協力を強要なさるつもりか!」とクラウスが怒声を上げる。すると先の意見を出した初老の男が押し黙った。さすがに王子に睨まれては続けられないか。
だが、そんなクラウスに「しばらく黙っていろ」デトレフ陛下が上から言うと、クラウスは歯ぎしりをしつつ「すいませんでした」嫌々謝っている感全開で座りなおした。見ていられないな。私はクラウスの肩に手を置き、「私を使え、クラウス」と笑みを見せてやる。
デトレフ陛下は元より私を使う気だからこそ呼んだんだろう。その目を見ていれば解る。私を兵器として見ていた両親と同じ目だ。戦争終結の為の駒。使われるのは好きじゃないが、クラウス達を見捨てるつもりはないし、エリーゼ達も守ってやりたい。

「しかし――」

「君の父親は元からそのつもりだと解っているだろ? だからこの議会に私を呼んだ。それで良いじゃないか。私としては、会ったばかりの王より友である王子(クラウス)の命で動く方が良い」

「オーディンさん・・・・ありがとうございます」

クラウスはキリッと表情を固め「父上。私に案があります」と立ち上がった。

「私の隣に居る、我が友オーディン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロード。彼の個人戦力は一個騎士団とも渡り合えます。それだけでなく戦船とも個人で戦えます。そんな彼と、彼の仲間であるグラオベン・オルデンを空に配置すれば、船の護衛が可能なはずです」

議会場がざわめき、化け物を見るような目が私に向けられる。慣れてはいるとは言え、やはりあまり心地良いものじゃないな。そんなざわめきを「静まれ」というたった一言で静まらせるデトレフ陛下。

「魔導師オーディン。ひとつ訊こう。汝とその騎士団に、ミナレットを陥落できる術はあるか?」

「判りません。ただ確約は出来ませんが、我らグラオベン・オルデンは、如何なる兵器が在ろうと破壊し尽くし押し通るまでです。それが守るためであり救うためならば必ず実行します」

デトレフ陛下から視線を逸らさない。先に視線を逸らした・・というより伏せたのはデトレフ陛下で、「若造め、我を相手に一歩も引かんとは胆が据わっておる」と満足そうに笑った。そんなデトレフ陛下の機嫌の良さを見た事が無いのか、クラウスを始めとした者たちは呆然としている。
年齢で言えばすでに2万年近い私だ。どんな人間が目の前に現れようとも気力で負ける事は絶対に無い・・・と思う。いや、アンナが居た。彼女は別格で恐ろしい。むぅ、やはり女性にはとことん弱いようだ。とは言っても直しようも無いし。女運に関しては諦める他ない、というのが現状だ。

「ベルカの戦に異界の者である汝を巻き込むというのも少々気が引けるが、今はそうは言っておられんのも事実。ミナレット攻略に、汝の力を借りたい。良いか?」

「もちろんです。シュトゥラは、私にとっても――」

『オーディン!!』

ヴィータから切羽詰まった思念通話がいきなり届いた。いきなり言葉を切った私を訝しんでいる目が集まるが、今はヴィータの様子のおかしさの方が重要だ。すぐに『(なんだ? 泣いている・・・!?)どうした、ヴィータ・・・!?』と問い返す。嫌な予感しかない。ヴィータはただ『ザフィーラが!』を繰り返すだけで要領を得ない。
落ち着くよう言っているところに、『シュリエルです。ザフィーラが瀕死の怪我を負いました』とシュリエルから状況が告げられた。信じられなかった。ザフィーラは、守護騎士一の防御力を誇る騎士だ。そのザフィーラに瀕死の傷を負わせるような奴が居るのか・・・!?

『私が今オーディンの魔導を使って治療していますが、私一人では手が足りません。今この場でザフィーラを失えば、次に再生出来るのは闇の書完成後となります』

守護騎士はたとえ死んだとしても、“夜天の書”が健在ならばまた再生できる。しかし、それが行えるのは完成後。完成させたくない私としては避けたいものだ。だから『すぐに向かう。ザフィーラを倒した騎士は今どうしている?』と尋ねながら、

「デトレフ陛下、クラウス殿下、以下執政官の皆様方。現在、アムルに侵攻して来ているイリュリア騎士団と交戦中の家族から連絡がありました。私の家族の1人が重傷を負い、瀕死の状態です。申し訳ありませんが、私はここで退室させていただきます」

議会場全体に聞こえるように告げ、議会場出口へと向かう。その間にクラウスに名前を呼ばれたような気がしたが、彼には悪いが今は前線の状況の方が重要だ。
シュリエルに『すぐに向かう。大変かもしれないが、もうしばらく耐えてくれ』と言い、空戦形態ヘルモーズを展開して開け放った窓から飛び立つ。全力も全力。直線限定の最高速マッハ10で空を一直線に翔ける。すぐに戦場へと辿り着き、「あそこか!」ソニックブームで周囲を破壊しないように速度を落としてから降下。

「シュリエル! ヴィータ!」

「「オーディン!!」」

シュリエルが治療に当たり、ヴィータが近付いて来るイリュリア騎士たちを潰している状況。そして横たえられているザフィーラは、自身から流れ出た血溜まりの上だった。腹には剣らしきもので貫かれた傷跡と、そして胸には何かで抉られた事で開いた穴。いつ消滅してもおかしくないダメージだ。よく保ってくれた、ザフィーラ。頑張ったな。私の登場に、イリュリア騎士たちは「ヒッ!」と短い悲鳴を上げてたじろいだ。

「あとは私が引き受ける。シュリエルとヴィータは戦闘に戻ってくれ」

「オーディン。ザフィーラ、死なないよな・・・?」

「当たり前だ。私が来たんだから、もう大丈夫だ」

――女神の祝福(コード・エイル)――

跪いて、ザフィーラに2つの傷に手を翳してエイルを発動する。ヴィータは心配そうに私とザフィーラを眺め、そして私が動けないと判断したイリュリア騎士たちは攻勢に出ようとした。それに気付いたヴィータは「テメェら、邪魔すんな!」と“グラーフアイゼン”をブン回して迎撃再開。
シュリエルも「オーディンの邪魔をするならば、今すぐ殺す」と冷めた声を静かに発した。その一言で、イリュリア騎士たちは一切の動きを止め徐々に引き下がって行く。そこまで脅されても退こうとしない連中も居る。シュリエルが迎撃態勢に入ったところで、

「治療に専念した私が、いつ攻撃できないと言った・・・?」

――舞い振るは(コード)汝の獄火(サラヒエル)――

火炎の魔力槍を10基と展開し、残っている連中に穂先を向ける。そして「焼き殺されたい奴は掛かって来い」と最終警告すると、「退け!」と連中は引き下がって行った。すぐにサラヒエルを解除。ただでさえ魔力消費の多いエイルの発動中だ。中級術式とは言えサラヒエルの同時発動は辛かった。徐々に傷口が塞がっていくのを見たヴィータは「ザフィーラの事、頼むよ、オーディン」と言った後、この場から去っていった。

「私も出撃します」

「シュリエル。こうなった経緯を知りたい。戦闘中、思念通話を繋げることになると思うがいいだろうか・・・?」

「はい。構いません。では私の方から繋げますので」

「すまないな」

シュリエルが離れて行くのを見送り、ザフィーラの治療に専念する。ザフィーラの鋼の肉体にこれだけの傷を負わせる事の出来る騎士、か。やはり高位騎士という事なんだろうが。アギトから聞いた、イリュリア騎士団最強の騎士総長グレゴールか・・?

『オーディン。今よろしいでしょうか・・・?』

『ああ。聞かせてくれるか、シュリエル』

『はい。ザフィーラを襲った者の名を、意識を手放す前にザフィーラから聞きました。名をゼフォン・エグリゴリ。オーディンがベルカに訪れた理由、ですよね・・・?』

ゼフォン・エグリゴリ。ベルカに来てすぐに戦ったガーデンベルグたち“堕天使エグリゴリ”と共に現れた、見知らぬ“エグリゴリ”のミュール・エグリゴリの顔を思いだす。そうか。そういう事だったのか。どこで新しく“エグリゴリ”を製造していたのかと思っていたら、技術大国のイリュリアを利用したいたのか・・・。

『ん?・・・シグナムは・・・? アギトとシグナムはどうした? それにゼフォンは? まさか――』

『はい・・・・・・今もなお戦闘中です』

『今すぐシグナムとアギトを退かせるんだっ! シグナム、アギト、聞こえるかっ?』

繋げるが返事はなかった。ノイズが走っている。ジャミングされていると考える。魔力反応が健在なため撃墜されたという事はないが、まずい。この状況はかなり最悪だ。まさかここで複製品とは言え戦力が強大な“エグリゴリ”が出てくるとは。
ザフィーラの容態は・・・安定してきてはいるが、まだ続行しなければならないレベルだ。どうする。シグナムとアギトまで墜とされては・・・・墜とされるだけならまだいいが、アギトが殺されてしまったら未来が・・・。

『なぜシグナムは戦っている!? ゼフォンがシグナム達を狙っているのかっ!?』

『いえ。シグナムとアギトは、守るための闘いをしているのです』

『なに・・・?』

『ゼフォンの狙いは、アギトと同じ裏切りの融合騎ズィーベンの破壊だそうです』

『ズィーベン・・・?』

聞けば、ズィーベンはゲルト・ヴォルクステッドの融合騎としてここ戦場に現れ、そしてゲルトの意識を乗っ取った挙句に死なせてしまった事がイリュリアに知れ、廃棄処分が下された。その処分を行うために来たのが、イリュリアの新兵器“エグリゴリ”。つまりゼフォン。
実力を見て測れるはずのシグナムが居て、なぜ命の危険を冒してまでズィーベンを見捨てずに戦うのか・・・なんて解りきっている考えはすぐに切り捨てる。守りたいものを守るために、救いたいものを救うために、その力を揮う。それが私たち信念の騎士団グラオベン・オルデンだ。アギトは選んだんだ。姉として末妹ズィーベンを守るために、ゼフォンから逃げずに戦うと。

(なんて事だ・・・。頼む。頼むから無茶も無理もしないでくれ・・・アギト、シグナム)

必死に祈る。すぐにでもアギト達と合流し、複製品(ゼフォン)を破壊しなければ気が済まない。だが、ザフィーラにはまだ治療が必要だから動けない。このジレンマが私の頭の中をかき乱す。そしてジレンマは怒りへと姿を変えて、この状況を仕組んだであろうガーデンベルグ達に向か・・・わない。
全ての怒りは私に向く。あの日、あの時、私がもっと“戦天使ヴァルキリー”のシステムプロテクトを強化しておけば、敵国ヨツンヘイムのウイルスに感染せずに済んだ。私たち“アンスール”や他の“ヴァルキリー”たち親や仲間を殺さず、“エグリゴリ”と化してああして狂い続けたまま存在しなかったんだ、ガーデンベルグ達は。ザフィーラの腹のダメージを完治させた事で空いた右手を握り、自分の顔を殴る。

「自分自身を殺したくなる日も、また無くならないな・・・」

自虐的な笑みがこぼれてしまう。そこに、「オーディンさん!」シャマルの声が上から聞こえ、「っ・・・!」上を見てすぐに視線を戻した。まずった。思いっきりシャマルのスカートの中を見てしまった。って、馬鹿か。今はそんなふざけた事を思っている余裕も考えている暇も無いだろうが。とりあえず「すまない、シャマル」と謝る。何故謝られたか判らないシャマルは小首を傾げた。

「・・・あ、そうですっ、ザフィーラの治療は私が引き受けます!」

「そうは言うが疲労困憊と言った顔じゃないか、シャマル!」

魔力を消費し過ぎて顔色が病人のように悪くなっていて、汗で髪が額や頬に張り付いている。息使いも少し荒い。だからこそ「馬鹿を言うな。君は休め」と言い放つ。しかしシャマルは「事情はシュリエルから聞いてます」と私の向かいに跪き、ザフィーラの胸に手を翳して治癒術式を発動した。

「オーディンさんの目的であるエグリゴリが今、この戦場に居るらしいじゃないですか。しかもザフィーラをこんなにするほどに強くて、今はシグナムとアギトちゃんと戦っている、と」

「もういいから魔導の発動をやめろ。倒れるぞ!?」

「大丈夫ですっ。湖の騎士シャマルは、こう見えても強いんですっ!」

「ああもう君は本当に頑固だなっ」

「オーディンさんこそですっ。お願いですから、シグナムとアギトちゃんの元へ行ってくださいっ!」

会話はそこで途切れる。ザフィーラの胸の傷も、シャマルの全力治療で何とかなるレベルにまでほとんど治した。ここで離れてもいいが、そうなればシャマル1人で限界以上の魔力を使わせることになりかねない。
だから迷いが生じてしまう。ゼフォンはイリュリアがガーデンベルグ達オリジナルに利用されて開発された“エグリゴリ”の複製品(レプリカ)だ。救いではなく完全な破壊対象。しかしだからと言って・・・・。

「オーディンさん。私の事、心から心配して下さってありがとうございます。でも、あなたの湖の騎士シャマルは、これくらいでどうにかなるほど弱くありません。行ってください。あなたの目的の為にも。私の為にも。シグナムとアギトちゃんの為にも」

「シャマル・・・・・・すまない」

エイルを解除して立ち上がり、12枚の剣翼アンピエルを発動する。するとシャマルは「もし倒れたら、オーディンさんが看病してくれますよね?」とはにかみながら訊いて来た。それに対し「当たり前だ。まったく。困ったお医者様だ」と微苦笑を返してやると、シャマルはイタズラがバレた子供のように舌をチロッと出してまたはにかむ。そんな辛そうな顔で、そんな可愛げのある顔をするな。心配したくても出来ないだろうが。シャマルに背を向け、空へと上がってアギト達の魔力を感知できる地点へと向かう。

「ゼフォン・エグリゴリ・・・!」

†††Sideオーディン⇒アギト†††

「初めて戦うタイプだな。やり難い・・・!」

シグナムが限界まで攻めきれない事に歯噛みしている。あたしとシグナムはズィーベンを守るために、ゼフォンと戦う事を決めた。だってズィーベンは言ったから。

――わたしは・・・まだ生きたい、まだ死にたくない、死にたくないよアギトお姉ちゃんっ――

だからあたしはまたシグナムと融合して、戦ったんだけど・・・。

「なぁお姉ちゃん達。俺っちは、そこに居る融合騎の破壊が目的なんだって言ってるだろ? 頼むから邪魔しないでくれ、な? 無駄に力を使いたくないし殺しもしたくないわけさ」

「よく言う。先にザフィーラを傷つけただろう」

「ザフィーラ? あ、さっきのおっさんか。ありゃ向こうが悪いぜ。俺っちの邪魔をしてくんだもんよ。それに、セインテストの関係者だって話だしさ」

「やはり貴様は、オーディンの捜し求めているエグリゴリの一体で間違いないのだな」

“エグリゴリ”。マイスターのご先祖様が開発した人型兵器(名前は確かヴァルキリー)で、マイスターがどっかの世界の国の王様だった頃に、戦争していた敵国によって洗脳されて、そして暴走して家族と仲間を殺したっていう人たち。マイスターは全てを奪われたのに、“エグリゴリ”を恨むどころか助けたいって言ってる。家族だからって恨まず憎まず、ただ狂ったままの家族を救いたいって。

「だから魔神は関係ないだろ? 俺っち達エグリゴリが抹殺しなけりゃならないのは、オーディンって奴じゃなく、ルシリオン・セインテスト・アースガルドって奴さ」

ミドルネームのセインテストは同じだけど、ルシリオンとアースガルドっていうのが違う。マイスターの親戚の誰か? よく判らないけど、マイスターの関係者なのは違いないはず。あとさっきから気になってるんだけど「そもそも魔神って誰なんだ?」って独り言のつもりで呟いた。

「あんた達の頭オーディンの事を、イリュリアは魔神って呼んでんの。魔神の如き強さを持っているとか何とか。つか今はそんなの関係ないだろ」

聞かれていた事には驚いたけど、イリュリアにそこまで恐れられているマイスターは本当に凄いと思えた。ゼフォンはガシガシ頭を掻いて、「おい、ズィーベン。大人しく罰を受けな」ってさっきからあたした達が背後に庇うズィーベンを睨みつけた。

「そうはいかんな。我らの信念の下、一度守り助けたいと決めた以上は見捨てはせん」

「本当に面倒だな、騎士っていうのは。そんなに死にたいのかよ、敵だったズィーベンを守ってさ」

ゼフォンの足元に、また見知らないココア色に輝く魔法陣が展開される。そして、「さっきのおっさんみたいになっても文句言わないでくれな」って片足をスッと上げて、地面を踏みつけるように思いっきり落とした。

――地龍刃砕断(ボーデン・ドラッヘ)――

地面が隆起する事で出来た岩石の、まるで龍の背ビレのような波があたし達に向かって突き出してきた。あたしを内に宿してるシグナムは数mくらい宙に居るんだけど、岩石の波はあたし達を貫けるまでの高さを誇ってる。
直線的な軌道だから、シグナムは横移動で回避。というよりは避けるしかない。何せ、「くっ・・・!」突き出し終えた岩の波の側面から、岩の棘がシグナムを貫こうと突き出してきたから。“レヴァンティン”をギリギリで盾にして直撃は免れたけど、その衝撃でシグナムは突き飛ばされた。

(レヴァンティンでも切断できない程に硬度のある岩による攻撃・・・。マイスターの魔導のように、ゼフォンのもやっぱり異世界の魔導なんだ・・・)

「やはり斬れんな。普通の岩なら容易く斬れるはずなんだが・・・付加されている魔力が尋常ではない・・・!」

“レヴァンティン”の柄を力強く握り直したシグナム。シグナムとあたしの炎熱を付加した“レヴァンティン”を当てる事が出来れば、きっと勝てるはず。でも接近できない。ゼフォンを護る岩壁やシグナムを攻撃してくる岩山が、あたし達の行く手を妨害してくる。
こっちは防御と回避に専念しないといけなくて、ゼフォンは好き勝手攻撃してくる。戦う以前の話だ。何か良い手が無いか考えていると、『アギトお姉ちゃん、もういいよ』ってズィーベンが思念通話を送ってきた。

「俺っちには攻撃を通せないってもう判ったろっ! 諦めてズィーベンを差し出して、とっとと退いてくれってばさ!」

――砂塵岩龍旋(ヴィントホーゼ・ブレッヒェン)

ゼフォンを覆い隠す様に岩や砂を巻き上げた大きな竜巻が生まれた。シグナムは「離れるぞ、ズィーベン!」って言って、巻き込まれないようにすぐに側から離れたけど、その竜巻から岩塊が砲弾のように高速で飛んでくる。軌道は無差別。そしてどこから飛んでくるかも判らない。だから少しでも気を抜くと、質量で圧殺されちゃう。

「もういいよっ! 本当にこのままじゃ殺され――」

『「ズィーベン!」』

あたしとシグナムは同時に叫ぶ。ズィーベンに直撃する軌道の岩塊が2つ。今から回避行動に移るにはあまりにも遅すぎる。フォローに回るにも遅すぎて。世界がゆっくりに見える。いやだ。ズィーベンの死に様を、ハッキリ見る事に・・・。

「(そんな・・・こんなのって・・・・。お願い、助けて・・・)マイスターっ!!」

――削り抉れ(コード)汝の裂風(ザキエル)――

空からすごい勢いで落ちてきた竜巻がズィーベンを捉えていた岩塊を粉砕して、地上に着弾する前に消滅した。シグナムの“レヴァンティン”ですら傷一つ付かなかったゼフォンの岩石がたったの一撃で・・・。こんな事が出来るのは、あたしが知る中だとたったの1人。あたしの大好きな・・・

「マイスターっ!」「オーディンっ」

12枚の蒼い光剣の翼を背中に生やしたマイスターが降りてきた。ズィーベンも「すごい・・・」って驚いてる。でもなんだろう。今のマイスター、すごく・・・恐い。シグナムも『様子がおかしいな』って思念通話を送ってくる。

「ふざけるな、クソガラクタが。・・・エグリゴリの複製品如きが、カーネルの魔術を扱うだと?」

普段のマイスターの口からは絶対に出て来ない汚たない言葉が出た。それに、複製品って。え? ゼフォンってマイスターが捜し求めてる“エグリゴリ”じゃなかったの・・・? あ、でもゼフォン、イリュリアの新兵器ってやつだったっけ。じゃあマイスターの捜し求めてる本物の“エグリゴリ”は、イリュリアと繋がってるって事・・・?
マイスターと“エグリゴリ”の事を考えていると、ゼフォンが大きく笑いだして「見つけたぜッ! 神器お――」そこまで言ったところで、

――舞降るは(コード)汝の麗雪(シャルギエル)――

何十本っていう氷の槍がマイスターの周囲に現れて、一斉にゼフォンへ向けて降り注いだ。岩壁がゼフォンを守るために盛り上がってきたけど、マイスターの放った氷の槍は岩壁に突き刺さって凍結させていく。マイスターは「複製品如きは早々に舞台を降りろぉぉぉッ!!」怒声を上げて、

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

数える事も出来ないくらいのいろいろな属性の槍を展開、「ジャッジメント!!」って指を鳴らして号令、一斉に振らせた。

「こんな温い攻撃じゃ通じねぇんだよッ!!」

――空衝岩槍穿(シュレッケン・シュペーア)――

凍った岩壁を粉砕して突き出してきた鋭く尖った岩の塔が、マイスターの槍群を迎撃。そのままマイスターと側に居るズィーベンを掠めて行って2人の姿を隠すけど、でもすぐにスパッと切断されて崩れてく。“エヴェストルム”を持つマイスターの無事は確認できた。でも「ズィーベンは・・?」どこにも居ない。
キョロキョロ見回すけど、やっぱりどこにも・・・「オーディンとズィーベンが融合している」ってシグナムがそんな事を言ってきたから「え゛っ!?」よくマイスターの姿を見てみる。あ、そう言えばマイスターの目の色が蒼に統一されてるっ。

「融合騎との融合を果たしているにもかかわらず、あれだけ外見変化が無いとは・・・」

『ちょっとズィーベン! なんであたしのマイスターと融合してるのっ!?』

『わ、わたしが言ったんじゃないもんね・・・この人が融合しようって言ったんだもんね・・・』

な、ななななな、マイスターが、ズィーベンに融合しようって・・・言った・・・? へ、へぇ~・・・ベ、別に羨ましくないよ。今は緊急事態だから、この一回だけに違いないもん。だから気になんないし。

『でも、アギトお姉ちゃん。この人、すごいね。わたしを完璧に制御してる』

ズィーベンから満足そうな思念通話が・・・。ギリギリッ。つい歯ぎしり。単独戦力は強いけど、融合能力はあたしたち融合騎姉妹の中で最悪だったズィーベン。その原因が、イリュリア人大っ嫌いだったって事はさっき知った。けどその強さからしてあたしよりはマシな扱いをされてた。

『すまないな、アギト。離れているよりこうして融合していた方が守り易いんだ』

『あ、うん、だいじょぶ。ズィーベンを守ってあげてマイスター』

『ああ。あとは任せろ』

――第二波装填(セカンドバレル・セット)――

マイスターはまた、すごい数の魔力槍を展開して、「ジャッジメント!」って降り注がせる。そしてゼフォンも「温いっつってんだろっ」ってさっきのように岩の尖塔とか岩壁で迎撃・防御。お互いに決定打が通らない。

「其は遥かなる天上に在りし楽園へと至る光の路を守護せし者」

マイスターが歌うように呪文を紡ぎだした。それに、初めて見た。マイスターの魔導の魔法陣。マイスターの足元に展開されてる魔法陣は十字架で、その四方から剣が伸びて、それを囲うように三つの円っていう形。シグナムが「見た事のない陣だな」って呟く。マイスターが呪文を詠唱している最中でも、周囲に魔力槍が展開されていって、ゼフォンに降り注いでいく。

「守護を務めし其の者の九界見通す眼。故に汝よ、其の者より逃れうると思うなかれ」

ゼフォンを中心として半径50mほどの蒼い光の環が展開される。それはまるで、ゼフォンを包囲して、周りに被害を出さないようにするための線引きのようだった。

『ちょっ、すご、えっ、なにこれっ!? 解らないっ、こんなに複雑で難しい術式見たことないっ、補助が一切できないっ!』

ズィーベンから、すごく焦っているような戸惑っているような思念通話が届く。融合騎の務めとして、ロードの魔導発動の補助っていうのがある。いくら難しくてもそれが出来ないなら融合騎としては失格。でも、マイスターはベルカの騎士じゃない。異世界の魔導師だから・・・。
だからこそあたしにもズィーベンの気持ちは良く解る。あたしだって初めてマイスターと融合を果たして補助をしようとした時、何一つとして手伝えなかった。あまりに複雑すぎて、全然理解できない術式。だから、しょうがないよズィーベン。

「番人を務めし其の者が有せし終焉を告げる角笛。故に汝よ、其の者の奏でし終焉の報を恐れよ」

呪文がそこまで完成されてまた変化が起きた。環の内側だけに蒼い魔力球が数える事も出来ない程に現れた。空から見れば蒼い光の絨毯みたいで綺麗。でも圧倒的な威力を誇る攻撃だっていうのが真実の姿。ゼフォンが「なんだよコレ! くそっ、壊しても壊しても現れるじゃんかよッ!」って岩の剣で魔力球を壊すけど、壊すごとに別の魔力球が生まれてく。

「守神の角笛より生まれし滅音よ、賢神の杖より発せし破光よ、天に響き渡り煌き閃け、地に満ち流れ猛り奔れ」

マイスターがスッと左腕を上げると、マイスターの足元に展開されてる魔法陣と同じものが空に幾つも展開されて、それを繋ぐように環が出来て、一つの巨大な魔法陣になった。

守神の終笛(コード・ヘイムダル)!!」

――カリブルヌス・フェイルノート――

マイスターが術式名を告げた同時、あの大きな砲撃が来た。最初は、魔力砲を反射するための鏡の砲弾。マイスターに直撃する軌道で飛んできた。するとマイスターは「邪魔をするなッ!!」って怒鳴って、「ジャッジメント!」指を鳴らした。
すると空の巨大な魔法陣からいくつもの砲撃が地上に向かって降り注いでいく。迫って来ていた鏡の砲弾を砲撃の1つが粉砕、そのまま他の砲撃と一緒に地面に着弾した。あたしは、そしてシグナムも、マイスターの本当の凄さを垣間見る事になった。
砲撃の着弾と同時に生まれた爆発が、地上を埋め尽くしている魔力球絨毯を誘爆させていった。誘爆した魔力球は空を貫くほどの光の柱になって、空と地上、そしてその間の領域を蹂躙してく。

「なんだこれは・・・!? これが本当に一個人で発動できる魔導なのか・・・!?」

さすがのシグナムが戦慄してる。ゼフォンも、こんな大魔法を防ぎきる事なんて出来ないはず。なにせこの魔導、この前、マイスターが戦船を沈めるために使ってた魔導以上に強力だもん。やっぱりあたしのマイスターは最強だ♪

――カリブルヌス――

そんな時に遅れて来た巨大な魔力砲が空を照らした。

「いかんっ。拡散して威力が減衰していない砲撃は防ぎきれるものではないっ!」

マイスターが吸収したり防いだり出来るのは、反射して威力が分散している状態での砲撃だ。拡散する前の砲撃を防ぐのは、たぶんマイスターでも無理。砲撃は一直線にマイスターへと突き進んで行って、避ける素振りも防ぐ素振りも見せないマイスターを呑み込もうとした。

「オーディン!」『マイスターッ!!』

それでもマイスターは落ち着き払っていて「我が手に携えしは確かなる幻想」って詠唱。空に向かって伸ばしていた左腕を降ろして、迫って来てる砲撃へ向けて左手の平を翳す。

――クレプスクルム・ポルタ――

マイスターの左手の前面に、砲撃以上に大きな縦長の光の門が現れて、音を立てながら開いてく。そして砲撃は門に吸い込まれていって消えた。門が消えて、マイスターは「なるほど。融合状態なら多少の無理が出来るんだな」って思案顔で頷いた。ズィーベンが『頭がグルグル回るぅ~。でも、すごく気持ち良い~♪』って楽しそうに言う。胸の奥がズキッて痛くなった。決定的だったのは、ズィーベンのこの一言だった。

『ねぇ魔神。わたしのロードになってよ。あなたとなら絶対上手くいく。イリュリアを倒せるって思うのね』

『ズィーベン! あたしのマイスターを取らないで!!』

あたしは堪らずそう叫んでた。


 
 

 
後書き
おはようございます、こんにちは、こんばんは。
暁~投稿小説サイト~様で、にじファンで投稿できなかった今話をようやく投稿できました。
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