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【SAO】シンガーソング・オンライン

作者:海戦型
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主人公プロフ

 
前書き
2/25 微修正 

 
SAOプレイヤー調査報告書

プレイヤー名:Buruha(ブルハ) 備考:実在したロックバンドに由来する。
本名:伊藤正年(いとうまさとし) 
年齢:事件当時は18歳~ゲーム終了時20歳
職業:大学生(一年次)
誕生:2004年 7月10日

クリア時のレベル:21

事件当時の体:いたって健康であり、アレルギーや手術歴も無し。
身長173㎝ 体重68㎏ 血液型・A型 
備考:体格は中肉中背で、バンド活動のために簡単な筋肉トレーニングを行っていた。


趣味で2人の友達と共にバンド活動にいそしんでいた青年。ある日、友達の内1名にSAOプレイを奨められ、友達と3人でログインしたことで事件に巻き込まれた。
SAO事件の発生直後に友人と一度だけ連絡を取り、自身は安全圏に留まることを決定。その後、現実世界とあまりに違う環境の中で何を為せばいいのか分からず途方に暮れるが、茅場の演説前に購入していた弦楽器を見て路上ライブを思いつく。先の見えない状況と現実世界と同じ行為が出来ない環境にあって、現実世界と変わらずに行える行為を探してのものだった。

歌う事で自分を鼓舞して不安を払拭することと、自身の日課を持続することで精神の安定を保っていたが、他のプレイヤーがライブに足を運ぶようになってからは次第に別の意義を見出して歌う様になっていった。ゲームに何時までも順応できず、どのプレイスタイルを試しても上手くいかなかった彼はその後も路上ライブに傾倒し、先が見えずに苦しむ多くのプレイヤーの心を支えた。戦う力が無い彼を軽視したり関心を抱かなかったプレイヤーも多くいたが、多くの層を行き来していたため知名度だけならば二つ名持ちのプレイヤーを上回っている。

いつも歌っていた古いロックバンドの歌には「先が見えない環境の中でも、行動することで未来は選べる」というメッセージが込められていると彼自身は解釈している。SAOという環境そのものを現実での過酷な社会に当てはめていたのかもしれない。


SAO事件解決後は国の用意した特別な大学の学部へ転入して勉学に励みながら、現実世界と仮想世界の両方で路上ライブを続行している。SAO生還者のファンには、未だに彼を強く慕う人間が多い。







折角読みに来てくれた人にこれだけっていうのも失礼かと思って・・・


おまけ GMとシンガー


俺の下には割と多種多様な人間がやってくる。
みんな歌を聞きに来たという共通点は一致しているが、何しろ活動する層を毎日のように変えているからその層ごとに人がやってくる。
その行動範囲の広さは客曰く知り合いの情報屋並みであるとのことだ。
おかげで食べ歩きの知識もついてしまったりする。

ともかく、人数にばらつきはあるがいろんな人間が来るのだ。中には最前線でバリバリに活躍している人間だって来る。栗色の髪の少女なんか、この世界では屈指の有名人だ。そして、やってくる人間は時々増える事もある。

例えばそう、俺の事を真正面から見て感心したような顔をするおじさんもそうだ。
今日は初めてのエリアでの演奏だったから客が来ない可能性も考慮していた。客が来ないならばそれはそれでいつもと違う歌を歌ったりして意義を見出すが、見知らぬ客がたった一人で正面に陣取るというのはなかなかない光景だ。

 ~~♪ ~~♪

やがて歌も終わり、おじさんから拍手が送られる。
見た所結構な重装備だ。真赤な鎧に白いマント。
たしか栗色の髪の子が所属してる「血盟騎士団」の装備だったと記憶している。
ということは、このおじさんもかなり腕利きの攻略組ということになる。

「いや、見事な演奏だった。もしやとは思ったが、スキル無しでの演奏とは恐れ入る」
「ん・・・知り合いにも似たようなこと言われたよ。しかし・・・」

知り合いはかなりのSAO通であるのに俺が言うまでスキル無使用の事実には気付かなかった。
しかしおじさんはたった1曲聞いただけでそのことを見抜いたようだ。大した洞察力である。
そんな俺の考えが顔に出ていたのか、おじさんは小さく微笑む。

「普通の演奏ではミスかブレとシステムに認識されるであろう音を巧みに使って強弱をつける、か・・・・・・なるほど、その強弱で音が変わるようエンジンを組んだ茅場晶彦もだが、実際にそれをやる君も大したものだ」
「別に現実世界と同じことやってるだけなんだけどなぁ。そんなに難しい事か?」
「フム・・・そこは個人差があるかな」

おじさんが顎を撫でながら説明を始める。喋るのが好きな人のようだ。

「楽器演奏スキルとて熟練度をカンストさせれば、実は同じことが出来るようになる。だが、楽器演奏スキルが演奏の出来ない人のためにあると考えれば、元からそのような強弱をつけられる人間には演奏スキルは不必要だ」
「つまり、演奏できない奴が演奏気分を味わえるように演奏スキルがあると?」
「スキルはどれも、熟練度を上げるためには相応の努力をしなければいけない。その努力の過程をゲーム的に捉えるか、神経に蓄積される記憶と考えるか・・・・・・違いはそこにしかない。しかし――茅場晶彦はしくじったかもしれないな」
「?」

ばつが悪そうな顔をするおじさんに首を傾げる。
何故そこでGMの名前が出てきたのだろうか――そう思った俺の疑問もまた、察したようにおじさんが答える。

「いや、演奏スキルが発生条件になっているイベントやクエストというのもSAOには存在するのだが・・・そうか、彼はきっと『音楽の演奏をしている人ならば演奏スキルを取るだろう』と安直に考えてしまっていたらしい」

何故そこでおじさんが責任を感じているような顔をしているのかは分からないが、どうやら茅場晶彦は戦うことが出来ずに音楽に傾倒するプレイヤーにも何かしら恩恵があるように仕込みをしていたらしい。
ところが、それはもとより楽器演奏が出来てスキルを上げる必要のない人間が受けることが出来ないという欠点があったということのようだ。我ながら、ことごとく損をするプレイヤーだ。

「たしかに、人によっては煩わしくも感じるか・・・スキルによるブーストでより高度な演奏が出来るようにもなっているんだが、おそらく君には肌に合わない感覚だろう」
「そうだなぁ。現実世界で出来ないことをゲームシステムで出来るようにしても、虚構にしか思えないよ」
「・・・・・・君にとっては、どこまでいってもアインクラッドは、SAOは、”本物”にはならない訳だ。いや、長話をしてすまない。また聞きに来るよ」
「あ、ああ・・・」

もう少し聞いていってもいいのに、とも思ったが、路上ライブで客を引き留めるのは歌と音楽だけだ。声で引きとめてはいけない。
マントを翻したおじさんを見ながらも、俺はいつものようにギターの現を弾いて旋律を奏でた。

――あの人にもあの人の悩みがあったんだろう。
個人の悩みなんて、分かろうとしてそうそう分かれるものじゃない。
歌を聞いた人が、それぞれの感想を詩に抱くのと同じようにだ。だから悩みを解決するのはあの人自身だろう。

不意に、暗くなった空を見上げた。
空には光る星々と闇夜を照らす月。
それはとても美しく、まるで本物のようにしか見えなかったが――夏の大三角もオリオン座も存在しないその星空は、俺にとってはどこまで行っても作りものだった。

「月は空に張り付いて、銀紙の星が垂れ下がる・・・か」

どこまでいってもアインクラッドは、SAOは、”本物”にはならない訳だ――そう呟いたおじさんの言葉が脳裏をよぎった。


茅場晶彦はとうとう最後の最後まで、「自分の世界」に彼を取り込むことが出来なかった。

それは理屈ではなくフィーリングで、感覚的なもので、誰が悪いわけでもない。

ただ、彼はSAOというゲームに向いてなくて、熱中できなかっただけだ。

ただ、この世界に巻き込まれたことが切っ掛けで彼はその”向いていない世界”と長い付き合いをする事になってゆく。何故なら仮想世界の事を、彼は決して嫌いではなかったから。この世界にはこの世界にしかない音楽があって、歌う楽しみがって、伝えられることがある。

ならそこはやはり、彼にとって『現実世界の延長線上』にあるのだ。
  
 

 
後書き
ある意味、もっとも茅場と相容れない存在ですね。茅場がどんなに頑張って違う世界を作っても、やっぱり彼の感覚ではそこは現実の延長でしかないんです。 
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