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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第3章 聖剣の影で蠢くもの
  第31話 結婚しよ

 
前書き
・一人称視点と三人称視点のどちらが読みやすいのでしょうか。練習も兼ねて両方ごちゃまぜにしているのですが、読みづらいですかね? 

 
第31話 結婚しよ


「好きだ!結婚してくれ!!」

「は?」


 その瞬間、空気が凍った。
 ときは少し前までさかのぼる。





 禍の団のアジトなう。


 コカビエル戦の後、禍の(カオスブリゲード)にコンタクトをとった。
 ライザーとのレーティンゲームでボクたちの知名度は上がっているらしく、晴れて参加することができた。
 本当は、コカビエル戦の前に参加していたのだが、原作がどう動くかわからないので、まだアジトで顔合わせはしていなかった。
 顔合わせには時間がかかるそうで、今は気長に待機している。
 打ち合わせは既に済んでいるので、雑談にいそしんでいた。
 雑談しながら、禍の団に参加することを決めた経緯を思い出していた。





 場所は、八神家のリビング。
 八神家全員が勢ぞろいしていた。
 皆が真剣な顔をして、座っている。


「さて、禍の(カオスブリゲード)に参加するか、会議をするとしようか。まず、シグナムはどう思う?」

「たしか、いくつかの派閥に分かれた、寄合所帯でしたね」 


 禍の団は、オーフィスを頂点にした戦争推進派のテロ組織だ。
 コカビエル事件に端を発した和平への動きに対して、反発している連中である。
 天使、堕天使、悪魔、人間といった種族を問わない組織である点が特徴である。
 では、うまく協力し合えているのだろうか。
 

 答えは、バラバラに動いているといっていい。
 そもそもが相いれない敵同士が、集まっているのだ。
 うまくいくはずがない。
 それでもなんとか組織の体を成しているのは、反戦阻止という共通目的と、オーフィスを頂いているからだ。


 だが、肝心のオーフィスは、別に戦争を望んでいるわけではない。
 彼女の望みは、故郷――次元の狭間に居座るグレートレッドを倒すことのみ。
 かの龍を倒すことで、故郷に帰り、静寂を得ることしか考えていない。
 禍の団を作ったのは、グレートレッドを倒す協力者が欲しかったからだ。
 トップと現場の意思統一すらできていない。
 現場は現場で、協力せずに勝手に動いている。
 これでうまくいくはずがない。


「正直、禍の団に所属するのは、反対です」

「手厳しいね」


 シグナムは率直な意見をはやてに返した。
 戦力という意味では当てにできるが、意思統一すらされていない。
 烏合の衆を頼っていいのだろうか。
 そんな疑問がシグナムの胸中で渦巻いていた。


「あたしも、うちらだけの方が動きやすいと思う」


 ヴィータがシグナムを援護する。
 八神家は強い。
 はやて単体でもランキングトップ10クラスと十分戦えるはずだ。
 ましてやユニゾンすれば敵なしといっていい。
 ヴォルケンリッターたちも、竜王タンニーンや魔王サーゼクスの『女王(クイーン)』グレイフィアといった最上級悪魔クラスと同等かそれ以上だと考えている。
 むろん、実際に戦ってみないことにはわからないが、情報収集の結果、自らの戦力に自信を持っていた。


「私は、はやてちゃんに賛成かな」


 八神家は少数精鋭である。 
 組織を相手にするのは危険であると考えた。
 いかに突出した力を持っていようと、多勢に無勢ということもある。
 シャマルは、闇の書時代、時空管理局という巨大組織と相対したことを思い出していた。
 たしかに、闇の書は管理局を相手に猛威を振るっていた。
 しかし、結局最後は管理局に敗れたのだ。
 個人は組織に対して無力である。
 それがシャマルの結論だった。


「それぞれメリット、デメリットがありますが、マスターの意見に同意します」


 続いて、リインフォースもはやてに賛成した。
 闇の書が蒐集を終えて暴走したときに、表に出るのは、彼女だ。
 管理局との戦いで、組織の力を嫌なほど味わっている。
 古代ベルカ時代には、数にものを言わせて、休むことなく波状攻撃をしかけられたこともあった。
 他にも、協力者との顔つなぎや情報の共有といったメリットも考えられた。


「ザフィーラはどう思う?」


「賛成、反対どちらの意見も一理あります。ただ、組織がバラバラということは、組織のしがらみもないということです。利用するだけ利用して、馬が合わなければ離脱すればよいのではないでしょうか」


 ザフィーラは消極的な賛成だった。
 寄合所帯であることを逆手にとって、都合のいいように利用するべきだと主張した。
 むろん、こちらも同じように利用されることになるだろうが、それはお互い様である。


「これで、家族全員の意見が出そろったわけだ。賛成が3、反対が2だね」


 あとは、はやての決断次第である。
 家族が見守るなか、はやては沈思黙考した。


「うん、決めた。禍の団に所属する方向でいくよ」

「理由をお聞きしても?」


 はやての決断を聞いて、リインフォースが理由を尋ねる。


「知っての通り禍の団はいくつかの派閥に分かれているけれど、主要な派閥は2つある。旧魔王派と英雄派だ。まだ、ヴァーリチームは合流していない。このうち、旧魔王派とは協力できないだろう。人間を見下しているからね。ボクは、英雄派と手を取ろうと思う」


 なおも続ける。


「英雄派の目的は、化け物を倒すこと。三大勢力と敵対する予定のボクたちとは目的を一にできるんだ。トップの曹操は奸智に長けた油断ならないヤツだけれど、うちにはシャマルがいる。参謀役、期待しているよ?」

「任せてください、はやてちゃん。たった20年足らずの若僧に、数百年の経験をもつ私が負けられないわ」


 さすが、BBA頼りになるぜ、とか思っていたはやてはヴォルケンズからの冷たい視線を受け、咳をひとつして居住まいを正した。
 こうして、禍の団への参加が決まったのである。





 家族会議を思い出しながら、本当に禍の団に参加してよかったのか、と自問自答する。
 既に決めてしまったことだ。余計な雑念は足を引っ張るだけとはいえ、原作から完全離脱することに不安を覚えないでもなかった。
 もっとも、まだ積極的に動くつもりはないので、しばらくは原作通りに進むだろうが。


「曹操は、もう少ししたら、来るわ。待たせて悪いわね」


 案内役のジャンヌに気を使われる。
 彼女は、かの英雄ジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ英雄候補であり、英雄派の幹部でもある。
 幹部クラスを案内に出すあたり、英雄派のボクたちに対する態度を示しているといえた。


「君たちにとって、曹操はどんな存在なんだ?」


 気まぐれに問いかける。


「うーん、そうねえ。頼りになるボスって感じかしら。策謀に長けているから胡散臭く思われがちだけれど、根は仲間思いのいい奴よ」

「へえ、ジャンヌにそこまで言わせるのか。これは、会うのが楽しみになってきたよ」


 彼の仲間内での評価は思いのほか高いようだ。
 一応下調べはしてあったが、実際に言われると安心感が違う。
 原作はどうか知らないが、曹操は、悪魔や堕天使に襲われた人々を助けたり、勧誘したりしているらしい。
 神器もちが多数所属しているのも、彼に助けられたからだ。
 ゆえにこそ、団結力が強く、「化け物」に対する敵意は高い。
 英雄として「化け物退治」を掲げるのも、当然とったところだ。
 そんな彼らを率先して引っ張る曹操は、カリスマ的リーダーとして、尊敬されているらしい。


「そういうはやてこそ、なんで禍の団に入ろうなんて思ったの?グレモリーたちと仲がいいそうじゃない」

「単純な理由だよ――復讐さ」


 父がはぐれ悪魔に殺されたことを話す。
 ミカエルによって両親は追放され、アザゼルによって殺され、サーゼクスに止めをさされた哀れな少女を思い出す。
 身体の中に意識を向ければ、あのロストロギアがある。
 無尽蔵の魔力を得た代償として、復讐にかられることになった元凶。
 では、復讐を忌避しているのかといえば、そうでもない。
 そもそも、この力がなければ、ボクは殺されていただろう。
 殺意は確かに存在し、後押しされているに過ぎない。
 端からみれば、ボクは異常なのかもしれない。
 けれども、復讐こそがボクの存在理由なのだ。
 これだけは、誰が否定しようとも変わらない事実だった。


「あ、やっと来たわね」


 しばらくジャンヌと雑談していると、彼女が気配に気づいて声をかける。
 そちらを見やると中国風の衣装に身を包んだ青年がいた。
 あふれでる覇気は、見るものを圧倒するかのようである。
 一目見て、カリスマだとわかる。
 なるほど、確かに彼はトップに相応しいといえよう。
 そんな風に、彼を心中で高く評価していると、なぜか、近づいてきた曹操はこちらを見て固まっていた。
 はて、何か問題でもあったのだろうか。
 しばらくお互いが沈黙したあと――


「好きだ!結婚してくれ!!」


 ――第一声がそれだった。
 好感度が急落した瞬間である。


 は?と間抜けな声を出してフリーズした。
 え、何かのどっきり?はたまた、曹操の策略か!?おのれディケイド!といろいろな考えをめぐらす。
 周囲を見渡すと、皆ボクと同じように凍り付いていた。
 ジャンヌたち英雄派の面々に至っては、驚愕しすぎて顎が外れそうになっている。
 ふむ、彼女たちの反応をみると、この曹操の発言は、彼女らにとっても予想外らしい。
 つまり、普段の曹操らしからぬ反応ということだ。


 どう対応すべきが、誰もが決めかねている。
 視線はボクの方を向き、固唾をのんで、ボクを伺っていた。
 まあ、言われたのは、ボクなんだから、返答をしないといけないからね。
 正直、気は進まないが、目の前にはボクの言葉を待っている曹操がいる。


「返答する前に、理由を聞いてもいいかな?」

「一目ぼれだ。はやてを見て一瞬で恋に落ちた。この出会いは運命だ。結婚は確かに、時期尚早だったかもしれない。俺と付き合ってほしい!後悔はさせない。はやての望みなら最優先で叶えよう。金か?地位か?名誉か?何でもいいから、俺に言ってくれ。俺を頼ってくれ。はやての信頼を得るためにも、俺は行動で示さなければならないからな。はやてのためなら、たとえ火の中水の中だろうと喜んで行こう。君のためなら死ねる。英雄になる。これだけを考えていた俺の優先順位は、いま覆った。今この瞬間から、はやてこそが、俺の優先順位の一位となる。はやてを生涯の伴侶にしたい。この思いは本物だ。今日ここで出会えた運命に、俺は初めて感謝している。はやてのためなら英雄をやめたっていい。いや、あえて希望をいうなら、はやてと共に英雄となりたい。はやては俺が必ず守って見せる。結婚式は盛大にあげたほうがいいか?それとも身内だけの方がいいだろうか。初夜はどうしようか。はやては処女か?いや、別に処女でなくとも俺の愛は変わらないから安心してくれ。俺だって、この年まで童貞を守ってきたんだ。いまなら、はやてと出会うために、守り続けてきたと分かる。子どもは男の子が欲しいな。いや、女の子もはやてに似てかわいいかもしれない。どちらがいいとはいえんな、これは。子どもたちの安全のためにも、化け物退治は早急に終わらせなくてはな。はやても、俺たち英雄派と志を同じくしていると聞いている。ともに、人間こそが化け物を退治することを世に示そうではないか」


 キリッ、として立て板に水をかけるようにまくしたてる曹操。
 俺は童貞だとか、結構恥ずかしいこともほざいているが、いいのだろうか。
 彼の怒涛の発言に圧倒されながら、思わずでた一言。


「うわ、キモ」


 曹操はその場に崩れ落ちた。


「ちょ!曹操!曹操―!」

「げ、息をしていないだと!?」


 騒然とする英雄派を見やりながら、思った。


 どうしてこうなった!?


 
 

 
後書き
・純愛ルートフラグが立ちました。曹操の頑張りによって、エンディングが変化します。
・ようやく転換点まで来ました。時間がかかってすみません。 
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