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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第92話 少年達は黒幕とお話をするようです


――――式典数日前

Side クルト

「久しぶり!元気にしてたかジジイ共?」

「あ、あ、ああああアーカード!?馬鹿な、何故貴様が生きている!?」

「……やれやれ。記憶消去と言うのは便利ですが、こう五月蠅いのはどうにかならないものでしょうか?」


メガロメセンブリア元老院・最深部。普段はここから澄まし顔で自分達の懐を肥やす事のみを話している

老害共も、この珍客には慌てふためくしかない。

しかしスッキリしましたよ。いくら指示を出しているのが愁磨さんとは言え、形だけはこの人形共に従って

動いて来たこの20年・・・・・あぁ、思い出したらムカついてきましたね。


「え、衛兵!何をやっとるか、取り押さえろ!!」

「あー、もういいから。お努めご苦労さん"永久に凍れ(アルテ・コンテーレ) 憐れな人形(シェンス・ア・プーパ)"。」


愁磨さんが唱えると、ギシリと時が止まったかのように元老院全員の動きが止まる。

これも何度見た光景か・・・。造物主と考えた世界再編の為の行動を人形に植えつける為に、逐一こうして

動きを止めて脳(?)を書き換える作業を続けて来た。それも、もう終わりですがね。


「クルト、式典に俺達のファンクラブ会員を誘導する手筈は?」

「ナギさん達の様に表立って活動している訳ではありませんからね。それでもなんとか集めましたよ。

少なく見積もって五千人は参加しますから、サクラとしては十分でしょう。」

「サクラかぁ……まぁ仕方ないか。本当は十倍くらい欲しかったところなんけどなー。」


一仕事終わった様に伸びをしながら、サラッと恐ろしい事を言ってくれる愁磨さん。

五年以上かけて漸く五千人ですよ?メガロの力で魔法世界全域徹底的に調べ上げてその人数ですよ?

どれだけ世間から隠されてる組織なんですか。『完全なる世界(コズモエンテレケイア)』残党の方が人数集まってますよ。


「それにしても……どうしてここで出て行くのですか?そんな必要は無いと思うのですが。」

「フッ、愚問だな。そっちの方が楽しそうだからだ!!」

「そんな事だろうと思いましたよ……。もう慣れたから良いですけれどね。」

「…………今回は、それだけって事も無いけどな。」


思わせぶりな事は良く言う人だが、その表情は珍しく気弱な物で・・・言葉を失ってしまった。

そして一秒、二秒と時間が過ぎるが、向うからの反応も無く微妙に気まずい。

参ったね・・・巫山戯た一言を言うにしても時を逃してしまいました。チラッと横を盗み見ると、

先程より更に表情は沈み、普段僅かばかり見えている男性の雰囲気が消えていて、まるで―――


「・・・・・クルト、めー、なの。」

「どぉうぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁあああ!?あ、アリアさん!?い、いえ誤解ですよ!

と言うか何かしましたか、僕!?」

「顔見てれば分かるわよぼーや。見惚れてるだけだから許すけれど、ふしだらな事考えたら刺すわよ。」

「ノワールさんまで……。僕そんな事しそうな顔ですか?」

「……うん、まぁ。」「……ええ、まぁ。」「・・・・うん。」


ああ、そうですか。僕の事そんな風に見てたんですか。僕はこんなに皆に尽くしていると言うのに。

裏方に回って、面倒な手筈整えて、部下とジジイ共に挟まれて、魔族と愁磨さん達に挟まれて・・・

無理難題押し付けられては世界の為だと自分に言い聞かせて全て熟して来たと言うのに・・・。

ふふふ、なんて報われない……まぁ慣れましたけどね。ええ、慣れましたとも。」


「く、クルト?冗談よ?貴方が苦労してくれているから、シュウが楽出来てるのよ。」

「そうだぞクルト。お前のお陰で、俺達は計画の方に専念出来てるんだ。」

「しゅ、愁磨さん、ノワールさん……!」

「・・・・でも、かお、えっちい。」

「「アーーリーーアーーー!!」」


相変わらずストレートかつ真実しか言わないアリアさんの言葉がグサッと刺さったが、

愁磨さん達に両頬をひっぱられて面白い顔になったアリアさんを見て吹き出す。

あぁ、やっぱり。僕はこの人達が好きらしい。でなければ―――

………
……


「……全魔法世界住人よ、御機嫌よう!さぁ―――俺の名前を言ってみろ!!」

『『『白帝様ぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!』』』

「あらぁ~?私の名前は忘れてしまったのかしらぁ?」

『『『黒姫様ぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!』』』

「忘れていないようで何より。さぁ……。」

「「祭りを始めよう(ましょう)!!」」


愁磨さんの宣言に合わせ多くの花火が咲き誇り、龍王も口から光線を吐いて空中で爆破させる。

以外な事に、一般市民も戸惑う事無く騒ぎ出す。まさかと思い愁磨さん達を見ると、全員がニヤリと笑う。

当然の如くオスティア全域に認識阻害の結界魔法発動済みですか。流石と言うか何というか。


「さて……我らが希望君はどう出るのですかね?」


そして私達の視線は同じ方向、即ち闘技場へ向く。今頃ナギさんとエルザさんの息子は、あそこで

戦っている事だろう。その先がどこへ続くとも知らずに。

Side out


Side ネギ

ドカッ!
『『『オォオオオォォオォォォオオオオオオーーーー!!』』』

『強い!強いナギ・コジローペアーー!優勝候補の一角に圧勝――ッ!!

実力を疑問視する批評家の意見を跳ね退けた形だ!しかも一層強くなっている!これは本物かぁーー!?』


僕と小太郎君は特に打ち合わせする事も無く動き、混種の魔龍族二体をそれぞれ一撃ずつで倒す。

最近の闘技場での戦いはいつもこんな感じだ。周りは盛り上がっているけれど、僕らは既に消化試合でも

やって居る様な気分になっている。

控室に戻る廊下で吠えだした小太郎君を宥めて、いつものローブを被って街に出る。

街は笑い声や賑わう声で溢れていて、多分賭け試合のものだろう怒号が聞こえて来る。

仲睦まじい男女、家族連れ、友達同士――組み合わせは様々だけれど、総じていうなら・・・"平和"だ。


「(これが、父さん達が守った平和・・・なのかな。いや、愁磨さんとラカンさんが言うには

守り損ねた、かな?)」

―――今度はお前が守ってやってくんねぇか?


ラカンさん・・・なんで急に教えてくれる気になったんだろう?しかもタダで。

明日菜さんがこっちの世界の人間・・・考えなかった訳じゃないけれど、信じられない。

愁磨さんやアルさん達だけじゃなく、タカミチや学園長先生・・・皆知ってたのかな?


「"黄昏の姫御子"……皆が守れなかった国のお姫様。父さんと……母さんの忘れ形見。」


"アスナ"さん―――

彼女と過ごして来た日々を思い出す。初登校の時。色んな騒動。図書館島での事。悪魔との戦い。

修学旅行。繰り返した学園祭。ここに来るまでの出来事全部に彼女が居た。

ちょっとおこりんぼうで、乱暴で、お馬鹿だけど・・・いつも強くて、真っ直ぐなカッコいいお姉さん。

そう、僕にとっては、"明日菜"さんだ。


「んーー…よぉし!守るぞ!明日菜さんも、皆も!きっとそれは、あの人達の願いでもあったはずだ!」


そう言っても、僕の最優先はのどかさんなんだけれど。あぁ、早く拳闘大会で優勝して助け出さないと!

それは時間の問題だからまぁ良いとして・・・結局、ラカンさんも父さんの行方は知らないみたいで

つかめなかったけど、それが分かっただけでも―――


ズキンッ
「……!?」


勘としか言えないものが何かに反応して、『闇き夜の型(アクトゥス・ノクティス・エレベアエ)』の印が浮き上がって、

頭痛が走る。何だ今のは・・・!?いや、以前感じた事があるこの嫌な気配。

まさか、馬鹿な。何故今、ここに。頭痛が激しくなる。冷や汗が出て、呼吸が早くなる。

賑わい、行き交う人達が僅かに切れたそこに居たのは―――


「フェイト………アーウェルンクス……!」

「フ……久しぶりだね、ネギ・スプリングフィールド。」


完全なる世界(コズモエンテレケイア)』、『|運命を冠する者(ディアーション・フェイツ)』がⅢ、フェイト・アーウェルンクス。

僕らを・・・いや、僕と何度も相対して来た、今までで間違いなく最強最悪の敵。


何が目的だ?こうして姿を見せた以上、僕を排除しようとしに来た訳じゃないだろう。


「なんの用だ、フェイト!」

「それはね………。」
ザシャンッ
「貴様……!」「なんのつもりよ!!」


フェイトに疑問を投げた所で、何処からか僕とフェイトを見つけたのだろう明日菜さんと刹那さんが橋の

上へ跳んで来た。先程までの余裕の笑みを消し、無表情に戻ったフェイトはあろう事か僕達の方へ歩いて

来る。当然、明日菜さんと刹那さんは構えを取る。


「このっ……!」「くっ……!」

「待って!ダメです二人とも!」

「ネギ君の方が冷静だね、女剣士にお姫様。件も魔法具も出さないのが得策だ。お尋ね者は君達。

騒ぎを起こせば捕まるのはそっちだよ。」

「……やはりネギ先生達を嵌めたのは貴様達か。」


まるで『邪魔をされた』とでも言いたげな刹那さんから僅かに闘気が漏れ、ほんの僅か鞘走る。

あと一歩、刹那さんの間合いに入る手前でフェイトがほんの僅かに・・・楽しそうに口端を上げる。

いけない・・・・!!


「異世界冒険旅行のスパイスにね。良い演出だったろう?それから桜咲刹那。
ザッ
―――僕を一撃で仕留めるのは無理だから、その案はやめておいた方がいい。」

「「………!!」」


僕が察知出来た事をこいつが分からない筈も無く、それを分かった上で刹那さんと明日菜さんの間合いを

事も無げに通過し、僕の目の前に瞬時に現れる。・・・やっぱり、"今"の僕では知覚するのでやっとだ。


「フッ、挑発しても闘気すら出さないか。それが正解だよ。今僕達が始めると周囲を巻き込む。

まぁ僕は数百・数千が消え去ろうともどうとも「御託は良い…!!」………ほう?」

「僕はなんの用かと聞いたぞ、フェイト。」

「フ、フ……そう、それだよ。今日君の前に姿を現したのは戦いをしに来た訳じゃない。

平和的に話し合いと取引をしようと思ってね。」


あくまで楽しげに話すフェイトだが、喋っただけ僕達のボルテージは上がって行く。

平和的に・・・取引、だと?世界を滅ぼそうとしているような奴らが?

僕達を貶めた組織の連中が、何を―――


「な、何言ってんのあんた!!」

「……今までのお前らを見て、その言葉を信じろって言うのか?」

「……今の君は、僕達が何者なのか、何を目的としているかも知らず状況に流されるまま

僕達に敵愾心を燃やすただの子供に過ぎない。実につまらない。君は僕の話を聞いて見るべきだ。

シュウマ達が動いた今、尚更ね。」


愁磨さんが・・・動いた?何の事だ?また僕を混乱させるつもりか?

駄目だ、こいつの話をまともに受けていては先に進める気がしない。なら―――


「分かった、話を聞こう。」

「ちょ、ネギ!?正気!?」

「賢明な判断だ、ネギ君。では、ゆっくりお茶でも飲みながらにしよう。」

「………分かった。」

………
……


カタッ
「わ、私達は座らないわよ。」

「……お好きに。」


場所を移動した僕達は、フェイトが珈琲、僕が紅茶を頼んで、明日菜さんと刹那さんは警戒と言う事で

僕の後ろに控える事になった。・・・無駄だと思ったのは内緒。

こいつがその気になれば、周辺は一挙として灰燼――こいつの場合は石化か――に帰すだろうし。

明日菜さん達の話しでは、一緒に居た千雨さんは小太郎君達を呼びに行ってくれたらしい。

考えつつ、無意識に一緒に運ばれて来たミルクを手に取り、紅茶に注ぐ。


「やれやれ、いきなりミルクかい?」

「何?」


いつも通りの行為だったので全く気にも留めていなかったのに、フェイトが馬鹿にするような溜息と共に

飽きれた声を出した。・・・なんだろうね?文句でもあるのかな?珈琲を飲んでる様な輩が?


「薫り高い銘茶と名高いオスティアンティーにいきなりミルクなんて………。

ミルクティー、何でもかんでもミルクティー。子供みたいだ。これだから英国人(ブリティッシュ)は。

まあ僕は圧倒的に珈琲等だからどうでもいいけど。珈琲は精神を覚醒させる。僕は日に7杯は飲むよ。」

「へぇぇ、よくもそんな無粋な泥水を日に7回も胃に流し込めるね。」

「ミルクティーよりはいいと思うけれどね。」

「君は何もわかってない、ミルクティーは紅茶の完璧な飲み方だよ。」

「フ……僕も紅茶は飲むよ。レモンティーをアイスでだけど。」

「アイス?レモン?冗談だろ、あり得ないね!レモンは紅茶の風味を壊す。君、舌は大丈夫?」


まさに売り言葉に買い言葉。気に食わない奴だとは常々思っていたけれど、まさか好みまでこう合わない

とは思わなかった。やれやれ、何も分かっていない。香りを楽しみつつまろやかな紅茶を飲める。

ミルクティーは最高の飲み物だ。


「驚いたね。味覚馬鹿の英国人に舌の心配をされるなんて。」

「君、僕の事個人的に嫌いなの?喧嘩売ってるの?いいよ?やるよ?周り巻き込まないなら。」
ズ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ――――

僕とフェイトの周囲に絶対零度の結界が渦巻いて、明日菜さんと刹那さんは困り顔で佇んでいる。

・・・そもそも紅茶VS珈琲談義をする為にこうしている訳じゃない。聞きたい事は山ほどあるんだ。


「君は……かつてこの世界を混乱に陥れた。父さん達が戦った"敵"の生き残りで、その目的は世界の破滅!

敵だと認識する理由は十分だ!」

「……フン。浅い理解だ。話にもならない。それに"理由"についてもどうかな?」

「何っ?」


敵と認識する理由が・・・浅い?世界を破壊しようとしている奴を敵と認識する。

・・・当たり前の事じゃないか。この世界の人の事を考えれば当然の事だ。

仮にフェイトが詳しい話をしてくれたとしても、到底容認出来る事じゃない。


「僕達に敵対すると言う事は、君が父達の遺志を継ぎ世界の守護者となる選択を取る事を意味する。

正に"偉大なる魔法使い(マギステル・マギ)"の仕事だよ。大衆的にはね。

対して今の君はどうだい?世界を救う英雄?父の遺志を継ぐ運命の子?違うだろう?

11人の生徒・友人の夏休みの安全を預かる麻帆良学園の教師だ。」

「それのどこがおかしい?君が僕達の現実への帰還を邪魔するなら僕は戦う。」

「……そこだよ。そこが大きな誤解だ。」


ピッ、と僕を指差して話を止める。

誤解?何が誤解なものか。ゲートポートの時もだけど、修学旅行の時も、多分学園祭の時も。

こいつらが何かしら裏に居たせいで、何度僕達が危険な目にあったか。


「思い出してほしい。京都の時もゲートポートの時も、僕達が戦ったのは不幸な事故の様なものだ。

言っただろう、"偶然だ"と。僕達の作戦域に偶々君達が居たに過ぎない。」

「今更抜け抜けと……!それを僕が信じるとでも思うのか!?」

「まぁ、思っていないけれど。ただ、これは偽ざる僕達の見解だ。

君達の邪魔をする気はない。寧ろ無事に帰って欲しいと願っているくらいだ。」

「「な……!?」」

「そこで取引だ。君達の現実への無事の帰還を約束しよう。エスコートも付けるよ。

その見返りに―――」


チラリと僕の後ろに目を向けるフェイト。なんだ、何を言っている?

そんな、まるで僕達の味方であるような事を・・・そんな、ラカンさんや、愁磨さん、みたいな・・・?

そのまま明日菜さんを見たまま、口走った。


「―――お姫さまを渡して貰おう。どうだい?」

「へ?」

「……!」


それを聞いた反応は三通り。明日菜さんは何の事か分からない様子、桜咲さんは知っている様子の焦り。

そして僕は――

ダンッ!
「断る。聞くまでも無いぞ、フェイト!」

「やれやれ……悪くない取引だと思うけどね。この世界に来てから、どの場面でも僕達は彼女を簡単に

奪う事が出来た。それを態々紳士的に取引を持ち掛けているんだよ?」


当然、そんな取引には応じない。確かに言っている事は事実だろう。

『|完全なる世界』の目的が明日菜さんだなどと考えもしなかった僕は、殆ど明日菜さんを放って

力をつける事に終始していた。だけど、所詮は結果論だ。

こうして明日菜さんが連れ去られずここにいると言う事は、こいつらも動けなかったと言う事だ。


「……彼女に身寄りは居ない。彼女が居なくなって旧世界で困る人間もいないだろう。

元々彼女の麻帆良学園での八年間は偽りの人格・偽りの記憶。『人形』の上に張り付けられた、

薄っぺらな偽りの人生に過ぎ(ゴィン!)」

「へ?」


フェイトの話を断ち切り、テーブルを上へ蹴り飛ばし、そのまま殴りつける

ドグッ!!
「――その口を閉じろ、フェイト・アーウェルンクス。」

「血の気が多いね、ネギ・スプリングフィールド。」


僕の拳を当然の様に掴み、いやらしく笑う。ああ、やっぱりこいつは・・・気に食わない。

Side out


Side ―――

「答えは否だ、フェイト。」

「お姫様を渡すつもりはないんだね。そう言うと思っていたよ。」


拳を繰り出したまま、ネギは交渉決裂の意思をフェイトに叩き付ける。

が、フェイトはその答えを予見していたようで、座ったまま交渉を続ける意思を表す。

しかし二人が全く気にしていない様子で話す間に、打ち上げられたテーブルは不思議な事に真っ直ぐなまま

ネギの真上へと落ちて来る。


「あのー、テーブル……。」
カッ
「なら何をしに現れた?」

「話はまだある。座りなよネギ君。」


明日菜の注意に応える事無く、カップの中身を一滴も零さずテーブルを指一本で受け止めるネギ。

元々険悪だった2人であったが、更に空気を重くさせて着席する。

そして、その僅か1㎞離れた建物の影。様子を伺っていた千雨の所にまき絵と和美、そして何故か松永が

到着した。


「来たか、佐々木・朝倉。早かったな!あとなんでお前が居るんだ。」

「う、うん。私達はたまたま近くを歩いてたんだけど……。」

「これはこれは辛辣な。怨敵の首魁が現れたのであろう?戦闘になれば我輩の力はそこそこ役立つと

思ってこうして参上仕った次第なのだがね。」

「はいはい落ち武者は黙ってな。で、現状だが……相手はフェイト一人だ。

今はまだ平和的取引だとか言って話し合ってる。」


刹那以外の少女に素気無く扱われ、さしもの松永も少々落ち込んだ様子で三人を後ろから見守る。

二人が覗き込んだ、千雨が出したパソコンらしきものの傍に鼠の様なものが数体浮いている。

「何コレ何コレ~!」と騒ぎ出したまき絵を後でな、と制して視線を画面に戻す。


「だが奴は信用できない。今だって周りの観光客を人質に取られてるようなもんだしな。」

「どんな条件出されても絶対受けるべきじゃないねぇ。本屋ちゃんが居ればあの作戦を実行出来たん

だけど……そこまで甘くないか。」

「チッ、今は様子見か………。」


歯を食いしばった千雨達だが、同時に屋根の上から三人を狙っていた影に気付いたのは松永だけだった。

フェイトの命令で出来る限り足止めせよと命じられていた調・焔・暦だったが、予想外のイレギュラーに

止む無く待機を選び、松永の出方を見る事にした。転じ、落ち着いたネギ達――


「さて……ネギ君。大を救う為に小を切り捨てる。この決断が出来ない者にリーダーの資格は無いね。

全てを救おうとして全てを台無しにしてしまうだろう。それが出来るのは、真に力を持つ者だけだよ。」

「明日菜さんは小さいモノなんかじゃない!お前らなら全てを救えると言うのか!?」

「やれやれ、提案を受け入れない相手に語った所で無駄だろう?相変わらず甘い坊ちゃんだ。」


再び話し合いの席に座った筈だが、フェイトはネギを挑発するような物言いしかしない。

まるで、そうなる事を望んでいるかのように。


「坊ちゃんで結構だ。君の喋り方も言っている事も、僕は全て気に食わない。」

「………良いだろう。そんな君、君達に最大譲歩のB案を用意してある。」

「……!?B案……?」


てっきり明日菜をどうしてでも手に入れようとしてくると思っていたネギは、驚きを隠せず聞き返す。

続いて出たフェイトの"B案"に、その場の三人と、それを見ていた千雨達も息を呑む。


「お姫様は諦めよう。君達は僕達の事を無視してくれ。それだけでいい。

それで君達全員を麻帆良学園へ無事に帰してあげるよ。」

「……!!?」

「な……どーゆー事よ!?じゃああんた、私を渡せ的な事言ってたのはなんなのよ!?

最初から私達なんてどうでも良かったって事!?」


その、有り得ない提案にネギ達は言葉も無い。明日菜だけは頭の許容量を超えてしまったのか、とうとう

フェイトに怒鳴る。ネギの時は楽しげな嫌笑みを浮かべたが、今度は無表情のまま話を続ける。


「その通りだよ神楽坂明日菜。頭の回転の鈍い君の為にもう少し分かり易く言い直してあげよう。

ネギ君。君の言う通り、ある側面から見れば確かに僕達の目的は―――」


ネギの頭の中には、『馬鹿な、何だその条件は……』とそればかりが何度も何度も駆け巡る。

事有る毎に自分の前に立ちはだかって来た敵が自分達の事をどうでもいいと言った事もそうだが、

自分達の安全を願っているような事など、到底信じられない。信じたくない。

そして、そのネギ側から見れば、フェイト達のしようとしている事は―――


「―――この世界を一度破滅させる事だ。だがそれも故あっての事だから、何も知らない君達は黙って

いてくれないか。それで十分だ。君達が願うなら、今すぐにでも現実世界に帰してあげよう。」

「…つまり、『この世界』と『僕の仲間』………どちらかを、選べと言う事か?」

そのとおり(Exactly)。」


より分かり易く言われた事でその異常さが際立つが、あくまで、"ネギ側"から見ればだ。

事実を客観的に見た場合、フェイトの言っている事は『どうでもいい人に計画を邪魔されたくないから

大人しく自分の家に帰ってくれ。君の大切な人達を守る為に』だ。

到底信じられない事ではあるが、"仮にそれが真実なら"と考えてしまったネギは、安易に断れない。


「(どうする・・・!こいつが約束を守るとは限らないけれど、人質を取られている以上断る事も出来ない。

ここは一度受けたフリをして?だけど、受けたフリで通じる相手か?その状況を考えない奴か?

まさか、強制履行系の魔法具を持っている?だったらこの甘い条件も納得だ。だけど、だけど・・・!)」

「何を迷う必要があるんだい、ネギ君。こんな世界、彼女達にはなんの関係も無いだろう?

そもそも、父親が英雄だからと言って君がこの世界に固執する理由も無いだろう?

それとも君の我儘の為に……彼女達を更に危険に晒すのかい?彼女たちにとっては……言ってみれば

幻想(まぼろし)の様な世界の為に?」


ネギの迷いを感じ取ったフェイトが更に畳みかける。最早、誰の眼から見ても断る理由は無い。

『幻想の世界』か、『仲間の命』か。この条件の受け、自分達が手出し出来なくなったとしても、

ラカンやアルビレオ・ゼクト・詠春。生きていると信じているナギと母親(エルザ)、そして愁磨達。

近右衛門達麻帆良の教員とこの世界の人達もいれば、きっと―――そう信じれば。そう信じるなら・・・。


「でも、君達は世界を破滅させる気だ。君達を無視する事は、この世界を見捨てる事に……。」

「だから?教師である君が彼女達の幸せな学園生活を守る義務を全うしようとするなら、選ぶべき答えは

一つしかない。それに、敢えて言えば……君もだよ。英雄の息子だからと言って世界を背負う事はない。

君達は…………幸せに、生きていいんだ。」

「な、に………?」


僅かな表情の変化。一見すれば無表情のままだが、フェイト以上に無表情な少女を見て来たそれを見て

いた数人は、痛みを伴った悲壮な、ともすれば慈愛や羨望に見える表情を読めてしまう。

しかしそれも一瞬で、元の――ほぼ変わらない――無表情に戻ってしまう。

それでネギの心は決まってしまった。『彼等の想い(正義)』・『皆の安全と幸せ』と、『自分の我儘』。

推測と憶測と感情の表れでしかないが、考えるまでも無い。


「……心は決まったみたいだね。では、ハッキリと口に出して約束して貰おう。

僕は今後一切君達に手を出さないし関わらない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)』と。」

「………一つだけ、聞かせてくれ。君達は何故世界を滅ぼす?その理由は?」

「今の君が知る必要は無いし、知った所で君の考えは変わらないよ。」


最後の足掻きの質問も流され、ネギはとうとう口を閉ざした。

周囲の観光客を人質に取られている以上、拒否は出来ない。例えそれが罠であっても。

そう、ネギは決めた。いや、諦めた。刹那はそれを悟ったが何も言わず。

                         ゴ ッ ! !
「………僕は、今後一切……君達に、手を…………出さなっぷぅーーーーー!!?」
スパァン!
「(な……?)」

「え……なっ、あっ、明日菜さん!?」


ネギがその呪詛を言おうとした時―――今まで黙っていた明日菜が、壊した。

愁磨から貰ったペンダントを剣化させ、二人を剣の腹で吹っ飛ばした。正確には吹っ飛んだのはネギだけ

であり、敵であるフェイトを斬らなかった所がまだまだ覚悟が足りない。しかし、問題はそこではない。


「(完全に油断していたとは言え、僕に一撃入れるとは……。)」

「こぉんの………バカネギぃ!!」
ゴスッ!
「!?うぇ!?」


更に吹っ飛んだネギのところに走って行き峰で頭を叩き、剣を地面に突き立てる。

その堂々たる立ち姿に、フェイトすら僅かに目を見張った。

周囲の観光客はその剣幕に野良試合でも始まったのかと騒めく。


「さっきから黙って聞いてれば何よあんたは!こんなネチネチやらしいガキのペースに嵌って、全然ダメ

じゃない!こんな奴の言う事なんか聞く必要ないわよ!この世界無視して全員無事に帰るですって!?

私はこっち来てから色んな人のお世話になったわよ、あんただってそうでしょ!?

何が幻よ、バカなの!?この目の前にいる人達だってそう!子供も!家族も!おっちゃんも!

皆ほっぽっといて私達だけ帰れる訳無いでしょ!全然!一切!一秒も迷う必要なし!!

こんな訳分かんない事言うバカの言いなりになる必要なんかないのよ!違う!?」
ビッ!

フェイトに剣を突き付けて明日菜の長口上が区切られ、周囲から良く分からない感嘆の拍手が送られる。

ネギと刹那は呆気に取られるが、その対象であるフェイトは・・・楽しげに笑う。

先程よりも鋭く練られた明日菜の力によって、自分の障壁が何の抵抗も無く斬られたと言うのに。


「……ッ、でも明日菜さん!ここでそいつの要求を呑まなければ、目の前にいる人達と明日菜さん達に

危害が及ぶと脅しているんですよ!?それでも―――」
ドンッ!

剣を再度突き立て、ネギの言葉を・・・ネギの迷いを断ち切る。

明日菜から出たその言葉は、勿論。


「大丈夫!!」


当然、何も大丈夫ではない。確証も無い。保証も無い。しかし、それでも大丈夫だと信じさせるその強気。

威光とでも言うべきその背は、まさに"彼等"と同じだ。

全員が同じ想いを抱いたが、明日菜に続き耐え切れなくなったのは・・・。


「く……フ…ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハ。」

「キモッ!あんた目が笑ってないのよ!?」

「フフ……アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

「ネギまで!?」


ほぼ同時に大声で笑いだしたのは、今まさに対峙していたネギとフェイトだった。

ネギは憑き物が取れた様な晴れ晴れしい笑みであったが、フェイトは無表情なまま笑い声を出しただけだ。

そして同時に目を伏せる。


「「(………完全に正しい選択なんてない。だから皆迷うんだ。あの人達も、こいつも、僕も。)」」

「……で?ネギ君?」


お互いの考えは分かっていると、二人は同じ決意をもって目を合わせ、フェイトが問う。

今まではそこからネギの質問が被っていったが、事ここに至って、それは無かった。


「ああ、フェイト。答えは否だ。」

「では、残念だが交渉は決裂だ。」
ドギァッ!

言い終わると全く同時。僅か1m手前の地面が隆起し、岩石の槍が刹那を襲った。

Side out 
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