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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  強敵=

 「わしは、波の国で橋づくりをしとるタズナと言うもんじゃ。わしが国に帰るまでの間、命がけで超護衛してもらうからな」

 その言葉を思い出しながら、カトナは、ぼんやりと道を見つめた。
 暴力団だけ、そう聞いていた。なのに、あれがもし、カトナが考えているものならば、Cランクの任務にあわないはずだ。B,いやAもありかと思いつつ、カトナは上を見上げる。
 雲も無い、いい天気。最近、洗濯物がよく渇く日々が続いていたと思いだしながら、他愛もない普通の水たまりを見る。雨は…カトナが知る限り降っていない。
 じぃっと、それとなく気が付かれ無い様に、何気ない風を装って水たまりを見ていたカトナは、ふと、タズナとカカシを見比べた後、サスケとサクラの服を二人に見えないように掴み、その背中に二本の指を当てる。
 サクラが身を固くさせ、サスケは好戦的な瞳でカトナの方をちらりと伺った。
 カトナはそんな二人を見ながらも、カカシがそっと自分達より歩みを遅くし、水たまりにわざと近い位置をとろうとしたのをフォローするように、二人の背中を少しだけ強く押し、カカシとの距離を開ける。
 先頭だったカカシが最後尾になり、カトナとカカシの距離が開いた、次の瞬間、水たまりから二つの人影が現れ、カカシに鎖を巻きつかせ、引っ張る。
 カカシの体がバラバラになり、タズナが目を驚きに見開かせた瞬間、カトナたちは戦闘態勢に入り、苦無を構える。
 それを見た彼らは、冷静に三人を見た後、真ん中にいるサスケの背後を二人がとった。
 かぎ爪が、サスケの胸元に向けてのばされる。
 カトナの目が、既視感を訴える。
 どくりと、カトナの胸が鳴る。心臓がしめつけられそうになる。
 カトナはほぼ反射で、密かに腰に携えていた短刀をぬくと、サスケに投げた。
 サスケはすぐさまそれを受け取ると、自分に巻きつく直前だった鎖鎌にその短刀を当てた。
 二つの鎖鎌が、短刀によって、切られる。
 驚いた顔をした二人がサスケに注意を向けた瞬間、サスケが手裏剣を投げ、鎖鎌の鎖を捕獲し、カトナが手裏剣の真ん中に苦無を投げる。
 寸分の狂いもなく、外されることもなく、カトナが投げた苦無は手裏剣の真ん中に空いた穴に突き刺さった。
 鎖鎌が、無効化される。
 この間に生じた秒数は、約2秒、まさに、阿吽の呼吸。
 そう思った彼らは、次の瞬間、危険人物、もしくは自分より力があるものとみなしたはずの二人を無視し、苦無を構えてタズナを守ろうとしているサクラに向かって一直線で飛び掛った時、サクラは気づく。
 二人の視線が自分を通り越し、タズナへと向かっていることを。

 (間違いない…、この襲撃の狙いは!!)

 サクラは苦無を構えた状態で、精一杯の大声を上げた。

 「二人とも!! 狙いは、タズナさんよ!」

 サクラの声が響き渡った瞬間、行動をし終えたばかりのカトナとサスケが、同時に動いた。
 放置されていた短刀が、淡い光を放った、と思うと、それは走り出したカトナの鞘のなかにある。
 信じられない様な光景。しかし、カトナは全く動揺せず、短刀が鞘におさめられたと思った次の瞬間、カトナがその柄を流れるような動作でつかみ、彼ら二人の間に入り、一人の右腕と、もう一人の左腕を同時に切った。
 居合、抜刀術。受けたものならば、分かる流麗な動作。
 痛みに一瞬思考を停止させ、行動を鈍らせた二人の頭に、サスケの足がのせられる。二人が頭を動かし、サスケのその足を落とそうとしたが、直前でチャクラで接着したその足は離れない。
 どころか、腕で頭を掴んだのと同等、いやそれ以上の力で、その二人の頭が自分の意思とは関係なく引き寄せられ、同時に勢いよく、がんっ、とぶつけさせられる。
 頭がくらりと、衝撃で眩暈がした二人が倒れ込みかけた時。

 「貴方達は悪いことをした」

 カトナがぬいた短刀が、男の一人の足の腱を切り、そして、もう一人の男の太ももに苦無が突き刺される。次の瞬間、カトナは短刀を放り投げ、放置すると、足の腱を切った方の男の傷を踏みつける。
 傷口に砂がぬりこまれる。塩じゃないとはいえ、尋常じゃない痛さ。
 激痛で一人が倒れたが、カトナはそいつを見捨て、苦無を太ももに突き刺された男の腹部に拳を叩き込み、もう片方の足をふみつけ、小さく彼女は零した。

 「私の仲間を、傷付けようとした…万死に値する」

 そういうとと共に、カトナは眼球に苦無をつき刺し、男が血涙を流しているのを見ながら、もう一度、苦無を振りかぶろうとし、自分の腕を掴まれる感触を感じ、吐き捨てる。

「先生、くるの、遅い」
「…カトナ、やりすぎだぞ」

 腕を止められたカトナは、その言葉に何も返さず、振り返り様、無理やりカカシの顔を掴み、自分に目線を合わせると、彼の怪我がないことを確認する。

「心配、した」
「え」
「謝罪、要求」
「あっ、うん。すみません…」

 よしっとでもいうように腕を組み、納得した様子を見せたカトナは、自分の鞘に短刀が収まっていることを確認すると、足の腱を切られたうえに、サスケに首に苦無を当てられて、身動きが取れない忍者の上に座る。
 どかりと座られた男は、うぐっという声を漏らした瞬間、カトナは絶妙な力加減で男の体を踏みつけ、体重をかける。

「尋問、しよっか」
「サクラ、幻術は出来るか?」
「アカデミーで習ったものだけど…」
「それだけでも十分だろう」

 慣れた様子で(ただしサクラは少しだけびくびくしながらも)カトナは男の口に、朝、カカシに使っていた紫の薬―痺れ薬を放り込むと、サスケは男の身ぐるみをはがし、携帯している苦無などを奪いつつ、サクラが幻術を賭ける。
 無事にかかったらしく、がくりと、男の首が舌にうなだれたかと思うと、虚ろな瞳でサクラたちの方を見てくる。
 
「先生、幻術成功したけど、どうしますかー?」
「うーん、そうだなぁ…、とりあえずこっちのも頼みたいんだけど」
「はい、薬」

 紫色の薬は、異様な匂いと雰囲気を放っている。目に痛々しい…というか、目に刺さるようなものすら感じられる。するりと、紙に乗せられたそれを、未だに抵抗していた男に飲ませた瞬間、びくびくと痙攣し、白目をむいたかと思うとそのまま、痙攣し続ける。
 思わず、カカシがカトナを一瞥したが、カトナは全く気にしないまま、きょとりと不思議そうに首をかしげて誤魔化した。と、数秒たった瞬間、いきなり白目が治ったかと思うと、男の黒目の瞳孔が開き切り、ピクリとも動かなくなる。
 何この効能、効き目速すぎだなとか、カカシは色々感じることがあったが、

 (当たらなくて、よかった…)

 この一言だけに尽きた。俺、これに触れなくてよかったと、本気で安心し、同時によくこんな痺れ薬が作れたものだと感心しながらも、ふーっと息を吐いたカカシはタズナを見る。
 きゃいきゃいと、どこか和やかな雰囲気を流しながらの会話に怯えていたタズナは、視線があったことで踏ん切りをついたらしく、カカシに話しかけ、ぼそぼそとだが喋り出す。

 タズナが住む波の国は、ある男―表向きは海運会社を営んでいるが、裏ではギャングや国の乗っ取りなどあくどいことに手を染めている男、ガトーに一年前から狙われているらしい。
 ガトーは波の国を完全に掌握したいらしく、そのためには、他の国との懸け橋になりかねない、タズナが作る橋を邪魔に思い、忍者にタズナの暗殺を依頼した。
 その依頼をしったタズナだが、波の国には金がなく、全財産をかけてもCランクの任務しか頼めない。そのため、本来はBランクやAランクになりかねない任務であることを偽り、依頼した…そういうことらしい。

 「まぁ、あんたらが断ってもいいんだ。それで死んだら、わしの幼い孫が一日中泣くだけじゃしのー。いやぁ、あんたらには全く関係ないんじゃもんなぁ。木の葉の里をわしの娘が、一生怨むだけじゃもんなぁ」

 まったく、面倒くさい任務を引き受けちゃったもんだと思いながら、開き直ったようにこちらに向けて、同情を誘うような言葉を飛ばしてくるタズナに何か言葉を言おうとした時、

 「なに、へらへら、笑ってるの?」

 カトナの厳しい声が、とんだ。
 ぞんざいな、恐ろしく低い、その声を放ち、彼女は立ちあがると、一歩一歩タズナへと足を進める。

 「私達、ほんとに命かけてやってる、それは別に、あなたの為、じゃない。依頼だから、それだけ」

 いいすぎだぞと、言おうとしたカカシは、そのカトナの顔を見て、驚いたように目を見開いた。

 「…もし、何も知らされない私たちが奇襲に気が付かなくて、サクラが、先生が」

 カトナは泣きそうだった。くしゃくしゃに顔を歪め、感情をむき出しになったような、そんな顔で、彼女はなんらかの反論を上げようとしたタズナの胸ぐらをつかみあげ、睨み付ける。

 「サスケが死んだら、どうする、つもりだった」

 フラッシュバック。心臓が、まだ痛い。カトナの視界にうつるあのシーンが脳裏で瞬く。カトナは何かを思い出しかけて、首を振ってそれを否定すると、言った。

 「あんたが死んでなく人がいるのと同時に、忍びが死んでなく人がいることを、忘れるな」

 そういうと、カトナは掴んでいた服を離し、そして言い切る。

「別に、報酬はいらない。この依頼は、受ける」
「カトナ!?」
「だけど、それなら、言って」

 何も感じさせないような、無表情のまま、カトナは言った。

「「助けてくれ」って、言って」

 サスケはその言葉に、何も言わず、苦無と手裏剣を拾い上げ、にやりと笑う。サクラはそんな二人を見て、呆れたように肩をすくめて、震える体を叱咤し、立ち上がる。カカシはカカシで好き勝手したカトナに何も言わず、怒ることもなく笑った。
 タズナは、そんな三人を見比べ、そして自分の前のカトナをみつめ、声を絞り出した。

「…助けてくれ」
「うん、分かった」

 カトナはただうなずいて、脳をがんがんと叩く拳を無視した。
 
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