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相州戦神館學園 八命陣×新世界より  邯鄲の世界より

作者:サノス
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第1話 スクィーラの決意、未来の為の戦い

 
スクィーラは気がつくと見知らぬ場所にいた。よく見たら自分は無限地獄の刑を受ける直前の姿に戻っていた。

 元通り、欠片の傷跡すらもない完全なる五体満足。これも自分の目の前にいる悪魔の力によるものだろうか?

 この場所は恐らくミノシロモドキの記録に存在した「礼拝堂」という場所だろう。西洋社会とは切っても切り離せない思想、
キリスト教、その信者の為に存在するべき神聖なる場所。

 そして言葉では到底言い表せない荘厳さで溢れていた。確かに文字通りの神聖な場所だ。しかし余りにも神聖かつ荘厳過ぎて
スクィーラは恐怖さえ覚えた。

 何故か? 神聖さと同時に禍々しいまでの悪魔的な要素も混在しているからだ。

 敬虔な信徒の安息の場所である教会の礼拝堂である筈が、この場所は何か違和感があった。

 とりわけスクィーラの目を引いたのは教会のステンドグラスに巨大なまでに描かれた仏教の曼荼羅の如き絵だ。見ているだけで精神に震えが来る。

 絵そのものは西欧的なのだが、その描かれ方はどことなく東洋の宗教である仏教を思わせた。

 そして礼拝堂の壇上にソレは立っていた。

 黒衣の装束を纏った男だ。ミノシロモドキに書かれていた記録をスクィーラは思い出す。

 男の着ているのは千年前の世界に存在した「軍隊」で支給されている「軍服」というものだろう。

 時代や国によって多少の違いは見られるものの、少なくとも今スクィーラが見ている男の纏う服は漆黒の軍服だ。

 そして。ソレを目にした瞬間スクィーラは自分の身体に強烈な圧力が掛かってくるのを感じた。

 「こ、これは!?」

 視界にその存在が入っただけでこれ程までのプレッシャーを感じるとは。恐ろしい、たまらなく恐ろしい。生物の持つ根源的な感情である恐怖が
スクィーラを支配していた。

 自分がこれまでに見てきた神栖66町の者達とは根本的に異なる怪物だ。

 「よくぞ来た。限りなく盧生に近き存在、スクィーラよ。俺の名は甘粕正彦。俺はお前がここに来るのを待ち侘びていたぞ」

 無表情であった男は、狂気的とさえ呼べる程に禍々しい笑みを浮かべながらそう言った。

 「俺はお前の類まれなるカリスマ性、勇気、胆力、そして誇りを心から賞賛しよう。1000年後の未来において、お前の姿は泥水の中でも輝きを失
わない宝石のようだ。お前の持つ突出した才能、力は盧生にも劣らんだろう」

 「それ故に惜しく思う。お前が盧生であるのならばどれ程素晴らしいだろうか。暗黒の時代に生まれしスクィーラよ。俺はお前と共に未来を救いたい」

 「み、未来を救うとは……?」

 甘粕と名乗った男の口から自分に対する惜しみない賞賛、賛辞の言葉が出てきたことにスクィーラは内心驚いていた。

 そもそも何故この男は自分を知っているのだ? それにこの甘粕という男は本当に人間なのか?

 疑問と疑念がスクィーラの頭の中を錯綜する。そして甘粕はそんなスクィーラが頭で思っていることが分かっているのかのように続けた。

 「そう恐れなくてもよい。俺はお前の生き様に深く共感している。そしてお前の存在している千年後の未来は俺にとって極めて悪夢とさえ呼べる
世界だからな」

 甘粕が言葉を一言一言発するだけでスクィーラの肉体と精神に圧力が掛かる。単に言葉を交じわしているだけだというのに、心拍数が上がり、汗も噴出してくる。単に甘粕は何気なく気軽に
話しかけているだけでここまでのプレッシャーを与えられるだけで甘粕が普通の存在ではないことが分かる。

 それもその筈、甘粕の横に控える先程の悪魔が「我が主」と言っていた。悪魔を従える存在など、どう考えても普通ではない。

 「お前は美しいぞスクィーラ。自分達の種族の真実を知り、その残酷な真実にも屈せずに抗うその勇気、是非お前には俺のぱらいぞに住んで欲しいと
思っている」

 「ぱ、ぱらいぞ?」

 甘粕の目的は何なのか見当すら付かないが、少なくとも敵対的でないことは確かだ。甘粕自身は、あくまでも友好的にスクィーラに接している。

 そもそも敵対すると言っても、この甘粕と対峙しているだけで心臓を握られている気分になってくる。殺そうと思えば瞬きする間もなく自分の命を
容赦なく刈り取ることが出来るだろう。

 この甘粕という男は魔人だ。それは決して比喩や誇張ではない。この男はそれだけの強さを間違いなく持っている。相対しているだけでここまで隔絶した
力の差を思い知らされているのだ。人間の身体に大自然のエネルギーを極限までに凝縮しているような存在。しかもまだ力の一端すらも見せていない状態でこれだ。
この甘粕が自分の持つ力を振るえば……、どれだけの力が顕現するのか想像すらできない。正真正銘、神に等しき力を持った魔人だ。

 「我が主よ、そろそろ本題に入りましょう。彼も少々混乱しているようですし」

 「ああ、そうだな神野。悪かったスクィーラよ。碌な説明もなしに話を進めてしまったようだ」

 甘粕は、スクィーラに謝罪すると、自分達が何者であるのか説明し始めた。

 甘粕と神野なる悪魔は、スクィーラのいた時代からおよそ千年以上も昔の時代から来た存在。甘粕は邯鄲の夢という所の制覇者、盧生なのだ。

 そして傍らにいる神野は人類の持つ普遍的無意識が生み出した存在だと言うのだ。そしてスクィーラが神栖66町に対して起こした反乱の発端と顛末を甘粕と
神野は見ていたのだ。スクィーラが無残にも破れ、町側から無限地獄の刑を言い渡され、文字通りスクィーラは地獄の苦しみを味わい、渡辺早季という女によってその生涯に幕を
閉じる所まで。

 
 「スクィーラよ、お前は心から神栖66町の者達の支配から脱しようとした。しかしその願いは適わなかった。お前の無念は心中察するに余りあるぞ」

 「私は……、出来れば連中を排除してやりたかった。しかし敗れたのならばせめて町の人間達がバケネズミに対して行ってきた仕打ちを知って欲しかった。
我等は五百年苦しんだのです、その五百年にも渡る辛酸の思いを彼等に知ってもらいたかった。人間と認めろとまではいきません、だがせめて私達が受けてきた
苦しみを知って欲しい! 消耗品のように扱われることがどんなに生きた心地がしないか! 明るい未来など築けるわけがないことを知ってもらいたかったのです!」

 「追い討ちを掛けるようで悪いが……、お前が死んだ後の未来を見たが、お前が死んで十年後の未来に日本列島にバケネズミは存在しなくなった」

 「い、いまなんと……?」

 「駆除されたのだ。神栖66町の者達に一匹、いや一人残らずな」

 「そ、そんな馬鹿な……!?」

 「嘘は言っていない。神栖66町の新たなる長、渡辺早季と、その恋人である朝比奈覚の命令でやったことだ」

 「あ、あぁ……、あ……」

 スクィーラは絶句した。二の句が継げない、何も言葉が紡ぎ出せない。

 「う、嘘だ……! 嘘だと言ってください!」

 「……残念だけど事実だよ」

 神野は無表情のままスクィーラにそう告げた。

 「う、うわぁぁぁああああああ!!!!!」

 スクィーラは絶叫した。町の人間の中では古い馴染みである渡辺早季と朝比奈覚。その二人だとて自分達バケネズミに同情していたわけではない。現に牢に入れられた際にスクィーラに対して反乱を起こしたことを謝るように要求した。

 所詮はあの二人も呪力使い、町の人間だ。自分達のことなど理解してくれる筈がない、バケネズミの苦しみなど分からない、姿形も違う存在に同情など抱かない……。

 だがこうして事実を突きつけられれば否応なく取り乱してしまう。

 自分の目から涙が溢れてくるのを感じた。

 「おのれ! おのれ! おのれぇぇぇぇええええええええ!!!!!!」

 ありったけの絶叫を礼拝堂内に響き渡らせるスクィーラ。野獣のような咆哮が自分から出たというのが信じられない。

 地面に伏せ、涙を流すクィーラの背中を優しくさすった者がいた。

 「え……?」

 「だからこそそんな未来を変えるんじゃないか。君が立ち上がらないと何も始まらないよ?」

 それは悪魔とは思えない程に優しく、慈愛に溢れた神野の言葉だった。しかし悪魔という存在は人間を堕落させる為に甘い誘惑を行うのだ。

 「姿形が変わろうと、人間が持てる素晴らしき輝きをお前は持っているのだスクィーラ。そのような姿になろうと自分達種族の為に町に反旗を翻したのだろう? 家畜としての価値しか認められないという現実に立ち向かった。強大な呪力を持つ町の連中に対して知恵を絞って戦いを挑んだ。戦いに敗北しても、バケネズミが受けてきた仕打ちをバネにして裁判で啖呵を切った」

 甘粕の賞賛の言葉がスクィーラの心に響いてくる。

 「あの神栖66町だけではない、あの世界に生きる全ての呪力者共に共通して言
えることだ。絶えず前に進み、絶えず研鑽し、絶えず努力するのが人間であろう? それでこそ人は輝けるのだ。問おうスクィーラ。神栖66町は未来に向かって
進んでいると言えるか? 自分達の持つ力に溺れずにいるか? 呪力という力に誇りを持っているか?」

 「そ、それは……」


 「血の滲むような鍛錬、修練の果てに呪力を手にしたわけではあるまい。なん
の苦労も努力もなく生まれながらに力を持てばどうなるかという見本のような存在だ。力を持って『当たり前』とタカをくくっている姿は滑稽とさえ思えるわ」

 甘粕は自分の神栖66町に対する見方に熱弁を振るう。この甘粕でさえ神栖66町の支配方針、思想には嫌悪感を持っているようだ。

 「お前達バケネズミが持つ不満や怒りをあの町の連中には永遠に理解できまい。知性ある生き物を殺し続ければ恨みや憎しみを買うのは至極当然だ。そんな単純なことすらも連中は想像がつかんときた」

 「自らの持つ力に何の誇りも抱けない下衆には過ぎた能力よ。自分達より遥かに弱い存在を何の躊躇も戸惑いもなく虐げ、蹂躙する輩のどこに誇りがあると言うのか? 挙句の果てにその弱者に反乱を起こされようが自分達のしてきたことを顧みることすらもしないとは。このような輩が描く未来など想像するだけで虫唾が走る。未来を考えるのならば弱者を労わり、自分達がしてきた過ちを猛省するのが道理であろうが。呪力を持たない、姿形も違うケダモノのような存在ならば何をしてもよい。このような考えだからこそ反旗を翻されたのではないか。しかも反乱を起こされても自分達のしてきたことを後悔すらもしていない。ここまで救いようのない馬鹿共が千年後の未来に君臨しているだと? おぞまし過ぎて震えが来るわ。」

 「ど~~せ連中はバケネズミの境遇に同情なんてできませんよ。長年田舎に引きこもってるせいで生まれつき脳味噌にカビが生えているのがデフォの奴等ですから。大体呪力なんて力を持ってても文明レベル停滞させすぎでしょ。発展なり進化なりすんのが普通なのにそれも出来ない時点で原始人以下の池沼の群れに過ぎませんよ」

 甘粕と神野が容赦なく神栖66町を断罪、糾弾する。二人の熱弁は聖堂を熱気に包ませる程にまでヒートアップしていた。

 「所詮連中は呪力という神の如き力を持って『酔いしれてる』だけに過ぎん。お前達バケネズミを存分に支配し、使役し、馬車馬のように働かせる。そして気分を損ねれば抹殺し、蹂躙する。町の連中に輝きなど見当たらん。単に自分達の『保身』の為にしているだけよ。呪力という力に胡坐をかき、自分達を『神』と称して自分達よりも非力な存在に崇めさせる。醜い以外の言葉が当て嵌まらんぞ」

 「神を気取っていてもその実、同胞の中から生まれる悪鬼や業魔なんて存在に怯えてる時点で草不可避だねぇ。おまけに薔薇や百合なんて年頃の子供達に強制させて性的倒錯文化流行らせてんのがマジでキモイよねー。バケネズミに対して神様気取りで従わせてる時点で弱い者苛めしてるだけのいじめっ子と大差ないしー。こんな薄っぺらい連中が神様称してる
なんてマジ信じらんなーい」

 甘粕と神野はひたすら神栖66町をボロクソに貶している。自分の言わんとしていた不平不満を代弁してくれているような感覚だ、

 「わ、私に力を貸してくれるのですか?」

 「もっちろん。僕達と一緒に自分の世界を変えてみないかい?」

 スクィーラは目の前にいる存在は自分にとって、救世主となるか、破滅させられるのか分からなかった。しかし立ち止まってはいられない。未来を掛けた戦いは今ここに始まったのだ。

 床に座っていたスクィーラはゆっくりと立ち上がり、かつてなく凄絶に大地を強く踏みしめ、決意する。

 そう、必ず自分達の未来を勝ち取ると……。

 
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