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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第三章 メズーン・メックス
  第四節 離脱 第四話 (通算第59話)

 カミーユはランバンと対角をなし、レコア機を中心にしてV字編隊を維持していた。端からみれば、ジオン共和国と連邦の混成部隊というよりも、ジオン残党が滷獲したジムを使っていると誤解しそうな光景である。一般的にグラナダ所属機のボディーカラーが緑であることは認知されていない上に、ジオン軍のシンボルカラーが緑――本来はカーキに近いクリームグリーン――であることの方が知れ渡っているからだ。機体の統一性もカラーリングの統一感もない部隊構成は、一見雑然とした雰囲気を持ちながら、歴とした小隊であることが判る。
 カミーユから見てもレコアは『心此処に在らず』であり、鈍いランバンでも察しのつく様子であった。二人は暗黙の内に示し合わせ、編隊を少しずつ細長い二等辺三角形へと狭めていた。普段なら「カミーユっ、ランバンっ! 勝手してるんじゃないっ!」とハスキーな金切り声が聞こえてくるところである。だが今は、その気配すらなさそうだった。それだけレコアの意識が前方――シャアにだけ注がれているということに他ならない。
 三人の向かう先に火閃の煌めきがある。敵機が放つ黄色い稲光に似たメガ粒子の残照の辺りに、ひとかたまりになったMSたち――赤い《リックディアス》と黒い《ガンダム》がいた。
 接近警報が鳴る。未確認機のカーソル表示と該当機種情報無しのサブウィンドゥが開いた。味方機――シャアの《リックディアス》のマーカーも表示される。と同時にレコア機が天頂方向に機体を加速する。背中から張り出したグライバインダーが基底部から光の尾を伸ばした。
 面を押し立てて、三方向から敵を包囲するトライアングルフォーメーションである。レコアの動きにカミーユもランバンも、当然の様に編隊位置を通常に戻した。レコアが普段通りなら何の問題もない。要らぬ心配だったのかも知れないが、備えあれば憂いなしである。
 この陣形はジオン共和国軍でMSの攻撃力を最大限に活かすためのもので、大戦中に行っていたものを、レコアのアイデアでカミーユたちに叩き込んだのである。バディ意識の強く、訓練もロクにしない、連邦軍上がりのサイド自治政府軍にいた時は協調する者もなく、孤軍奮闘だった。だが、エゥーゴでは部隊数を増やすためにも機数の少ない小隊が歓迎され、レコアがもたらしたジオン仕込みのフォーメーションを奨励していた。
「やらせるかよ!」
 カミーユは照準レティクルを無視してビームライフルを撃った。メガ粒子の光の束が真っ直ぐな軌跡を残す。だが、射程外からの攻撃である。追撃の《クゥエル》に命中はしたものの、射程外の攻撃は耐ビームコーティングされたシールドに弾かれ、霧散した。無論、牽制のための射撃だ。ビームライフルを撃とうとしていた《クゥエル》が飛沫粒子を防御してくれればいい。反撃がくることを考え、フォーメーションを外れるのも構わず、加速した。すかさず、ランバンが追従して逆方向に動く。
 この辺りの呼吸はさすがに士官学校からの付き合いなだけはある。カミーユの意図を理解しているというよりも、反射的行動という方がランバンには相応しい。レコアからみれば二人とも素人に毛の生えたようなものなのだが、レコアとてエースパイロットではない。だからこそ、自分がやらなくては…という意識は強く出てしまう。
「カミーユ!大尉から『荷物』を受けとりなさい!」
 この場のレコアの判断は正しい。レコアはランバンとバディを組んで《クゥエル》に火閃を集中させようというのだ。だが、戦場というのは正しいことが正解ではない。敵の予測範囲内であれは、逆に追い詰められる結果にしかならないからだ。
「あぁぁぁーっ!」
 前に出たレコア機が狙い撃ちされた。爆発は小さいが、直撃である。《リックディアス》の左肘から先が、完全になくなっていた。集団戦に馴れた《クゥエル》は《リックディアス》の軌道を読んで砲火を集中させていたのだ。レコアの被弾を見たカミーユが咄嗟にライフルを連射する。彼我の有効射程距離に差はない。
「レコア中尉!」
 後退させる隙を作るためにも、カミーユは敵との相対距離を縮めた。《ジムII》のバックパックに備えられている四基のメインスラスターを全開にして、火閃を生じさせている《クゥエル》の一団へと突貫した。
「カミーユ!後ろは任せろ!」
 レコアの組んだオーダーに従うならランバンがインターセプター、カミーユがレセプター、レコアがストライカーである。だが現実は計画通りにはいかない。ランバンは見掛けによらず近接戦――射撃が得意であり、カミーユの方が格闘戦が得意だった。
 だが、所詮は《ジムII》である。どれ程カミーユが上手く機動し、限界性能を引き出したとしても《クゥエル》には余裕があった。カミーユの《ジムII》が挟まれた、その時、戦場に一条の赤い閃光が走った。
 レコアにガンダムを預けたシャア――クワトロ・バジーナの《リックディアス》だ。機動性も推力もレコアの機体と変わらない筈なのに速い。AMBACの制御と機動の掛け方でこうも差がつくものなのか?
 瞬く間に《クゥエル》に直撃を与える。まるで敵の動きが先に見えているかのように、高機動中の機体から、機動中の敵機を狙撃していた。一撃、二撃。一機は《クゥエル》のコクピットを貫かれて爆散し、もう一機は頭部を吹き飛ばされて後退した。
「すげぇ!」
 思わずランバンが感嘆した。
 今、戦場を赤い《リックディアス》が支配していた。プレッシャーとでも表現すべき気配が、シャアの機体から蜘蛛の糸の如く放出され、それに絡めとられた者たちが、ことごとくビームピストルの餌食となる――武器をもたない《ガンダム》に乗ったメズーンはそんな感想を抱いた。 
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