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小ネタ箱

作者:羽田京
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リリカルなのは
  我らは聖王の代理人その1

 
前書き
・小学校1年生の誘拐事件のシーンです。 

 
 アリサ・バニングスは、激怒していた。
 小学校からの帰り道。
 いつものようにすずか、なのは、はやての4人で帰宅していた。
 その途中、いきなり――


「――誘拐されたわけね」


 ため息をつく。
 黒塗りのバンに乱暴に積み込まれた後、いまは廃工場の床に転がされている。
 手足を縛られ、4人とも転がされている。
 猿ぐつわをされていないのが、まだ救いだった。
 怒りに任せて誘拐犯の男たちに食って掛かろうとしたアリサだったが。
 はやてに止められていた。


「何が目的なんやろうな」

「さあね、身代金目的からしら。あたしとすずかの家は大きいし」

「ど、どうしよう…っ!」

「しっ、なのはちゃん、静かに。猿ぐつわされたくないし。助けが来たら大声を出せるようにせんと」


 比較的冷静なはやてにたしなめられて、アリサも癇癪を起さずにいた。
 もっとも、怒りに燃え上がる心はそのままだったが。
 ただ、気になるのは……。
 顔を青ざめさせ、沈黙したままのすずかをみやる。


「大丈夫?すずかちゃん」


 心配そうになのはが問いかけるも返事がない。
 さきほどから小声で会話している中で、すずかだけは一言もしゃべらなかった。
 いつものアリサなら食って掛かるだろうが、さすがに現状では躊躇われた。


「なんだ?おまえら何もしらないんだな」


 すずかに向けて心配そうな顔を向けているアリサたちに気づいたのだろう。
 下種な笑いをした男が、アリサたちに声をかけてきた。
 周囲の男たちの様子を見る限り、この男がこの場のボスだと思われる。


「俺の名前を教えてやろう。俺は――月村安次郎っていうんだ」


 「月村」思いがけず出てきた名前に、アリサたちの視線がすずかに向けられる。
 視線を向けられた少女――月村すずかは、血の気のうせた顔で震えている。


「ターゲットはすずかだけ。あとのお前らは巻き添えだな。ま、恨むならすずかを恨みな」


 小ばかにしたように言う男に対して、アリサが吠えた。


「何を言ってるのよ!どう考えても誘拐犯のあんたが悪いんじゃない、すずかは何もわるくないわ!」


 震えたままのすずかに目をやる。
 安心させようと目があった一瞬に微笑みを返す。
 なのはも、すずかに寄り添うようにして「すずかちゃんは悪くないよ」と慰めていた。
 はやては、誘拐犯を睨み付けるようにしている。


「ハハハッ、泣かせるねえ。騙されてるとも知らずに」


 騙す?いったい何をだろうと、怪訝な視線を男に向ける。
 やめて……と、すずかがか細い声でやめるようにすがるが、男はますます笑みを深くして長広舌をふるう。 


「だって、そいつは俺と同じ『化け物』なんだからよお!」


「いやああああああああああ!」


 『化け物』という言葉を聞いたすずかの反応は劇的だった。
 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら悲痛な声をあげる。
 あまりの急展開にアリサはわけがわからなかった。


「すずかは『化け物』なんかじゃない!でたらめなこと言わないで!!」


 気丈に睨み付けながら吠えるアリサ。
 なのはとはやてはすずかに、しっかりして、大丈夫だよ、と声をかけている。


「いやいや、血を吸って生きる俺たち『夜の一族』が化け物じゃなくてなんだってんだ。
 まあ、『化け物』といっても人間よりも高等な種族だがね。
 化け物と知らずに仲良しごっこをしていたなんて、かわいそうに」


 かわいそうに、といいながら全くもって同情とは正反対の喜悦に歪んだ顔を向けられた。
 そんな態度にカッとなったアリサは反射的に叫んでいた。


「化け物だろうが何だろうが関係ない!あたしたちとすずかは友達よ!!」

「そ、そうだよ。わたしとすずかちゃんは友達だもん!」


 なのはも続けて叫ぶ。
 そんな様子をみたはやては、


「ほらな、すずかちゃん。何も怖がる必要はないよ?私たちの友情をなめたらあかん」


 この場に似つかわしくない微笑を浮かべてすずかに寄り添っていた。


「アリサちゃん、なのはちゃん、はやてちゃん……っ」


 感極まったすずかが、喜びの声をあげる。
 だが、面白くないのは、誘拐犯の男――月村安次郎だ。


「はん。安っぽい友情物語をみせやがってからに。すずかのせいで殺されるってわかってても同じことがいえるかなあ?」


 にんまり、とアリサたちの方を向く安次郎。
 背筋に悪寒が走ったアリサだったが、それでも気丈にふるまおうと――として失敗した。


「4人もガキがいたら多すぎだよな、なら一匹くらい処分しとかんと」


 男がもつ銃口がこちらに向けられている。
 濃密な死の気配を感じたアリサが、それでもめげずに安次郎をみやる。
 銃の引き金に指がかかるのがスローになって見える。
 次の瞬間、銃声が鳴り響いた。


 パン


 と、いう音がして思わず目をつむってしまう。
 襲い掛かる衝撃に身構えようとして――痛みを何も感じないことに疑問を覚えた。
 いったい何が、起こった?
 と、目を開けると、そこにはアリサたちを庇うように一人の男が立っていた。
 白いコートの上に白衣を背負うちぐはぐな背中が、彼女にはとても頼もしく思えた。
 両手に持った大ぶりの鉈のようなもの――後で知ったが銃剣というらしい――を十字架のように交差させ朗々と声を上げる。


「我らは聖王の代理人。神罰の地上代行者。我らが使命は、我が聖王に逆らう愚者を、その肉の最後の一片までも絶滅すること。Amen!」


 これが、アリサ・バニングスとアレクサンド・アンデルセンの初邂逅だった。
 
 

 
後書き
・アンデルセン神父……いったい何リエッティなんだ…!? 
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